転生赤毛バは凱旋門の夢を見る   作:てんぞー

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41話 有マ記念 Ⅰ

 ―――街中をクリスマスキャロルが流れて行く。

 

 過ぎ去って行く景色、流れるオーナメント、耳に残るクリスマスキャロル、笑い声……そして溢れる笑顔。クリスマスの日は社畜以外には特別な日だ。家族で、或いは友人で過ごす日だ。誰もが笑顔になってこの日を祝う……社畜以外は。社畜に休日の概念は無い。

 

 そんな景色をマルゼンスキーの相棒は、カウンタックの助手席から眺めている。

 

「いやあ、マルゼンがいてくれて助かったわ」

 

「これぐらい全然問題ないわ。これで諸々の問題も片付きそうだしばっちぐーよ」

 

 マルゼンスキーの言葉に苦笑を零してクリスマスの空を見上げる。

 

 ―――さよなら、無免ライダー……!

 

 心の中でそっと愚か者の死を嘆く。奴はアウトローだ。そもそも賭けレースの仲介と斡旋をしてるし、グレーゾーンを平気な顔をして歩いている。そもそも免停喰らっても免許取り消しであっても“それ、バレなきゃ問題なくね?”を当然のように思考するアウトローだ。俺もかつてはそっち側だった。

 

 だがトレセン学園には何時も警備員がいる。直ぐ近くには警察も変態と変質者と発狂者を取り締まる為に待機している。

 

 無免ライダー宣言の直後、奴はおなじみの部屋へと連れていかれてしまった―――さようなら、無免ライダー、感動をありがとう無免ライダー。出所出来たら会おうぜ。良く解らんが。そんな無能ライダーの代わりに中山まで俺を届けてくれるのがこのスーパーカーだ。

 

 こう考えると、色んな人が解決する為に動いて協力してくれてるのだ。俺も、自分嫌いをどうにかした方が良いのかもしれない。

 

「俺が」

 

「うん?」

 

「いない間のディーはどうだった?」

 

「そうねぇ」

 

 ハンドルを握るマルゼンスキーが限界ギリギリの速度を維持しながら一切事故る事もなくカウンタックを走らせる。こんな事にランボルギーニを走らせている事実にちょっとだけ申し訳なさを感じるが、この先輩はそういう事に関しては一切面倒さを感じさせない。

 

「見ててこっちが可愛そうになる感じだったかしら。段々と調子を落として行くのに合わせて慣れない事を頑張ろうとして失敗して、また調子を落とすけどパフォーマンスだけは維持しようと頑張ってる感じ」

 

「んむー」

 

 そもそも我が家のチワワは割と俺にずぶずぶに依存気味な所があった。俺は正直そういう属性は持ってないので依存されても困る部分はあった。いや、境遇を考えればしょうがないと言えばしょうがない。正直タイプで言えば大人しくて同じ空間で過ごしてもべたべたしなくても良い様なタイプの方が好きというか―――いや、この話は止そう。

 

「ディーには才能があるんだ。最高の走りが出来る才能が」

 

「そうね、私も彼女には才能があると思うわ。実際、ルドルフ以来の無敗3冠を達成したばかりか、クラシックで宝塚にも勝っているしね」

 

「だけどこのまま彼女を依存させてたら絶対にその才能が腐ると思う。誰かの為に走る奴は結局の所、他人の為にしか走れない。そしてソイツが消えたら走れなくなるんだ。正直な話、ディーにはそういう風になって欲しくなかった」

 

「……だから眠ってたの?」

 

「それとこれとは別かなあ。俺もうまく言い訳出来ない。ただ、まあ……」

 

 まあ……なんだろう、言葉にできない。ディーには自立して欲しかった部分があるのかもしれない。俺が消えれば自立する……なんて考えは甘いのだろう。実際、今回の件は悪い方向ばかりに転がってしまった。

 

「けどなぁ」

 

 俺なぁ、割と信じてるよ。チワワの事を。そんな心の弱い奴じゃないって。きっと立ち上がってくれるって。誰かに依存しない、走る理由を見つけてくれるって。だってディープインパクトだぜ? あの伝説の名馬の魂を継いでるんだぜ?

 

 そして俺のライバルだぜ?

 

「生きるのって難しいなあ」

 

「そうねぇ。だからこそ楽しいんじゃないかしら。やれる事がたくさんあって、悩める事もたくさんあって。そういうのを含めて生きるって事なんじゃないかしら」

 

「深いなぁ」

 

「深いのかしら」

 

 きゅぃぃぃ、と音を立ててカウンタックがドリフトした。今マジでドリフトした? カウンタックで? 嘘だろう?

 

 シートベルトを付けていて良かったと冷や汗をかいている間にもアクセル全開でマルゼンスキーがカウンタックを飛ばす。普段からこんな調子でドライブしているけどどうしてこの人今まで一度もチケット切られた事がないんだ?

