転生赤毛バは凱旋門の夢を見る   作:てんぞー

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92話 汝はマゾ、特に罪は無き!

 まあ、相方の感情が割と湿度が高いのは承知してる。脳味噌狂わせたのは俺だからしょうがないんだけど。圧倒的な才能を持つディープインパクトにはライバルがいなかった。そのライバルが現れ、互角にレースが出来るようになったんだ。そりゃあ執着もするだろう。

 

 実際、俺も互角に走るディーの存在にはだいぶ脳を焼かれている。あの強さ、そして格好良さは言葉にできない程美しさを感じる。現代競バの結晶と呼ばれるのもしょうがないだろう。俺もディーの事は率直な言葉にすれば好きだろう。

 

 だけどディーに関して俺は一つの真理に至った。

 

かかり気味になって嫉妬している姿が一番かわいいかもしれん……

 

「最悪だよ」

 

「自重しなさって??」

 

 素直な気持ちをテイオーとマックイーンに告白したら白い目で見られた。それをえー、という声を零しながら手を前に出す。まあ、マテのポーズだ。その奥では沖野Tがジト目で俺を見ている。諸君らの言いたい事は良く解る。

 

「だがな、アスリートってのは基本的に全員潜在的なマゾヒストだ。自分を追い込み、そこから解放する事に快感を覚える。少なくとも軽度のマゾヒズムを楽しめないとレースやトレーニングには到底耐えられないと思う。だから俺も潜在的なマゾヒストなんだ」

 

「言いたい事は解るが、言っている事が相当酷いぞ」

 

 そもそも体力の限界まで走って、何度も走り直して、フォームの修正や改良を何時間もかけて繰り返し続けるのをマゾ以外がどうやって楽しめるって話なんだよ。才能と書いてマゾって読むんだよきっと。俺達は皆マゾなんだよマゾ! マゾ系ウマ娘なんだよ! 規制されそうだなこれ……。

 

「だから俺さ、気づいたんだ。過酷だったフィアーローテと呼ばれるようになったこのクソローテを走るの、苦しかったけど滅茶苦茶楽しかった。そういう意味じゃ俺も立派なマゾウマ娘だったんだな、って……」

 

「それで、フィアーちゃんは何が言いたいの?」

 

 窓の外からゴドルフィンバルブが顔を出してくる。唐突なリアリティウマショックにアイエー! となるウマ娘もトレーナーもいなかった! この程度の事ではもはや驚くようなトレセン学園ではないからだ。既に各国から特異点、魔境、あそこだけ世界観が違うと呼ばれている日本トレセン学園ではコールゴッドが発動していても別に何時もの事である!

 

 そもそも発光するトレーナーがいる時点で外国のトレセン学園は留学に出す事を恐れてる!

 

 大丈夫、そのモルモット空気感染しないよ。

 

 与太特化型スピカと通りすがりのゴッドを見てから頷く。ここ最近、ここ数年間を振り返って気づいた事実があったのだ。俺はそれをどうしても確かめる為に共有したい。だから一拍間を置いて、俺に視線が集中するのを待ってから続けた。

 

「俺……誘い受けかもしれねぇ……!」

 

「とんでもない事を言いやがりましたわね」

 

 性癖の告白を行うと戦慄の表情でマックイーンがツッコむ。何時の間にかマックイーンの横に居たサンデーサイレンスがお前そういう所あるよな、と頷いてる。ゴルシがいないって事はまた負けたのかアイツ……。それはそれとして就職おめでとう。

 

 トレーナーではなく教官としてトレセンに就職するらしい。まあ、この業界常に人手不足だしね。

 

「この際フィアが誘い受けなのは別にいいんだけど……それをボク達に告白してどうするの……?」

 

「ああ、正直チームのトレーナーとして性癖を告げられた所で滅茶苦茶困惑してる。この情報を俺はどう処理すれば良いんだ」

 

 ウマちゃんが幸せなら性癖はそれでオッケーですというサムズアップのゴドルフィン某。ありがとう、青女神……もっと序盤から青欠片x2よこしてくれれば完璧なのに……。デビュー前~ジュニアに叡智4詰め込むの地獄すぎて出来る気がしないのはお前らが悪いって事で良いんだよな?

 

「無論、俺がディーの事がしゅきしゅきしゅきぴしてる事はもはや周知の事実だ」

 

「真顔で言い切ったな」

 

「欠片も恥ずかしがることがないですわね……」

 

「ヒトもウマも“癖”にはもっと素直になるべきだと思う。そして俺は改めて自分の癖を理解したから素直になろうと思うんだ。つまり、もっとディーを嫉妬させてかかり気味にさせるって事だ」

 

「走りは一流、性格はドブカス」

 

「こんなのが世界的スターで恥ずかしくないの?」

 

 人格と能力は必ずしも比例しねぇんだよぉ―――!!

