転生赤毛バは凱旋門の夢を見る   作:てんぞー

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5話 賄賂ゲットだぜ!

 さて、俺にとっては散々な終わり方を迎えた模擬レースだったが周りの評価は悪くはなかった。少なくともあの後、数組の担当契約が結ばれたらしい。

 

 ただその目玉と言うべき我がルームメイト、ディープインパクトは誰とも担当契約を結ぶ事はなかった。いや、正確にはその手のアプローチを受ける事がなかったのだ。

 

 当然の話だが、担当契約は早く結べば結ぶほどアドが取れる。何故ならトレセン学園の施設は基本的に担当のいるチームが優先的に使用する事が出来て、まだ未契約のウマ娘は基本的な施設しか利用する事が出来ない。

 

 また、トレーナーは育成においてのプロフェッショナルだ。どうやってウマ娘を育て、導くかという事に対する厳しい勉強と資格を乗り越えてこのトレセン学園に就職しているのだ。ネットで聞きかじった知識でトレーニングするのとはまるで次元違いの効率になる。

 

 たとえ本格化していなくとも、トレーナーによる指導を受ければ本格化前の時期から備える事が出来るだろう。これはトレーナーの居ないウマ娘に対する大きなアドバンテージになりうる。少なくともトレーナーはそれまでの期間の間に相方を理解し、最適なプランを立てる時間が作れる。

 

 これだけ述べれば担当契約を早い段階で結んでおくことの利点が見えるだろう。

 

 だがディープインパクトは担当契約を持ちかけられる事がなかった。

 

 何故か?

 

 それはとても簡単な事で、トレーナー間で密約があったのだ。

 

 つまり選抜レースが終わるまでトレーナー側から行動を起こすのは止めましょう! という密約だ。誰が見てもディープインパクトは才能のあるウマ娘だ。恐らくは現世代、国内最強クラスの才能の保有者だ。

 

 もし、ディープインパクトのスカウトに成功すれば、そのチームは多くの栄光と勝利が約束された3年間が得られるだろう。そう考えれば誰もがディープインパクトの契約に飛びつくだろう。

 

 だがここに、待ったをかけた人がいる。チーム・リギルのトレーナー、東条ハナ氏だ。彼女はトレーナー側からのアクションを封じ、選抜レースまでスカウト禁止の密約を他のトレーナーたちと結んだ。密約と言っても、ディープインパクトにも自分で考え、判断する時間を与えたいという話だ。

 

 それを受けてトレーナー側からのアプローチは禁止された。選抜レースが行われる来月までどのトレーナーもディープインパクトのスカウトに乗り出す事は出来ないだろう。

 

 ちなみに俺の場合、意図的に模擬レースを走らずにいるので判断しかねている状態になっている。俺は俺で、個人的にこのチームが良いなあ、と言うのがあるのでスカウトを回避するように動いているという訳だ。

 

 俺は机に向かって勉強中のおチワワ様を見た。学生らしくちゃんと勉学に励む姿を俺は偉いと思う。少なくとも前世の俺はそれほど真面目に勉強しなかった。この大事さを理解するのはマジで卒業後なんだなあ、というのは就職する時に感じる。

 

 ともあれ、俺は手元のスマホに視線を落とす。ウマ娘用のウマホ等という奇妙なタイプのスマホも世の中には存在するが、俺個人はヒトカス用のモデルの方が使いやすく感じているのでこっちを愛用している。

 

 スマホでメッセージをチェックし、先方からトレセンの施設の優先利用券が納品されているのを確認した。良し、賄賂ゲットだぜ。

 

 ―――さて。

 

 ディープインパクトのスカウトは選抜レースまで禁止されている。それは公平性とディープインパクトの意思を尊重する為だ。

 

 だけど、まあ、大人というのは汚いし基本的に話の裏をかく。そう、ディープインパクトへのスカウトは禁止されている。だけどディープインパクトからのアプローチは話が別である。そうだね、ディープインパクトの意思ならしょうがないよね。

 

 おや? 同室でとても懐かれているウマ娘がいるんだって? そっかぁ……。

 

