俺の口八丁に乗せられターフに集ったウマ娘は合計で12人になる。模擬レースを開催するのであれば丁度いい人数だと思う。元々はディープインパクトの実力を測る為に集めた模擬レースだったが、考えてみれば模擬レースは選抜レースの前にウマ娘たちがアピールする為の恰好の催しだ。
さて、ここで少しウマ娘とトレーナーの契約の話になる。
ウマ娘とトレーナー、双方の合意があるのであればいつでも契約し、チーム活動などを行う事が出来る。ただ普通に学園生活を楽しんではスカウトされる事はないだろう。その為、トレセン学園では選抜レースというレースをデビュー前のウマ娘たちに提供し、トレーナーたちにスカウトされる機会を提供するのだ。
ただ選抜レースはレース本番に合わせて大分レギュレーションがキツイ。本番さながらのシチュエーション、距離とは言うものの一々開催するのにある程度の準備と金がかかる。その為、ウマ娘たちは同期を集めて模擬レースを開催するのだ。
日時、場所を指定して練習用のトラックでレースを行う。ゲートを使わないから簡易的なレースになってしまうが、ウマ娘の能力を確認するには丁度良い場所でもある。ウマ娘たちは模擬レースを通して自分をアピールし、トレーナーはそれを判断材料にする。
今回の模擬レース、音頭を取ったのは俺だ。転生している分、そこら辺の人生経験はちょっとだけ小娘共よりは多い。だからこの手の仕切りは割と雑にこなせる。
……まあ、社会経験の薄い小娘たちを丸めこむのは割と容易かった。
そんな訳でターフには12人のウマ娘たちが、そしてレースを眺められる柵の外側には俺を含めた他の同期が、そして興味を持ったウマ娘たち、そして最後にスカウトの判断材料にしようと足を運ぶトレーナーたち。
「ほほー、いるなぁ」
ちらり、と少し離れた所に視線を向ければスーツに眼鏡の女性トレーナー、東条ハナトレーナーの姿が見える。確か最強チームリギルのトレーナーだった筈だ。今年にスカウトするだけの逸材がいるのかどうかを確かめに来たのだろうか?
いや、でもリギルってトライアルやってるしな……。
そのほかにもちらほらと有名トレーナーが視察に来ている。やはり一番早いタイミングで開かれた模擬レースには興味が出るか。まあ、なるべく素質と才能のあるウマ娘は契約しておきたいだろう。
と、思案に耽っていると横に一人のウマ娘がやって来た。ニット帽を被ったウマ娘は静かに横に立つと、棒付きキャンディー飴を舐めながら口を開く。
「一口」
「1000円」
「6番に10口だ……!」
「毎度あり」
俺はササッとバ券をナカヤマフェスタに渡した。6番はどこぞの名門のウマ娘か、まあ、ディープインパクトじゃないなら外れだろう。
俺はこっそりと自分の中でのナカヤマフェスタの評価をギャンブル中毒者からレジェンドカモへと変えておいた。
「おーい、そろそろ準備は良いかー?」
「オッケーよ」
「行けまーす!」
「は、ひゃい!」
12人分の返答に頷く。
「んじゃ位置につけー」
レースの開始を告げる為の旗を手に取る。それに合わせて白線に並ぶウマ娘たちがスタートの態勢に入る。
その中でも目を引くのはディープインパクトだろう。
あれ程開始前まではおどおどし、周りを怖がりながら助けを求める視線を此方へとずっと送ってきていたのに、いざレースが始まるとなるとその全てが消え去り、集中力で満たされた自分だけの世界に入り込んだ。
「おっかねぇ」
思わず零した言葉を舌の上で転がしつつ、旗を持ち上げる。周囲でがやがやと声を上げていた観客たちが黙り込み、視線がターフに集まる。数秒、緊張感を保つように旗を掲げた状態から―――、
「GO!」
一気に振り下ろした。同時に、飛び出すようにウマ娘たちがスタートを切った。先頭を行くのはあー……誰だっけ、忘れた。ぶっちゃけあまり興味のない相手を覚えるのは得意じゃない。ただディープインパクトは出遅れる事なく前に出てから、するりとすり抜けるように後ろへと下がった。
「差し……いや、追込みか?」
「綺麗に下がったな。動きが明らかに慣れてるものだ。学園に来る前から走り方の勉強をしていたみたいだな、あれは……」
聞こえてくるトレーナーたちの声は今のディープインパクトの動きを評価しているらしい。やはりトレーナー、一目でディープインパクトが普通じゃないというのが解るらしい。最後方に控えたディープインパクトが備えるようにバ群の背後に控える。
その間に逃げのハナ争いは終着し、逃げが2人リードを作ってレースを引っ張る。中団は先行が多めでやや団子になりつつあり、差しは少ない。距離は1600メートル、選抜レースやメイクデビューで良く見る距離だ。この距離はあっという間に駆け抜けられる距離だ。レースの展開は早く進むだろう。
中盤、後ろに控えるディープインパクトが終盤を見据えて位置取りを調整し始める。その動きを見て悟った。
