転生赤毛バは凱旋門の夢を見る   作:てんぞー

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16話 転換期

「もしもし? マミー? うん、俺。元気だよ。合宿中はメールで済ませちゃってごめん。流石にチームメイトの居る所で電話するのは恥ずかしくてさ」

 

「うん……うん。スピカの皆は良い連中ばかりだよ。ちょっとエキセントリックな所もあるけど、皆夢に向かって本気で走ってる娘達ばかりだからさ、ウマが合うというのかなぁ。まあ、なんというか居心地の良い場所だよ。俺も割とエキセントリックな方だし」

 

「そういやマミー、新バ戦の獲得賞金8割ぐらいマミーの口座にぶち込んだはずなのに俺の口座に戻ってるのどういう事? 口座を確認したら増えててびっくりしたわ。え、いや、家に金入れるのは割と常識じゃね? いや、するでしょ」

 

「転生前も含めたら……ってさあ、あんま好きじゃないんだよな。今は今、昔は昔。今を生きてるのに転生前の事を考慮して何が楽しいのって話よ。俺はマミーのプリチーな一人娘だからさ。……うん、解ってるって」

 

「マミー。今のルームメイトなんだけどアイツすげーんだわ。片っ端から技術を吸収して化け物みたいに成長するんだ。アイツが最強って呼ばれるようになるのにそう時間は必要ないだろうぜ」

 

「うん……うん、楽しみにしてる。一緒に走ったらたぶん負けるだろうけど、最後に勝つのは俺だから。勝つためにまずは負け続けてみるよ。たぶんぶつかるのは皐月賞になると思う。うん……俺の次走は朝日杯。見に来る? マジで? 沖野トレーナーに言っておくわ」

 

「マミー、俺偶に思うんだよ。最高のライバル用意して最高のレースを走って、走って、走り切って……そうやって出せるものを全て出し尽くして燃え尽きたらきっと―――最後にはちゃんと成仏できるんじゃないかな、って」

 

 

 

 

 タキオンモルカー事件。邪神復活事件。突発性カイチョーチャレンジ。理事長迷子事件。月刊ターフ砂埋め処刑祭り。夏の合宿は数多くの事件とトラウマを生み出しながら終わった。

 

 そして夏が終わればついに秋シーズンが始まる。合宿が終わり、スプリンターズステークスを超えれば季節はもう秋になる。天皇賞秋、菊花賞、ジャパンカップ、数多くのドラマを生み出すレースと共に秋というシーズンはやってくる。

 

 そして秋はそれ以外にも楽しい意味をトレセン学園に運んでくる。

 

 そう、聖蹄祭である。

 

「流石一般人が見学に来れるだけあって人が多いなぁ」

 

「う、うん、多いです、ね」

 

 聖蹄祭はウマ娘と一般入場客との交流イベントでもある。流石にある程度の入場制限があるから完全に無制限に人が入ってくるという訳ではないが、それでも普段トレセン学園に入ってくる事の出来ない人たちがトレセン学園の敷地内に入り、自由に見て回る事が出来るのは非常に貴重な機会だ。

 

 別名、秋のファン感謝祭である。

 

 俺とディープインパクトはまだジュニア期、トゥインクルに上がってメイクデビューを勝ち抜いた程度の新バだ。その為スピカやリギルでのイベントを免除され、2人で聖蹄祭を楽しめる事になった。俺もディープインパクトもどちらも軽い仮装を楽しんでおり、俺は吸血鬼を、ディープインパクトは魔女の恰好に扮している。

 

 ここら辺のコスプレ道具、毎年利用者がいるのかトレセン学園の方で普通にレンタルしてた。

 

 パンプキンタルトを片手に、2人で並んで敷地内を歩く。

 

「最近はずっと忙しかったからこうやってゆっくり遊びに回る時間もなかったな」

 

「と、特にフィアさんは……朝日杯とホープフルの準備で忙しい……ですもんね」

 

「俺もディーともっと遊びたいけどもっと自分の事追い込みたいしな」

 

 むしゃむしゃとタルトをほおばる。ウマ娘になったせいか、甘いものには目がなくなった気がする。気づけば栗羊羹まるごと一本購買部で買ってきて齧ってたりするし。お金に余裕があると余計な買い物をしちゃう所はちょっと反省。

 

「すいません、クリムゾンフィアーさん……ですよね? 写真良いですか?」

 

 ディープインパクトと歩いていると、知らないヒトカスが話しかけてきた。無言で中指を突き立てると、勢いよく頭を下げられた。

 

