「あ゛ー……カッフェのコーヒー落ち着くわ」
カップに注がれたコーヒーの匂いを堪能し、口を付ける。カッフェ―――即ちマンハッタンカフェはコーヒーを飲む事も淹れる事も趣味にしているちょっとお洒落なウマ娘だ。高等部でコーヒーを趣味にする娘なんて中々見かけないし、俺はハイセンスだと思う。
こうやって偶にカッフェのコーヒーに世話になるのは、密かな楽しみだったりする。
「それは良かったです。私も淹れたかいがありました」
「すみませんね、クリムゾンフィアーさん……」
ただこうやってカッフェの世話になる時は、逆に俺にちょっとしたお仕事が回ってくる時だったりする。博士―――即ちアグネスタキオンの事になるのだが、彼女と半々でカッフェが使っている空き教室には現在俺とカッフェと、カッフェのトレーナーの姿がある。
まあ、定期イベントだ。カッフェのトレーナーは幽霊を引き寄せやすい誘因体質というちょっと面白い体質をしている。そのせいでカッフェとカフェトレのコンビはちょくちょくトレセン学園内では怪異にエンカウントしたり、不思議な出来事に遭いやすい。
トレセン学園の警備はかなりのハイレベルセキュリティが敷かれている。通っている学生たちの多くはお嬢様だったり上級家庭だったり、成績の良さで入学してきた娘で女の子が多い。その上で数百万から数億まで走れば稼げ、アイドルとしての活動もできる娘達ばかりだ。
そんな女の子だらけの環境なのだから、セキュリティがガチガチになるのは当然の話だ。
当然の話なのだが……幽霊やら怪異にそういう理屈は通じない。
ずずず、とコーヒーに口を付けて飲む。俺はブラックよりちょっとミルクと砂糖を入れる方が好みだったりする。別に、ブラックで飲めない訳じゃないのだが。ラテとかマキアートとかカフェラテとか、飲み方はまあ人それぞれ自由だ。
「いやあ、気にしなくてもいいっすよ。カッフェのコーヒー飲みに来てるだけなんで」
手をひらひらと振ると申し訳なさそうにカフェトレが頭を軽く下げてきた。ぶっちゃけ、この誘因体質というものに対して俺はちょっと同情的だ。だって明らかに人生大変そうじゃん、この兄さん。流石にそういうのを見てると……って部分が大きい。
と、とんとんと扉が叩かれる。
「すまない、カフェちょっと扉を開けてくれないかな? 手が塞がってるんだ」
博士の声が扉の向こう側からしてくる。俺はそっと飲んでいたコーヒーを近くのテーブルに置く。カフェトレがカッフェが立ち上がらないのを見て、扉の方へと視線を向ける。
「えっと、もしかして……?」
「はい、扉を開けると入り込んでくるから駄目です」
「前はたづなさんだったけど、今回はタキオンさんか……」
カフェトレが疲れたような声を吐く間にも、座っていた椅子から立ち上がって軽くストレッチを始める。いっちにーさんしっ、にーに、さんしっ、と。今日も赤毛ドライブは絶好調。方天画戟出せるかなぁ? 出せたぁ。やっぱ呂布因子凄いよこれ。レースとは関係ない能力生えてるもん。
取り出した方天画戟はグラスワンダーの薙刀と同じジャンルだ。物質的には影響がない、見た目だけ楽しめる領域の塊みたいなものだ。それを頭上に掲げてぶんぶん振り回す。今日は調子良いぞぉ。きゃっきゃっ。
「カフェ? 開けてくれないのかい? カフェ? 開けてくれよ、カフェ、カフェカフェカフェカフェカフェカフェカフェあけてあけてあけてあけてあけて」
ずずずず……扉の外から扉をガンガンと叩く音が聞こえてくる。それをガン無視してカッフェがコーヒーを飲んでいる。カフェトレはちょっとだけ怖いのかカフェに近づいている。それにカッフェが機嫌よさげに尻尾を揺らしている。
がたがたラップ音が鳴りだす。うるせぇ。窓の外も何も見えないけどがたがたしだした。
「フィアーさん」
「うい」
「それでは、宜しくお願いします」
「ういうい」
どっこらしょっと方天画戟を掲げて―――。
「おんどりゃっ!!」
「っ!?」
扉を貫通するように全力投擲した。無論、領域の産物なので物質的な干渉力はない。だから必殺呂布ストライクは見事に扉を破壊する事無く貫通し、その向こう側のオカルトを消し飛ばした。その勢いのまま扉を蹴り開け、手身近なホラーっぽいのを殴り飛ばす。良し、成仏したな!
