転生赤毛バは凱旋門の夢を見る   作:てんぞー

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14話 チワワ出走

 ―――春の終わり、夏の始まりにメイクデビューが開催された。

 

 府中トレセン学園コース、2000メートル芝。中距離のスタンダードな距離であり、ジュニア後期からクラシック戦線ではメインともなってくる距離だ。この距離が走れなければ中距離適性を持っているとは言えないだろう。そんな、ウマ娘にとって重要な距離で行われたレースだった。

 

 実際の所、中距離をデビューにしようとするウマ娘は多い。

 

 だが多くのウマ娘は適性という壁の前に泣く。マイルと中距離の壁は意外と大きい。これはスタミナの差なのか? という話をすると違う。走り方、呼吸のタイミング、体力の残し方、スピードの出し方……細かい複数の要素が絡み合いそれが適性という言葉になる。

 

 つまりマイルと中距離の壁というものは走り方の差なのだ。走りに対するセンスだと言っても良い。それ故にその壁を越えられずに最も人気のある距離を走れないウマ娘は多い。だが逆に言えば、その壁を乗り越えた者にこそステージの上に立つ権利が与えられる。

 

 だがその日、行われたレースは純粋な才能と暴力によって蹂躙された。

 

 後方に控えた漆黒のバ体は終盤に入るのと同時に加速を始め、ぐんぐん前へと向かって加速し続ける。それを止めようと、それを抑え込もうとする姿もあった。だがその圧倒的な末脚を相手に努力をするだけ無駄だった。

 

 多少進路が妨害されようとも関係なくすり抜けるように前に出た黒毛は一瞬で先頭に降り立ち、2番手に圧倒的な差を付けてゴールラインを切った。

 

 その距離、8バ身。

 

 闘争心を煽られ、自覚し、しかし未だに己の才能に無頓着な怪物は無自覚ながら自分の力を見せつけ圧倒する事を選んだ。

 

 この日、日本は英雄の名を知った。

 

 ―――という話は割と真面目にどうでもいい。

 

 そもそもディープインパクトが圧勝するのは規定路線だし強い勝ち方をした所で“ふーん? まあ、知ってたし……”で済む話だ。そもそもウマッターで日頃から奴の可愛さはアピールしている。日本競バの民はそのギャップに脳破壊されてくれ。

 

 ディープインパクトが日本人の脳味噌を粉砕してから始まる夏。

 

 それはウマ娘にとって特別な時期だ。

 

 何故なら、

 

「―――海だぁー!」

 

「海だおらっしゃあ―――!!」

 

 夏は、大きく飛躍するのに必須の時期だからだ。

 

 長く揺られていたバスからゴルシ共々飛び出し、砂浜へと向かって駆けだす。それを横からスズカが追い抜いて先に砂浜に到着する―――私の方が速いですよ? みたいな顔をしている辺り、単純に自分抜きで走りだしたのが本能的に許せなかった模様。

 

 まあ、許そう。海の前では些細な事だ。

 

 走りながら靴を脱ぎ捨てた俺とゴルシはそのまま砂浜で足を止める事無く、全速力で砂浜から海の方へと向かい―――そのまま海の上を走る。

 

「うおおおおお! 烈海王!! 見てるか烈海王! 俺が烈海王だぁー!」

 

「救命阿! 救命阿! うわああああ―――!!」

 

 ひとしきり海の上を全速力で走ってからそのまま海の中へと沈む。ざばーんと数秒後には砂浜に打ち上げられた所をトレーナーたちによって回収される。

 

「全く、海を見てテンションを上げるとか子供かよ……いや、子供だったわ」

 

「まあ、仕方がありませんよ。海ですから。今回は春のドリームでマックイーンが勝ってくれたおかげで良いホテルに泊まれますしね」

 

 バスから降りてきたマックイーンがドヤ顔で胸を張るのをテイオーが後ろから膝カックンで崩そうとする。

 

「テイオー!」

 

「次は負けないもんねー!」

 

「待ちなさい長距離適性B!! 微妙に勝ちきれない適性B!!」

 

「あ、言っちゃいけない事言ったな!?」

 

 バスから降りた瞬間消え去る様な全力ダッシュでマックイーンとテイオーがホテルの方へと消える。それを追う様に荷物を担いだスカーレットとウオッカがやってきて、バスの横から歩いてきましたと言わんばかりのシービーがぬるりと現れる。貴女、昨日散歩に出たっきり行方不明でしたよね。

 

 西村Tに引きずられるようにホテルに連行されつつシービーへと視線を向けると。

 

「うん、昨日から歩いてきたんだ」

 

 そっかぁ。

 

 そんな訳でスピカ、夏のビーチ合宿始まります。

 

 

 

 

 アプリでは1年目から合宿に出る事は出来なかったが、アプリではないこの世界においてトレセン学園が保有するビーチでの合宿はある程度の実績を持つトレーナーか、或いはチームが金を出す事で許可されるものとなっている。