「ディー、アポ取れたから有名チームの見学に行こうぜぇー」

 

「え、あ、う、うん! 行くます、行きます!」

 

 おチワワ様の表情がぱぁ、っと輝く姿を見てもう一度思う―――大人って汚いよなぁ。

 

 

 

 

「―――まあ、そう言う訳で選抜レース以降は一切容赦のない勧誘ラッシュが始まるだろうけど、チワ―――ディーは別にどこのチームとかイメージがある訳じゃないでしょ?」

 

「う、うん」

 

 ディープインパクトは頷きながら指先をちょんちょんと突く。

 

「あ、あまり、良くち、チームとか解らなくて……て……」

 

「まあ、調べなきゃそんなもんだよな」

 

 歩きながら説明する。実績のあるトレーナーやチームはコースや施設をある程度優先的に利用する事が出来るし、チームとしての予算もトレセン学園から多く割り振って貰える。その為、なるべく大きく強いチームに入るのがトレセン学園で楽しく生きて行くコツだ。

 

「後割と所属チームによるマウント勝負は起きる。大きい所に入ってるとカースト上位になる」

 

「ふぇぇぇ……」

 

 女子はそういう所がある。中学校でも割とそういうマウンティング行為は露骨だった。俺はそういうマウンティング行為が嫌いだったので彼岸花を生やして良く威嚇していた。お前らが何でマウント取ろうが俺は領域持ちやぞ雑魚共が!

 

 これが割とウマカス共には効く。マウントを取られたらマウントを取り返せ。そんな訳でカスたちの頂点を決めるべく、俺達は常に良い居場所を探さなくてはならない。そんな訳で俺達が最初にやってきたのはとあるチームの部室の前だ。

 

「ここが、最初のと、所?」

 

「うむ、トレセン学園でも有名なチームだわ。ういーっす、クリムゾンフィアーとディープインパクトでーす」

 

「どうぞ、お待ちしてました」

 

 扉の向こうから聞こえてくる声に扉を開けて部室の中に入れば、二名のウマ娘と、1人のトレーナーが部室内にいる。奥のホワイトボードには大きく“打倒スピカ!”と書かれている。そう、トレセン学園でも屈指のチームの一つ、チーム・カノープスの部室だ。

 

 部室内にいるウマ娘も有名な娘たちで、ナイスネイチャとイクノディクタス、カノープスの看板とも呼べるウマ娘の2人だ。

 

「初めまして、チーム・カノープスの担当トレーナーである南坂です。今日は足を運んでいただきありがとうございます」

 

「い、いいいいい、いえ、いや、あの、その、そ、そそ、そんな事はななな、ないんですよ……?」

 

「おぉ、これは聞きしに勝るどもりっぷり……いやあ、落ち着きなさりなって」

 

「ひゃい」

 

 南坂トレーナーの言葉に完全にあっぷあっぷ状態になっているチワワをナイスネイチャが宥めようとするが全く意味がない程に限界化している。根本的に喋る事が得意ではないチワワにとって狭い空間で注目を浴びるというのは相当辛い事なのだろう。

 

「ほれ、落ち着けディー」

 

「うぅぅ、は、はい……その、ご、ごめんなさい」

 

「いえいえ、お気になさらず」

 

 そんなディープインパクトの姿に南坂は気にすることなく微笑む。顔も良ければ仕事も出来て性格も良い、相当のハイスペックなトレーナーがこの南坂という男だ。これでいてG2G3では担当を何度も勝たせてるんだから恐ろしいもんだ。

 

 G1未勝利という事で馬鹿にされがちだが、そもそもG2やG3で勝たせているという時点で相当ヤバイ。そんなウマ娘を複数抱えているチーム・カノープスは間違いなく一流のチームだろう。

 

 ほれ、座れと椅子を引っ張ってそこにチワワを座らせる。俺もその横に椅子を引っ張って座る。ちょっとふてぶてしいぐらいがコンビとして丁度良いバランスになるだろう。そんな俺達のコンビを見てイクノディクタスが小さく笑みを零している。

 