 

 だがここで皆思い出す。もうそろそろジャパンカップだ。今年は特に海外参戦が多く、そして激戦が予想されている。その中でディープインパクトは日本筆頭として海外バを撃退する事を非常に期待されている事を。

 

 実際、ジャパンカップ参戦を名乗り上げているウマ娘はどこも一流ばかりだ。中には今年の凱旋門を走った奴の姿もある。日本という国の競バ界は俺というウマ娘を輩出した事で一つのブランドを得たのだ。もはやガラパゴスと馬鹿には出来ないものがここにはあるのだ、と。

 

 そんなディープインパクトの活躍の舞台を前に。こんなトンチキな事を実行しようとしている俺がいる。そして一緒にこの悪戯やらんか? とこの場にいる連中に持ちかけている。それを見て、テイオーとマックイーンが溜息を吐き、ゴルシが沖野Tを縄で縛った。

 

「何時やります? 何をすればいいのでしょうか? 私もやりますわ」

 

「マック院」

 

「フィアって確かカフェが性癖にヒットするんだっけ。となると黒毛系を呼んだ方が良いのかな……うーん、リギル所属は間違いなく手を貸してくれないだろうし誰をヘルプに呼ぼうか」

 

「すまん、おハナさん……俺は……無力だ……!」

 

「びっくりするぐらい抵抗しないぞ」

 

「待て、俺がオレ(オトモダチ)にカフェの体を乗っ取るように頼んでくる。それでイケるだろ」

 

 サンデーサイレンスの提案に無言でサムズアップを返す。最高の仕事だぜサンデーサイレンス。カフェには今度詫びでカフェトレと一緒に行けるお食事券でもプレゼントしておこうか。俺はデキるウマ娘、ちゃんとアフターケアはする。

 

 窓の外を見るとゴドルフィンバルブは満足げな表情を浮かべてそのままカスミのように消えていった。お前それで良いのか……まあ、ええか! バイアリータークに見つかる前に実行しておこう!

 

 沖野Tにお札を貼って封印する事に成功した俺達はそのまま、ただただディーをかからせる為だけの計画を実行する事にした……!

 

 

 

 

「……?」

 

「東条トレーナー?」

 

 その時、グラウンドでリギルのトレーニングを見ていた東条ハナは唐突に動きを止めて周囲に対する警戒を始めた。その様子にルドルフは首を傾げたが、経験上東条トレーナーがこうやって警戒モードに入る時は間違いなくスピカが仕掛けてきた時になる。

 

 成程、と頷いたルドルフは東条トレーナーを見捨ててトレーニングに戻った。経験上、こうなった以上はもう手遅れだ。スピカの魔の手は既に忍び寄っている状態だろう。諦めた方が早い。

 

「東条トレーナー、大丈夫ですか?」

 

 樫本トレーナーが東条の確認をするが、東条は軽く手を振って気にしない様に示す―――樫本理子も、桐生院葵も、既にリギルのサブトレーナーとして働いて実績を積んでいる。そろそろ独立したチームを持たせたい頃だ。

 

 その為にもディープインパクトという巨星を走り切らせる。その為にも今年のジャパンカップ、有マは勝たなくてはならない。そんな思いが彼女の中にはあった。だがこのパターン、スピカがまたトンチキな事を仕掛けてくるパターンだ。

 

 ―――今度は、今度は何で来る……!?

 

 警戒する東条の視界の端、ターフの外、校舎近くの道に一瞬赤い姿が見えた。トラブルメーカーの気配に迷わずそこか、と視線が向けられる。

 

 そこに居たのはマンハッタンカフェとクリムゾンフィアーのコンビの姿だった。特別珍しい組み合わせではない。寧ろアグネスタキオンを含めて良く見るメンツでもある。学園のオカルト関係で度々奔走している姿はそれなりに目撃されている。

 

 問題があるとすれば腕を絡めて指を絡めるように手を繋ぎ、尻尾をちょっと触れる程度にタッチしながら歩いている事だろうか。

 

「いかんっ! 見るなディープインパクト……!」

 

 東条の叫びは遅すぎる程に遅かった。秒でかかったディープインパクトがターフから射出されて道の方へと走り出した。

 

「よっしゃかかった!」

 

「逃げるぞ!!」

 

 ぶちギレる東条ハナ。

 

 かかって暴走特急となるディープインパクト。

 

 ガン無視でトレーニングを進めるリギル。

 

 今日もトレセン学園は平和だった。




クリムゾンフィアー
 チワワに襲われる瞬間が楽しいらしい

マンハッタンカフェ
 とんだとばっちり

東条トレーナー
 本日の筆頭被害者

サンデーサイレンス
 若年組から人気が高い

ゴドルフィンバルブ
 ウマ娘xウマ娘はアリ
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