「結局よ、西村トレーナー」
「うん」
「ナヒーダの最適聖遺物編成って熟知x3なのか? それとも熟知草バフ会心なのか? どっちなんだアレ?」
控室のラップトップを前に、俺は腕を組んで首を捻っている。俺の言葉に西村Tは腕を組みながら唸る。
「……難しい話だと思うよフィアー。ナヒーダはメインアタッカーでもサブアタッカーでも運用できるキャラだ。草雷編成となると前に出すのは八重神子辺りだろうから熟知で良いとは思う。だけど水編成となるとナヒーダがメインだから」
「バフが必要? まあ、熟知盛りだとバフ枠足りないのはキツイよな」
俺の言葉にレースのスタッフが頷く。
「火力的にメインを張るならバフ欲しいですよね。でも結局は熟知盛りにSOP厳選でいいんじゃないでしょうか。付け替えるのは面倒ですし、天賦で会心会心ダメが上がるならもうそれで良いと思います」
スタッフの言葉に俺と西村Tは頷いた。原神Impact……面白いけど武器ガチャ沼なのはマジで止めて欲しい。朝日杯で勝った賞金はナヒーダ完凸とモチーフ武器の完凸に回して残りは家かなぁ、という感じで。いや、マミーの事なのでまた口座に送り返してきそうなんだけど。
親孝行したいんだけどなぁ。
まあ、えっか。物にして実家に送れば拒否出来んやろ。
「あぁ、そうでした。忘れそうでしたがパドックの時間が近づいてきたので、そろそろ勝負服の方にお着換えください」
「一番大事な事を言い忘れるなヒトカス」
サムズアップで去って行くスタッフほんといい根性してるなアイツ。そう思いながら姿を見送ると、西村Tも立ち上がった。
「それじゃあ僕も行くね。本当ならギリギリまで残るかどうか考えたけど……フィアーは最後まで付き添いが必要ってメンタルでもなさそうだしね」
「まあな」
割と出走直前のウマ娘はナーバスになりやすいらしい。俺は中身が中身だけに、精神性が異様だ。普段であれば全く解からない事だろうが、追い詰められるような状況であれ常に普段通りの精神性で過ごせる。
―――死を見聞きして、その一部だったのだ。精神力に関しては人類という種の頂点にあるだろうと自負している。
だから根本的な部分で俺にプレッシャーというものは存在しない。存在するのは心地よい高揚感と湧き上がる闘争心だけだ。
そう、闘争心。
今の俺の心は、闘争心で満たされていた。
―――教令院ぶっ壊してぇ……!
「おーおーおー、調子良さそうじゃねぇか!」
「マイネルレコルトね、今日は調子良さそうだよね。フィアみたいな先行策のウマ娘だからどうぶつかるのかボクは楽しみだなぁ」
「ストーミーカフェさんも走りそうな感じがしますね。良い感じに落ち着いてますよ!」
スピカの面々が集まってパドックの様子を眺めている。楽しそうにクリムゾンフィアーがパドックに出てくるまでの時間を、他のウマ娘達が上がってくる姿を見て待っている。そんな担当ウマ娘達の姿を見て軽く沖野は楽し気な声を零す。
「ま、G1だからな。マイネルレコルト、ストーミーカフェ、ペールギュント……どれもG2、G3を勝っているウマ娘だ。うちのフィアは未だにメイクデビューしか出走してないから、レース勘でいえば劣る所があるかもしれないかもな」
自分で言っておいて、それはなさそうだな……と考えた。クリムゾンフィアーは入学前から野良レースで経験を積んでいる。名家と比べれば環境やトレーニングの質に差は出てくるものの、レースの経験だけは劣らないだろう。それに彼女の精神性は、こういう大舞台にこそ向いている。
「当然だけどG1の舞台だ、出てくるウマ娘で弱い、遅いなんて事はあり得ない。誰が勝っても負けてもおかしくはないんだぜ?」
「とか言いつつもトレーナーはフィアさんが勝つと信じてらっしゃるのでしょう?」
「おう」
当然、うちのウマ娘が勝つ。それを信じるのはトレーナーとして当然の事でしかない。それにそれは信じているのではなく、単純な事実として認識しているだけだ。
「アイツは既にクラシックでもある程度戦える程度には鍛えられてる。元々あった勝負強さに押し負けない度胸、そして既に
ただ、ディープインパクトという対抗バさえいなければ一強の時代だっただろうと思う。
あのウマ娘は出来が違う。恐らくは入学前から一流のトレーナーを呼んでトレーニングを積み重ねてきているのだろう、入学時点である程度体が出来上がっていた。その上で天性の資質と才能を揃えている。
ある意味、既に完成された姿が見えているウマ娘だ。後はその究極形に向かって磨き上げれば良いだけだ。そういう育てられ方と下準備が施されているウマ娘だ。何がどう育つかが見えてこないクリムゾンフィアーの対極にある様なウマ娘だ。
「……まあ、アイツがどれだけやれるかというのは今日見えてくる。ライバルとの勝負も、この先も。まずは目の前のレースに勝ってから……っと、出てきたな」
パドックにクリムゾンフィアーの姿が上がってくる。スカーレットとウオッカが勝負服に袖を通した先輩の姿に待望の視線を送る……彼女達の出走は来年だ。きっと同じように勝負服に袖を通して立つ姿を幻視しているのだろう。
『本日3番人気、8枠16番のクリムゾンフィアーです』
『メイクデビュー以降は一切レースに出ていませんが、スピカ所属という事の期待を込めてこの人気でしょう。私の一押しのウマ娘です』
パドックに上がって来たクリムゾンフィアーの姿でまず目に映るのはその黒と赤の色合いだろう。
その象徴とも言える赤毛が映える黒をベースとした勝負服はインナーが白いノースリーブのブラウスに裾が二股に分かれている黒いコート、そしてチェック柄のスカート。足元は茶色の編み上げブーツに、タイツを履いている。
コートの内側は髪色のように赤く、首元には金色の鎖が垂れさがるチョーカーを装着している。
カジュアルをベースとしたスタイリッシュな勝負服だった。動きやすさ、そして見栄えの良さを重視したクリムゾンフィアーらしいと言えばらしい勝負服。
黒に赤の色合いはまるで彼女自身が一本の彼岸花を思わせるようであるのは、彼女の領域に触れた事のある者の感想なのかもしれない。
パドックに立ち、大胆不敵に、或いは自信満々に自分へと視線を集中させ、たっぷりと数秒間反応する事無く立ち尽くす。自分へと視線を集中させてから中指を突き出す。挑発するように、悪役のロールを楽しむように。
『担当は西村トレーナー、見事な仕上がり具合ですね』
『普段からウマッターでグラブルの救援を流してばかりとは思えない仕上がりですね、これは期待出来ますよ』
あの実況だいぶ頭にキてるな。そう思いながらも何時も通りのクリムゾンフィアーの様子に息を吐く。
「あの様子なら大丈夫そうだな」
「だけど今日は16人仕立てのレースだよ。この大人数では今まで走った事がない事だけが不安かなぁ」
「ま、走りだせば結果は解るだろ」
ゴルシの言葉に頷く。
泣いても笑っても結果は変わりはしない。
G1,朝日杯フューチュリティステークスが、始まる。
クリムゾンフィアー
赤は彼岸花。黒はあの世。金は現世。カジュアルコーデは今を象徴してる。
スピカ
まあ、勝つやろなという確信がある
マミー
お手製の応援グッズ持参してきた