この中盤戦、ここから抜け出さなければ追いつかれる、と。
「へぇ、中々ヤバいのが今年は出てきたな」
「あー、やっぱナカヤマパイセンでもそう思うんすか」
「ククク……ありゃあ見れば解るだろ。他の連中はもう手遅れだな」
「ナカヤマパイセンのバ券もな」
「……」
ナカヤマフェスタが悲し気に手元のバ券を見た。最終コーナーを回って来て大外から一気に捲り始めるのと同時にナカヤマフェスタの握るバ券は紙くずと化した。これでも凱旋門2着という経歴を持つレジェンドなのに……どうして、こうも外れる勝負ばかりするのだろうか。今度もまた稼がせて貰おう。
「やはり次元が違う―――」
どこからともなく、そんな声が聞こえてきた。大外から捲ったディープインパクトはそのまま先頭に立つと4バ身程の距離を保ったままゴールを切った。最後の4バ身という距離を残してゴールしたのは、彼女が全力ではなく余力を持ってレースを残したことの証拠だろう。
これでいて、マイルは彼女の適性外。ただその暴力的なスペックと才覚で、ディープインパクトはレースを捻じ伏せた。恐らくやろうと思えばもっとスマートにレースを運べただろう。だけどその必要性がなかった。それだけの話だ。
「あーあーあー、さっすが世代の顔だ。まるで次元違いの走りだわ。やってらんね」
柵に寄りかかりながら溜息を吐く。名前を聞いてまさか、まさかと思っていた。ディープインパクトはたとえ、競馬を知らなくても知る程のレジェンドホースだ。俺はアプリからコンテンツに入った人間だった。競馬は良く知らなかった。
それでもアプリに触れる前からディープインパクトという馬と、その強さを知っていた。煩い程に連日テレビで取り上げられていた事実を知っている。だから彼女が、伝説を刻むという事も良く知っている。ただその事実を目の前で突きつけられると、やるせない。
「今からティアラ路線に行くか悩むなぁ」
溜息と共に言葉を口にすれば、横からナカヤマフェスタの忍び笑いが聞こえてくる。横に視線を向ければおいおい、とナカヤマフェスタが笑う。
「そんな心にもない言葉を口にするなよ。あてられてるぞ、お前」
ナカヤマフェスタは視線を足元へと向け、それに釣られるように足元へと視線を向ければそこには彼岸花が咲いている。
我が死のイメージ、象徴、闘争心の現れ―――領域。ウマ娘が持つ神秘のイメージ、それが闘争心に触発されて零れ落ちている。ふと、自分の顔に触れてみれば頬が歪んでいる事に気づく。
「ククク、それが答えだ。論ずる必要すらねぇ、お前の心は騙せねぇからな」
レジェンドカモの評価は訂正しておこう。この人、思ってた数段厄介かもしれない。感情を抑え込む様にたっぷりと深呼吸をし、衝撃の表情を浮かべるウマ娘たちを後ろに笑顔で手を振るディープインパクトに軽く手を振り返す。
「アイツの三冠超阻みてぇ」
「そう来なくちゃな」
けらけらと笑いながらナカヤマフェスタがポケットから賭け金を取り出す。臨時収入だやったぁ。ナカヤマフェスタから回収した賭け金をいそいそとスカートのポケットの中に突っ込み、自分の感情を自覚する。
勝ちたい。負けたくない。ぶち倒したい。主人公に負けたくない。あの無敗三冠の伝説を粉砕してやりたい。
無謀だろうか? まあ、無謀だろう。あのチワワは恐ろしく強い。才能で溢れ、環境にも恵まれている。だからこそアレだけの実力を本格化前に発揮できているのだろう。それを倒すとなると、生半可な覚悟では太刀打ちできないだろう。
だけど、それで良いのかもしれない。
そうでなければ面白くはない。
思い出せ、そもそも俺はスリルと楽しさを求めて野良レースを走っていた筈だ。ディープインパクトなんて伝説が前にあるから諦めて違う道を探すのか? それこそ戯言だろう。
「は、お前のこれからの活躍を期待させて貰うさ、後輩」
そう言うとナカヤマフェスタは少し寂しくなった懐を温める為にも新たな勝負を探して旅だとうとする―――が、駄目! 横から皇帝のインターセプト!
「やあ、ナカヤマフェスタ。私の勘違いじゃなければ今、後輩とギャンブルをしていなかったかな? それも金銭を絡めた。もう知っているかもしれないが校内で金銭を絡めた賭け事は禁止だよ」
「チィ! 皇帝様のご登場か! おい、後輩、お前はとっとと―――ってお前!?」
皇帝、シンボリルドルフが出現した瞬間に俺はナカヤマフェスタを見捨てて逃げ出していた。俺には他の敗北者共から賭け金を回収するという崇高な使命があるのだ、決してここで生徒会の権力に屈する訳にはいかなかった。
さよなら、ナカヤマフェスタ。
フォーエバー、ナカヤマフェスタ……!
クリムゾンフィアー
この後10秒後に掴まった。
ナカヤマフェスタ
以降、定期的にPopしてはカモられる。
シンボリルドルフ
実は割と楽しんでる。