転生赤毛バは凱旋門の夢を見る   作:てんぞー

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21話 若駒ステークス

 結局、我が家は穏やかな新年を過ごす事が出来た。

 

 というのもノーザン本家から当然のようにやってくるはずの抗議を俺が裏技を使って封じ込めたからである。理事長ルート? シンボリ家ルート? いやあ、動いてくれそうな方々ではあるが正直、頼むのは申し訳ない。マックイーンが電話で助けが必要かどうかを聞いてきたが断っておいた。

 

 実はトレセン学園で学生として過ごしている間に、仲良くなったウマ娘がいるのである。

 

 トレーニングのない日とかちょくちょく街にディーを連れて脱走する他、深夜に間食をする俺はトレセン学園の問題児筆頭だったりするのだが、夜遅くまでゲームを遊んでいた俺はある日夜食を作る為に栗東寮のキッチンにお邪魔していた。

 

 この時、ちょっとしたアレンジカップ麺を食べたい気分だった俺は買い置きしておいたカップ麺にごま油をちょんちょん……として用意しておいたオプションを投入。これで完璧でご機嫌な夜食を完成させた訳だった。

 

『いやあ、深夜に作るカップ麺は最高だなぁ』

 

『何食べてるの? 今食べるの? 私も食べるよ』

 

『ファ院』

 

 俺と殿下の出会いであった。ここまで来ればお分かりであろう。

 

 国家権力を盾にした。ちょっと家系ラーメンを実家で食べないかと誘えば警戒心皆無の王女殿下は釣れてしまう。SP達が憤死しそうな表情をしているが、知った事ではない。俺は殿下と家でラーメンを食べているだけである。

 

 それだけ。俺達はラーメンフレンズなのだ。解るかな? ノーザン本家君。無論、殿下が何かをしてくれるという訳ではないが……今、うちに殿下が遊びに来てるんだよなぁ! なあ! ノーザン本家クゥン! 何かうちに用事あるの?

 

 という邪悪な手段を取ったおかげで新年は穏やかにラーメンを食べながら過ごせた。持つべきはコネだなぁ、というのを強く実感させる年始だった。アイルランドと喧嘩するつもりがあればかかってこいよ。

 

 炬燵で丸くなって、お雑煮を食べて、おせちを食べて、初詣に行って……そんな穏やかな正月が過ぎ去り、

 

 1月某日―――京都競バ場に来ていた。

 

 

 

 

「沖野トレーナー、車出してくれてありがと」

 

「気にすんな。偵察も必要な事だしな。特にお前にとっては大事な事だろ?」

 

 アロマスティックを口に咥えて制服姿。すっかり慣れた格好で京都競バ場へと来ていた。車を出してくれた沖野Tを伴いバ券を買って入場する。

 

「リギルとはどうする?」

 

「まあ、偵察に来てるし流石に合流したくはないかな……」

 

 この状況でどうやってリギルと顔を合わせれば良いんだよ。

 

「了解了解。じゃあ適当な場所を確保するか」

 

 何度も来慣れているだけあってか、沖野Tが進む姿には迷いはない。そんな背中を追って選手としてではなく、1人の観客として客席の方に進む。周りからは俺の赤毛を察してか、視線とスマホが偶に向けられてくるが、全体的にマナーは良く話しかけてくるような奴はいない。

 

 パドックに到着するが、まだウマ娘の姿はない。反対側へと視線を向ければリギル―――東条トレーナーの姿が見える。向こうも、此方の姿を捉えている所だろう。

 

「若駒ステークス、グレードはオープン。ディープインパクトの実力を考えれば控えめな所から始めたな、おハナさんは」

 

「ディー、囲まれたり紛れるのが嫌いだから慣らしてるのかもなぁ」

 

「ふーむ、おハナさんの事だし大事に育ててるのかもな。ジュニアで走らせなかったのは脚を温存する為かもしれないし」

 

