転生赤毛バは凱旋門の夢を見る   作:てんぞー

16 / 113
15話 賢さG

 ぷかぁー。

 

「うわ、完全に力尽きてる……」

 

「いや、あのしごきは仕方がないだろ……」

 

 スカーレットとウオッカがヒイロばりの水死体のように浮かんでいる俺の姿にビビっている。本日のトレーニングは体の調子を考えて早めに終わった分、凝縮されたものがあって物凄い疲れた。普通1年目にここまでハードワークやらせるもんじゃねぇだろ、とは思うが体が頑丈だからその分詰め込めるらしい。

 

 ひんひん。俺は泣いた。鬼畜トレーナー西村の本気っぷりに泣いた。あの男マジでトレーニングの間は人格変わったってレベルで容赦しねぇ。

 

 辛いには辛いのだが……西村Tはちゃんと何故トレーニングするのか、どうしてこういう内容なのか、どういう結果に繋がるのかというのを全部説明してくれる。お陰で自分がやっている事に間違いはないと思える。

 

 例えば砂浜のダッシュ。俺は元々野良レース、つまりはストリートレースを良く走っていた影響で力の出し方が他のウマ娘とは結構違う。芝とアスファルトでは環境が違いすぎる。ダートにはダートの、芝には芝の走り方があるように俺はアスファルトに適応した走り方をしている。

 

 それを修正する為に砂の上で力の逃し方を確認しながら何度もダッシュさせられている。

 

 またウマ娘のレースを決めるのは最終的にトップスピードの差だ。ディープインパクトと比べると俺のトップスピードは低いらしい。その代わりにパワーが圧倒的に勝っている。その差を埋める為のスピードを伸ばすトレーニングとパワーをコントロールするトレーニング。

 

 西村Tが教えてくれる他、そういう足の動きの先生として最適なのはテイオーなので、何度も併走をしながら砂に沈められている。実際テイオーステップはコピーできなくても走り方の切り替え方や距離適性の都合上、テイオーの走りは見本として最上級のものがあった。

 

 そんな訳で、マイボディは完全に疲れ切っていた。疲労と回復の時間さえも把握されている為、どれだけ休めばいいのかも理解されている。その上で本日は残りを休みの時間とされた以上、それなりに疲労が蓄積されているという事なのだろう。

 

 だから体を労う様にぷかぁ、と海に浮かんでいた。直ぐ近くの砂浜では沖野Tがゴルシによって埋められており、スズカとシービーは砂浜で楽しそうにダッシュしている。テイオーとマックイーンはどうやら砂の城を作っているようだ。

 

 自由時間はトレセン学園の水着に縛られる必要もなく、残りはフリータイムという事もあって皆思い思いの水着姿でビーチを楽しんでいる。

 

 俺も、実はこの合宿に備えておニューの水着を用意してたりする。

 

 黒の上に赤を重ねた二重構造に見えるタイプの水着でホルターネック型、つまりは首から吊り下げるタイプのビキニだ。

 

 自分を着飾るのはアバターやキャラのDLCで衣装を変えるのと同じような感覚で。自キャラはなるべく好みの性癖を反映しておきたいというのは全ゲーマー共通の認識だと思う。俺が俺自身を磨いて着飾るのも似たような感じが近い。

 

 しかし。

 

「まるで遊ぶ気にならねぇ……」

 

「まあ、とてもじゃないけど遊べるだけの体力は残ってなさそうよね」

 

「ほら、流されちまうぜー」

 

「ぷえー」

 

 波に攫われそうになった俺の姿をウオッカが掴んで岸の近くまで引っ張ってくる。お前、スカーレットとさえぶつからなければ滅茶苦茶優しい子だよな。

 

「あんまり派手に遊ぶ気力もないしテイオーたちに混ざって万里の長城でも作ろうかなぁ」

 

「そこは城じゃないのかよ」

 

 ほら、因子元の呂布さんに忖度しないといけないから……。

 

