「ほほー、立食式かあ。こういうパーティー経験がまるでないからちょっと新鮮だな」
年末年始はマミーに寂しい思いをさせないために実家で過ごす予定だったのだが、今年は活躍してしまった為に仕事が出来てしまった。
そんな訳で俺はタキシード姿でURAが開催する年末のパーティに来ている。無論、普通に女性用のドレスの貸し出しもあったが偶には男物も着てみたい気持ちが強かったからタキシードを借りた―――まあ、なんだかんだで背は高い方なのでサイズはあっていた。
ただ胸の所が割とキツイという所だけか。こういうどうでもいい所で性差を感じる。
「全く、君という奴はパーティー一つまともに出る事も出来ないのか」
「いやあ、すんません」
呆れた声で苦笑するのは我らが生徒会長、シンボリルドルフ様。青色のドレス姿はどうも着慣れている様に見える。シンボリ家のお嬢様だと考えれば実際に慣れているのだろう。
「ですが似合っていますよ、クリムゾンフィアーさんのタキシード姿」
「お、そう言われると嬉しいなあ」
そう言って褒めてくれるのは眼鏡姿のウマ娘、ゼンノロブロイ。今年の最優秀シニアウマ娘として認定されたウマ娘だ。URAは毎年、年末になると最優秀ジュニア、クラシック、そしてシニアウマ娘を他の細々としたタイトルと共に決めている。
簡単に言ってしまえばその年に誰が活躍したか、という賞だ。
最優秀シニアウマ娘にはゼンノロブロイ。
最優秀クラシックウマ娘にはキングカメハメハ。
最優秀ジュニアウマ娘にはこの俺、クリムゾンフィアーが。
カメハメハはダービーウマ娘、俺はジュニア2冠ウマ娘、そしてゼンノロブロイは今年天皇賞秋、ジャパンカップ、そして先日の有マ記念で1着を取るという化け物染みた走りを見せている。これで最優秀シニア取れないならどうすりゃあ良いんだよという戦績だ。
そういう訳で慣れないパーティーにルドルフを引率としてやって来ていた。
「所でキングカメハメハは?」
「到着するなり消えた」
「一瞬テーブルでご飯を食べている姿を見ましたけどそれ以降は……」
三人で揃って失踪したかあ、と呟く。窓の外へと視線を向ければきらん、と夜空に輝くキンカメの姿が見えた気がする。たぶん幻覚だろ。もしくはここにきてそのまま帰ったか。
はあ、と溜息を吐くルドルフは今日は真面目モードらしい。胡乱な姿を見ているせいか割と新鮮に感じるのはちょっと間違ってると思う。
「さて、私は挨拶回りに行って来よう。2人はここで待っていると良い、URAのお偉い方に話しかけられても困るだろう?」
ルドルフの言葉にこくこくと頷くゼンノロブロイ。眼鏡系美少女もドレス姿となると中々美しいものがある。ルドルフと合わせて周囲の視線をそれなりに引いている。それを威圧するようにルドルフが軽く視線と気配を巡らせている。
……気配り、出来るなあ。
笑みを浮かべて挨拶回りに出るルドルフを見送り、ロブロイと共に壁の花となる。
「ロブロイさん、最優秀シニアウマ娘おめでとう」
「クリムゾンフィアーさんもおめでとうございます。ジュニア2冠、凄いですね」
「ロブロイさんこそ秋3冠獲得とか化け物染みたスコアでしょ。俺も早くクラシック戦線やシニア戦線を走りたいよ」
「あはは……」
困った様に笑うロブロイは余り強そうなウマ娘には見えない……が、そうやって彼女を舐める事は出来ない。間違いなく彼女は俺よりも格上だ。どれだけ頑張った所で勝てない相手なのだ。世の中、本当に不思議な事もあるもんだ。
「そこの、君たち」
ロブロイと共に何を話そうかと話題を探っていると、此方を見かけた知らない男が片手を上げながら近づいてくる。知らない存在にロブロイの体が強張る。
「やあ、クリムゾンフィアーさん、ゼンノロブロイさん。今、誰とも喋ってないなら―――」