 

「よーし、調子が出てきたわね! これならレースが始まる前に到着できるかもしれないわね!」

 

「あの、少し遅れても良いんで安全運転を―――」

 

「アクセル全開ね!」

 

 最終コーナーでアンxスキ入るの止めてくれません? そんなレベルの加速力を見せてカウンタックが爆走する。爆風を顔面に浴びながらスマホを取り出し、自撮りしてからぽちぽちする。

 

クリムゾンフィアー @crimson_fear・今

 

AC6発表マジ? 思わず目覚めたわ

pic.twitter.com/ac6

 

1万4千件のリツイート1665件の引用リツイート3万8千件のいいね

 

 

 

 

 ふぅ―――と息を吐く。これで勝負服を着るのは5度目。今年で5度目。三冠を走った時と宝塚で4回、そして有マ記念で5度目。自分がG1という大舞台で走る為に用意された衣装、私の願いと思いの込められた衣装。でもこうやって袖を通して着替える度に思う。

 

 私の願いって、何?

 

「ディープインパクト、実家からまた連絡が来てるぞ」

 

「新しい番号、ですか。なら、何時も通りブロックしてください」

 

「取り合うつもりはないか」

 

「はい」

 

 実家との縁はもう切りたかった。ここまで育てて貰えた事には感謝する―――だがこれまでの教育費を全て賞金で賄ったら、それを手切れ金に実家との縁を切るつもりだった。今まで言われるがままに生きてきた。それが楽で、他には何もなかったから。言われるがままに走って来た。

 

 その結果、ここまでたどり着いた。

 

 シンボリルドルフの継承者、唯一無二、国内最強、歴代最強候補。

 

 様々な名前が私を飾る。栄光へと押し上げようとする。そしてそれに群がるように人が増えた。その中で信じられるのはもう、トレセン学園の知り合い達ぐらいで、実家の人達は何一つもう信用できるとは思っていなかった。

 

 でもこうやって有マに来て、心は停止する。

 

 ―――私の、この勝負服に込めた想いって……何?

 

 どうして走るの。誰の為に走るの。それがすっぽ抜けている。心の中が、想いの根幹ががらんどうになっている。詰め込むべきものが見つからない。東条トレーナーはスマホに何かの連絡を入れて溜息をついている。

 

「実家の対応、ごめんなさい」

 

「良いの、気にしないで。これもトレーナーとしての必要な業務の一環よ。貴女が健やかに、心穏やかにレースを走れるように、ね」

 

「ありがとうございます」

 

 ぺこり、と東条トレーナーに頭を下げて感謝を告げる。本当に東条トレーナーには感謝しかない。こんな自分を受け入れて、走らせてくれている事を。私がトレーナーだったらこんな面倒なウマ娘は投げ捨てているだろう。

 

 ……自覚はある。

 

 私は依存して走って来た。

 

 最初は実家に。言われた事に従って走るのは楽だった。走る事に興味がなくても勝てれば褒められるからそれで良かった。

 

 次はフィアに。彼女と走るのが楽しかったから。初めて私を見てくれる人だったから。私から本気を引き出して、それでもなお走ろうと言ってくれる唯一の人だったから嬉しくて、楽しくて、この人と一緒なら何でもできると思って。

 

 ……それが依存なのだと、最近気づかされる。

 

 自分でものを考えて走っていなかった。自分の理由なんて最初から存在しなかった。だから走りに込める想いが軽い。足の中に何も詰まっていないように感じる―――どれだけ私より遅くても、他の皆の方がかける願いが重く、美しく、素敵だ。

 

 そしてそれを踏みつぶせてしまう才能が嫌いだ。

 

 嫌いだ。

 

 私は自分自身が嫌いだ。

 

 変わりたい―――変わりたかった。

 

 なのに大して変わる事も出来ずに有マにまで来てしまった。

 

 こんこん、ノック音が響く。

 

「ディープインパクトさん、パドックまで移動お願いします」

 

「はい」

 

 東条トレーナーの方に視線を向けると、スマホの画面を見てトレーナーが頭を抱えている。

 

「あの、トレーナー……?」

 

「ん? あ、うむ……気にするな。あぁ、パドックへと移動しておいてくれ。此方は客席から応援してる」

 

「うん、ありがとうございます」

 

 ぺこり、と頭を下げて控室を出る。

 

 暖房が暖かった控室から冬の空気を感じさせる通路へ。追ってくる姿はなく、パドックへと向かう道も1人だけ。

 

 私の有マ記念が、まもなく始まる。




クリムゾンフィアー
 生存報告ヨシ!

警察
 せめて堂々としないでさあ……

バンダナ
 この後脱獄した

駿川たづな
 足にカピ君、右腕にモルトレ、左手にカフェトレ、首にタキオンぶら下げた状態でカウンタック乗り込む直前まで追いかけてきた。
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