 そんな事を考えながらドリンクでも貰いに行こうかと浜辺へと上がると、此方へと向かって手を振る白衣姿が見えた。当然、知っている顔だ。地平線の向こう側からゆっさゆっさ独特のリズム感で向かってくる白衣姿に浜辺でもその恰好かあ、と思っていたが。

 

 白衣姿―――アグネスタキオンは決して、歩いても走ってもいなかった。

 

 タキオンが乗っている者を見た瞬間、俺は神速の極意を以ってスカーレットの背面に回り込み、スカーレットの抱いている幻想を守るために手刀を首の裏に叩き込んで一瞬で意識を奪った。結果だけを認識したウオッカがいきなり倒れ込むスカーレットを支える。

 

「うおおお!? おい、一体何やってんだよ先輩!?」

 

「ヒュー、恐ろしく速い手刀。アタシでなきゃ見逃しちゃうね」

 

 ゴルシがしっかりとネタ振りをする中、俺はしっかりと視線を地平線のタキオンへと向けていた。彼女は地に足を付けていなかった―――そう、乗っている。彼女は乗っているのだ。

 

 彼女のトレーナーに。

 

 モルモットトレーナー、通称モルトレ。トレセン学園名物光る男。気が付けば光ってるから停電しても助かる男。取り敢えず光ってみた男。光ってる姿に慣れて誰にも突っ込まれなくなった男、モルトレ。タキオンに対する感情が限界化した結果限界モルモット化した狂人トレーナー。

 

 そんなモルトレにタキオンは肩車されていた。しかも海パン姿で顔を発光させて。もうここまで来ればお分かりですね?

 

「アレ絶対徹夜のし過ぎで賢さG化してるな……」

 

 目の下に隈を浮かべたタキオンと顔を発光させたモルトレが手を振りながらやってくる。正気に戻ったら自殺しそうだなぁ、とか思っているとついにタキオン組がスピカに合流してしまった。ばばん、とタキオンはポーズをとるように手を広げる。

 

「やあ! フィア! 見てごらん! モルカーだよ!」

 

「Pui pui」

 

 良い顔で当然のようにモルトレが鳴いた。その瞳は完全に正気を失っていた。このモルトレは心の底から自分がモルカーだと思い込んでいる。タキオンを肩車しているのもドライブのつもりなのだろう。

 

「pui pui……」

 

 鳴いた。俺達は揃ってぷいぷいと鳴いた。賢さGの惨状が余りにも酷過ぎた。

 

「いやあ、苦労したよ今回の薬は……はい! 右折!」

 

 モルトレの右目だけがフラッシュした。そのまま右折したモルトレとタキオンはぷいぷい声を鳴らしながら砂浜から去って行った。

 

 俺達はぷいぷい鳴きながらその背中を見送った。それ以外の選択肢が俺達にはなかった。というか今のタキオンに全力で関わりたくなかった。

 

「アレ……絶対に5徹とかそういう領域じゃないでしょ」

 

「す、スカーレットの奴が起きてなくて良かったぁ……」

 

「7徹ぐらい行ってるんじゃないかなあ、アレ」

 

 賢さGが限界化しているチーム・モルカーはそのままカノープスの練習場所まで突っ込んで行くらしい。本能的にリギルを回避する辺り実はまだ僅かながら理性が残っているのかもしれない。遠くからぷいぷいと鳴くモルトレとカノープスの声が聞こえてくる。

 

 あぁ……またモルカーの犠牲者が増えて行く……。許しておくれ、ぷいぷいとしか鳴けない俺達の事を。

 

 静かにモルショックを受ける他のチームの冥福を祈り、俺はビーチサイドに置いておいた自分のスマホを手に取り、電話をかける。

 

「もしもしカッフェ? Dr.タキオン回収してくれない?」

 

『自分で賢さGの処理してください』

 

 Pui Puiモルカー、2期絶賛放送中……!




クリムゾンフィアー
 当然放置した。浜辺はモルカーショックに沈んで行った。

ディープインパクト
 合宿所へと来る荷物の中に新品の哺乳瓶が

オトモダチ
 最終的に賢さGの回収業務を実行した
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。