転生赤毛バは凱旋門の夢を見る   作:てんぞー

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2話 三女神を信じるな

「ぶ―――ぶーっはっはっはっは! に、似合わねぇ! お、お嬢様してる! 滅茶苦茶お嬢様な恰好だわ、ぎゃっはっはっはっは!」

 

 バンダナを頭につけたヒトカスが腹を抱えながら爆笑している。

 

「ひひひひ、ひっひっひ、スカート、お前がスカートって……ぶははは、くくく、やっぱ似合わねぇ! ぎゃっはっはっはっはは!」

 

 腕を組みながら静かに首を傾げる。もしやこいつ、死にたいのでは? 周りに視線を向ければ何事かと視線を向けるウマ娘たちがバンダナと俺を見ているが、それに威嚇するように中指を突き立てて追い返す。流石トレセン学園のお嬢様たちだ、少し威嚇すれば直ぐに逃げて行く。

 

 それはそれとして、目の前のヒトカスだ。どうすっか。殺すか。とりあえず軽い蹴りを足に叩き込むとそのまま崩れ落ちるが、笑いのツボに入っているのか腹を抱えたまま笑っている。その姿に呆れて溜息を吐く。

 

「全く、お前だろ俺をここに入学するように手配をしたのは……」

 

 そう言ってげらげら笑っているバンダナに視線が集まる。いや、別にこいつに視線が集まるのは良い。トレセン学園の校門で警備を担当しているばんえいバが首を傾げながら睨んでくるだけだし、そこに俺の過失はない。

 

 問題はこのヒトカスが、俺をトレセン学園へと入学させる為の手回しをした事実だ。

 

 ―――このバンダナのヒトカスとの出会いは数年前にまで遡る。

 

 転生者である俺は他のウマカス共と比べればスタート地点が違う。無論、知能指数という意味でだ。当然ながら有象無象よりも遥かに人生経験豊富な身では小学校の勉強なんて退屈なもので、他の学生が勉強に充てる時間を自由に過ごしていた。

 

 その時に気づいたのが走る事の楽しさであり、本能に従う事の面白さだった。

 

 そう、走る事は楽しい。その事実に気づいてしまったのだ。

 

 それからすっかりと走る事に魅了された自分が野良レースを探し、走り出す事に時間はそうかからなかった。学校や行事で用意されるレースはぬるかった。ぬる過ぎた。おてて繋いで皆でゴールみたいなお遊戯会レベルのレースでは満足できない体だったのだ。

 

 本気を出させる為に中指突き立てたりヒトカスウマカス問わず煽っていたら知らないうちに不良のレッテルを張られ、学校でも友人もなくなっていた。

 

 そして始まる、どっぷりと浸かる野良レースライフ。

 

 野良レースは最高だった。何と言ってもルール無用で、ラフプレーも煽りも許可されていた。その上で偶に領域を使う様な奴まで出てくるから非常に見ごたえがあった。

 

 何よりも学校にいるお遊戯会のレースとは違い、ここに集まる様な連中は大体本能に身を任せて破滅的な刹那を求める連中ばかりだった。本気で走り、殺す気で抜き去り、そして勝利に酔う。それを良しとする連中ばかりが集まるのだから、楽しいに決まっている。

 

 バンダナと出会ったのはそんな野良レースに初めて参加したばかりの頃だった。本名を知らなければ、普段は何をしているのかさえも知らない。だが妙にウマが合った。

 

 どこに行けば野良レースに参加できるのか、そういう知識がなかった俺にレースを提供し、基本的な知識や道具の揃え方を教えてくれたのがこのヒトカスだった。本能をむき出しにして本気で走るウマ娘を見るのが好きだという典型的なカスで、頼れる悪友でもあった。

 

 だけどこれまでカスである事以外の個人情報を晒さなかった男が、いきなりトレセン学園に入学する為のコネを引っ張ってきたのだ、そりゃあ誰だってビビるだろう。

 

「ひひひひ……はあ、笑った笑った。まだ腹が痛ぇわ、これだけでも見に来た価値はあるわな」

 

「お前さあ……いや、俺も似合わないのは自覚してるけどよ」

 

 トレセン学園の制服はどっちかというと可愛い系とかに似合うタイプの服装だ。俺はどっちかというもっとシャープな格好の方が似合うと思っている。そりゃあスカートも下着も女性用ウマ用ので慣れているが、だからと言って似合うかどうかは別だ。

 

 まだ小さく笑うバンダナは呼吸を落ち着かせようと軽く胸を叩き、咳をしてから呼吸を落ち着かせる。

 

「ま、慣れろ。これから末永く付き合って行く制服になるんだからな」

 

「いや、そうだけどよ」

 

 頭を掻く。

 

「お前は……いや、いいや。今更だわ」

 

「そうそう、俺の事なんて気にするな。お前のファン1号ってだけだから」

 

 こいつ、本当にどうやってこんなコネを持ってきたのか。いきなりトレセン学園のスカウトマンが家を訪ねて来た時は何事かと思ったわ。更にスカウトマンがバンダナに紹介されたと言った時はもっとビビった。

 

 ただ、まあ、そんな事もあり俺は条件付きでトレセン学園に入学する事が出来た。今、こうやって制服に袖を通して校門の前に立つまで実感というものはまるでなかったが。

 

 ……それとも、三女神からすればこれは予定調和になるのだろうか?

