「勝負服ねぇ……よっこらせ」
三女神の像、その根元の噴水に腰かける。今日は少し真面目に考えたいという気持ちもあってうろうろしてたら三女神の所へとやってきてしまった。不思議と周りに人の気配はないが、ここの空気は澄んでいて落ち着く。
アプリでも何度もトレーナーを救ってきた最強の強化スポットだ、或いは何らかの力がここには存在するのかもしれない。まあ、今重要なのはここが落ち着ける場所という事だ。スカートのポケットに手を突っ込んでスティックケースを取り出す。
その中から一本アロマスティックを取り出す。見た目は煙草に近いが、とあるブランドが開発した吸うタイプのアロマだ。見た目は悪いが、息も頭もすっきりさせてくれるおしゃれアイテムという奴なのだ。無論、ちゃんと合法であるとリサーチ済みだ。
まあ、生徒会とかに見られたら絶対に怒られる奴なのだが。合法だけど見た目が風紀乱しすぎだからしょうがないね。
実はナカヤマフェスタ共々最近これにハマってる。俺達アウトローはまず形から入るのだ。少なくともココアシガレット咥えてるよりはワルっぽい。
咥えた状態で火を付けるとアロマからラベンダーの匂いが立ち上る。
「ウマ娘は想いを継げる生き物だ。ヒトよりももっと。だから勝負服はウマ娘の想いの結晶とも言えるもの……か。ぶっちゃけ、そこまで深い考えないんだよなあ、俺」
さて、ここで少し俺という人物の人生を振り返ろう。
俺は転生者である。神様と出会った事はない。トラックに轢かれたとか、誰かを助けて死んだとかそういうドラマティックな展開もない。普通に流行り病で合併症を起こしてころりと逝っただけだ。逝っただけと書くのも非常にアレなのだが、人は死ぬとき割とあっさりと死ぬ。
そう、俺は死んだ。男としての一生を生き、そして死んだ。そこまでは良い。だが俺はそのまま死んだままではいられなかった。転生という概念を経て再び現世に舞い戻ってしまった。ウマ娘とかいう種族への転生だ、こんな事になるとは思いもしなかった。
「こういうのは神様に放り込まれるとかそういうのがテンプレじゃないのかなあ」
振り返って三女神の像を見るが、今日も瓶から水を流す作業を頑張っている。一日中水を流してるだけで生きて行ける仕事楽……楽そうじゃないな全く。羨ましくともなんともねぇ。ふぅ、と口からアロマの煙を吐き出して頭を掻く。
一度死んだからこそ思う。
「なるべく自分の欲望に素直に生きようって思えたんだよな」
死ぬときは死ぬ。だから生きている間はなるべく好きに生きるべきなのだ。飲んで、食べて、遊んで、ふざけて……その果てに死ぬのなら、なるべく楽しく死にたい。
アストンマーチャンは言っていた、命は流れるものだと。どのような命でさえ何時かは朽ちるのだと、だからこそ忘れられたくないのだと。
それには同意するしかない。俺の命は、俺達の命は奇跡的な存在なのだ。だからこそ目指すなら最強、絶対に忘れられない人生を全力で駆け抜けたい。この一瞬、この時間の全てを全力で味わい続けたい。
だから凱旋門を目指す。だから打倒ディープインパクトを目指す。
全力で生きるとは、そういうことだろうと思っている。
「全力か……いや、それをモチーフにするのは難しいなぁ」
レースに懸ける想い。ウマ娘の勝負服とはそういうものなのだ。確かに俺は死を想っているけど、あくまでも俺の思想であって、想いではないのだ。レースそのものに対しては格好良くありたいとそう思っているだけだ。
「カッコよくかぁ……ウオッカ思い出すな」
いや、案外一番ウオッカが似ているのかもしれない。カッコいい事を追求するウオッカ、ライバルを意識し、自分の道を突き進む姿……やっぱり似ているのかもしれない。結局の所、俺がレースで全力を出すのは楽しむ為と、ダサい姿をターフで見せたくはないという部分がある。
「全力、己を魅せるように……って所かな」
折角ならこの赤毛が映える衣装が良いな。赤が映える色と言えばやっぱり黒だろう。赤と黒のシックな組み合わせは何時見ても良いよな。スマホを取り出してぽちぽちと画像検索を始める。服装のモデルはどうしようか……。
「ってツイッターの意見に集まってるのコスプレばかりじゃねーか。いや、まあ、あのノリだとそうなっちまうか」
でも正直コスプレで勝負服はなあ……芸がなくね? 流石に他の連中と肩を並べる時に申し訳なさが勝っちまう。和服もなあ……お正月のバリエーションとかだったらまだ解るが、アレ絶対走りづらいだろう。いくら走りに配慮してるからって限度があるだろう。
クリムゾンフィアー @crimson_fear・今
コスプレ意見ばかりだけどおめぇら発想力貧弱か?
