転生赤毛バは凱旋門の夢を見る   作:てんぞー

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40話 おはよう

 体が重い。

 

 肉の重みだ。

 

 絡みつくような重み、空気が肺にしみる感触、生きている事の重み……そう、生きているという事は常に何かしらのしがらみを生んで行く事でもある。誰かに関わらない、何物にも関わらないというのは不可能な事なのだ。

 

 だからレースで走る事はエゴイズムの極みだ。忘れられたくない。傷を残したい。だけど迷惑はかけたくない。相反する心と感情、思惑と思想。死にたいけど死にたくない。その意志はたった一つの事実で全てを乗り越える。

 

「こ、ここたま―――!」

 

「おや、おはようフィア君」

 

「ここたまぁ!!」

 

 勢いよく布団を蹴り飛ばして起き上がる。アーマードコア6、発売決定。その事実が体の中に炎を灯す。勢いよく立ち上がっても半年間の怠惰のツケが体を揺さぶる。崩れ落ちそうになる体を支えながら手をぷるぷると震わせると、ベッドの横に座っていたタキオンからスマホを受け取る。

 

「はい」

 

「おぉ……おぉ……!」

 

 タキオンから受け取ったスマホにはAC6の発表と、そして最新インタビュー記事が表示されていた。その事実におんおん涙を流していると、帰って来たカフェが腕を組みながら首を傾げる。

 

「釈然としませんね……」

 

「まあまあ、良いじゃないかカフェ。こうやって起きたんだし」

 

 死ねない……10年ぶりの新作、絶対に死ねないぞ。生きる活力が体に満ちるのを感じる。今なら無敵モードになれるかもしれない。そんな想いと共にベッドから飛び降りるとそのまま崩れ落ちそうになる。一瞬でカフェとタキオンに体を支えられる。

 

「無理しないでください」

 

「起き上がったばかりだからねぇ、余り無茶は出来ないよ」

 

「いやあ、はははは……」

 

 支えられてから自分の両足で立とうとするが、やはり覚束ない。拳を作ってみるがだいぶ力が弱い。それでも体が動くのは寝ている間も体のケアを施されていたからだろう……この仕事、恐らく西村T辺りが仕事しててくれたのだろう。感謝しかない。

 

 ともあれ、

 

「有マに行くか」

 

 着替え、着替え―――直ぐ横に置いてあった。それを手に取りささっとパジャマからトレセン学園の制服へと着替える。いや、ささっとは嘘だ。ちょっともたもたしている。その間にもなぜか保健室の外からはきゅいー! だとかカピバラの鳴き声が聞こえてくるし、ずがんずがん爆音が響いている。絶対に近づきたくねえ。

 

「有マ、向かうんですね」

 

「その為に起こしたんだろ」

 

 ブラジャーを付けてパンツを履いて、上を着て……やっぱり冬だからか寒い。なるべく早く着替えたいところだ。おぉ、靴下靴下。素晴らしき発明よ、お前を早く履かせておくれ。そしてAC6を早く発売してくれ。俺の体はもう闘争を求めて止まらねぇんだ。早く俺のアクアビットマンを復活させてくれよ。俺はコジマ浴がしたいんだ。PS3また引っ張りだすか。

 

「行く気、あるんですね」

 

「おう」

 

 ここに関して、あまり語る事はない。必要な言葉は本人に言うし、別段俺が何もしなくてもあの娘なら勝手に立ち直ると俺は思っている。まあ、有マは負けるかもしれないが―――いや、或いは、ここまでの苦境こそが彼女を成長させるかもしれない。

 

 もし彼女が化けるのであれば、今日、このレースだ。起きてしまったのならしょうがない。まだ心の整理がついた訳じゃないが、顔を拝みに行くとしよう。

 

 と、そこでずがんずがんと廊下の方から音が響く。何かが廊下の方で激しくやりあっているらしい。こうなると廊下から出て行く事は出来ないだろう。窓へと視線を向ければ、タキオンが窓を開けてくれる。

 

「さ、行くのだろう? 私はトレーナー君を回収しなければいけないからね、後は頼んだよカフェ」

 

「それでは失礼します」

 

「お? おぉ?」

 

 カフェに横抱きにされると、そのまま窓枠に脚を掛け―――一気に外へと向かって跳躍する。浮遊感、身を誰かに任せてアクションを取るというのは初めての経験だが中々に面白いものがある。カフェもカフェで、こんな派手な行動をとるんだな、というちょっとした発見も感じている。

 

「っと、大丈夫ですか?」

 

「へーき、へーき。花畑でごろごろやった時の方が凄かった」

 

「アレは貴女が悪いです」

 

「せやろな」

 

 けらけら笑っているとそのままカフェに校舎から離れるように運ばれて行く。歩かせて貰えないので手と足をぶらぶらしていると、カフェが溜息を吐く。

 

