転生赤毛バは凱旋門の夢を見る   作:てんぞー

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28話 From Crimson Fear

 チーム・スピカの部室は沈黙に包まれていた。

 

 それは今を時めく最強最高のサイカワアイドル武将ホースクリムゾンフィアーが失踪したから―――ではなく、ポケモンSVが配信されたから全員ポケモンSVを遊び始めた事にあった。

 

 メイクデビューを走り、ジュニア級として走り始めたウオッカとダイワスカーレットもポケモンSVを遊んでいた。なんとなく無事だろ……ソシャゲのアカウントも動いているみたいだし……ログボ回収してるし……みたいなノリで本人の無事を理解していたからだ。

 

「今作3シナリオから自由に遊べるのやばいよなぁ」

 

「ねー。遊びつくすのにどれだけ時間がいるんだろ」

 

「立つなニャオハ立つな立つな立つな……」

 

 もはや呪詛染みた声さえ部室の中には響く。誰もがポケモンSVを遊ぶのに忙しかった。ポケモンSVの前ではクリムゾンフィアーの生存確認なんて必要のない作業だった。今日はとりあえずトレーニングを全てキャンセルして、スピカはポケモンSVを楽しむ事にしていた。

 

 そしてこの時、リギルは必死にコンディションが底にまで落ちたディープインパクトのケアで奔走していた。

 

 ある意味で何時も通りの光景。何時もの平和なトレセン学園の風景。

 

 そんなスピカのプレハブ小屋の扉が開いた。

 

「皆さん、揃ってますわね。交流のある方から是非見て欲しいってビデオを頂きましたの。ちょっとポケモンの手を止めてみませんか?」

 

 マックイーンがビデオを手に部室にやって来た。それを見てテイオーが首を傾げる。

 

「……ビデオ? ブルーレイとかじゃなくて?」

 

「いや、一応VHSあるけどよ……ビデオ?」

 

「こういうのは様式美が大切だ……って本人は仰ってましたけど。とりあえずVHSあるなら用意しません?」

 

「イマドキの子にVHSって通じるかなあ……」

 

 中古のビデオデッキが取り出され、セットされる。ポケモンSVを遊んでいた連中はそれを一旦スリープモードにして遊ぶ手を止め、テレビの前に集まりだす。マックイーンからビデオを受け取った沖野がビデオをデッキの中に入れると、テレビが映像を映し出す。

 

「ん? 何でしょうここ……ダート?」

 

 スぺの疑問が映像と共に上がる。彼女の言う通り、テレビはダートコースの背景が上がって来た。とはいえ、ダートのコースなんて覚えが多すぎる。どこのダート、かというと首を傾げてしまう。だがダートコースの違いが判る男がいた。

 

「あのダート……たぶんアメリカですね」

 

「だな」

 

 日本とアメリカのダートの違いを見て即座に映像の場所がどこなのかを察する。というか映像内の競技場を見て大体どの競技場なのかを察する。それが出来るだけの知識と経験が2人のトレーナーには存在していた。だがそれを見て首を傾げる。

 

 はて、どうしてアメリカからスピカ宛にビデオレターが来ているのだろうか? そんな疑問が脳裏をよぎる。だが目の前の映像はどうやらレース直後の映像のようで、競バ場には歓声と怒号が溢れ、バ券が宙を舞っている。

 

 日本と比べれば聊か乱暴に見えるのはお国柄だろうか。海外のレースをあまり見ないスピカとしては少し新鮮な光景でもあった。

 

「なあ、西村これ……」

 

「7日に行われたたぶんケンタッキーダービーですね……チャーチルでこの時期のレースと言ったら十中八九これです」

 

「だよな。流石本場のダートは盛り上がりが凄いよなぁ」

 

「あぁ、アメリカクラシック三冠だっけ?」

 

 シービーの言葉にそうそう、と沖野が答える。

 

「アメリカじゃ芝よりもダートのが人気が高いんだよ。だからアメリカのクラシック三冠路線ってのは芝じゃなくてダートなんだ。あっちのダートの盛り上がりは凄いぞ? 日本じゃあまり人気ないから日本のダート専門バはアメリカに挑戦するのも悪くはないかもな」

 

「へー……あ、ライブしてますね! あっちでもライブするんですね」

 

 どうやらケンタッキーダービーのライブ映像の様で、ライブの様子にカメラが向けられている。そのライブの様子を見て、スピカ一同が一斉に首を傾げる。

 

 ……うん?

 

 あれ?