「ふんっ!」
彼岸花を取り出してそのまま頭に突き刺すと白目を剥きながら痙攣しつつ男が倒れ込んでくる。それを素早く俺とロブロイで抱きとめる。
「く、クリムゾンフィアーさん!?」
「フィアーでもフィアでもいいよ、長い名前だし」
「え? あ、ありがとうございます……ではなくて、何をしてるんですか」
「え、いや、ナンパぽかったし……」
「こ、この人URA会長のお孫さんですよ……?」
「えっ」
えっ、と声を零しながら白目を剥いてる男を見て、頭に刺した彼岸花を引っこ抜いた。一瞬びくんと痙攣する姿を見て、ロブロイを見て、もう一度白目の会長孫を見た。
すすす、とロブロイから回収した孫を窓際まで運び、窓を開けたらそのまま外へと投げ捨てる。どさり、と音がして外に落ちてった姿を見送る……良し、びくんびくんしてるなら問題ないな。
「良し」
「良しじゃありませんけど」
「死んでないならギャグで済むでしょ。寧ろ免疫がつくよ」
「それ、スピカだけですよ」
嘘だあ。ロブロイがしきりに窓の外を不安げに眺めているが大丈夫だ、人間がこの程度ではどうって事がない事は既に沖野トレーナーによって証明されている。人間、毎日ゴルシキック喰らってれば人体が限界突破するんだ。きっと会長孫だって耐性の一つや二つ生やすよ。
「フィアー、ゼンノロブロイ、ここら辺で本田さんを見なかったかな? URA会長のお孫さんでトレセン学園に毎年多額の寄付をしてくれてる方なんだけど」
俺とロブロイの顔が一気に青くなる。無言で顔を横に振ると、そうか……とルドルフが呟く。
「お手洗いにでも離れてしまったのかな? 後で挨拶するとしようか」
「それが良いと思います。我はそれが一番だと思います」
「わ、私もそれが良いと思います……!」
ぶんぶんと頭を振ってルドルフに賛同していると、きゃーという声が会場内から響く。視線の主は会場のベランダの方だ。視線を其方へと向ければゲストの女性が慌てて会場に戻り、震える声でベランダの外を指さす。
「ほ、本田さんがそ、外で死んでる……!」
さぁっ、と血の気が引いて行く音がする。ルドルフは俺とロブロイを見て、何か言いたそうな顔をしている。というか主に俺の顔を見ている。はは、バレてるかな? バレてるというか最初から疑ってたなこれ? はは、正解ですよ。
ふっ、とルドルフが笑みを零す。
やったな? という視線をしてる。
はい……やりました……。
だがそれは絶対に認めない。認めてなるものか。俺は自分の服の胸元を軽く開けてそこに手を突っ込むと、どこでもシャーロックホームズセットを取り出した。その帽子を無理矢理ロブロイに被せ、パイプを口に突っ込んだ。
「皆ぁ! 大量のミステリーを読んでいるゼンノロブロイ先生がこの難事件を解決してくれるそうだァ!」
「えっ」
「成程……確かにゼンノロブロイなら適任だな……」
「えっ」
何時の間にか8Bitサングラスを装着したルナちゃんがノリノリだった。いや、それを見て解りやすくこれが何らかの余興だと周りが判断できるようになったのだろう。周りのURAのお偉い方も腕を組みながらロブロイならと頷いている。虐めか?
「えっ? え? あ、あの、え」
「ロブロイ・ホームズ……この事件を解決するんだ……!」
力強く解決を訴えるとロブロイが空気に流されて頷いた。
「わ、私にお任せください!」
うおー、と会場に歓声が響く。URA関係者にノリの解る人間が多すぎる。後はそう。
―――俺がワトソンとして全力で妨害すればこの夜は乗り切れる……!
壮大な計画を胸に、URAの夜が始まる。
クリムゾンフィアー
当然バレた
ゼンノロブロイ
秒で赤毛を売った
シンボリルドルフ
秒で察した。マヤノトップガンじゃなくても解ると断言した
本田さん
ファンサだと思って楽しんだ。豪の者