「まだ、死にたいですか」

 

「どうだろ。自分でも自分の事はよく解らんねぇ。衝動的なもんだと言えばそうだし、考えた末の行動だと言えばそうでもある。自分でも割と色んな部分でバグってるんだなぁ……ってのは感じてるよ」

 

 ただ、まあ、

 

「迎えに来てくれるのを待ってたのかもな」

 

「悪かったですね、遅くなって」

 

「おう、もうちょっと早く迎えに来てくれよ。寂しかったかもな」

 

「覚えておきます。もう次はないと思いますけど」

 

 カフェが此方に視線を向け、ふっと笑う。そういう笑顔を見て裏切れるほど神経太くは無いんだよなあ、と口の中で呟きながら運ばれて行く。向かう先は校門へ、この学園の敷地の出口へと向かって一直線に。途中、振り返るウマ娘達が驚いたような視線を向けて来るので手を振ってみる。きゃー、なんて声が返ってくる。大変気分が良い。

 

「ファンサしてる場合じゃないんですが」

 

「いや、まあ、俺運ばれて暇だしね?」

 

「投げ捨てますよ……!」

 

「それは困る」

 

「ちょっとふわふわしてませんか貴女!?」

 

 キレ気味なカフェの声にけらけら笑う。いや、まあ、寝起きでちょっと頭がぱぁになってるのは認めよう。なんかちょっと気分が良い感じなのも認めよう。

 

「メリークリスマス皆ぁ!!」

 

「大丈夫ですかこれ? 大丈夫じゃないですね」

 

 きゃーという声に手を振り返しつつ視線を校門へと向けるとゴールはもう目前にまで迫っていた。到着するとカフェは俺を降ろしたので、そのまま校門に寄りかかる。きょろきょろとカフェは辺りを見渡す。

 

「……たづなさんはまだ来ていないみたいですね」

 

「扱いがターミネーター染みて来たなあの人」

 

「なぜか本格化過ぎ去っても現役のウマ娘でも勝てないんですよあの人。タキオンさんが何時も捕まって説教されてますよ」

 

 見慣れた景色だ。全速力で逃げ出そうとするタキオンを捕獲し、何の実験をしていたのかを吐かせてそのまま説教部屋へと連行される姿はトレセン学園ではあまりにも一般的な光景、珍しさの欠片もない。

 

 はあ、と冬の空気を吸い込む。肺を満たす冷たい空気が少しずつ意識を鮮明にしてくれる。少しだけ酔っぱらってるようなふわふわ感が抜けて行く。あぁ、現実に帰って来たんだな、と思うと少しだけ憂鬱になる……だけどそれとは別に、探しに来てくれた事も嬉しく思う。

 

「カフェ」

 

「なんですか」

 

「結婚しよう」

 

 真面目な顔をカフェに向けて言うと、カフェが溜息を吐いて視線を外へと向けた。

 

「貴女、その内刺されますよ」

 

「えー」

 

「それよりも有マに行くんでしょう。貴女を待っている人がいますよ……相手をするならそっちにしてあげてください。少なくとも責任は取ってあげてくださいね」

 

 焚きつけた者の責任という奴か。ま、しゃーないと言えばそうだろう。意図してディーを焚きつけていた部分はある。とはいえ、俺だってこんな風になるなんて思いもしなかったのだからちょっとは言い訳してもいいだろう? いや、やっぱ擁護できる要素何もないわ。この件に関しては俺が完全にクソだったわ。フィア、反省。

 

 それで、外を眺めて何かを待つような表情のカフェに言葉を向ける。

 

「何を待ってるんだ?」

 

 俺の疑問に、カフェは校門の外を見ていた顔を戻し、答える。

 

「クリスマスですよ? プレゼントを運ぶのはサンタの仕事ですから」

 

 その言葉と共に一台のバイクが校門の前に乗り付けてきた。見覚えのある姿に思わず笑い声が零れてしまう。それが解っているから相手もドヤ顔を浮かべている。

 

 バイクに跨る男はクリスマスカラーのバンダナを装着し、トナカイの角をバイクのフロントに突き刺していた。それをどう足掻いてもソリか、或いはトナカイとして主張したい意思を感じる。だがそれには乗っているサンタさんの人相が悪すぎた。できるなら来世からやり直してこい。

 

「お前……」

 

 俺の言葉にバンダナが頷いた。

 

「俺は通りすがりの無免ライダーだ―――クリスマスプレゼントを運びに来た、な!」

 

 流石にそれは怒られるべきでは?




クリムゾンフィアー
 結婚発言は割とマジだった

マンハッタンカフェ
 トレーナーがいるので

無免ライダー・バンダナ
 免停のまま
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