もうちっとオリジナリティのある奴出せよ
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「……良し!」
俺はフォロワーとの絡みを忘れない良いツイッター芸人の鑑だ。軽く燃料をウマッターに投下して満足した所でスマホをしまい、背筋を伸ばす。アロマでもくもくしてたらだいぶ気分がすっきりしてきた。
他のウマ娘に絡んであーだこーだやっているのも割と好きだが、1人の時間というのも大事だ。ここ最近は常におチワワ様に絡んでいるかスピカで色々とやっているかで常に誰かと一緒にいたぶん、こうやって1人になるのは割と久しぶりなのかもしれない。
「しっかし、相変わらず人気がねぇなぁ、ここ」
周りを見渡しても人の気配はない。まるでこの空間だけが周囲から隔離されているようだった。
「そう言えばふらっと三女神像に立ち寄るイベントがあった筈だな……あぁ、そうそう、因子継承だ」
育成開始前と、クラシックとシニアで1回ずつ。貴重な適性を伸ばすチャンスだから割と真面目に大事なイベントだったはずだ。俺の場合、親に当たる因縁のあるウマ娘なんて存在しないから因子継承のイベントなんて発生しないだろう。そもそもデビュー前の継承イベントさえなかったのだ。
「長距離適性伸びねぇかなぁ……ついでにマS中Sにも……」
西村Tが既に俺の長距離適性を改善する為のトレーニングを始めている。その為毎日坂路を走ったり、プールで全身の筋肉を整えたり、体質や脚質改善に色々と俺では理解できない事を要求してくる。
そういうトレーニングを重ねても結局はC適性をBにあげるだけで限界らしいので、BからA―――つまり走れる、から得意といえる才能の領域への改善は酷く難しい。天性のセンスが要求される領域の話になってくる。
そこでどうしても俺とディープインパクトの間に差が出来る。
それをどう埋めるかが俺の勝負所だ。特に最近のおチワワ様が割とやる気だ。精力的にリギルで走っているし、何時の間にかストライドからピッチの切り替えをマスターしていた。ずるいぞ。
完全にレースで見せたのを覚えられた奴だ。
「ま、嘆いていた所でしゃーない。シチーみたいな現代服ベースの勝負服を考えて……ん?」
ちょんちょん、と肩に何かが叩くような気配を感じる。人の気配はないのに何事だろうか。そう思い振り返ってみれば、周りの空間は暗くなっており、遠くに光が見えた。
まるで領域に飲み込まれた様な空間の変化に一瞬だけ息を呑むが、それが見覚えのある変化で察した。因子継承だ、まさかここへふらっと立ち寄った事が継承フラグだとは思いもしなかった。
「いや、まて、俺の親はヒト―――」
一体誰が俺に因子なんてもんを継承するんだ? そう思ったものの、既に因子を継承する気満々のウマ娘の幻影がそこには立っていた。
布地が薄く、腹筋を晒すような2パーツに別れた中華風衣装。
短く切りそろえられた赤毛。触角のように後ろへと長く伸びるアンテナの様な毛に右側だけ千切れた様な跡のあるウマ耳。
そしてその右手には方天画戟が握られていた。
「呂布だこれ」
無言のサムズアップを向けてくる呂布は奥の光の方へと親指でクイッとついてこいというサインを見せてくる。成程、因子継承してくれるんすか。成程ね。
迷わず背を向けて光から逃げ出した。
「冗談じゃねぇ……!」
全力で逃げ出そうとする俺の背後からぶおんぶおんという音が響いてくる。一瞬だけ振り返れば方天画戟を振り上げながら楽しそうに追いかけて来る赤兎馬呂布の姿が。
「さ、三邪神め! クソ、三邪神めぇ……!」
だが抵抗は無駄であった。人類は神話生物に勝てるようにできていないのだ。
直ぐに追いついた呂布っぽい赤兎馬は俺の足を掴むとそのまま引きずるように光へと向かって行った……。
クリムゾンフィアー
その後微妙にぼろくなった姿で発見された。
呂布
最近は終末のワルキューレにハマってる。