「……はあ」
「どうしたんだよ、フィア。生理痛か?」
「馬鹿野郎、ゴルシ。俺の生理痛はついこの前よ。いや、そうじゃなくてよ……俺、デアリングタクトに全つっぱしてたんだわ……」
「あっ……全て察したわ」
いつもの
何時もの茶番
また存在しないウマ娘の話してるぅ……
待ってたんだこの茶番を
「トリプルティアラ達成の牝馬……ティアラ達成以来の勝利見たい……見たいじゃん!? 早熟で終わるなんて残酷な事言わせたくねぇよ……」
「いや、気持ちは解るけどよ……ただジェラルディーナは見事だったな」
「あぁ、それは間違いない。エリ女1着おめでとう、ジェラルディーナ」
おめ……おめでとう?
めでたいのかもしれない
めでたいのかなぁ……かなぁ?
めでたいのやろ!
ゴルシと揃ってぱちぱちと拍手する。エリザベス女王杯……そこには波乱が潜んでいる。波乱が潜んでいた。そして馬券は紙くずとなる。終わり。ゴルシは顔を見合わせ、3……2……1……はい。
「ぱかラ~イブッ! 全国の皆待たせたな……ゴルシ様だぜ!」
「そして俺、何時の間にかレギュラーになってる年度代表ジュニアウマ娘のクリムゾンフィアーだ」
化け物の皮を被った化け物
去年の年末は盛り上がりましたねぇ
朝日杯からホープフルの距離延長ようやった
今年も期待しとるで
温かい声援に対して中指を突き立てて黙らせる。俺達の前にはコメントを確認する為のノートパソコンが置いてある。それを通してライブのコメントを抽出しているのだ。
「さてさて、という訳でハッピーバレンタインだ大きなお友達の皆」
なんでや! 小さなお友達だっているかもしれんやろ!
そうかなぁ……そうかなぁ?
このチャンネルを小さい子に見せられますか(小声
ムリだと思う
「良く解ってるじゃねぇか! そんなバレンタインをぱかライブなんぞ見て過ごしてる悲しいお前らに朗報だ……その寂しいバレンタインをアタシらってコンテンツで盛り上げてやっぞ!」
反逆のコメントが大量に流れてくる。そんなノートパソコンの画面を確認し、のっしのっしと隠していた首から下を出現させた途端、ノートパソコンに流れるコメントが肯定的なものに変化する。それもそうだ、バレンタインという事もあって今日の俺はメイド服なのだ。
まるで関係ない? それはそう。着たい気分だっただけだ。
「折角雑魚共の為にチョコでも作ってやろうかと思ったのになぁ! 視聴者サービスで手作りチョコを作ろうって企画だったんだけどなぁ! まあ、お前らがそうも俺らの事を気に入らないならなあ……ゴルシ?」
「そうだな、アタシらだけでチョコ作って喰うか」
待って、待ってください
負けを認めよう!!!
チョコください!!!
ちゃんと食べられる奴なのかぁ???
プレゼントってマ?
盛り上がってくるコメント欄によしよしと声が零れる。ゴルシは何時も通り、トレセン学園の制服だが俺は態々今日の為にヴィクトリアンメイド服を用意してきた。やっぱ素というか見た目が良いとコスプレしたり着飾るのも結構楽しい所がある。
それはさておき、我らがぱかライブの場所は栗東寮のキッチンだ。学生たちが食堂を使わずに料理やおやつを楽しむ為に置いてあるもので、大体の場合では活用されない場所でもある。何せ、無料で食べ放題の食堂があるのだから皆そっちに行く。
とはいえ、こういうイベントの時はそこそこ人気の出る場所でもある。バレンタイン。割とトレーナーに手作りを送ろうとするウマ娘は多いもんだ。
「よしよし、イイ感じに盛り上がってきたなお前ら」
「それじゃあバレンタインライブだし、今日もスペシャルゲストを呼んでいるぜ! カモン!!」
ゴルシの合図とともに今まで隠れていた姿が出てくる。ちなみに俺達の後ろではアストンマーチャンが既にチョコづくりに励んでいる。キミ、何時からフレームインしてた?
「どもどもー。セイウンスカイですよー」
皐月と菊花のクラシック2冠ウマ娘!
