ミネルバ・マクゴナガルにまつわるすべて   作:ぱーりらぱーりら

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1950年 ミネルバと出会い

キングス・クロス駅はいつも人でいっぱいだ。

 

ミネルバはうんざりしながらカートを引いて歩いた。

4年目にもなると慣れたもので、目まぐるしく人が行き来するプラットホームでも迷うことなく足が動く。

去年までは、9と4分の3番線の入り口まで両親と弟たちが見送りにきてくれた。だが母と弟のマルコムが風邪で寝込んでしまい、ミネルバはロンドンまで一人で来なければならなかった。

 

ミネルバの弟──マルコムとロバート・ジュニアは、ホグワーツの話を聞くのが大好きだ。

特に利発なマルコムはホグワーツの教科書に興味を示していて、ミネルバは1年生のときに使っていたものをいくつかプレゼントした。

順当にいけば、マルコムは3年後、ロバート・ジュニアは5年後にホグワーツからの手紙を受け取ることになるだろう。

 

 

9と4分の3番線を目指している途中、9番線プラットホームの端にいる少年に目が止まった。少年はたった一人で、不安そうに周囲を見渡していた。

その子の横には体より何倍も大きなトランクがあり、右手には何か手紙のようなものが握られている。ミネルバが近づくと、ホグワーツの紋章が刻印された赤い封蝋がはっきりと見えた。

 

「あなた、大丈夫?」

 

ミネルバが声をかけると、少年はさらに不安そうな顔をした。

 

「もしかして、9と4分の3番線を探しているの?」

「……うん」

 

少年は消えいるような声で言った。

 

「私はミネルバ・マクゴナガル。ホグワーツの4年生よ」

 

ミネルバがちらと杖を覗かせると、少年の顔が明るくなった。

 

「このホームの柱が、9と4分の3番線の入り口なの。ほら見て! 今、人が入ったのが見えた?」

「すごい……! 一体、どんな魔法なの?」

 

「検知不可能拡大呪文」の知識が頭をよぎったが、言わないことにした。ミネルバも新入生だったとき、名前も仕組みも分からない未知の魔法たちに心を躍らせたものだった。

 

「ホグワーツに行けば教えてもらえるわ。さあ、後ろから見ていてあげるから行ってごらん」

 

少年の背中が壁に吸い込まれていったのを見届けると、ミネルバもプラットホームに飛びこもうと体に緊張を走らせた。

だが、そこで誰かが声をかけてきた。

 

「素晴らしい。私が教員なら、君に得点をあげていたよ」

 

黒いコートを着た男だった。

一瞬身構えたが、ミネルバはコートの襟に輝く「M」のバッジを見逃さなかった。

 

「その記章──魔法省の方ですか?」

 

彼はにっこり笑う。やはり魔法使いだ。

 

「めざといな。いかにも。私は魔法法執行部のエルフィンストーン・アーコートだ。新入生を助けてくれてありがとう」

「とんでもありません。私はミネルバ・マクゴナガル。グリフィンドールの学生です」

「私もグリフィンドールだった。懐かしの学び屋だ──昨日のことのように思い出せる。我らが寮監、アルバス・ダンブルドアはお元気かな?」

「ええ。お元気すぎるくらいですわ」

 

ミネルバは言った。

 

「なぜ、魔法法執行部の方がキングス・クロス駅に?」

 

最近、闇の魔法使いに関するニュースはあまり聞かないが。何かあったのだろうか。

ミネルバの考えを呼んだのか、アーコートは首を横にふった。

 

「心配はいらない。毎年やっている単純業務さ。マグル生まれの生徒と保護者にプラットフォームへの入り方を教えたり、()()しまった不運なマグルの記憶を修正したり、迷子の生徒を定刻に間に合うよう送り届けたり」

 

この時期のキングス・クロスは混むからね、と彼は付け加えた。

 

「私は今日、記憶修正課の現場監督でね」

「魔法法執行部の方なのに?」

「下っ端は何でもやるんだよ。でも悪い仕事じゃない。郷愁に浸れるし、こういう出会いもあるからね」

 

アーコートが小さくウインクしたので、ミネルバは少しむっとした。

 

「君、何年生?」

「4年生です」

「そうか。じゃあ、来年は進路指導でぜひ魔法省を志望してくれ。君みたいな美人が入ってくれたら、うちの部も華やぐからさ。じゃあ、楽しい学校生活を!」

 

そう言って、アーコートはあっという間に去っていった。

 

 

──美人……美人だって?

 

 

ミネルバは呆然と立ち尽くした。

 

あの人、美人って言った?

