「ここが、アメリカ……!」
そう言って国際空港に降り立ったのは漆黒のウマ娘―――ディープインパクトだった。その背後には西村トレーナー、桐生院トレーナー、そしてマックイーンの姿があった。空港に降り立った者達は日本とは違うアメリカの空気を堪能しながら空港を出た。
「お、来たな」
「サブトレーナーさん、こっち」
そう言って日本トレセンチームに手を振るのはサイレンススズカで、その横に立つのはアメリカに遍在していたゴルシだ。もはやゴルシが同時間軸に複数存在している事実はトレセン学園では常識ですらあり、彼女が既にアメリカにいる事は驚きではない。
トレセン学園チームは温かく2人を迎えた。
「こうやって会うのは久しぶりだねスズカ」
「夏合宿以来ですね。桐生院トレーナーも久しぶりです」
「久しぶりですスズカさん。此方こそ宜しくお願いします」
「まーまー、気楽にいこうぜ。ガチガチになってもどうにもならねぇしな」
「ゴールドシップさんはもう少し気を引き締めた方が良いですわよ。ほら、ディープインパクトをごらんなさい」
ざ、ざ、ざ、と更衣室で着替え終わったディープインパクトはタクティカルベストにショットガンを装備した戦闘仕様となっていた。一同、無言で殺気に満ちるディープインパクトの姿を見て直ぐにその惨状から視線を逸らした。
「あのよ……ぶっちゃけトレセン学園で拘束してた方が良くないアレ?」
「貴女がナリタビデオを不用意にテロるからでしょう!! どうしてパカチューブにアップしたんですの!? URA会長が心臓発作で倒れました事よ!?」
「日本URAにすら未通達で拉致ったのは流石としか言いようがないよな……サンデーサイレンス姉御……」
サンデーサイレンス、気性難という言葉を形にした存在。気性難を語れば現代ウマ娘で間違いなく出てくる一角だ。恐らくアメリカのURAですら頭を抱えている案件だろう。大事になる前にトレセンチームは何とかディープインパクトを宥めて日本にサイカワアイドル呂布系ホースを連れて帰らなくてはならなかった。
「安心してください、軍バまでならなんとかなります」
URAシナリオアップデートによって更にストロングになった女、桐生院葵お嬢様の発言に全トレセンが感動した。最悪、サンデーサイレンスを抑え込む事に関してはこのストロング葵に全てを任せるしかなかった。ついでにディープインパクトを抑え込む事も。
彼女が今回、リギル側の代表としてやって来た最大の理由でもあった。
なおテイオーはパスポートが発行切れ。スペシャルウィークはパスポート未所持。沖野トレーナーはジュニアが始まったばかりのウオッカとスカーレットの面倒を見る必要がある為、そしてシービーは散歩に出かけて以来行方不明となってしまった為にスピカのアメリカ行きメンバーは西村トレーナーとマックイーンだけとなっていた。
「とりあえず、まずはサンデーサイレンスさんの所へと行きませんと。フィアーさんも其方でしたわよね?」
マックイーンの言葉にスズカが頷いた。
「えぇ、こっちのトレセン学園ではなくてサンデーさんの家の方でトレーニングを行ってるわ。私も呼び出されて参加してるから案内できるわ」
「なにやってなさるの??」
でも……走れるし……とかいう表情を浮かべるスズカの存在はまるで頼りにならなかった。だからと、西村がパンパンと手を叩いた。
「さ、立ち話してないでそろそろ現場へと向かおうか。サンデーサイレンスにはどうしてこんな事をしたのかを聞き出さないと……ダービーも近いしね」
西村の言葉に全員が頷いた所でゴルシがそれでよ、と口を開く。
「アレ、放置してていいのか?」
ゴルシが指さす先―――そこで不審バとして警備員に両腕を掴まれ引きずられるディープインパクトの姿があった。思わず悲鳴を上げた西村と桐生院の姿が警備員へと向かう。その姿を見送りながらスピカの面々は頷く。
―――日本もアメリカもあんまり変わらないな……。