「R.I.P.! 今夜のカフェ&クリムゾンは年始の大掃除タイム! お年玉代わりに成仏させてやるぜぇ! 皆ぁ! 出ておいでぇ! オイコラ、逃げるんじゃねぇぇぇぇ!!!」
校舎に、怪異共の悲鳴が今夜も響く。
「一晩無双ゲーしたら割とすっきりしたな。これでしばらくはカッフェもカフェトレも平和に過ごせるだろ」
カッフェ、俺を無双系武将キャラか何かと勘違いしてないかなぁ。対霊対怪異だけなら無敵である自信はあるけど。でも無双ゲー、どれだけやっても上がるのは武力ステータスでレース関係ないんだわ。
「カッフェとの絆もそろそろ80超えた感じかなぁ。トレーニングに呼び出したら友情トレしてくれそうな感じはあるわ」
そう考えると俺達の付き合いもそれなりになって来たという事か。いや、既に1年ぐらいはトレセン学園にいるんだ、そりゃあそれなりの付き合いにもなるだろう。
「楽しくて忘れがちだけど、もう既にクラシック級になったんだよなぁ……」
テレビで見ていた所に今、自分が立っているというのは感慨深いものがある……とはいえ、このまま普通に走っていたら間違いなくディープインパクトに負けてしまう訳だが。
「皐月でワンチャン……ワンチャンあるか?」
うーん、判断が難しい。奇跡的な噛み合いをすれば初見殺しが刺さるかもしれない。だが所詮は1度しか通じない戦法だ、東条トレーナーが見越してデバフ対策でもして来たら地獄になるだろうし……難しい。
「何にせよ、1回寮に戻って寝るかぁ」
欠伸を漏らしながら栗東寮へと向かおうと歩き出すと、美浦寮の方から歩いてくる見覚えのある姿があった。
我が家のチワワである。校舎の方から欠伸を漏らしながら歩いてくる姿を見かけると、とたたたたとチワワが駆け寄ってくる。うーむ、今日も元気に尻尾が振られているのにそれが表情に出てこないもんだ。
「フィアさん、お、おはようございます」
「おはよディー。美浦寮から来てたけど、どしたん?」
「えっと、その、フィアさんが昨晩、泊まってくると言いました、よね」
「うん」
「その話をリギルで、したら、その、タイキさんが泊まろう、って」
どことなく必死に手を振りながら説明しようとするチワワの姿に朝から俺は和んでしまう。しかしそうか、タイキシャトルのお世話になったのか。確かにパジャマパーティーとか滅茶苦茶楽しむタイプだろうなあ、というのは予測がつく。
「楽しかった?」
「は、はい。ど、ドーベルさんともいっぱいお話できましたっ」
「ディーは偉いなぁ」
「えへへ……」
だけど俺は眠い。これから寮に戻って寝るのだ。
嬉しそうなチワワをわきに抱えると俺はそのまま栗東寮へと帰って行く。今朝は授業サボってチワワを抱き枕に惰眠を貪るぞ!
「はうわっ」
「デジタルさん!?」
その時、窓の外から感じる濃いウマ娘ちゃんの気配に思わずアグネスデジタルは視線を窓の外へと向けてしまった。そこで目撃したのは朝一から繰り広げられる濃密なカプの絡み合い―――ウマちゃんの素敵すぎる姿にデジタルの情緒は一瞬でレッドゾーンを越えた。
「かふっ」
「吐血!? デジタルさん!?」
一瞬で尊みが限界を迎えたデジタルは崩れ落ち、血まみれになりながら階段を滑り落ちて行く。デジタルの学友が直ぐに階段の下に流れ着いたデジタルの姿を抱き上げる。
「デジタルさん、デジタルさ―――あ、いや割と何時もの事だったわ」
学友はデジタルを階段の下に捨てて授業へと向かった。
今日もトレセン学園は平和だった。
クリムゾンフィアー
C&Cの暴力担当。無敵の剥がれた幽霊とか怪異を殴り殺す
マンハッタンカフェ
C&Cの謎解き担当。相手を解明して殴れる状態にする
カフェトレ
C&Cの主人公枠。定期的に良くないものを引き寄せる
アグネスタキオン
C&Cの博士枠。定期的に謎オカルトグッズを生み出す
デジタル殿
教師たちもまた死んでる……扱い。慣れちゃった