「カフェ、コンセンサスを取る為にまず私が何をするのかを再確認したいんだけど良いかな」
「そう、ですね」
勝負服に身を包んだウマ娘達が保健室の中で語り合う。その衣装は特別なもの―――ドリームシリーズへと移籍してからもなおその衣服の価値は変わらない。つまり、それだけ気合を入れているという事を証明している。
「フィアーさんは半年前ベルモントステークスの直後、襲撃を受けて意識不明に陥りました」
「世界的に有名なニュースになったねぇ。怪我はほぼなし、しかし頭を打ったのが原因で意識不明……だったっけね」
アグネスタキオンの言葉にマンハッタンカフェが頷いた。
「そうです。それ以来ずっと寝たきりの状態になっているのが彼女、クリムゾンフィアーです。医学的には健常、しかし目を覚まさない……病院に置いておくわけにもいかずトレセン学園での預かりになって……今」
「まあ、セキュリティもしっかりしてるからねえ。マスコミとか学園内に一切入って来れないし」
トレセン学園のセキュリティ意識は非常に高い。それこそ今までその手の被害を一度も受けた事がないレベルで。ただ今はそこが重要ではない、とカフェが言葉を続ける。
「原因……果たして原因は何でしょうか? 何故フィアーさんは眠り続けているのか、何故起きないのか……その原因は果たして何なのか? 医学的には健常であると証明されています。なら、その原因は精神的なものが由来だと思われます」
ふむ、とタキオンは腕を組んで呟く。
「私が知る限りフィアー君はウマ娘の中でも最も神秘的なウマ娘だったね。なんというか……他の誰よりもウマ娘という生物の根源に近い感じがある。ディープ君が生物方面で特化したウマ娘なら、フィアー君はその真逆で神秘方面に性質が特化したウマ娘だね」
タキオンの言葉を肯定するようにカフェが頷く。
「私達ウマ娘はヒトとほぼ同じ姿をしていながら医学的には答えられない多数の神秘をこの身に抱えてます。……恐らくその答えに一番近いのが彼女でしょう」
クリムゾンフィアーとは、かなり不思議なウマ娘だ。妙にオカルト方面に強く、そして異様に詳しかったりする。その事実に助けられたのは1度や2度の事ではないし、カフェは何度もオカルト関連で助けられているのを知っている。
だからこそ、思考する―――果たして、本当にクリムゾンフィアーは起きられないのか、と。
「結論から入りましょう。私はフィアーさんが起きられないのではなく、わざと起きないのではないかと思ってます」
その仮説も、カフェがこの半年間で集めてきた証言などを元に構築されている。普段そうするように、カフェは理解を得る為にその足跡を追う事にした。つまりフィアーを起こそうと決めてからの数か月間、彼女の辿って来た足跡を辿った。
そして行きつくのが彼女の生家。つまり彼女の実家であり、彼女の母親の存在。恐らくは地上で最も娘の事を理解している人物でもある。当然訪れたカフェはフィアーの話を聞いてきた。彼女が起きない理由、根拠を求めて。
「ちなみに母親の反応は?」
「腹が減ったら起きるだろう、と」
「大物だなぁ」
どっとはらい、話が戻される。
「フィアーさんのお母さんと話していて解ったのは、彼女が普段から見せる彼岸花と凍結の領域は彼女が本来有する領域に蓋をする為のものだったそうです。つまり彼女が持っている領域は元々一つ、そのイメージを分割する事で本命を封じているらしいです」
驚くべき事実だが、それをフィアーの母は断言した。そして同時に彼女なら確かにできそうだという不思議な納得感があった。
「さらっととんでもない事実が暴露されるねぇ」
窓の外を見る。パーティー会場の方から七色の光が見えてくる。今日もモルトレは元気に輝いている。Pui Pui。
カフェの視線は飾られている花瓶へと向けられる。花瓶には新鮮な花と共に一輪の彼岸花が活けられている。無論、彼岸花は本物ではない。本物だと思わされる程のリアリティのあるイメージだ、それも眠っているフィアーから発せられている。その事実をカフェは指摘する。
「この人は眠っている間も常に領域をコントロールしている、という事です」
「実に興味深い。こうして改めて彼女の異常さを見ると、彼女がどれだけ他のウマ娘から外れているのかが見えて来るね。領域、認知、認識、理解……そう、彼女はきっと私達の知らない何かを良く知っているんだろうね」
楽しそうに語るタキオンを見て、カフェが溜息を吐く。まあ、役に立つし良いか、の溜息だ。
「……さて」
花瓶から彼岸花を抜き取る。
「これはフィアーさんのイメージでありながら心です。特別強い領域とは特別強い意志が宿っているものです」
領域から溢れ出す彼岸花はクリムゾンフィアーの心の断片と言えるだろう。特に今、彼岸花が勝手に咲いているというのは制御しきれていないという事の証明だ。それでもまだ彼岸花程度で収まるのは、根本的な部分では手綱を握れているからだろう。
