転生赤毛バは凱旋門の夢を見る   作:てんぞー

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94話 有マ記念 Ⅰ

 今日は有マ記念だというのに相変わらずディーは俺に引っ付いて寝ていた。まあ、もう慣れたもんだが。

 

 布団を剥がして寒気を受け入れるとベッドの中で人に引っ付いて寝ていたディーが尻尾をベッドに叩きつけて無言の抗議を示してくる。これでもまだ眠っているのだからこの女、本当に起きるのが極限までへたくそだ。

 

「あぁ、さむさむっ。流石に冬になると寒いなぁ」

 

 ベッドに引っぺがしたディーを叩きつけて起き上がると、のそのそとゾンビのようにベッドを這う姿がこっちに向かってくる。背中に引っ付くのを尻尾でびたんびたんと叩いて起きろと無言の抗議を送るが、ガン無視ですやすや眠りやがる。今日、俺ら対戦すんねんぞ!!

 

 エアコンを付けて温風を寮の部屋に送る。窓際まで行ってカーテンを思いっきり開ければ新鮮な朝日が室内に入り込んでくる。綺麗な冬の空を窓の中から見上げ、息を吐く。思えばこれまで大体海外ばかりで走って来たもんだ。

 

 だけどどれも楽しいレースだった。俺なりに本気で走って、本気で勝つことを目指して来た。

 

 それももう今日で終わりかもしれない。

 

「悔いのない一日にしようぜ……な?」

 

「……むにゃ……」

 

 肝心の相方は俺の耳をはむはむするのにご執心だった。

 

 

 

 

「フィアーさん! 応援してます! 純国産ウマ娘としてアメカス共にヤマト魂を見せてやってください! ついでにブリカス共にも日本人だという証明を見せてやってくださいよ!」

 

「凄いヘイト稼いでるなあ、おい。もしかして掲示板の民か? スレの民度やネタはなるべくリアルに持ち込まない方がいいぞ、大体の場合で滑るから」

 

「はい!」

 

 食堂で朝飯を食ってるとファンの後輩に応援される。俺だけじゃなく膝の上でうとうとしながら朝食を食べさせているディーにも来ているが、今朝は寮の部屋を出た辺りから割と押しが強いというか、ファンの圧が凄い。

 

「盛り上がってるなぁ」

 

「そりゃあそうでしょ。だって貴女、今世界で一番有名なウマ娘でしょ」

 

 正面の席にメジロドーベルが座ってくる。遠慮しているのか良く解らんが周囲の席はそこそこ空いている。挨拶するのはいいけど、一緒に朝食を食べるのは畏れ多いというのが大多数の意見らしい。ヘイトワード連発する癖にそういう所では妙に奥手だよな……。

 

「というか最近トレセン学園のお嬢様たちの治安悪化酷くないか?」

 

「元凶が何を言ってるの……」

 

 トーストをディーの口元に持ってゆくとむしゃむしゃと半目のまま食べている。兎を餌付けしているような気分だ。まあ、今日は大事なレースだしギリギリまでエネルギーチャージさせておいてやろう。

 

「しかし、貴女がここまでとんでもない事になるなんてね」

 

「俺も割とやれる気はしたけど、ここまでやれるとは思わなかったわ」

 

 ゴルシが【ディープインパクト餌やり体験会】とかいうホワイトボードを横に置いたので俺もディーを横に向けて餌やりしやすいように構える。誰かこねぇかなあ……とか思ってたらハンバーグを片手にタイキシャトルがやって来た。反射的に口をもぐもぐしてこいつほんと可愛いな。

 

「同じアメリカ人として誇らしいデース!」

 

「幻覚を見るな見るな」

 

「貴女がソレを言い出すと割とシャレにならないのよ」

 

「ちょっとしたジョークデース。でもフィアーはグリーンカード貰ってたはずデスよね」

 

「いや、まあ、うん。でも俺国籍変えるつもりないからね? ネトゲもソシャゲも生活環境も日本が一番良いし。というかエゴサするとウマッターでもスレでもウマスタでもすげぇ引くんだわ! なんだよお前らのその重すぎる感情!!」

 

 ドーベルとタイキが顔を見合わせる。

 

「いや、悪いのはそっちでしょ」

 

「You burned too much souls of horsemen, you knew that this was coming, but you enjoyed it」

 

「タイキは真顔で淡々と言うの止めない? 何時もの似非英語日本語はどうしたんだよ!!」

 

 まあ、海外で暴れまわったしそれもしゃーないか。これでいて国内勝利数がまだ2勝なの面白すぎるだろこのクリムゾンフィアーってウマ娘。引退したらトレーナーでも教官でも引っ張りだこだろうなぁ、余生をどうして過ごすかも追々考えておく必要があるかもしれない。

 

「んむ……起きた……」

 

 ドーベルとタイキが俺を見る。

 

「良いか―――この発言が出た場合覚醒率3割だ。まだほぼ眠ってる。多分リギルに送り届けるまでは眠り続けるぞこいつ」

 

「今日大事なレースなのに本当にそれで大丈夫……?」

 