大物出てくるじゃん
雑にドリーム連中をしょうもないコーナーに引っ張りだすな
「いやいや、セイちゃんはまあ、凄いかもしれませんけど緩い雰囲気でやってく方が性に合ってますからねー」
「という訳で今日はセイウンスカイとチョコ作ってくぞー」
「おー」
パカチューブのコンテンツとしては今日は非常に珍しい、まともな企画ものだ。寮のキッチンの外からは時折フジキセキも覗き込んでいるものの、俺達の割とまともな企画にうんうんと満足げに頷いている。
俺達だって何時もカイチョーチャレンジみたいな不発弾を連鎖爆破する企画してる訳じゃねぇんだ。あれは9割カイチョーが悪いんだわ。
事前にどうやってチョコを作るのか、その材料も全部用意してある。てきぱきとチョコを作る準備を進める。その間にもアストンマーチャンはデフォルメマーちゃんチョコを作っていた。無駄にクオリティたけぇなおい。
ともあれ、気を取られていると作業が遅れてしまう。収録前に何度も練習した通りにチョコを溶かし、混ぜ、そして成形して行く。折角作るのだから普通のものを作るのはつまらない。ちらり、と
「お、ウンスは手慣れているなぁ」
「その呼ばれ方は初めて聞いたかなあ……いや、ほら、セイちゃんは何かと凝り性なので」
「あたし知ってるぜ、毎年チョコを作ってトレーナーに送ろうとして渡せずに技術だけ上がって行く悲しき姿を」
ゴルシの暴露にウンスの作業の手が止まる。じとっと、ウンスに視線が集まる中、俺がカメラへと視線を向ける。
「皆解ってるな? バレンタインと言えば恋愛……ここで恋愛強者を連れてくるのは単純に面白くない……無論、バレンタイン衣装持ちのバレボンやバレフラッシュを連れてくるのもありっちゃありだ。だけどそれじゃあ面白さが足りないよなあ?」
この赤毛人の心ないんか?
ウマやしな
元から心無いだろ
プイの前でしか心を取り戻さないゾ
そんな事ないよぉ。とてもはーとふるだよぉ。
「だから恋愛糞雑魚ウマ娘に出演オファーしたんだわ」
「恋愛糞雑魚じゃないです」
神速の返答がウンスから返って来た。ゴルシへと視線を向け、カメラへと向け、アストンマーチャンへと向けた。
「告白……」
「機を窺ってるだけ」
「既にドリーム……」
「風水的に良くないってコパノリッキーが言ってたので」
「本命チョコ」
「は? 渡してるけど? ……渡してるけど?」
か、悲しき恋愛弱者
ウマ娘って大体恋愛に一直線だと思ってたんだけどなあ
ファル子(小声
ファン1号の魂は焼かれてるから(震え声
ウンスは悲しき恋愛糞雑魚ウマ娘だった。それとなくウンスへと疑いの視線を向けてもウンスは静かに視線をそらして事実を認めようとはしない。ゴルシがその姿を見て仕方がねぇなあ、と声を張る。
「そんな頑ななセイちゃんの為にスペシャルゲストを今日は用意してるぜ!! 入って来てくれ!!」
「え?」
キッチンの入り口へと視線を向ければ、三角頭巾とエプロンを装備した小さなウマ娘―――ニシノフラワーの姿があった。
「と、トレーナーさんに本命チョコを送るんですよね? お手伝いします!」
「……!? っ!?」
何かを言いたいウンスの視線が俺とゴルシへと向けられるが、俺達はそれをガン無視して手元のバレンタインチョコレートへと情熱を注いだ。
「よっし、彼岸花チョコ大体出来てきたな」
「アタシの押し寿司も出来て来たぜ」
待って♡ ちょっと待って♡
茎はピスタチオで花弁はクランベリーか(横から目を逸らす
バレンタインチョコ……? 寿司が……?
ただの寿司だが……
セイちゃんがぁ
「さ、手伝いますよ」
「あ、いや、ちょ、ちょっと待って……待ってください」
押しの強いニシノフラワーがウンスに絡んで行く姿を俺達パカチューブチームは生暖かい視線で見守って行く。今年こそ、ウンスはちゃんとトレーナーに本命チョコをあげられるかもしれない。その場合、俺達がキューピッドになるのか……へへ、胸の温まる想いだぜ。
「パカチューブをご覧のそこのお前! 俺達のバレンタインチョコは抽選でそれぞれ10名様にプレゼントだ!」
彼岸花チョコを置く。横に鯖寿司が置かれる。その横にマーちゃんチョコが置かれる。奥でウンスがフラワーに押される。
なんか異物が混じってるなぁ
気のせいじゃない?
何時もの事やし
というか何時からいたんだあの子
わぁい、チョコだあ
「まあ、届くころにはもうバレンタイン終わってるだろうけどな」
「結局バレンタインには何も貰えなかった事実は変わらないんだよなぁ」
余計な一言でしっかりとパカチューブを炎上させつつ、俺達は残りの放送時間を葛藤の中で苦しむウンスを眺める事で消化する事にした。
これが最高の生放送枠の使い方だぜ。チャンネル登録よろしくな!
クリムゾンフィアー
割とお洒落を楽しむタイプの転生者
ゴールドシップ
寿司のネタは新人記者が海から送ってくれた
アストンマーチャン
ノルマ達成
ニシノフラワー
善意100%
セイウンスカイ
チョコを渡せた
スペシャルウィーク
セイウンスカイをぱかライブに売り渡した諸悪の根源