 まあ、良くされている事は確かだ。リギルに所属しているウマ娘達を見れば解るし、この善性の男である沖野Tと仲が良いというのを知っていれば納得する。それにちょくちょくリギルの様子を偵察しに行けば楽しくやれているのを見ている。

 

 チワワはチワワで、リギルで楽しくやっているのだ。彼女の世界はあの狭苦しい家と部屋の中だけではない。ちゃんと、その世界は外側へと広がっている。

 

 ……とはいえ。

 

「お、こっちに手を振ってるぞ」

 

「見えてる見えてる」

 

 パドックに立ったディープインパクトは、リギルよりも先に此方を見つけると全力の笑顔で手を振ってくる―――そういう所がお前、チワワなんだよなぁ……。

 

 とりあえずチワワのライブバ券にGⅠの賞金と年度ジュニアウマ娘で貰ったお金……500万ぐらいぶち込んでおくか……。

 

 

 

 

「これだから皇帝に人の心はないとか言われるんだよ」

 

「おや、随分な言葉だねフィアー」

 

 パドックを終えてコースの方へと移動する頃にはなぜかリギル―――というか東条ハナトレーナーとルドルフが合流していた。俺は全く合流する気なんてなかったのに当然のように向こう側からやって来た。そのせいでくーちゃん、ちょっとご機嫌斜め。

 

「すまないわね」

 

「気にしないでくれ。ウチのおかしなのが悪い」

 

「人の事をおかしなの扱いするの止めませんかぁ!?」

 

 半ギレで沖野Tを睨めば苦笑が返ってくる。ほんとーにもー。ぶすーっ、としながら柵に寄りかかってコースへと視線を向ける。パドックを終え、地下馬道を抜けてターフに出てきたウマ娘達が順次ゲートへと収まって行く。

 

「そんで」

 

「うん?」

 

「ディーの様子や調子は?」

 

「それは私より君の方が良く知っているんじゃないかな」

 

 ルドルフの揶揄う様な声にぶすーっとした表情を返す。人の心が解らねぇ皇帝がよぉ……。これだからポケモンのWパック予約してる奴は駄目なんだよ。最初から保身の精神が生きてるんだわ。困ったらどっちでも対応できるとか温い事を言う奴はやっぱ駄目だな。

 

 人の心を持たぬ皇帝の話はともあれ、ディーは正月以降絶好調という様子を見せている。実家にいる頃にはどうやらそうでもなかったらしいが、拉致ってからは毎日調子が良さそうに過ごしている。

 

 そしてその調子のままオープン戦に来ているのだ―――虐殺になるだろう、これは。

 

「次走は弥生から皐月っすかね」

 

 東条トレーナーに向けて言えば、無言が返されるがそれが答えの様なものだ。トライアルを踏んで皐月賞へ、そこからダービーと菊花と無駄のないコースを取る予定だろう。実際の所、無駄なレースは走らなくていいなら走らない方が良い。

 

 スピカには西村Tとかいう変態極まってテイオーの骨折を回避し、マックイーンの屈腱炎すら蹴り飛ばしたコンディション調整の怪物がいる為、多少多めにレースに出た所でどうということもない。だがリギルはそういう変態がいない。その代わり純粋にウマ娘の能力をガチガチに高められる化け物みたいなサブトレーナーが存在している。

 

 神様はどうしてアプリのライバル枠を1チームにぶち込んだの? 馬鹿なの? リギル馬鹿強くなってるじゃん。

 

『1番ディープインパクト……私のイチオシのウマ娘ですね。普段の可愛らしい姿と打って変わり静かな気配の中にはどう猛さすら感じられます。メイクデビューでも見せた圧巻の走りを見せてくれると良いですねぇ』

 

 ゲートに収まるディープインパクトの様子は落ち着いている……集中力を高め、雑音を排除して綺麗なスタートに備える姿は俺が得意とするコンセントレイトと同じものだ。やはり、俺を見て幾つか技術を盗んでいる。一緒に走れば走るほどこっちの技術を盗んで行くな、アレ。