まさか! 私が美人なわけがない。だって、だって別に、そんなはずはない。そう思ったことなんて一度もない。

 

ミネルバは顔が熱くなってくるのを感じて、慌てて頬を覆った。

アーコートのウインクが頭に浮かんだ。

ハンサムだったのが余計に癪に触る。きっと多くの女性に好意を寄せられているのだろう。そして、ちょっと相手をしてやれば女なんて簡単に惚れるとでも思っているのだ。

 

軽薄そうな魔法使いだった。きっと誰にでも同じようなことを言うのだろう。そうに違いない。

 

 

でも、美人と言われたのは悪い気がしなかった。きっとお世辞に違いないが。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

ホグワーツの休日の朝は静かだ。

一週間の授業で疲れ切った生徒たちは、土曜の朝くらいはゆっくり寝室で過ごしたがる。

ミネルバも例外ではないが、今年のクィディッチチームのキャプテンでかなりの熱血で、土曜の朝から練習の予定をぎっちり詰め込んできた。

 

朝食の時間には練習プランが終わったため、ミネルバは軽くシャワーを浴びて大広間にやってきた。

人はまばらで、大広間の3分の1くらいしか机が埋まっていない。

今日は焼きたてのベーグルが食べたい気分だ。ああ、小麦粉とベーコンのいい匂い──

 

「ミネルバ、おはよう!」

 

オリヴィアの声に振り向く。彼女は羊皮紙を広げ、牛乳を飲みながらそれを見ていた。

 

「おはよう。今日は早いのね」

 

ミネルバが座ると、オリヴィアはにっこり笑って言った。

 

「ねえ、この中だと、どれが一番可愛いと思う?」

 

オリヴィアが見せてきた紙には、リストのようにたくさんの女の子の名前が並んでいた。

いや、リストというには乱雑だ。アルファベット順にもなっていないし、順番もめちゃくちゃ。まるで思いついたものを思いついたままに書いていったようだった。

 

 

 

シャーロット

     リリアン

  ミュリエル

 ハンナ

   マイラ

  イザベラ

マーサ     カ

         ー

          ラ

 

 

 

「何これ?」

「姪っ子の名前の候補よ!」

「じゃあ、ついに産まれたのね」

 

オリヴィアは元気よく頷いた。

彼女の姉の一人が妊娠中であることはミネルバも知っていた。どうやら無事に女の子が産まれたようだ。

 

「昨日の夜──あなたが寝てしまったあとに──無事に産まれたってふくろうが届いたの! それで、私に名付け親になってほしいんだって! だから昨日の夜からずーっと考えていたのよ」

 

ミネルバはリストを眺めた。

 

「どうして”ミュリエル”だけ消したの?」

「だって、私の一番嫌いな人の名前だもの。自分の名前をつけてほしいって言うから書いてみたけど、やっぱりだめね。好きじゃないわ」

 

ミュリエルはオリヴィアの姉の一人だ。

オリヴィアが言うにはかなりの意地悪で、夏休みにオリヴィアから届いた手紙の半分はミュリエルの悪口だった。

 

「これは?」

 

ミネルバは、オリヴィアが手元に置いていた紙の一枚を取り上げた。

そこには”モリー(Molly)”と書いてあって、文字の周りには花と赤ちゃんの落書きが描いてあった。

 

「可愛いわ」

「私もそう思ったの。すごく気に入ったのよ。でも……伝統的な名前じゃないの。ちょっと”今どき”すぎるでしょ」

「名付けの伝統でもあるの?」

 

オリヴィアは首を横にふった。

 

「ないわ。でもプルウェット家は保守的な家庭なの。古臭い名前の方が喜ばれるのよ。だから……モリーって素敵な名前だと思うんだけどね、でも……可愛いけど……」

 

オリヴィアが言葉を濁すので、ミネルバが言った。

 

「私の父はカトリックの牧師だけど、母のこだわりでローマ神話の女神の名前(ミネルバ)って名付けられたわ。牧師の娘なのに変わっているって言われるけどね。私はとても気に入っているの」

 

ミネルバは言葉を続けた。

 

「名付け親に選ばれたのはあなただわ。祝福を込めて、一番いいと思った名前を付ければいいのよ」

「そうね。そうよね!」

 

オリヴィアはすっきりした顔で言った。

ミネルバは自分の言葉が正しかったことに安堵した。彼女はただ背中を押してもらいたかっただけなのだ。

 

「うん、決めた、姪の名前はモリーにするわ! ありがとう、ミネルバ! 食べ終わったら手紙を出しに行くから、付き合ってくれない?」

「もちろんよ」

 

二人で落ち着いて朝食を食べていると、突然オリヴィアが言った。

 

「もし私に子供が生まれたら、あなたに名付け親になってもらいたいわ、ミネルバ」

「じゃあ私も、オリヴィアに名付け親になってもらおうかしら」

 

そうは言ったものの、ミネルバにとっては現実味のない言葉だった。

自分が愛する人と結婚して、母のように子供を産み、育てる姿がどうしても想像できなかった。

 

「でも、結婚できるとも限らないでしょ」

「できるわよ。お母様が言っていたわ、人間誰しも、パズルがはまるみたいにぴったり噛み合う相手が必ず見つかるんですって。案外、もう出会ってるかもしれないわよ?」

「まさか!」

 

ミネルバは自分にそんな男性(ひと)が現れるとも思えず、オリヴィアの言葉を軽く笑い飛ばした。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

自分の心臓の音が聞こえる。

 

 