 

「なんか……なんかおかしくないか?」

 

「いや……うん……なんだろう……」

 

 全員揃ってライブ映像を良く見る。センターを……1着の位置で踊って歌っているウマ娘に凄い見覚えがある。なんか、つい最近失踪した筈のウマ娘に凄い似ている。おっかしいなぁ……そんな疑問がトレーナーにもウマ娘達にも湧き上がる。

 

 だが間違いない。

 

 センターでやややけくそ気味にファンサしているのは奴だ。

 

「フィアー!??!? なんでそこにいるの!?」

 

「いや、マテ、それケンタッキーダービーの映像だろ!? なんでアイツがセンター獲ってるんだ!?」

 

「トレーナー! 今ネットを調べたら今年のケンタッキーダービーの1着がCrimson Fearになってますわよ!!!」

 

「嘘だろ!? アイツアメリカクラシック1冠ウマ娘になってるじゃねぇか! 皐月落としてケンタッキー取るなよ!!!」

 

 てんやわんやてんやわんや。当然のごとくスピカ部室が混沌とした状況に陥る。いや、まさか……と呟くマックイーンが更にダービー周りの情報を調べる。

 

「と、トレーナーがサンデーサイレンスで登録されてる……!」

 

「えっ……えっ?」

 

「や、やった! やりやがった! やりやがったぞアイツ!!」

 

 ゴルシが爆笑しながらテーブルを叩き始め、スぺがスズカに連絡を入れ始める。そしてスカーレットがライブ映像で見切れるアストンマーチャンの姿を見つけて校舎へとアストンマーチャンを探しに飛び出して行く。ウオッカが混沌とする部室とスカーレットを交互に見て、スカーレットを追いかけ出す。

 

 やけくそライブの映像が終わり、シーンが切り替わる。変わったシーンでは赤毛のウマ娘が恵体のアメリカ赤毛ウマ娘と黒鹿毛のウマ娘に無理矢理肩を組まされる形で挟まれている。

 

『よお、クソジャップ共。楽しく芝の上でよちよちしてるかぁ?』

 

『お前たちの大事な大事なCrimsonがあんまりにも可哀そうだからさ……こっちでダートデビューさせちまったわ! ははは、悪いな。欠片も悪いとは思ってないけど。意外とトレーナーの真似事も楽しいよねサイレンス』

 

『お前資格取ってねぇんだから言われた事だけやるんだぞ』

 

『解ってる解ってるって。私達超仲良しだもんなぁ、Crimson?』

 

『だ、ダート楽しいよぉ……えへへへ……えへ……へ……』

 

『HAHAHAHA! ほら、Crimsonちゃんもダートで走るの楽しいって言ってるじゃねぇか……ま、そういう事で、次はプリークネスステークスで走らせるからあー……トーキョーユーシュン? 出す気ねぇから。じゃあな』

 

『へ、へへへ……ダートたのしー……』

 

『あ、ゴアが来た』

 

『Fuck! 逃げるぞ!』

 

『コラ―――! 馬鹿2人―――!! 大きすぎる悪ガキ共―――! その子を解放しなさーい!』

 

 ぶちっ、という音を立ててビデオが途切れる。スピカの部室が無言に染まる。動きも消え、そして言葉を探そうとする。その沈黙を破ろうと、シービーが口を開く。

 

「ねえ、これNTRビデオ―――」

 

「ナリタトップロードビデオな! 成程ね!」

 

「何が成程なんだよ。完全にNTRビデオレターじゃん」

 

「サンデーさん、意外と細かい所に凝りましたわね……」

 

 なんでマックイーンがそんな様式に詳しいとかいう疑問を投げ捨てる。問題はいつの間にかアメリカに飛ばされた上でアメリカ3冠に挑戦させられているスピカの赤毛の方である。自他共に認められる自由の象徴であるスピカだが、それにも限度がある。

 

 そしてこれは許容出来る範囲を超えていた。担当を乗っ取られるなんてあってはならない事だ。良くURAが許したな。

 

「沖野さん、今すぐチケットを予約してアメリカに行ってきます。プリークネスの出走を許したらタイミング的にダービーは走れませんよ」

 

「クッパ姫を助けに行くぞ!!」

 

 スピカの意気が高まる。アメリカ旅行のしおりをスぺが作り始め、ゴルシがビデオを回収する。

 

「……リギルにもこれ送っておこ」

 

 リギルにテロを残し、スピカアメリカへ……!




クリムゾンフィアー
 逆らえなかった

ディープインパクト
 調子が下がった。寝不足になった

東条トレーナー
 頭痛になった

秋川やよい
 頭痛になった

イージーゴア
 頭痛になった
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