 不思議とこれまでこれで問題なかったんだよなぁ。というかこいつ、いまだに敗北は凱旋門の一敗だけだから有マで負けてないんだよな。凱旋門も出走取り消しにならなかったし。国内無敗コースを未だに維持してるのは驚異的の一言に尽きるのだが。

 

 コレ、なんだよなぁ……。

 

 未だに膝の上でうとうと尻尾ゆらゆらしている姿を見る。今、眠そうにのほほんとしているウマ娘が国内最強クラスの現役選手だと言われても信じ難いのは仕方のない話だと思う。

 

 まあ、そも今の知名度からして国内で俺らを知らない奴の方がいないかもしれない。俺もディーも何時の間にか国民的なアイドルになってしまった。歌って踊るのもやってるし、持ち歌の配信だって行ってる。

 

 自分がまさかアイドル方面でもそれなりに世間を騒がせるようになるとは、ストリートで無法なレースをしてる頃には想像もできなかっただろう。

 

 視線をちょっと離れたテーブルへと向ける。ダーレー、ゴドルフィン、タークの3名が敬われながら朝飯を食ってる姿が見える。ついでに言えば三女神がトレセン学園で朝飯食ってる姿を目撃する様な日が来るとは思いもしなかった。いや、飯食うなよ。元の世界に帰れ。

 

「あ、甘いの……」

 

「フルーツヨーグルトな。朝はそれ以外の甘味は駄目だぞ」

 

「私、絶対にディープさんがそうなったの貴女が原因だと思うわ」

 

 そうかなぁ……そうかなぁ? 俺、そこまでお前を甘やかしてるか? 膝に座るディーを見て首を傾げる。口をあけて餌付けを待っている姿を見てデザートを食べさせてやる。よしよし、良く食べられたな。偉いぞ。

 

「前よりも悪化してマース」

 

「なあに、その気になれば俺抜きで生活もできるだろ。今日は有マだしな。その前になるべく甘やかして精神的デバフを重ねていきたい」

 

「こ、姑息……!」

 

 デバフになるかな……ならないっぽいな! まあ、推しを甘やかすのは相方の特権なので、これぐらいは許してくれドーベル。お前がトレに対してツンツンしているけどトレxドベ本を自炊しているぐらいには落ちてる事実を俺は黙っておいてやるから。

 

 しかし最近はAIのべりすと等を使って推し小説や性癖小説の自炊も可能になって来た。ここに通っているウマ娘達ももしかして自分xトレの小説を自炊している可能性は十分にあり得る。いや、でもニッチな性癖に対応してくれるAI小説は凄く良いと思うよ。世の中に出せない性癖の人はそれで満足できるし。

 

 のんびりと朝食を食べてる時間は取っている。それで満足するまで食べたらドベタイキに別れを告げて一旦部屋に戻る。本当なら授業なりジャージに着替えてグラウンドに集合するなりするべき事があるのだが、今日はレースの日だ。

 

 基本的にオフの日以外は制服の着用義務があるので制服姿になって、スマホから勝負服が現地にちゃんと到着しているかどうかをチェックする―――クリーニングアイロンなどを含めて前日の内に現地に送る準備は整えられているのだが、それでもアプリでその行方を追うのは大事だ。

 

 ガチで数百万では済ませられないレベルの価値がアレにはある。驕る訳じゃないけど億単位行くんじゃない? とか思ってる。

 

 そしてこの時間帯になるとディーもようやくおねむワンダーランドから目覚める。半分眠ってる状態でも朧気に何をしているのかは理解している為、特に説明とかは必要ない。ディーもレース前のあれこれには慣れたもんでせかせかと準備を進める。

 

「そういやオメー、新しい勝負服は作らないよな」

 

「うん、今のが、割と好きだから」

 

「なんか言われなかった?」

 

「水着かクリスマス用は作らないか、って聞かれた事もあったよ。でも断った。くーちゃんは断らなさそう」

 

「俺? 正直今の勝負服に代わる新しい勝負服作るのが怖いわ。季節限定とかならアリだけど」

 

 お婆ちゃんにっこりと頷いて新しいもん用意しそうで怖いんだよ。そうじゃなくても色々と押しが強いし。そうじゃなくてもスポンサーするとか言い出す企業や富豪のなんて多いことか。一々相手するのが面倒なのでスポンサー系はNGにしたいが、学園的にはちょっとそうもいかない。

 

 まあ、今考える事でもないだろう。

 

「うっし、準備終わり! そっちは?」

 

「こっちも、終わり」

 

 制服姿のディーがサムズアップを向けてくる。欲しいもんは現地のスタッフが事前に用意するか調達してくれるので足りないものを心配する必要はない。細かい趣味趣向はトレーナーが把握しているから、大体の場合欲しいと思ったもんは既にトレーナーが用意してくれていたりする。

 

 だから着替えて整えさえすれば準備は完了だ。

 

「んじゃ、いこっか」

 

「うん」

 

 中山競バ場へ。

 

 今年最後のレースの為に。




クリムゾンフィアー
 勝負服気に入ってるから着たいけどレース以外で着るのが恐れ多い

ディープインパクト
 相方が帰って来たので堕落生活に戻った

三女神
 今度西村Tと温泉に行くことになる
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