転生赤毛バは凱旋門の夢を見る   作:てんぞー

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90話 BCクラシック Ⅴ

「―――良いか、良く聞け。私が全盛期だったら6バ身は付けてゴールしていた。無論、この馬鹿みたいな破滅逃げに付き合っての話だ」

 

 そう言ってSecretariatは力尽きて倒れた。それにクリムゾンフィアーが鼻血で真っ赤な顔のまま、中指を突き立てた。

 

「はい、負け惜しみー。審議中のランプが消えたら俺が1位って証明出るから悔しがって墓の中に戻ってください。次回までになんで負けたかしっかりと考えて来てね」

 

 そう言って今度はフィアーが力尽きて倒れ、

 

「いや……もう二度とこんなレースしたくねぇよ……」

 

 Alexが次に倒れ、腕を組んだままInvasorが頷いた。

 

「楽しかった」

 

 そして全員倒れた。

 

 BCクラシック、決着。

 

 

 

 

 意識が僅かに朦朧としている。浅い眠りから起き上がる様な意識の覚醒。頭の中でゴルシがダンスを踊っているような感覚、それでも泥のように体が重い。これまで経験した事がない程の負荷と疲れが体にかかっており、頭がぼーっとする。頭も体も限界を超えて酷使した反動だと理解できるのは、それから数秒後の事だった。

 

 ゆっくり、ゆっくりと目が開く。

 

 体が重い。だが充足感がある。脚の感覚もある。どうやら脚は吹っ飛ばなかったらしい。サンキュー、ガイドライン神、サンキューサイゲームス、サンキュー馬主。

 

「で、俺勝った? 勝ったよな? 流石に勝つ流れだったよなアレ?」

 

「起きるのが早いね、フィアー」

 

 漸く目が光に慣れてきて目が開けられる。天井から照らされる光に目を細めながら体を持ち上げる。体が依然重く感じるも、限界を超えて走った反動であるのは良く理解している。お蔭で体の節々が痛い。

 

 軽く辺りを見渡せば、いくつものベッドとそこに転がるウマ娘、横につくトレーナーの姿が見える。視線を向ければ笑顔と軽いウィンクなどの挨拶が送られてくる。流石アメリカ人、こういう所は物怖じしねぇな。

 

「頭が重ぇ……」

 

「医者が言うには脳の酷使が原因だから、しばらくは安静にして欲しいってさ。それと脚には何も問題がなかったよ。疲労は残るから抜くのに少し苦労がかかりそうだけど、後遺症はなし。それは今回走った全てのウマ娘に言える事だけどね」

 

「神様が素敵なレースにプレゼントをくれたのかもな……よ、と」

 

 声と共にAlexが体を持ち上げる。軽く手を振って挨拶してくる姿に手を振り返す。壁にかかった時計を見れば、レースから既に30分ほど経過している。どうやらそこそこ眠っていたらしい。この疲れは相当抜くのに苦労するだろう……12月中は無理かもしれない。

 

 まあ、何で裏ボス戦をこんなところでやってんだ、って話なんだが。

 

「楽しかった」

 

 がたり、とベッドから起き上がったInvasorが満足げな表情を浮かべている。割と面白い性格してるなお前……と、思いつつも俺達の意識は雑談よりももっと重要なものへと向けられている。じぃ、とトレーナーを見つめていると、医務室の扉が開いた。

 

「やっと起きたかポニー共」

 

「御大、アレだけ走ってもう普通に起き上がってるのバグでしょ」

 

「もうちょっと生物らしさ見せろ」

 

「生命に対する申し訳なさないの?」

 

「ぼろくそ言うなお前ら」

 

 扉の向こう側から呆れたような表情を浮かべるSecretariatは軽く髪を掻き、それからにへら、と表情を崩した。

 

「伝説も今日までだな」

 

 ひらひらと手を振ってSecretariatが去って行く。その言葉に視線が各々のトレーナーへと向けられ、静かに、しかし同時に結果が発表される。

 

 4着Secretariat。

 

 3着Invasor。

 

 2着Afleet Alex。

 

 1着Crimson Fear。

 

「っしゃあああああ―――!!!」

 

 ベッドから飛び降りて医務室を飛び出す。そのまま走って御大の所まで行き、煽るように顔をどアップしてから顎を突き出すように顔芸で煽る。

 

「はい、俺の勝ちー! 俺の勝ち! はい、俺が人類最強!!」

 

 御大の額に青筋が浮かぶのを無視して廊下を走って、転び、転がり、スタッフが爆速で走って助けに来るのを払いのけて床に転がったまま腕を広げる。ぴすぴす。俺最強。俺最強でーす。もうこの記録人類には乗り越えられませーん。俺最強でーす。

 