空港からタクシーに乗って街の外れへ。
広大な土地を有するのは名家出身であれば当然の事―――ではなく、サンデーサイレンスは成り上がりのウマ娘だ。
元はスラム生まれの父も母も知らぬ悪ガキだった者がステージに立ってアメリカ有数の名バとなった姿は、記憶に新しいアメリカンドリームの一角だ。薬物検査でしょっ引かれたりしても、サンデーサイレンスの走りが翳る事はない。彼女は依然として多くの恐怖と畏怖を集める。
そんなサンデーサイレンスも、都会での生活が煩わしく賞金をつぎ込んで有り余るアメリカの土地の一部を有し、そこで気ままな生活を送っている。普通であれば近づく事さえできない私有地だが、そこはマックイーンがなぜかサンデーサイレンスからフリーパスを貰っている為問題なく入る事が出来た。
「何故だか解りませんが、昔メジロ家に挨拶に来られた時にいつでも来てくれと誘われたのですのよね」
「マックイーン妙な奴に人気あるからなー」
「フィアさんの気配、こっち……!」
「あ、ディープさん待って!」
到着した直後、どこにいるのかが解るかのように一直線にディープインパクトが走りだす。その姿を即座に桐生院と西村が追いかける。だが速力が違いすぎる。スズカとマックイーンが即座にその姿を追い―――スズカが追い越す。
「……」
「……!?」
追い抜かした事で満足したスズカがそのままどこかへと向かって走り去って行く。
―――サイレンススズカ、離脱。
「スズカさん! 待ってくださいスズカさん! 走るのが楽しくて目的を忘れちゃうのは解りますけども、スズカさんッッ!! 駄目、全力で逃げてますわ……!」
先頭民族に走る事以外を要求したことが間違いだったとトレーナー達が理解した所でディープインパクトがそこに辿り着いた。
そこはサンデーサイレンスが家に用意したトラックだった。
ダートのトラック、アメリカにおいて最もメジャーなコース。元々は貴族の遊びだったレースがアメリカという開拓地によって文化が変わり、ダートがアメリカでは主流となった。故にアメリカでは芝ではなくダート、それも土が主流となっている。
そのトラックに集まる姿は少ない。
全ての元凶、サンデーサイレンスはストップウォッチを片手に腕を組み、トラックを走る姿を無言で眺めている。
―――トラックを走る姿は二つだ。
赤毛が2人。
どちらも恵体で、燃えるような赤毛をしている。前を走る赤毛のウマ娘をもう一人の赤毛のウマ娘がマークするかのように追っている。腕の振り、脚運び、体の揺れ、呼吸のズレ……その全てを吸収し、自分の血肉へと変えようとする為の走りをしている。
それを見てディープインパクトは直感的に、先頭を走る赤毛のウマ娘の走りが、肉体的に再現不可能なものである事を察した。真似も、それをデチューンした走りも絶対にムリだろう。根本的な体の作りが違って出来ない。そういう走りをしている。
だがそれを追う赤毛は違う。目の前にいる赤毛の全てを喰らうように走る。感じられる情報の全てを吸収するように走る。一瞬も、欠片も逃がさないように走る姿が見える。ビデオを見た時は頭の中がぐちゃぐちゃになってしまったディープインパクトも、その景色を見れば何が真実なのかは解る。
「フィアさん」
ウマ娘は想いを受け継ぐ生き物だ。ヒトよりも、もっと色濃く想いに触れる生き物だ。因子継承、スキルの習得、そして相性。ウマ娘が想いを継ぐ生き物である事は多くの事柄が証明している。本能的に、或いは直感的に真実を理解する事もある。
だから直に見れば、解る。
―――あのナリタトップロードビデオは、本人がかなりノリノリで出演したという事実に……!
「フィアさん……!」
ディープインパクトは割とおこだった。
クリムゾンフィアー
不幸なことを含めて人生を全部楽しんでる
ディープインパクト
喜怒哀楽が良く出るように、人に見せるようになってきた
桐生院葵
ミークが最後までゴネた
サイレンススズカ
その内満足して勝手に帰ってくる