転生赤毛バは凱旋門の夢を見る   作:てんぞー

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31話 実はバイ

 サンデーサイレンスが土地を買い取ってまで田舎で暮らすのは9割方マスコミの連中が問題だ。連中は昔からサンデーサイレンスを嫌って、ゴシップにする為に良く叩いていた。薬物検査をしろと叫んだり、家に押しかけたり……プライバシーという概念を一切理解しない馬鹿ばかりだった。

 

 だからサンデーサイレンスは土地を買い取って警備を置いた。ここから入ったら不法侵入者だから射殺する、と警告を入れて。実際の所、日本ではありえない事だがアメリカでは正当防衛として通る。

 

 実際、夫婦喧嘩が煩いという理由だけで過去、裁判で訴えが通った事もある。アメリカという国は日本の価値観からするとズレている部分がある。

 

 だがサンデーサイレンスには金があった。土地を購入するだけの金が。だから土地を買って、物理的にパパラッチ共が入って来れない自分の楽園を作った。カメラを使っても家が映らないぐらいの広さのある土地を。そうする事で面倒な連中を追い出したのだ。

 

 だから家を出ると静かな田舎の風景が続いている。家の横にあるのは走る為のコースと、そして街へと続く道ぐらいだろう。そのほかには細々とサンデーサイレンスの趣味で建てられた建築物ばかりだ。だが元々彼女以外は同じようにマスコミを嫌う昔の仲間のウマ娘達ぐらいしか来ない。

 

 そんな場所に、他の誰にも邪魔されないようにディーと一緒に出てきた。

 

 家の中とは違い、外に出れば人の気配も何もない―――見渡す限り田舎の自然だけだ。

 

 ディーとそこへと出てきてからしばらくは無言で過ごす。その間にも時間は過ぎ去って行き、段々と景色は夕日の色に染まって行く。地平線の向こう側では夜が待っている……今、日本ではどの時間だったのだろうか、時差とか考えた事なかったな。

 

「フィアさん……もう、走ってくれないの?」

 

 ディーの問いに答えるのは簡単だ。そもそも俺はアメリカで走り続けるつもりはない。競バ後進国とか馬鹿にされまくってるが、俺は日本で走るのが好きだ。日本には面白い奴がいるし、日本のレースで走る事に意味を感じている。ただその中に、世界で走るという事も選択肢にあるだけで。

 

 ただ、それをストレートに言葉にしてしまうのは……ちょっと、違う。

 

 だから、言葉を変えた。

 

「俺はよ、走る事に興味を持ったのは小学校に入ってからなんだわ」

 

「……?」

 

 まあ、聴けよとディーを片手で制する。

 

「まあ、それまでがそれどころじゃなかったのは事実なんだけどな。今じゃ当然な顔をしてコントロール出来てるんだけど、当時は全くコレがコントロールできなくってよ」

 

 彼岸花を生やして足元から摘む―――実際に生えている訳じゃない。俺が持っているイメージ、感覚を感受性に対する干渉で共有しているのにこれは近い。簡単に言ってしまえば究極のごっこ遊びだ。究極の空想を作ってそれに浸っている。領域とはそういうもんだ。

 

 だけど、俺はその起源が違った。

 

「ディーは、生まれる前の事を覚えてる?」

 

「いえ……覚えてないです」

 

「俺は覚えている。感触を、匂いを、時間を。強烈すぎる程のイメージ、脳に刻み込むというより自分がその一部であるようにさえ感じられた。俺はね、ディー。領域を使おうとして使っている訳じゃなかったんだ、その頃は。ただ知っている事が()()()()()()()()()()()()だっただけにすぎないんだ」

 

 生と死の意味を語るほど無駄なものはないだろう。だが端的に語れば、俺は命というものの答えを理解していた。だから自然と俺の認識を通して、領域という形で中身が溢れていた。

 

「部屋が凍ったり、花が咲き乱れたりで大変だったよあの頃は。これがあまり人に見せられない物だって解ってからは必死に蓋をする様に頑張って……それで幼稚園は回避してたんだわ」

 

 苦笑する。結局、幼稚園には通えなかった。自分の扱っているものが危険だったからだ。死のイメージの花なんて人に到底見せられないだろう? 今は割とコントロールできるのでそう恐ろしくもないが。結局幼稚園には通えなかった。

 

「小学校に入って、初めて走ったよ。クラスの徒競走だったけど。楽しかったなあ、全力で走るのは。何も考えず頭を空っぽにして、ただただ前に出る為に走ってゴールする。自分の中にあった何かが満たされる様な気持ちを初めて感じたよ」

 

 目を閉じて思い出す。初めて全力で走った時を。それから俺は、変わったと思う。ウマ娘という種族を受け入れたのだろう。

 

「それからはもっと強い相手を求めて野良レースで走ったり、フリースタイルの競技場を探したりで結構走ったよ。勝つ事もあれば当然のように負ける事もあった」

 

「フィアさんが、負けたんですか?」

 

「本格化前だったしなー。当然負ける事もあったよ。それはそれで楽しい経験だったけどな。割と満足の毎日だったよ。非合法のレースに出て金を稼いで……つっても今ほど稼げないけどな? 今の稼ぎと比べるとクソみてぇなもんだよ。今もドルを稼いだばっかだしな」

 

 いやあ、やべぇわケンタッキーダービー。馬鹿みたいにドル入ったもん。

 

「でも結局は本気で走っても上を目指そうとは思わなかったんだよな」

 

「……どうしてですか? だって、フィアさんは何時ももっと上を目指して走ってるじゃないですか」

 