「俺最強ォぉ―――!!!」

 

「馬鹿みたいなテンションになってるな……」

 

 床に転がっている姿を御大に俵担ぎされてそのまま医務室へと戻される。医務室の中では呆れたような表情のAlexと、悔しそうな顔のInvasorがいるのでWピースを向けて煽り芸を披露しておく。もう無敵だ。こうなってしまえば精神的に無敵だ。今後人類ではどうしようもない記録が出たので俺の勝ちです。

 

「これから俺の人生何が起きてもまあ……俺、世界3大グランプリ踏破したウマ娘代表だしな……で永遠にマウント取れるってマジ? マジだな。いやあ、ウマ娘代表で悪いね。これからちびっこが俺に憧れてレースを走る事になるんだぜ? ヤバくね?」

 

「うっぜぇ……!」

 

「ピース! ピース!」

 

 わはー、と声に出しながら担がれたままじたばたする。尻尾をぶんぶん振り回してテンションの高さを見せつけると軽く揺らされる。ぐでぇ、と体から力を抜いて担がれたままにされていると、ほら、と御大が口を開く。

 

「ウィニングライブを皆が待っているぞ。最後に起きたのはお前らだ……新しい時代の、勝者としての姿を全員に披露する為にとっとと準備してこい」

 

 自分の時代が終わった。伝説は終わりだ。完全燃焼した姿の御大はどことなくすっきりして、それ以上に気力に満ちている。或いはレース前よりも人生を前向きに生きていけるだけの気力に溢れていた。そんな御大の言葉と様子を見て、秒で医務室から飛び出す。

 

「そこのスタッフ、控室にメイクさん呼んできて。10分でステージに出る準備整える。お前ら、また後でな!」

 

「ライブで!」

 

「See you」

 

 他のウマ娘達に別れを告げて早歩きで控室へと戻ろうとして―――道が解らない。首を傾げていると走って追いついてきた西村が苦笑交じりに控室まで連れて行ってくれる。

 

 それから控室に到着し、椅子に座って、むふーと息を吐く。そんな俺のご機嫌な姿を見て西村が腕を組んだ。

 

「これでついに、君は当初の目的を果たす事に成功したんだ……文字通り、前人未踏、ウマ娘という種の歴史に残す大偉業だ。恐らくこの後に同じことが出来るウマ娘が生まれてくるかどうかなんて解りもしないけど……きっと、来ないだろうね」

 

「そーだろな。俺みたいな彼岸越えが出たらあり得るかもな。いや、まあ、俺はレアケースだからありえないか」

 

 そもそも俺が彼岸を彷徨っていたのは神様とか女神の手引きではない。俺が超低乱数を引いてしまった為の出来事だ。それがまあ、どうやって異世界転生なんてものになったのかはマジでようわからん。

 

 でも、まあ、続く奴はいないだろう。早々俺みたいな怪物が湧いてたまるか。俺の存在は50年もすれば3代目の伝説として静かに埋もれて行くだろう……アレは本当だったのか、アレはもしかして誇張じゃないのか、なんて話と共に。

 

「でも、まあ、それで良いよ俺は。俺さ、結局色々とごちゃごちゃ考えて来たけどやりたい事はシンプルに一貫してるんだよね」

 

「―――誰よりも速く走る事、でしょ?」

 

 Yes、と西村に指差して笑う。結局俺の性根は本当にそれだけなんだ。最強のライバルを相手にして全力で走りたいだけ。今日も御大を煽れたので最高に気分が良いし、一生このレースの事を忘れる事もないだろう。

 

「それでもラストランはやってくる」

 

「そーだな。挑戦状叩きつけても叩きつけなくても、ラストランからは逃れられないからな」

 

 俺達ウマ娘のレースとは結局、そのアガリをどうやって迎えるかという点に集約されるのかもしれない。無論、ドリームシリーズに移籍して最後を後に回す事も全然ありだろう。トゥインクルで真っ赤に燃え尽きるのも悪くはないだろう。

 

 だが俺がそれを考えるのはまだ少し先―――有マを走ってからだ。

 

 考えてみれば、俺は未だに1度も有マ記念を走った事がなかった。

 

 日本人のくせして面白い奴だわ、全く。

 

 こんこん、と扉にノック音が響くメイクが到着したらしい。とりあえず、話はこれまでだ。今は勝者の義務として死体蹴りライブを行う時間だ。メイクを控室に迎え入れて大人しく化粧直しを受ける。

 

 ―――これで、全ての海外遠征は終わり。

 

 俺の、最後になるかもしれない戦いがいよいよ始まる。




BCクラシック出走組
 この後全員でサンデーハウスに雪崩れ込んでパーティーした

サンデーサイレンス
 当然キレた
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