「改めてようこそ、カノープスへ。ディープインパクトさんとは一度会って話してみたかったので、こうやって機会を得られて嬉しいです」

 

「あ、あ、ありがとうございます」

 

 ぺこぺこと頭を下げるディープインパクトの姿に、たぶんカノープスとの相性はそんな良くないな、と思った。自己主張の薄いディープインパクトはどちらかと言うと引っ張って貰えるトレーナーの方で輝くだろう。

 

「カノープスではG1での1位獲得を最大の目標としています。御覧の通り、G2とG3であれば皆さんが勝ってくるのですがG1は未だに勝てていません」

 

「じ、G1ですか」

 

「G1は国内最高峰のレースです。出場できるウマ娘も今出られるウマ娘の中でトップレベルの方々ばかりです。その中で1位を取る、という事は並大抵の事ではありません。惜しくもカノープスはその機会を逃してきましたが、諦める事はありません」

 

 キリッ、とイクノディクタスが眼鏡を輝かせながら口にするが、後ろのホワイトボードにある文字がどうやらチワワには気になるらしい。その視線を察した南坂トレーナーが苦笑する。

 

「スピカはまた別のチームで、複数のG1優勝バを抱えているトレセン学園のトップチームです……カノープスでは個人的にライバル視しているチームでして」

 

 成程、とディープインパクトは頷く。それで、と南坂トレーナーは言葉を続ける。

 

「ディープインパクトさんは何か、目標とかありますか? カノープスではウマ娘の持つ夢や目標を支援する事を目的としているので……」

 

「も、目標、ですか」

 

 チワワは首をひねるように考え、口を開いた。

 

「な、ないです。お、お母さんに走れって言われたから……」

 

 

 

 

「クリムゾンフィアーさん、宜しいでしょうか」

 

 カノープスの説明会が終わり、部室を出ようとした所で南坂トレーナーに呼び掛けられる。チワワも足を止めるが、先に外で待っててくれとハンドサインを出す。それに頷いたチワワが部室の外に出る。

 

「なんでしょ」

 

「ディープインパクトさんの気風は恐らくカノープスとは合致しません。入部するならリギルが適任でしょう。東条さんならディープインパクトの目標を設定し、導く事が出来るように思えます」

 

「……」

 

 南坂トレーナーのストレートな言葉に、ちょっと驚いた。

 

「南坂トレーナーは、ディーの確保に動く予定じゃなかったんですか?」

 

 その言葉に南坂トレーナーが苦笑する。

 

「えぇ、最初はディープインパクトさんの才能を見て是非カノープスに、とは思いました。ですが我々トレーナーは勝利以上にウマ娘の幸福を願うものです。私ではたぶん、優しすぎますしスピカでは自由すぎて目標が設定できないでしょう」

 

 その言葉に俺は頷く。ディープインパクトは自己主張が薄い。或いは自分の目標と言うものを持たない。走れば勝てるだけの才能を持っている―――だがそこに中身がない。名門故に走るだけの義務を持っている。だが走れば勝ててしまう。だから目標なんて必要ないのだ。

 

 目標がなくても、その才能の暴力でG1を総ナメ出来てしまうのだから。

 

 恐らく自分の才能を自覚してはいる。だが走る事そのものに情熱はない。ウマ娘の目標を応援するカノープスというチームとは相性が悪いだろう。

 

「もし、ディープインパクトさんとの対決を目指すのであればスピカか、カノープスですよ」

 

 にこり、と笑みを浮かべてそんな事を言うトレーナーの姿にあぁ、と納得した。

 

 このイケメン、最初からチワワじゃなくて俺狙いじゃん。

 

 大人って怖い。そう思った。




クリムゾンフィアー
 チワワをダシに自分の所属チーム探しをしている。ただチワワの事を想っているのは本当。

ディープインパクト
 お母さんが走れって言うから走ってるけど、最近は赤毛といるのが楽しい。

イクノディクタス
 お前の出走回数おかしいよ。

ツインターボ
 この後廊下でエンカウントされ、たぼぼと謎の言語を向けられ胴上げされて逃げられるとという謎の儀式を受けた。
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