 

 ファンファーレが鳴り響き、レースの開始にウマ娘達が備える。

 

「フィアー」

 

「んだよカイチョー」

 

 がこん、音を立ててゲートが開く。ウマ娘達が飛び出し、ターフの上を進む。綺麗に飛び出したディープインパクトがするすると最後方へ、何時も通り追い込める場所へと下がって行く。彼女の動きにはまるでミスと呼べるものがない。

 

「彼女は確かに才能も環境も揃えられている―――だが最も、重要なものに恵まれている。それが何か解るかな」

 

 レース序盤、ディープインパクトを止めるのであればここしかない。まずは出鼻を挫いて彼女の調子を狂わせるしかないだろう。俺だったら3回は威圧を叩き込んで、コースを無理矢理変えさせる。スタミナを削らないと終盤で全力のスパートに入るだろう。

 

 だが誰も彼女の歩みを止めない、止められない。ディープインパクトという脅威をまだ誰も理解していないのだ、本当の意味では。それを正しく認識しているのは恐らく俺とリギルの東条トレーナーだけだろう。

 

「俺、だろ」

 

「……ふっ」

 

 俺の返答にルドルフが小さく笑みを零した。

 

 中盤に入り、誰もがポジションを取ろうと躍起になる。だが中盤も半ばを過ぎてからディープインパクトが上がり出す。

 

『おぉっと、ディープインパクト前に出始めた……かかってしまったか!?』

 

 いや、違う。ディープインパクトは欠片もかかってはいない。早すぎてもいない。彼女は自分のスタミナに合わせて出せる速度を完全にコントロールしている―――単純に、周りが遅いだけだ。彼女のスピードとパワーが高すぎて、抑えていても前に出てしまう。

 

 誰も彼女を序盤の間に削ろうとさえしなかったのだから、当然の結果だった。

 

 中盤戦が後半に入り、終盤戦に差し掛かる頃には既にハナを進んでいる。そうなればもはや漆黒のバ体を止める事の出来る存在なんていない。

 

「フィアー、好敵手の存在は限界を超えてウマ娘を磨き上げる。倒すべき相手、達成すべき目標はその魂を磨き上げる行いだ」

 

「カイチョー、ディーを贔屓してない? もっと俺の事を贔屓しても良いよ?」

 

「ふふ、チームメイトを応援するのは当然の事だろう?」

 

「はー、この皇帝様ったら他のウマ娘へと向ける博愛精神を全く俺に向けてくれねぇなぁ」

 

 英雄の凱旋を誰も止めることは出来ない。当然のように一人旅になった姿がゴールを切って一着が確定する。教本のような理想的な追込みの走り……抑えて抑えて差し切るということをディープインパクトは自分の能力で体現した。

 

 ただし、それについてこれるウマ娘がいなかっただけで。

 

 ウィニングランに入るディープインパクトは観客の声援に応えるように控えめに手を振り、こちらを見つけると少し大きく手を振ってくる。それに手を振り返しながら笑う。

 

「今年のクラシックが楽しみだ」

 

「ほんとにな」

 

 けらけらと笑いながら若駒ステークスの結果を見届けた。4月、皐月賞に向けて俺もそろそろ準備と追込みに入らなくてはならないだろう。

 

 目標は当然、ディープインパクトの打倒。

 

 これから全てのレースで、魂を燃やし尽くすつもりで走る。




クリムゾンフィアー
 ライブ最前列当たったので自作グッズで応援した。

沖野T
 ちゃんと応援用サイリウムを用意してきた

東条T
 サイリウムを用意してこなかった大人

ルドルフ
 サイリウムをちゃんと用意してきたウマ娘

ファ院
 ラーメンの話をすると何時の間にか横にいる

SP
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