「カフェー! ただいまー! 結婚しよ」
「お友達で。いえ、というか帰って来たんですね」
「おう。はい、これお土産。ドクターもちわわ」
「やあやあ、お土産楽しみにしてたよ」
トレセン学園に戻ってきてまず向かったのはタキカフェコンビの居る空き教室だ。まあ、何時も通りに寛いでるなあ、なんて事を部屋の隅で発光しながら荒ぶる神のポーズで浮かんでいるモルトレを見ながら思う。ついに物理法則から解放されちゃったかぁ。
いや、でもこの外国では絶対に見る事の出来ない怪奇現象を見ているとあぁ……トレセン学園に、日本に帰って来たんだな……感がヤバイ。とりあえず土産物の入った袋を纏めて渡す。どうも、とカフェとタキオンが受け取る。
早速開けて確認される土産物。こういう土産物に関しては形の残るものよりは、サクッと消費できるものの方が重くなくて良い。プレゼントに小物とか置物を用意すると逆に与えるプレッシャーが大きすぎるんだよな。
そういう訳で、タキオン用に用意したのはアメリカの方で作られたばかりの完全栄養食。スナックバーみたいな形で1本で1日に必要な栄養を全部摂取できるという奴。研究とかで良く徹夜したり引きこもるタキオン向けの土産って奴だ。
カフェ用のはコーヒーに合うお菓子で結構お高めの奴。フランスのちょっとした有名店のパティシエが作った奴だ。まあ、土産物と言えば食えるもんが基本だよなという俺の考えだ。
「しかし見てる限りトレセン学園はあんまり変化ないっぽいな」
「そうだねぇ、UMAが住み着いた事以外に大きな変化はないよ」
全員で窓の外へと視線を向ければゴルシ号が数人のウマ娘と一緒にターフを走っていた。ゴルシvsゴルシ号、ワープvsワープ。互いにワープしようとしてコースを邪魔し合った結果ワープできずに他のウマ娘が前に出ている。なにやってんだよお前ら。
「ところでそれ、重くありませんか」
「慣れてるからへーきへーき」
カフェはずっと俺にセミの如く張り付いているディーの事を指しているが、これは完全に無視で良い。相手にするとちょっと時間が足りなくなるし。
「その状態でカフェに求婚する辺り、偶に尊敬を覚えるよ。真似したいとは思わないけど」
「尻尾と耳で叩かれてますよ」
「慣れてるからへーき」
何時もの事、何時もの事。
まあ、それはともかく、トレセン学園は比較的に平和らしい。
BCクラシックが終わって1週間ほど休養に当てた。それから帰国して実家で数日過ごしてこうやって今、トレセン学園に来ている。12月末の有マ記念までは完全に休養に当てる事が確定している―――いや、まあ、ここまで激戦続きなので、休まないわけにはいかない。
そういう訳でジャパンカップはスルー。俺は出る予定はない。流石に体が持たない。
「しかし来年度は入学希望者が増えそうですね。既にたづなさんが大変そうにしてました」
「そりゃあ勿論世界最強と言われるウマ娘が日本から出ちゃったからねぇ。アレで闘争本能を刺激されない娘は中々いないよ。かくいう私も機会があるなら有マを走って勝負してみたいもんだけどねぇ……フィアー君、そこら辺君で口添えできないかな?」
「やろうと思えばやれるけどフェアじゃないしな」
「ま、そう言うと思ったよ」
「今年の有マは倍率が凄い事になりそうですね」
肯定を示すようにモルトレが光って横に小刻みにホバー移動する。動きが人間のそれじゃねぇな。外国ですらお前に匹敵する生き物はいなかったぞ。
「まあ、その前にジャパンカップでしょうが」
「今年のJCは凄そうだなぁ。リベンジ表明してる連中の影響でなんか倍率凄いって話だけど」
「盛り上がるだろうねぇ」
ディープ蝉インパクトが得意げな表情をしている。そういやこいつがJC出場予定だったか? 長らく日本に乗り込んできた海外バはいないが、今年はディーが走る事を考えるとなおさら無理そうだ。それでも打倒日本の空気が出来上がっているのは悪くはない。
何せ、日本と言えばガラパゴス環境で有名だ。日本のダート、芝は海外とは環境が違いすぎる。気候が原因なのは確かだが、その影響で日本の競バで必要とされる能力は違ってくる。
