転生赤毛バは凱旋門の夢を見る   作:てんぞー

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27話 Q.因子継承だぁーれだっ!

 窓の外を見てみたらデジタル殿がまた死んでいた。目撃すると死亡率100%の女、デジタル。死んでるのを見ると今日もトレセン学園は平和だと思える。今日は何で死んだんだろう? もしかして時報かもしれない。

 

「皐月賞……負けちゃったっ」

 

「可愛く言っても事実は変わらないぞー」

 

「反省しろ反省をー」

 

「皐月賞の映像準備出来ましたよー」

 

「おーし、それじゃあフィアの皐月賞反省会やるぞー」

 

 スピカの部室、何時ものプレハブ小屋。俺達は先日の皐月賞の反省会をする為に映像をノートに入れて集まっていた。スマホでアークナイツを起動し、イベント周回を開始しながら皐月賞の反省会を始める。とりあえず最初に言わせてくれ。

 

「アレで止められないなら何をしてもムリでしょ」

 

 心の底からの感想だった。いや、だって躊躇、焦り、駆け引き、独占、布陣、攪乱、まなざし……自分がこれまでの人生、野良レースで磨いてきた対人スキルを全て注ぎ込んで妨害したのだ。それを喰らいながらあの末脚を見せてゴールされたんだ。もうどうしようもないだろ。

 

「俺、使える限りの妨害とデバフ全部注ぎ込んだぞ」

 

「寧ろアレはそれだけリソース切ったからアレで済んだって感じだよね」

 

「そうですわね、多分あそこまで妨害札を用意できなければ最終的には2バ身ぐらいの距離を空けてのゴールでしたでしょう」

 

 解ってはいたが、あのレースに愛されたとでもいうべき末脚と能力はまるで勝てる気がしない。スタミナとパワーだけなら絶対に勝てるだけの自信があるのだが。レースってのは結局トップスピードが勝負の肝だ。加速力と最高速度、そこで勝負が決まる。

 

 あの皐月賞、ディーのスタミナは数値にすると大体350から400ぐらいだった。それをデバフでゴール前に全部削り取ったのを、根性だけでゴールされた敗北だった。改めて考えてみると悔しい。リギルはデバフを喰らっても走りきれるだけのスタミナをディーに備えたのだ。

 

 それでも……それでも後100m長ければ、俺が勝てただろう。

 

「あー、悔しい……」

 

「ここ、良く見てると他の子も駆け引きしにいってるね」

 

「プレッシャーを与えにいってますよね。この数はちょっと……」

 

「うーん、でもほとんど通ってないんじゃないかな? 大半の妨害に対してほぼ無関心というか……眼中に入ってない感じがあるね。多分最後方からずっとフィアの事をマークし続けてたんじゃないかな、彼女」

 

 シービーがそう言ってレースの映像を切り替えると、ディーの視線が常に俺の背中へと向けられているのが見える。文字通り、他のウマ娘が眼中にない。最初から最後まで俺の事しか見えていない―――これは将来が不安視されますよ。

 

 将来大丈夫かなぁ、なんて腕を組みながらソシャゲをぽちぽちしているとうーん、という声が漏れてしまう。正直、俺の頭でこの状況での勝ち筋が見えない。手札を切った上でこの結果なのだから。それに、問題は別にある。

 

「次回、100%対策されるよな、これ」

 

「まあ、おハナさんだしな。するだろう」

 

「東条さんならするでしょうね」

 

 

 

 

「それではディープインパクト、これから私が君をマークし続けながら可能な限りありとあらゆる技術(スキル)を駆使して君の精神力を削ぐ(デバフする)。それを耐えられるようになればダービーにおいて圧倒的な有利を得られる……いや、恐らくフィアーであればこの程度見越して策を練ってくるだろう」

 

「うんうん」

 

「行くぞ、ディープインパクト。まずはささやき戦術に慣れる事からだ」

 

「は、い……!」

 

「―――あぁ、そうそう。そう言えばフィアーが部屋の変更申請してきたよ」

 

「ごふっ」

 

「あぁ!? プイちゃんが笑顔で吐血した!?」

 

「ルドルフッッ!!」

 

「え、いや、私はこれでジャブのつもりだったんだが……」

 

「これだから皇帝は人の心が解らないとか言われるんだよ」

 

 

 

 