 

 転生ウマ娘がトレセン学園に通う―――まあまあ、テンプレだわな。

 

 今の所神様やそういう類の存在とは出会った記憶は何もない。或いは俺が忘れているだけなのかもしれない。ただどっちにしろ自分の行動が何らかの見えない力によって動かされているという可能性はありえなくもない。そうじゃなければトレセン学園なんて入学できたとは思えないし。

 

 何にせよ、

 

「世話になったな、ヒトカス」

 

「おう、世話をしたわウマカス。精々頑張れ、稼がせて貰うからよ」

 

 感謝と別れを告げ、バンダナは去って行った。ウマホで連絡は取り合えるとはいえ、会う事はしばらくはないだろう。そこにちょっとした寂しさは感じるものの、同時に自分がこれまでいた狭い世界から出て行く感じはした。

 

 軽く髪を掻き乱し、視線をバンダナの居た方角から外して校門へと向けた。

 

「ま、何にせよ入学か。確か理事長に挨拶しなくちゃならないんだっけな」

 

 めんどくせぇなあ、と思いながらトレセン学園の校門を抜けた。

 

 

 

 

「えーと、栗東栗東……ここか」

 

 入学式もまだ先の話ながら、今日は入寮と手続きの為に来ている。その為、まずは自分の部屋と送った荷物の確認をしなくてはならない。あらかじめ送られた案内では入寮するのは栗東寮だと伝えられていた為、この広大すぎるトレセン学園の敷地を数十分歩き回って漸く見つけ出した。

 

「無駄に広いんだよこの学園」

 

 美浦に栗東という寮を構え、ウマ娘の為の最高の環境を用意し、その上で学園としての主要施設も全て備えた超大型学園―――トレセン学園。

 

 いくら何でもやりすぎだろうというレベルで設備が揃った結果、あほみたいな広さがこの学園にはある。まさか寮一つ見つけるのにこんなに苦労するとは思いもしなかったが。家から送った荷物は既に寮に運び込まれていると聞いている。だからおっかなびっくり寮の中に入り、辺りを見渡す。

 

 広々としたエントランスには何人かのウマ娘の姿が見える。その内1人が此方を見つけあ、と声を零す。

 

「もしかして君がクリムゾンフィアーさんかな?」

 

 テレビで見た事のあるウマ娘の姿に、頷きを返した。短い黒髪のウマ娘は俺同様にトレセン学園の制服を着ていることがその身分を証明している。

 

「うっす、今日から栗東に入寮する事になるクリムゾンフィアーっす」

 

 ぺこりと軽く頭を下げるとやっぱり、と返される。軽く胸に手を当て、解りやすいように身振りを取るのは自分が見られているという事を意識しているから。或いは、自分の意識させる為のポーズだ。それが無意識に出てくるのはそう言う環境に慣れているから。

 

 はきはきとした聞きやすい声で目の前のウマ娘が喋ってくる。

 

「初めましてクリムゾンフィアーさん。私はフジキセキ、このトレセン学園栗東寮で寮母を務めさせてもらってるよ。赤毛の子が入寮してくると聞いて楽しみにしていたんだ」

 

「どもっす。フジキセキさんにそう言われると光栄っす」

 

「そうかい? ふふふ」

 

 ごめんよ、フジキセキ。俺、野良レースの連中とアンタのレースで賭けしてたんだわ……。しっかりと儲けさせて貰っただけに妙な罪悪感が残る。

 

「それではこれが部屋の鍵で、君の荷物は既に部屋に運び込まれているよ。君の部屋は3階の305号室、階段を上がれば直ぐに見える筈だけど案内は必要かな?」

 

「いや、大丈夫っすわ。なんとなく解りそうだし」

 

 流石にフジキセキに案内させるのは気が引けるというか何というか。スターウマ娘の時間を俺が占領してしまうのはちょっと恐れ多いものがある。とはいえ、そんな事を気にしていないフジキセキはそうかい、と首を傾げるばかりだった。

 

「後は……そうそう、先に君の同室の子が来ているよ。既に荷解きの最中だから」

 

「うっす」

 

「それじゃあ良い一日を」

 

 フジキセキから鍵を受け取り、頭をガシガシと掻く。寮での生活には同室の子がつく。部屋数が限られているのだから当然と言えば当然の話ではある。

 

 正直、少し不安のある部分だ。

 

 とはいえ、1人暮らしするだけの金なんてものはない。奨学金を頂いて通う事になったのだ、寮生活に馴染まないとならない。1度だけ心に気合を注入してから階段の方へと向かう。

 

 そのまま階段を上がって行き3階へ。廊下の先へと視線を向ければ、一番奥に305号室と書かれた扉が見えた。成程、解りやすいと思いながら扉の前まで進み、一旦足を止める。

 

「ふぅ……今更だ、今更。何を緊張してんだ……入るぜ」

 

