転生赤毛バは凱旋門の夢を見る   作:てんぞー

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35話 ヒトカスvsカピバラ

「今日はちょっとマイケルさんと温泉旅館に行ってくるね」

 

「いってらー」

 

 どうやら我がトレーナーはよう知らんおっさんとの絆を5段階まで結んだらしい。いつの間に仲良くなったんだ……ヒロインなのか? あのおっさん……俺には何も解らない……だが俺の調子が上がる未来は確定したので、これを機にちょっと街に出る事にした。

 

 ぶっちゃけ、レース以外の時は大体姉御の家に引きこもっている。というのもこの土地を出るとパパラッチのクソボケカスカスクソカス共が煩いからだ。店の中に入るとそこからカメラを構えて待っているという低能さとモラルの欠如具合はもはや有名だ。伊達にハリウッドスターの精神を病ませていない。

 

 だから俺もそれを経験しようと思う。

 

 そう言う訳で俺はカピ君にリードを付けて街へとお散歩に来た。途中まで一緒だった姉御は新しく庭に解き放つペットを求めてペットショップへと向かった。知ってるか? 侵入者対策に土地に点在する池にはワニが棲んでるんだぜあそこ。殺意高いよな。

 

 そんな訳で比較的に近い街にやってきたのだが……まあ、パパラッチがいるわいるわでうざかった。

 

「Hey! ちょっとこっちを見てくれよ」

 

 中指を突き立てると写真を撮られる。適度なファンサをしているが、30人ぐらいのパパラッチが俺を包囲してカメラを向けているのだから非常にうざい。そりゃあ姉御も引きこもるようになるわ。これはちょっと、お買い物に出かけるとかそういう領域を超えている。

 

 そりゃあ日本のマスコミのがマナーが良いとか言われるわ。いや、五十歩百歩かもしれない。公園のベンチに座っているだけなのに俺にはずっとカメラが向けられている。これ、何かスキャンダルかスクープを待ち望んでいるんだろうなあ。

 

「Crimson! ちょっとインタビューを良いかな? それじゃ―――」

 

「おい、こっちが先だぞ!」

 

「どうしてアメリカに来たんだい? ちょっと話してくれないかな?」

 

「おい、ジャップ! 本気で3冠を取れると思ってるのか?」

 

「……」

 

 あぁ、折角のお散歩なのにカピ君の機嫌が悪くなってきている。ご近所さんとのカピバラ交流さえできなかったせいでストレスが溜まってきているのだ。可哀そうに……ヒトカスという種がカスな所を見せているせいでカピ君の心が汚れてしまう。

 

 これは早急に対処すべき事態だ。俺は一瞬スマホを取り出してカンペを確認する。良し。

 

 片手で周りの喧騒を牽制する。まだ何か喋ろうとする奴は領域で凍らせて強制的に黙らせる。それで集まっているパパラッチたちが全員黙ったのを確認し、俺は足元で欠伸をするカピ君を持ち上げた。

 

「いいか、地球にこびり付く塵芥共。お前らが騒がしいせいでカピ君がご機嫌斜めだ」

 

「Ah……俺の目には眠そうにしている様にしか見えないんだが?」

 

 それがそのパパラッチの最期の言葉だった。男は全身から彼岸花を生やしたオブジェになった。残されたパパラッチたちは自分達の口にしっかりとチャックした。偉いぞお。俺は賢い人は好きだよ?

 

「だが俺の心はこのアメリカの大地よりも寛大だ。ここにいるカピ君の散歩に来ているが、貴様ら塵のせいでそれが台無しになってしまった。だが一流のウマ娘は常に慈悲を持ち合わせている。解るなヒューマン? 俺はお前らにチャンスを与えようというのだ」

 

 俺の言葉にパパラッチ共が頷いた。

 

「良いか―――今、この場でカピ君を満足させる事が出来た奴が今日、俺との独占インタビューの契約を取れる。それ以外の奴らはこの場を去る。去らなければお前もフラワーアートだ。良いな?」

 

 パパラッチ達が頷いた。どちらかというと今提案したこの勝負をショーにして記事にしようとする奴らの方が多い。だが中にはやはり、独占インタビューを求めて前に出てくる奴がいる。

 

「Ha、なら俺に任せて貰おうか。こう見えて家では犬を三頭飼ってるんだ」

 

「ほう」

 

 ベンチに座った状態で足を組み、腕を組む。袖を捲って前に出てきたパパラッチの青年の姿を見てからカピ君へと視線を向ける。俺の視線を受けてカピ君はのそのそと立ち上がった。遊んでいい? 遊んでいいの? とカピ君は首を傾げている。可愛い奴だなぁ。