 笑う。

 

「俺は寒門出身だよ。そもそもトレセン学園に入るコネさえ無かったんだよ。俺が入学できたのはどっかの馬鹿なファン1号が俺を走らせたかったからだよ。アイツ、ご丁寧にケンタッキーの時の万バ券の写真送って来やがった。アイツ本当に馬鹿だよなぁ」

 

 けらけらと声を零し、はあ、と溜息を吐く。

 

「トレセン学園に入っても最初はやるだけやろうって程度に思って―――そして、お前に逢ったんだ」

 

 俺はこれを運命の出会いだと思った。

 

「ディー、俺が今限界を超えてまで走ろうと思ったのはさ」

 

「うん」

 

「お前に逢ったからなんだ」

 

「……」

 

「お前の走りを見た瞬間魂を焼かれると思ったよ」

 

 きっと、俺の存在を焼き尽くしてくれる奴がいるなら―――それはこいつに違い無いだろう。直感的に、或いは本能的にそう感じた。だから焦がれた、本気で戦う事に。こいつと戦うには俺自身を限界の更に先へと練り上げる必要があると思えた。

 

「ディー。俺が三冠を走ろうと思えたのはお前がいたからなんだ。お前のいないトゥインクルに、価値はないんだ」

 

 愛の告白にも近い言葉を受けて、ディーは俺を見上げるように視線を向ける。彼女は気づいているだろうか、あれ程酷かった吃音が今ではもうほとんどない事が。彼女が他人の目を見て話せるようになっている事が。

 

「私は―――ずっと、ノーザンの家で、栄光を掴むためにトレーニングを受けて走らされてきた」

 

 走るのは、特別好きでもなかった。

 

「でも走るのが義務だったから。ノーザンの家の子として私は走らなきゃいけなかったから。走れって言われたら走らなきゃいけなかった。栄光を、掴むべきものを家に齎さないとならないの。それが、ディープインパクトの使命で―――」

 

 でも、それでも、

 

「フィアさんと出会って、変わった」

 

 きゅっ、と拳を作る。

 

「走る事が、初めて楽しいと思えた。初めて、戦いたいと思える人が出来た。初めて、この人と一緒に居たいと思えた―――」

 

 史実―――或いは本来の世界における、ディープインパクトは恐らく日本で最も愛された馬だっただろう。だがあちらで幸せだったことが、此方の境遇へと繋がるという訳では決してない。

 

 同じファーム所属の馬だったのにウマ娘になると名門と寒門で分かれたりと、境遇や背景は世界を越えた事で大きく変わる。ディープインパクトを取り巻く過去の出来事、そして家の事情もその内の一つなのだろう。史実がどうであれ、彼女の家は彼女を栄光を掴むための道具として見ていたのかもしれない。

 

 だが今、有り余る感情をディープインパクトはその体に込めていた。

 

 抑圧されていたものを吐き出す事が出来るだけ、彼女はこの1年で変わって来たのだ。

 

「ディー、入学の頃と同じ質問をしよう」

 

 ディープインパクト、君は―――。

 

「―――どうして、何故、走るんだ」

 

 俺の問いに、ディープインパクトが答える。

 

「全力の貴女に勝ちたい」

 

 覇気すら感じる程の声。揺るがない意思。貴女しか見えないという視線。これが愛なら俺達はきっと、相思相愛だったのだろう。だけど……この感情を、想いを、愛という言葉で片付けるのは嫌だった。そんな簡単な枠組みに拘りたくなかった。

 

「ディー、俺はこの地で限界まで俺自身を練り上げる。ムリならまた別の国で限界を超える方法を見つけてくる」

 

「うん……なら私は国内で最強の名を、取ってくる。他の誰にも負けない」

 

 その果てで、俺達の最高のレースをしよう。それは有馬でも良いし、或いは凱旋門なんて場所でも良い。だけどこれは約束だ。俺達は限界まで互いを鍛え上げ……これまで以上に自分達を追い込み。

 

 そして強くなる。

 

 強くなって、同じターフの上で対峙する。

 

 このクラシックはその為の時期。

 

 言葉は語りつくした。想いは伝え合った。同じ願い、同じ意思を持つ者同士、これ以上の言葉は必要なかった。

 

 徐々に暗くなって行く夜空、俺はディーの腰に手を回して軽く持ち上げると嬉しくなってくるくるとその場でディーを振り回す。

 

「も、もう……フィアさん」

 

「ははは」

 

「も、もう」

 

 笑って誤魔化すようにディーを振り回す。それをディーも面白がって笑う。くるくるくると回りながら笑い声を零していると、ふと、気づいた。

 

 ゴルシとマックイーンがカメラを構え、桐生院Tと西村Tが大型マイクを構えてるのが。

 

 抱えるディーが腕の中で一気に顔を赤く染めて行く。

 

「いやあ、良い絵が取れたわ」

 

「遺言はそれで良いらしいな」

 

 逃げ出そうとするゴルシ、ゴルシを一瞬での判断で盾にしてから逃げ出すマックイーンを全力で追いかけ出す。こうやって最後はちょっと茶化して貰えた事に感謝しつつ。

 

 俺の、アメリカ遠征が始まる。




クリムゾンフィアー
 リコリコで見た百合ゴーランドが1度で良いからやってみたかった。やった

ディープインパクト
 国内を蹂躙する勢いで走り切る事を決めた

ゼンノロブロイ
 ぱかライブ【AMERICA】を見て秋、ドリームに行かずディープインパクトを迎え撃つ事を決める
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