流石にベルモントステークスが近くなると偵察も露骨になってくる。
開始まで1週間となると敷地内にドローンを放ったり、中に入って来ようとする連中が出てくるようになってくる。それに対して金を出して警備を雇い、中に入らないようにする事で対処するが……それでもドローンや出待ちするパパラッチの類は減らない。
もし、ベルモントステークスでこれまで2冠獲得しているウマ娘の秘密や次の戦術を探る様な事が出来れば……それだけで大金になるだろう。ベルモント1着の賞金は60万ドル、日本円で8000万円だ。リスクを背負っても探るだけの価値がある。
だから違法スレスレの行いでも偵察しようとする奴は出てくる。
それでも未だに偵察を受けずにいられるのは徹底した情報に対するガードと、先日独占インタビューでテレビ出演した事による効果だろう。完全秘匿するとどうしてもスクープが欲しくて飛び込んでくる奴がいるが、一度でもテレビ出演すれば適度なガス抜きになるのだ。
まあ、それでもウマ娘のチャンネルなのにずっとブルアカの話しかしなかったが。
適度にメディアの要望に応える事で向こう側のガス抜きを行いつつも、ベルモントへと向けた最終調整に入る。もはやレースまで数日となるとあまり派手なトレーニングも出来ずに、コンディション調整が主な内容に変わってくる。
そしてレース開催数日前ともなれば、怪我を避けるためにもほとんどのトレーニングが削られる。これまではずっとセクレタリアトとの併走がメインだったが、残り数日となると勉強やレース中の動きを話し合う事になる。
ベルモントステークスの最終的な確認を行う為にポケモンSVを手元で遊びながらレースの話をリビングでする。今日もテレビは野球中継を行っており、テーブルの上にはコーラとチップスが置いてある。ポケモンをしながらポテチを食べるブリーフィングは最高の時間だと思う。
「―――さて、ベルモントステークスで一番気を付けなければならないのは総員で潰しに来られた場合の事だと思う」
アメリカクラシック三冠レース、最後の一戦。ここには三冠を走ったクラシック級ウマ娘達の青春、そのほぼ全てが詰め込まれると言っても良いだろう。故に、このレースに注ぎ込まれる熱量はこれまでの比ではない。
「現状、等速ストライドの完成度は5割だ。フィアーが再現できているのはその加速力とバ場をものともしない走法だ……正直、この時点で色々とおかしな領域にあると言っていいけどまだ、まだまだオリジナルに比べると拙いって言えるレベルだ」
西村Tの言葉に本日の星6レイドを消化しつつ頷く。こっちはニャイキング出してニャイキング艦隊による暴力で攻略しようとしているのに、デカヌチャンを出そうとしている愚か者がいる。お前、レイドの必勝パターン調べてないだろ? いやなおと、応援、てだすけでホストがアイヘだぞ。
「等速ストライドの制御で脳味噌酷使してるから、正直加速中は領域を使ってる余裕ないんだよなぁ。後は細かいレースコントロールとかもやってる余裕がない。相手に仕掛けられたら加速して逃げるか、それとも応じて加速を止めるか……の選択肢になっちゃうな」
「実際、プリークネスじゃ領域のぶつけ合いになったしな。ベルモントでも確実にあるだろう」
Afleet Alex、俺を止める為に領域を使ってきたウマ娘だ。アメリカの三冠路線はかなり過酷なルートだ。その為、走り切ったウマ娘達はその足を潰すと言われるレベルですり減らす。西村Tが言うには俺の足は異次元レベルで頑丈なため、疲労はしても怪我の気配はないとの事だ。
それでも、過酷なレースはウマ娘を限界まで削る。余分なものを、不要なものを、削って削って削って、そしてそれを美しいマスターピースへと磨き上げる。限界を超えるレース、圧倒的な力を持つウマ娘……もし、心折れる事なく戦う事が出来れば、強すぎる相手に本気で立ち向かう事は大きな成長へと繋がるだろう。