 

「良ーし、よしよしおいでおいでー」

 

 人のよさそうな笑みを浮かべたパパラッチがカピ君を誘う様に大きく腕を広げ、俺はカピ君に指示を出した。

 

「レッツゴー!」

 

「きゅるるるる……きゅっ!」

 

 パパラッチの青年を見たカピ君が地を蹴って加速し、パパラッチの胸元に食らいつくとそのまま地面に引き倒して池のワニ直伝のデスロールを始める。

 

「がああああ!! がああああ! があ―――!!!」

 

「きゅるるるるるる」

 

 可愛らしく鳴きながら覚えたばかりの必殺技をパパラッチに披露する。可愛らしい姿から殺人的な奥義が展開された絵面に全パパラッチが凍り付いた。10秒間、たっぷりとデスロールを披露するとゴミとなった元パパラッチを投げ捨てて欠伸を零した。

 

「うーん、どうやらカピ君を満足させられなかったようだねぇ。使えねぇヒューマンだ」

 

「……」

 

 ぼろ雑巾になった物体はぼろぼろだが生きているし無傷だ。ロールした時の勢いと速度だけでヒトカスをブラックアウトさせたらしい。流石池のワニから教わっただけはある。欠伸を漏らしながら帰ってくるカピ君の頭を撫でる。

 

「で、次はどのゴミが挑戦する?」

 

 その言葉に一斉にパパラッチが後ろへと下がった。なんだよぉ、カピ君の魅力が解らないのかこのカス共。がっかりした。露骨に溜息を吐いて、ベンチから立ち上がる。カピ君のリードを握ってちょっと引っ張る。

 

「帰ろうぜカピ君……ここにお前の遊び相手はいなかったみたいだ……」

 

「きゅる」

 

 カピ君も心なしかどこか寂しそうだ。だがしゃーない、ヒトカスはカピバラ以下の下等種族なのだ、連中に期待する方が間違っているのかもしれない。そう思って去ろうとした所。

 

「―――お待ちなさい、私がその子のお相手をしましょう」

 

 そう言ってパパラッチの間から出てきたのは一人の老紳士風の男だった。白髪をオールバックに流しサングラスを付けたちょい悪おやじ……な雰囲気のあるイケおじだった。割と俺のカッコいいという心をくすぐるのがポイントだ。

 

「あんたは?」

 

「番組Uma Americaのプロデューサー兼ディレクター兼光の戦士兼キヴォトスの教師だ。私は普段は周りに対して勝気な子が先生の前でだけでは色々と気にして少し大人しくするところが性癖だ……!」

 

「ネルッ……!」

 

 俺達は解り合えるかもしれねぇ。そんな期待がある中、老紳士は上着を脱ぎ、シャツを脱いで上半身裸になった。そのまま上半身に力を込めてバルクアップをしてからファイティングポーズを取る。

 

「来なさい……全霊でお相手いたしましょう」

 

「カピ君……レッツゴー!」

 

「きゅるるる!」

 

 一瞬の加速からカピ君が老紳士に食らいついた。

 

「ふんっ!」

 

 くらいついかれた老紳士は自分から地面へと倒れ込み、そのまま回転を開始する―――そう! デスロールに対する先行ロールでロールのコントロールに入ったのだ! カピ君は習得したはずの殺人奥義を一瞬で攻略され、驚きながらも楽しそうに地面を跳ねながらデスロールを続行する。

 

「ふんっ……はぁっ、はあ!」

 

 大地を蹴り上げた老紳士とカピ君の姿が跳ねあがり、空中で回転しながら再び落ちてくる。

 

 回転しながら地面に打ち付けられる姿が受け身を取りつつ衝撃を受け流す。疾風の如き速さで地面を転がりながら老紳士vsカピバラの決戦が幕を開ける。

 

「こ、これが一流のジャーナリズム……なのか……」

 

「俺達が目指すべき頂点」

 

 その日、その場にいたパパラッチ達に正しいジャーナリズムの姿が刻まれた……!

 

 調子が上がった!

 

 体力が回復した!

 

 パワーが上がった!

 

 賢さが上がった!

 

 キラーチューンのヒントを獲得した!




クリムゾンフィアー
 満足して帰った

カピ君
 楽しかった

老紳士
 独占インタビューをゲットした

パパラッチ
 冷静になって何かがおかしいと気づいた
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