「この彼岸花を通して、直接フィアーさんの心に語り掛けます。これが彼女の意識的なイメージから生み出されている以上、彼女もまたここから私達の声を受信する筈です」
「それが私達の計画だね」
カフェは恩があるから。生活でオカルトを相手に不便をする事は何度もあった。だがその問題の多くをフィアーは物理的に解決してきた。それが本人が楽しんでいた事も、ある程度ふざけていた事も理解している。
だがそれでも、助けられた事を忘れるカフェではなかった。
そしてタキオンもまた、自分の様な変なウマ娘を恐れずに関わり、偶にはふざけ、協力し、遊び、そして楽しそうにする友人が目覚めないのは単純に認められなかった。友人が―――カフェが何かをすると見た瞬間飛びついたのは必然だった。
いい加減待っているのは飽きた―――待って、待って、待って……それで心で泣いている子もいる。それを待たせてまで眠り続ける必要があるのだろうか? それがカフェにはあるようには思えなかった。だから恩と私怨をちょっと込めて、
「今から叩き起こします」
カフェの言葉にタキオンがポケットから薬の入った瓶を取り出す。
「それじゃあトランス状態へと導入しやすくするお薬だよ。なぁに、安全性は保証されているとも。モルモット君が日ごろから体を張って検証してくれたからねえ!」
「そろそろトレーナーさんに謝っておくべきか責任を取るべきだと思いますよ。本当に」
タキオンが持ってきた薬に嫌そうな顔をしてカフェが口を付ける。当然のように美味しいとは言い難い味が口の中に広がり嫌そうな表情を浮かべる。この怒りもフィアーへとぶつけてやろう。そう怒りを燃やすカフェが彼岸花を握り締め。
「では、始めます」
「吉報を期待してるよ」
タキオンが白衣のすそをひらひらと振り、カフェが握る彼岸花に意識を集中させる―――領域とはイメージ、それは心の奥底から湧き上がる意思、願い、想いを投影するものでしかない。だがレースに出るウマ娘の見せるそれは空間を飲み込むほどの迫力がある。
空間を、意識を支配するとさえ称される程のシンボリルドルフとミスターシービー、彼女達に匹敵或いは超える領域のプロフェッショナルこそがクリムゾンフィアー。
より強い領域の主はより強く、想いを受け取りもする。それを利用してマンハッタンカフェは自分の特異な体質を活用し、逆に彼岸花を……領域を通したハッキングを行う。
心へのハッキングを。
か細い線を、これまで紡いできた縁で繋げて接続する。起きろ、戻ってきてほしい、待っている人たちがたくさんいる―――今度は一緒に走ろう。
込めた想いをそのまま叩きつけるように送り込もうとし、カフェの体が揺れる。
「うっ……」
一瞬の立ち眩み、眩暈がして視界が明滅する。だがそれも一瞬の事で、気づけば手の中から彼岸花が消えている。軽く頭を押さえながら溜息を吐く。
「どうですか、タキオンさん……何か様子に変化はありますか?」
返事がない。
軽く頭を振って持ち上げれば、そこにタキオンの姿はない。それどころか景色が一変している。先ほどまではトレセン学園の保健室に居た筈なのに、目に見える保健室の景色は……全て、凍り付いていた。
「一体、何が……」
ベッドへと視線を向けるが、そこには大量の彼岸花があるだけでフィアーの姿はない。タキオンの姿はどこにも見えず、きょろきょろと視線を巡らせれば―――。
「あっ」
「……」
普段見るよりも、遥かに色付いたオトモダチの姿があった。思わず声を零し、しかしその姿を見て、誰かに似ているとカフェが考えようとした所で、その姿が保健室の外へと向かって消えて行く。消えたオトモダチの姿を数秒程眺め、
「ついてこい、という事でしょうか」
ゆっくりと歩き出し、保健室を出る。
そこでも広がるのは凍り付いた廊下。凍り付いたトレセン学園。どこもかしこも凍り付いて固定されている。現実ではない風景に気が狂ったのか、と一瞬だけ考えて否定する。
「成程、
気づく、ここがどこなのか。氷結と彼岸花は文字通り蓋、ならばここはその一つ目の場所。フィアーの心へとたどり着くには二つの壁を乗り越えてなお、という事なのだろう。オトモダチの姿を求めて廊下を見渡し、その姿が見つからない事に溜息を吐く。
「これは少々、骨が折れそうですね……」
C&C救出作戦開始―――有マ記念まで残り、12時間。
クリムゾンフィアー
すやあ
マンハッタンカフェ
霊能探偵カフェちゃん
アグネスタキオン
有能博士枠
モルトレ
清めの発光で戦える
これは本筋とはほぼ関係がない情報ですがC&Cネタは個人的に凄い気に入っててこれだけでスピンオフ書きたいぐらいには気に入ってます。ただがっつりいれるとアメリカの霊能ドラマ系統に話が完全にシフトしてしまうのでなるべく封印してます。
でもカフェとタキオンとチーム組んで公式ではふんわりしているウマ娘の神秘方面に切り込んで行く話は絶対に面白いと思うので何時か誰かやってくれる事を祈ってます。