世界とスタンダードが違うのはそれだけでデバフだ。世界に挑みづらくなるし、世界からも挑戦されづらくなる。一応天皇賞・秋が世界レベルで見てもかなり高い地位にあるGⅠレースになるが……やっぱり、ガラパゴス環境というのが尾を引く。
だから海外バが日本に明確な目標を持って挑戦しに来るというのは決して悪い事ではない。日本の芝への適応にはまあ、苦労するだろうがその分国内のレースが活発化する。
やっぱり競バの本場は海外なのだ。大きなレースは海外にあって、何時までも国内に留まるだけでは環境や強さが行き止まりに当たるのだ。
……だからこそ凱旋門等のビッグタイトルを求めて外に飛び出す人が多いのだが。
別段国内が悪いって訳じゃない。ただ国内だけだと限界があるという話だ。
俺のハチャメチャな旅路はきっと、小さな火種をそれぞれの心の中に灯すだろう。これからはもっと海外に目を向けるウマ娘も増えるだろう。それが俺の無茶苦茶な旅路から生まれたものだとすれば……まあ、嬉しいかもしれない。
「とはいえ、来年からトレセン学園も変化を余儀なくされるだろうねぇ。恐らく来年から海外をメインに走りたいと考える娘も出てくる筈だ。そうなるとこれまでの様な国内を想定した練習ではなく、海外の芝を想定して練習をしなくてはならない」
「施設とかどうするんでしょうね」
「あー、海外の芝を植える訳にもいかないしな」
「難しい話ですね。日本が今の環境にあるのは気候の問題ですしね……屋内施設で環境を維持して、なんて話をすると維持費の問題で非現実的ですし」
「そう言えばサトノグループが超高度VRシステムの開発に成功したという話を聞いたねぇ。将来的にはVR空間内で海外環境で走って練習する事も可能かもしれないよ?」
それ、筋肉とかはどうするんだよ。だがタキオンの言う事は夢がある。サトノグループがVRマシンの開発に成功すればリアルSAOが出来るという事だ。デスゲームを楽しむ事も8人全員キリトごっこする事だって出来るんだ。
キリト専用ギルドとかVRでやったら絶対面白いと思うんだ。語録のみで会話するとか。夢あるじゃんVR。サトノグループ頑張ってデスゲーム開催してくれ。俺はちょっと参加してみたい。頭チンぐらいならガイドライン神のご加護で突破できるし。
ウマ娘がその程度の事でダメージを受けると思うなよヒューマン。俺達は種族上毒麻痺を無効化するのだ、ちょっと頑張れば火傷も無効化できるだろ。
「まあ、でも……VRで練習できるようになったら皆VRポッド? の中に入った状態で練習するのかな」
「マシンで負荷を与えて筋トレするのもアリかもしれないねぇ!」
「嫌ですよ、そんな環境。想像してみてくださいよ、この学園に通う数百というウマ娘が全員VRにダイブしてる光景を」
カフェの言葉に皆で目を瞑り、VRマシンだらけの体育館の姿を想像する。数百を超えるマシンの中にウマ娘がいて、全員VRダイブしながらトレーニング……絵面としてはこの上なく最悪だろう。なんというか……最先端なのは解るけど現実としては実現したくない光景だ。
「まあ、やっぱ屋内施設で芝を維持するのが現実的なのかねえ」
「或いは欧州トラックを季節限定で維持するとかね。いや、張り替えの費用が馬鹿にならないかねぇ。何にせよ、日本国内で海外を目標とした長期トレーニングは難しいかもしれない」
「それだけに偉業ですよ、フィアさんの行いは」
「それほどでもない」
得意げな表情を―――いや、誤魔化さない。盛大なドヤ顔を浮かべる。
あぁ、しかしなんだろうか。こうやってグダグダしていると、シニア期ももうそろそろ終わりだというのに日常に帰って来た感がする。
ただいま、日本。長い旅路の終わりを飾らないとなぁ。
クリムゾンフィアー
なんだかんだで日本が一番好き
マンハッタンカフェ
突然の求婚にももう慣れた
アグネスタキオン
最近はトレーナーをウマ娘に転生させる薬を作ってる
モルトレ
荒ぶる神のポーズ