ミネルバはクアッフルを抱え、レイブンクローのゴールポスト目がけてジグザグに飛んだ。クアッフルの赤、そしてグリフィンドールの赤は、燃えたぎる情熱と血の赤だ。

 

ミネルバのクリーンスイープ4号の最高時速は120キロで、レイブンクローのチェイサーが乗る最新型コメットと比べると見劣りする。

しかし、チェイサーに求められるのは速さではない。敵プレイヤーを翻弄する能力だ。

 

ミネルバは得意の”ウロンゴング・シミー”で風を切り、難なくチェイサーを振り切って競技場を横断した。

通常、ジグザグに飛ぶ”ウロンゴング・シミー”は直線飛行に比べてスピードが落ちるが、ミネルバは最高速度を速度を維持したままこの動きをこなすことができた。メンバーが”Minerva Shimmy(ミネルバ・シミー)”と呼ぶこの飛び方は、まさにミネルバの十八番だった。こうなると、誰も彼女からクアッフルを奪うことはできない。

 

 

ゴールポストを守るレイブンクローのキーパーと目が合う。

 

ミネルバがスコア・エリアに入った瞬間、仲間のビーターが相手キーパーにブラッジャーを叩きつけた。

キーパーが一瞬気をとられた隙に、ミネルバの投げたクアッフルはキーパーをすり抜け、そのままゴールポストの輪の中に吸い込まれた。

 

 

『マクゴナガル──やった! やりました、グリフィンドールに10点! レイブンクローと得点が並びました!』

 

 

実況者が声を張り上げる。

グリフィンドールの観客席から歓声が上がり、6年のウィーズリーが作った応援歌を皆で歌い始めた。ミネルバの嫌いな下品な歌だったが、こうやって聞くと悪くない。

 

「ミネルバ、よくやった」

 

さっきのビーターとハイタッチをする。

 

「ナイスアシスト」

「君こそ! これでスニッチを取れれば──」

 

レイブンクローのキーパーがクアッフルを投げようとした瞬間、今度は審判のホイッスルが3回鳴った。試合終了の合図だ。

 

 

『グリフィンドールのシーカーがスニッチをとった! 240対90!! 今年のホグワーツ・クィディッチ杯優勝は──グリフィンドールだ!!』

 

 

グラウンド中の観客がどっと歓声を上げた。

ミネルバも何かを叫んだが、自分でも何を叫んだか聞こえないほどの歓声が空気を満たしていた。

 

「ミネルバ、ミネルバ。よくやった!」

 

キャプテンがミネルバを抱き寄せた。

皆は口々に互いへの賞賛を叫んだ。ミネルバもチームのシーカーを抱きしめ、ありがとう、ありがとうと呟いた。

 

「ミネルバ、君は最高のチェイサーだ!」

 

そう叫んだのは、2年生のチーム選抜でミネルバを負かしたチェイサーだった。あの時は憎らしくてたまらなかったが、今では素晴らしい戦友だ。

 

「あなたこそ!」

 

ミネルバも大声で彼を褒め、抱きしめ、みんなで揉みくちゃになった。特に功労者のシーカーは一番小柄だったから、すっかりぺちゃんこに押しつぶされた。

 

「ハイハイ、グリフィンドールの皆さん。喜んでないでさっさとこっちに来なさい! 優勝杯の授与を行いますよ!」

 

審判が鋭く注意を飛ばした。

 

キャプテンが優勝杯を受け取ったのち、軽くスピーチをして、メンバーひとりひとりに優勝杯を持たせた。

優勝杯のプレートにはグリフィンドールの名が刻まれている。ミネルバは最後に優勝杯を受け取ると、その重さと大きさを全身で感じた。

何百年も受け継がれてきた優勝杯が、今、この腕に抱かれている。

 

ミネルバは目を閉じ、勝利の重みを全身で味わった。

 

歓声がまだ遠くで響いている。ミネルバは涙がこぼれてくるのをぐっと堪えた。

来る日も来る日も、泥だらけになって、激しい雨に打たれて、日が出てから沈むまでグラウンドに出て──何度クィディッチを嫌いになったことか! 

何度この箒を叩き折りたいと思ったことか! 

だが、この3年間の努力は決して無駄ではなかった!

 

「ミネルバ、やったな」

 

キャプテンが言った。

 

「ええ! 最高の気分よ!」

 

ミネルバはそう答え、優勝杯を空高く掲げた。

 

優勝杯に反射した太陽の光が眩しく輝き、ミネルバの目に飛びこんできた。金色の光が周囲を照らす。まるでグリフィンドールの勝利を祝福しているかのようだった。

 

歓声が再び大きくなり、グラウンドが喜びの渦に包まれる。

ミネルバはその光景を胸に刻みつけるように見つめた。仲間の笑顔、興奮した声、そして胸から湧き上がってくる喜びと誇り。

 

 

これから何度優勝杯を手にしようと、この瞬間の輝きだけは決して忘れることはないだろう。

 

 

 

 

 




シーカー以外のプレイヤーにとって、試合終了の瞬間は案外あっさりしているでしょうね。
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