「ありがとうございます!! 尊い時間を邪魔した罪で出頭してきます!!」

 

 ヒトカスはそういうと急いで門の外へと向かって走って行った。俺とディープインパクトは無言で唐突に現れた狂人の姿を見送った。数秒後、互いに顔を見合わせて今の事をなかったことにして再び歩き出した。

 

「あ、お、オグリ先輩」

 

「また出禁喰らってるなあの人」

 

 屋台で何かを買おうとして屋台のウマ娘から“No Oguri”ポスターを指さされている。

 

「こう見ると結構食べ物系が多いな」

 

「う、ウマ娘は良くた、食べますから」

 

「それもあるか」

 

 食べ物系って意外とやりやすいからなあ。それにファンとの交流のしやすさもある。確か今年のリギルは執事喫茶で、スピカはSwitchをプレハブ小屋に設置してSplatoon3大会だっけ。完全にファンとの交流という概念を舐め切ってるなスピカ。

 

 ふらふらーと当てもなく二人で聖蹄祭を楽しむ。

 

 パンプキンタルトを食べて、今度はビターグラッセの作ったうどん屋台に挑戦してみたり。ハッピーミークが趣味全開のカメさんレースをしているもんだからそれを鑑賞したり、リギルの執事喫茶を冷かしてみたりした。

 

 スピカで過ごしている騒がしい日々とは別の、穏やかな時間を過ごしていた。

 

 一通り歩いた所で休む為にベンチに座る。買って来たハロウィン用はちみーを手に人の流れを見ながらずぞぞぞぞと啜る。

 

「うーん、固め濃い目やばいな……テイオーこれを何時も飲んでるのか」

 

「ちょ、ちょっと飲んでみても良い……?」

 

「どうぞどうぞ」

 

 咥えていたストローをディープインパクトへと向ければ、それをあんむっと咥える。ちゅーちゅーと飲もうとするも失敗し、軽くずぞぞぞとして失敗し、ずごごごという音と共に漸くはちみーを飲み始める。

 

「……肺活トレーニングかなぁ」

 

「テイオーは日常的に糖尿病と引き換えに肺活トレーニングしてるのかぁ……すげぇなぁ……」

 

 テイオーが糖尿病になる日は近い。これはそれぐらいヤバイ。今まで飲まなかったが、もう二度と飲む気にもなれない。そういうレベルのヤバイブツだった。

 

「ふ、フィアさんこっち飲む?」

 

「飲む飲む」

 

 ディープインパクトの差し出してくるストローに噛みつき、薄めの方を飲んでみる……やっぱり、こっちのが数倍飲みやすい。ぷはぁ、と声を零しながら笑い声を零す。

 

「もうそろそろ年末だなぁ」

 

「そ、そうですね」

 

 はぁ、と息を吐いて人混みを眺める。遠巻きに此方を見る人達もいるが、話しかけてこない辺りは昼の狂人と違ってマナーを弁えているのだろう。偶に中指を突き立ててファンサしてやるのはまあ、単純に俺の気分の話だ。

 

「も、もうすぐG1ですね」

 

「そうだなぁ」

 

 年末が近づくに連れ、大分冷え込んできた。後1か月もすれば吐く息も白くなるだろう。そんな寒い季節に俺は朝日杯FSからホープフルステークスという地獄みたいなローテーションを走る。

 

 10日だ。

 

 朝日杯FSからホープフルステークスまでの時間は、たったの10日だ。

 

 それでも俺は走る。それだけの価値と意味が、レースにあるからだ。

 

「フィアさん」

 

「おう」

 

 ディープインパクトの声は震えていない。

 

「皐月賞、楽しみ……ですね」

 

「おう、楽しみだな」

 

 他は前座だ、自分だけを見ろ。

 

 ジュニア期、1年目の暮れ。これまでは新バとしか呼べなかった俺達は1年間のトレーニングを通じて、少しずつ成長していた。

 

 少しずつ……少しずつ、少女から成長して行く俺達は今。

 

 今年の成果を証明する時期にあった。

 

 ディープインパクトはその胸を焦がす衝動をリギルに入った事で自覚するようになり、俺は自らの欲望へと向けて身を削りだした。

 

 俺達のこの関係は、変わらないようで―――変わりつつあった。

 

 G1の冬が来る。




クリムゾンフィアー
 テイオーに糖類カット系の食品を幾つか送った

ディープインパクト
 早く走りたい

モブ狂人
 私は推しCPの会話を邪魔した罪を犯したので逮捕してください

警察
 まあ……逮捕されたいなら……
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