 

 まあ、スピカはざっと見て実績しか作ってないウマ娘しか所属していないので、当然断れる筈もない。そういう訳で幻の1年目の合宿イベントがここに発生している。

 

 チェックインを済ませてトレセン学園指定の水着に着替えたら早速砂浜に出る。トレセン学園が管理している事もあり、パラソルやビーチチェアは置いてあっても全て関係者用のものであって、一般客は一切存在していない。

 

 その為、砂浜や海を自由に使ってトレーニングを行う事が出来る。水着になってホテルを出次第、俺とゴルシは再び海に突撃して砂浜に打ち上げられるのを三度ほど楽しんでからトレーナーの前へと戻ってくる。

 

「楽しかった?」

 

「ああ!」

 

「全力で満喫したって顔してるなこいつら……」

 

 一通り海を満喫した所で沖野Tと西村Tの前で膝を抱えて体育座りをする。直ぐ横にテイオーとマックイーン、スぺにスズカと集まる。冬のドリームシリーズへと向けての調整というものも存在する為、彼女達もトレーナーの真面目な話を聞く必要がある。

 

「そんじゃあウィンタードリームトロフィー参加者たちは何時も通りの合宿トレーニングって形になるけど……注意事項が1つ。理事長から来年からはドリームシリーズもレース数を増やすって事で色々と走れるレースが増える。便宜上、チャンピオンズミーティングって名称になっているらしいから各自スマホに送ったデータを一度確認しておいてくれ」

 

 クリオグリゲー……始まるか……!

 

 この世界もついにチャンミ育成に侵食されてしまった。もうおしまいだよ……。

 

 そんな絶望感を表情に見せる事無く浸っているとさて、と西村Tが言葉を続ける。

 

「年末には朝日杯FSとホープフルステークスが待っている。フィアーは()()()()()()()()なんだよね?」

 

「うむ」

 

 ぶっちゃけ、現時点で皐月賞でディープインパクトとぶつかった場合、絶対に負けるだろうと思っている。ダービーも割と怪しい。だからその前に勝てるであろうG1に出て勝つぞって話だ。メイクデビューを走った所で大した疲労もなかったし、この調子なら朝日杯FSからホープフルステークスへの連戦コースを通っても別に問題はないだろう。

 

 メイクラでも良くやったし。何時もやってたし。良く考えなくても狂ってるなアレ。

 

「ならディープインパクトと戦う上で絶対に克服しなくてはいけない点、そして伸ばさなきゃいけない能力があるからその説明をしよう」

 

「うす」

 

 膝を抱えてスピカ一同、西村Tの話に耳を傾ける。

 

「まずフィアー、君の最大武器はその領域のコントロール能力と強度だけじゃない。レースのコントロール能力、プランニング、レースを自分の思った通りに動かして相手を妨害する能力が凄く高い。これはつまり他人よりもずば抜けた戦略眼を備えているという事になるんだ」

 

 褒められたぞぉ、やったぁ。

 

「ネイチャだぁ」

 

「テイオーさんはドリームの時に真っ先に威圧叩きつけられてますもんね」

 

「偶にカイチョーと一緒に叩きつけてくるの死ぬほどしんどいから止めて欲しいんだよね、アレ。デバフ弾いても弾かなくてもどっちでもいい様にレースコントロールしてるから滅茶苦茶めんどくさいし」

 

「……と、概ね被害者からはこんな意見が出てくる。あまりやれているウマ娘がいない様に、レースをコントロールする能力は希少なんだ。それにはずば抜けた集中力と計算高さ、そしてレース中に自分の感情をコントロールできる冷徹さが必要なんだけど……フィアーは本質的に、どことなく俯瞰して物事を見てるよね?」

 

 頷く。まあ、1度死んでいる結果身についた技能みたいなものだ。自分の心と体をカットしてコントロールする技術。魂が、心が肉体を離れていた結果だろうと思っている。

 

「次にパワーだ。フィアー、君は凄くパワーのあるウマ娘だ。それこそディープインパクトでも君ほどのパワーを持てないだろうね。ただその力の大半が大地を蹴る時に無駄に消費されている。さっき砂浜を走る時砂がたくさん飛んでいたよね? それだけ無駄に力が逃げてるって事なんだ」

 

 口を半開きにしてよだれを垂らす様な表情で首を傾げる。

 

 それ見て沖野Tが頷いた。

 

「西村、三行」

 

「合宿中に走り方改善ッ!」

 

「合宿開始ッ!!!」

 

 そんな訳で、水着美少女がきゃっきゃうふふふオラァする季節がやって来た。




クリムゾンフィアー
 転生してから初の海でテンションが上がった

スーパークリーク
 フィアに自分がいない間のチワワの世話を頼まれた

ディープインパクト
 ばぶぅ
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