 どこかでウマ娘の倒れる音がしたが、無視だ。無視無視。それよりも大事なのはどうやってダービーを攻略するか、という話だ。

 

「ダービーを走り切るスタミナをつけてデバフ対策もする……ダービーでは皐月同様デバフ祭りで体力を削って垂れさせるって手は使えないとなると、もう地力を磨きあげる以外の手段なくない? ぶっちゃけあの末脚を磨り潰す以外に手段があると思えないんだけど……」

 

 俺の言葉にそうだね、と西村Tが声を置く。

 

「正直、フィアーの走りは凄く巧いよ。巧みというか、走りが賢い。どうすれば効率よく走れるか、というのを限界まで詰めて自分の体で出来る事をしているって感じの走りなんだよね。それをこれ以上良くするには、結局フィアーの地力を伸ばす以外の手段がないんだよね」

 

「後は戦う為の手札を補充するとか……奇策に頼るか」

 

 奇策―――奇策か。難しい話だ、奇抜な事をやれば良いという訳じゃない。ちゃんと活用し、勝てるレベルの作戦でなければならない。そういう意味では初手で見せたデバフ祭りは相当強い札だと言えるだろう。

 

 スタミナを削りに削れば走り切れる距離でさえまともな速度が出せなくなる。経験した事のない事であれば猶更良く刺さる。そういう意味で今回は特別強くディーに刺さった。だがそれすら乗り越えてきたのだ。デバフ祭り以上に強い札を出さなきゃ意味がないのだ。

 

 それを考えると、レース映像を見ながら全員黙り込んでしまった。

 

 その沈黙を、マックイーンが破った。

 

「私、思ったんです。確かにディープインパクトさんは強いウマ娘ですわ。ですがフィアーさんも強いウマ娘ですわ。それも特にスタミナとパワーが圧倒的に強いウマ娘……かのビッグ・レッドを思わせる力強さと恵体は競バ会であれば期待しかねないスペックですわ」

 

 マックイーンの言葉に俺は頷き、視線が集中する。

 

「―――スタミナが持つなら最初から最後まで逃げ切れば良いのでは? 末脚が刺さる前に逃げ切れば良いのですわ!」

 

「マックEーン」

 

 スイーツ不足かこいつ? 頭が賢さGになってるぞ。

 

『私も逃げるのが一番楽しいと思うわ』

 

 スぺがいつの間に取り出したタブレットからはスズカの大賛成が飛んでくる。お前単純に逃げ以外走れないだけだろ。俺は周りを見渡しながら頷いた。

 

「NHKマイルで逃げて通じたらダービーは大逃げで」

 

「じゃあそういう事で」

 

 俺達は賢さGで行くことにした。俺達は困ったときは大体ノリで乗り越える。深く悩んだ所で割と無駄だからと人生を理解しているからである。

 

 

 

 

 ディープインパクト攻略会議が終わった所で俺の前には新たな問題が発生していた。

 

 

三女神 @three_goddess・紀元前

 

@crimson_fear

くーちゃんへ

そろそろ因子受け取りに来てください

扱いに困っています

 三女神ちゃんより

 

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 ついに三女神、ウマッターへの進出に成功する。恐ろしい事にIPを調べようとしてもどこにも辿り着かないのだ。三女神、間違いなく現代に進出に成功してしまっている。ホラー寄りの存在の癖に妙にギャグっぽい。というか扱いに困る因子ってなんだよ。

 

「い、行きたくねぇ……!」

 

 だがウマッターのDMを見ると鬼のように三女神から通知が来てる。はよ来いコールの連打である。仕返しにお勧めのソシャゲのURLを纏めて爆撃してから空を見上げる。

 

「行くか、因子継承……」

 

 俺は一瞬で死ぬ覚悟を決めた。初手で呂布因子を持ってきた頭マックEーンの三女神だ。次は神話シリーズに手を出した所で驚きはないだろう。SNSに進出した時点でアイツらは何でもやるという認識で俺は因子継承に挑む事にした。

 

 そうだ、因子継承だ。ディープインパクトとの勝負はタッチの差での敗北だ。もし何がいけなかったのか、という話をするなら俺が脚を折る覚悟がなかったとか、奥の奥の手を確実にする為に温存したとか……本当に細かく、どうしようもない領域の話だ。

 