 バカバカしい。そう呟いて鍵を入れて回し、扉を開ける。

 

「え? あ、は、ひゃい!」

 

 扉を開けるのと同時に聞こえてきたのはそんな声で、何かが飛びあがる様な足音と共にたたた、と走り回る音がした。扉を開けた向こう側、寮の部屋は思ってたよりも広かった。ベッドが二つ、2人分の机、そして棚やクローゼットと学生寮にしては結構な広さをした部屋だった。

 

 その中央でせわしなく動いている黒毛のウマ娘がいる。長い黒髪のウマ娘は両手を所在なさげにあっちこっちに動かしてはあー、と声を零して視線を此方へと向けては外してくる。

 

 一言で言えば、全力でテンパってた。

 

「ひ、あ、あ、あの、その、そ、そそ、その! こんにちは!」

 

 俺は静かに手で顔を覆った。ここまでコミュ力が壊滅的だった生物に、今までエンカウントした事がなかった。確かに喋るのが苦手な人はいる。だがここまで酷い生物が実在するとは思わなかった。

 

「あ、あぁ、こんにちは……同室の子って君の事で良いんだよな?」

 

 俺の言葉に黒毛の子はぶんぶんと頭を振ると、左右を見渡しササッと後ろへと下がった。

 

「ど、ど、どうぞ!」

 

「……お、おう」

 

 なんか、可愛く見えてきたなこいつ。

 

 ともあれ、促されるようにこれから数年間過ごすであろう部屋に入る。部屋の隅には俺が家から送った幾つかの荷物がある……と言っても着替えや私物の類でスーツケース2個分で収まっている。元々あまり洋服とかには興味のないタイプなので、余り持ち込むものが多くないのだ。

 

 その代わりと言うべきか、部屋の反対側には積み重なった大量のスーツケースなどが見える。恐らくは同室の子の荷物だろう。

 

「あ、ご、ごごご、ごめんなさい! 荷物が多くてごめんなさい! 部屋がこんなに小さいとは思わなくて……!」

 

「そっかぁ」

 

 この娘、間違いなく名門出身のお嬢様だなぁ、と俺の中で好感度が下がった瞬間だった。まあ、表面上は仲良くしてやるか……脳内で格付けを完了させた所でこのウマカスを便利なパシリに育ててやろうという計画を立ち上げ始める。そうすれば少しはここでの生活も楽になるだろう。

 

 自分の荷物が全部ちゃんと届いているのを確認してから振り返り、笑みを浮かべて手を差し出す。内心でこいつをどうやってパシリにしてやろうかと計画しつつ。

 

「これから長い付き合いになるし、挨拶しとくか。俺はクリムゾンフィアー。一般家庭出身な」

 

「は、はい! す、素敵な赤毛ですね。わ、私の黒毛とかありふれた色ですからクリムゾンフィアーさんの赤毛は羨ましいです」

 

 つんつんと両手の指を突く姿には小動物染みた可愛らしさがある。が、直ぐに慌てるように顔を持ち上げる。

 

「あ、あぁ、そ、そでした! 名前! 自己紹介するなら私の名前も言わなきゃ駄目ですよね。えへへ……」

 

 にこり、と笑って黒毛のウマ娘が名乗る。

 

「でぃ―――ディープインパクト。ディープインパクトです。宜しくお願いしますクリムゾンフィアーさん」

 

 ……?

 

「く、クリムゾンフィアーさん?」

 

 腕を組んで首を傾げる。人差し指を上げてもう一度自己紹介を頼む。

 

「……? ディープインパクトです! でぃ、ディープでもディーでも好きにど、どうぞ」

 

「そっかぁ」

 

 俺は静かに天井を見上げながら三女神を呪った。あれは特級呪物だ。今すぐ破壊しなければならないのかもしれない……恐らく奴は邪悪だ、このような仕打ちをする様な運命の女神に慈悲なんてある訳がない。心の中で聖戦を誓う。奴は敵だ。必ず滅ぼしてやる。

 

「え、えっと、クリムゾンフィアーさん……?」

 

「フィアでいいよ」

 

「わ、わあ、ありがとうございます! えへへ」

 

 俺は静かに仏の心を持ってそう伝え、静かに口から赤い花びらを吐いた。

 

「ごふっ」

 

 そのまま床に崩れ落ちる。

 

「う、うわあああ!? フィアさん!? 喀血したぁ!? え、な、ななな、なんで!? あ、これ血じゃなくて花びらだぁ……花びら!? なんで!?」

 

 床に倒れ込んだ俺の姿をディープインパクトが駆け寄って抱き上げる。混乱からその目がぐるぐると回っている様にさえ見える。そんなディープインパクトの姿を視界にとらえつつ、血の代わりに彼岸花の花びらを吐いて窓の外を見る。

 

 もう何もかもおしまいだよこれ……。




クリムゾンフィアー
 いっちょ転生オリ主ムーブすっかあ! とテンション高く入学した瞬間に現実をわからされたウマ。無事にブロリーを前にしたベジータ状態になった。

ディープインパクト
 みんな大好き英雄。自分の事をチワワだと信じているケルベロス。
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