俺がセクレタリアトとレースしているのもそうだし、日本のウマ娘がディープインパクトに磨り潰されているのもそうだ。何か聞いた話、俺をリスペクトして海外への挑戦を視野に入れるウマ娘が日本では増えているらしい……ちょっと恥ずかしいな。
「Afleet Alexは領域を使ってきた。そしてこれまでのレース、Crimsonも領域で応えてきた。もう既に十分な経験値は溜まっているだろう。他のウマ娘が……多くて3人か4人は領域に目覚めてベルモントで使ってくるだろうな」
ティズナウがチップスを咥えながらそう言う。
「
「或いは、その場で殻を破って成長する、とかね」
「……ありえない話ではないかな。僕が知る限りクリムゾンフィアーというウマ娘はレース中が最も集中力が高まり成長する瞬間だからね。彼女がレース中に技術を習得して帰ってくるのは、限界を超えた集中力を通して直感的に、或いは本能レベルで必要な技術を脳と体に刻み込んでるから……みたいなんだよね」
へぇ、そうなのか。
「むぅ……今期はサーフゴーがアホ強いな。変化技無効の特性とか何を考えてるんだゲーフリ」
「Crimson、ちょっとエースハッサム作りたいから通信交換してくれないかな」
「御大、赤色パ?」
「うん。赤統一するの楽しいよ」
俺は負けるの嫌だから普通に環境ポケ使っちゃうんだよなあ。殿堂入りした時もサザンバンギ採用したし。サザンバンギにブラッキー採用で大体悪ポケ愛用してしまう。性根がやっぱ好みにも出ちゃうのかなぁ……。
「領域に対抗するには領域、か。実際の所フィアーはどれだけ領域を使えるんだい? 今まで見せてきた以上の弾丸はあるんだろう?」
西村Tの言葉にちらり、と視線を画面から外して顔を見る。西村Tの視線ににこり、と笑みだけを返して視線を画面に戻す。俺の固有/領域は元々は一つだ―――今使っている彼岸花と凍結は
だから性質からすれば普通の領域よりは少し弱い。それを俺のセンスと性質でブーストしているだけだ。そしてそれを補うために他所から領域をレンタルしたり継承したりで誤魔化している。だから彼岸花と無間地獄はあくまでも魅せ札だ。
本命は、俺の領域が破られた時にのみ発動できる、本来の姿だ。
クラシック三冠、その最後のレース。或いは、ここまで鎬を削って来たライバルたちであれば俺の本来の領域を発揮できるようになるかもしれない。だがその場合、俺は等速ストライドを駆使して走ることは出来ないだろう。
……それに個人的にこの領域を披露する相手はディーであって欲しいという気持ちがある。他の奴に使わされたくねぇ。
「加速さえ乗り切ればスタミナのごり押しで逃げ切れる気はするんだけどなぁ」
ぴこぴこ。
サーフゴー、オーロンゲは今作のパーティー構築における必須枠かもしれない。特にすてゼリフを貰っているオーロンゲは悪環境においてフェアリー技を打てる強いポケモンだ。見た目がカスだが採用する価値はある。
「問題は序盤から中盤だな。連中がお前を倒すとすればそこら辺だろうな」
序盤から中盤で徹底してデバフ祭りを開催し、俺の加速力を封じて伸びるのを阻止する。アメリカのウマ娘達が俺に対して取る戦術で一番現実的なラインだろう。
一番現実的なラインなのだが……まあ……これ、皐月賞で既に1度やっている事なのだ。対ディープインパクトで。それがそっくりこっちに向けられるという状況は中々面白いものがある。
アイツが超えられたのだ、俺が負ける訳にもいかない。
「テツノブジンかっけぇなぁ。採用してえ」
「メインウェポン不足で採用厳しいよ」
「S高いから上から殴って圧力かけて最後はみちづれで相手のエースと一緒に死ぬんだこいつは。武士道とは死ぬ事とみたり」
「武士道の化身みたいなポケモンだなぁ……」
ベルモントステークスまで残り数日。
アメリカの歴史に消えない偉業が刻まれる日は……すぐそこまで迫っていた。
クリムゾンフィアー
テツノブジンを気に入った
セクレタリアト
エース型ハッサムの使い手
ティズナウ
環境ポケモンを使うタイプ
サンデーサイレンス
対戦で負けると相手の頭に銃を突きつける