 その僅かな差を、因子継承していれば埋められていたかもしれない。三女神の意図は不明だが、それでも因子継承を行えるのであれば……変なプライドを持ち出さずに受けておくべきだったのかもしれない。

 

 ともあれ、過ぎ去った後悔だ。今は三女神の像がある広場へと向かう。

 

 正直、あまり立ち寄る場所ではなく、こっちに来るのも久しぶりだ。特に最近は皐月賞の準備やら追込みで忙しかった。

 

 そんな事を考えながら三女神の像がある広場へとやってくる。噴水と一体化した石像の根元には見覚えのない姿があり、アレが今日の因子継承相手なのかなあ……とか考えてたら違うと気づかされる。

 

「……うん? 生身?」

 

 そう、生身だ。生身のウマ娘がいる。黒鹿毛―――或いは青鹿毛と呼ばれる深く落ち着いた色合いの髪はどことなくマンハッタンカフェを思い出させる色をしている。長く、しかし乱雑に切りそろえられた髪型にチューブトップとダメージジーンズというラフな格好はトレセン指定の制服からは程遠い恰好だ。

 

 何よりも鼻につく強い臭いは煙草のものだ。チンピラがつける様な小さなサングラスに煙草を咥え、女神の足元に腰かけているウマ娘はどこからどう見ても不良か、不審者の類だ。

 

 ……どことなく、オトモダチの存在を想起させる雰囲気をしてる。

 

 俺がそんな姿に心の底から嫌な予感を滾らせていると不審バは、

 

「お、マジで来やがった」

 

 とか明らかに俺をロックオンした様子で言ってくる。いや、マジで嫌な予感しかしないわ。静かに冷や汗を垂らしていると、急に辺りが薄暗くなり、女神像の後方に光が集まるのが見えた。

 

 因子継承の予兆だ。いきなり予告もなく因子継承に入ろうとする三女神の像へ、

 

「うるせぇ、邪魔だ」

 

「えぇぇ……」

 

 謎の不審バが蹴りを三女神の像へと叩き込んで因子キャンセルした。マジで? とか思いながら像の方を見ると蹴りを叩き込まれてるところが明らかに欠けてる。この人、三女神の像ぶっ壊してる……。

 

 お、俺のパワーアップイベントぉ……。

 

 呆然と俺を超える暴君の姿に動けずにいると黒鹿毛の暴君が俺の前まで来て、肩を叩く。

 

「よう、赤いの。お前、赤毛の癖して負けたんだって? クソ面白いな」

 

 HAHAHAHAとどことなくアメリカンな笑いをしだす姿に嫌な予感しかしない。笑いながら肩を叩き、人の髪を指先で突いて笑ってる。逃げ出す算段を頭の中でくみ上げているが、肩に指が食い込んで絶対に逃がさないという鋼の意志を感じる。

 

「お前さ」

 

「はい」

 

「赤毛でそんだけ目立ってよ」

 

「うす」

 

「負けるって意味、解ってやってんのか?」

 

「……うす」

 

 目が笑ってない。怖い怖い怖い。助けて三女神。視線を三女神の像へと向けるが、神聖な気配は全力で逃げ出した後だった。駄目かぁー。

 

「解ってて負けたのか? あぁ?」

 

「い、いえ、勝つ気でした。うす」

 

「へぇ、ほぉ、ふーん……へぇ」

 

 とても良い笑顔を浮かべたウマ娘は俺の肩に手を回すと、そのまま半分引きずるように歩き出す。

 

「最近なあ、ノーザンの連中がイキっててうぜぇんだよ」

 

「あ、はい」

 

「だからお前、次勝て」

 

「うす」

 

「という訳で勝たせてやるから。来い」

 

「え、いや、俺これから因子継承」

 

「来い」

 

「うす」

 

 ずるずるずる。

 

 ずるずるずる……。

 

 抵抗なんてものはムリだった。謎の黒鹿毛に引きずられ、ハンカチを振って別れを告げるオトモダチの姿を視界に抑えつつトレセン学園の外へと運ばれて行く。敷地の外で待っているのは黒塗りの高級車。

 

 その中に放り込まれて思う。

 

 俺、死ぬかもしれねぇ……!




A.因子キャンセルっ!

クリムゾンフィアー
 どなどなられる

ディープインパクト
 やる気が下がった。練習下手になった。ルドルフへの絆が10下がった

謎の黒鹿毛
 サンデーサイレンス、一体何者なんだ……!
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