冬の空気は寒く、肌を刺す。
そもそも冬が苦手な俺は割と厚着する。コート、手袋は基本装備だ。そこにマフラーを付けても良い。今日は変装の意を込めて8Bitサングラスを装着している。髪の毛はまあ……変に弄りたくないしローポニーで纏めてある。なんだかんだで何時も通りの恰好かもしれない。
そんな俺の横には同じように私服にコート姿のディーが。そして正面には年末の聖地―――そう、すなわちは東京ビッグサイトの姿がある。有マ記念が終わった。なら次の聖戦はなんだ? そう! コミケである!
「今年は2人でコミケに来れたなあ」
「去年は、家にいたから、ね」
頷く。去年の暮れは忙しかったのもあるが、ディーは実家に幽閉されていた事もあり一緒に遊びに出る事は出来なかった。だが今年は最初からウチで年末年始を過ごす予定だし、何よりもノーザン本家も、
“へ、へへへ……赤毛のダンナとなら何も問題ありゃせんぜ……へへへ”みたいなノリなので問題は一切なかったりする。まあ、アメリカ三冠ウマ娘と一緒に居たら堕落するぞ、だなんて言葉がこの世で誰が言えるのかって話だが。
そう言う訳でディーとは年末年始、ずっと遊ぶ予定だ。その一環で今日は年末のビッグサイトに来ている。というのも俺はコミケ自体は割と行っている方だし、今年も知り合いのサークルに顔を出す予定だ。だがディーは夏も冬も未経験、となるとこの古戦場の様子は大いに驚きだろう。
ビッグサイト入場の列に並びつつ、動き出すのを待っている。並んでいる人は多いが、トレセン学園等の勧めから実はこっそりとここにSPが数人紛れ込んでいる。ファイモ殿下に紹介して貰った王家御用達のスペシャルな連中だ。金はクラシック三冠で余らせているから正直困ってはいないし、雇わせて貰っている。そう言う訳で俺のお出かけはもはや誰にも止められない。
「列長いね」
「まあ、毎年こんなもんだよ。徹夜組とか元々はいたけど最近は見つけ次第嘘の列に並ばせて排除する方向になってるからな」
「そんなのが」
うん、徹夜組は割と迷惑って話だからね。まあ、欲しいもんの為に長く並ぶのは解るけど。
「お、前の方が動き出したな」
「私達の、所までどれぐらい、かな」
「まあ、10分20分って所じゃないだろうな……」
コミケ入場の列、待たされるときはマジで待たされるからなあ……とぼやきながらディーと二人で並んで入場を待つ。こういう時、ソシャゲとか遊んで時間を潰せるのが楽だ。中には持ち運びできる小型の椅子を持ち込んでいる人の姿まで見える。
それなりに並ぶのにも慣れたもので、スマホを取り出してディーと雑談しながら時間を潰す。まあ、話の内容なんてあってない様なものだ。日常的な重大な話が飛び出してくる事なんてないし。未だにちょっと体が不安定なので杖ではなくディーに体を支えて貰いつつ和気あいあいと列に並んでいれば、やがて入場できる所までやってくる。
「おぉー、人が、多いね」
「まあ、コミケやしな。ほれ、はぐれるぞー」
「ん」
手を出すとディーが繋いでくるのでそのまままずは知り合いのサークルの所へと向かう。ウマ娘系健全オンリー本の島へと向かえば、ちょっと大きめのスペースを与えられたピンク髪のウマ娘の姿が直ぐに見つかる。どうやらそれなりに盛況らしい。客を捌いた所で片手を上げて挨拶をする。
「デジタル殿ちっすちっす」
「こんにちは、デジタルさん」
「はわっ、こ、これはフィアーさんにディープさん! もしやもしや私なんかの為に此方へ……? うっ、申し訳なくなってきた、滅します!!」
そう言うとアグネスデジタルは体の端から塵になって消滅し始めた。それをディーと二人で抑え込んで元に戻して行く。リアルな後藤ひとりってこういう事なんだろうなあ、なんて事を勝手に思ってしまう。ぼざろ、良いよね。
「身内知り合いのサークルはちょっと回って来ようかなって。デジタル殿、これ差し入れ。ウチで焼いて来たものだからクオリティは保証しないけど」
「美味しいです、よ」
「て、手作り……!」
差し入れ用に持ってきたマドレーヌをデジタルに渡す。感動の様子で受け取ったマドレーヌを大事そうにしまう―――いや、飾ったりしないでちゃんと食べてくれるよな? デジタルは確か寮住まいだったし後でタキオンにでも確認しておくか。
マドレーヌを目を輝かせながら見てるデジタルを無視し、ディーはデジタルの出してる本を確認している。ジャンルはオリウマ娘の日常系ゆるギャグ本らしく、緩いウマ娘達の日常的なやり取りが彩られている。
「デジタル殿こう、改めて見ると絵が上手だよなあ」
「きょ、恐縮でしゅ……」
作画崩壊してるデジタルが羞恥心に悶えながら肉体を変形させている。お前、その作画崩壊どうやってるんだろうなあ……本よりもそっちの方が気になるわ。ともあれ、最初の目標はクリア。デジタルの本を1部購入して次のサークルへ。いや、しかしクオリティ高いし安定して面白いなデジタル殿の本は。
今度は島を移動する。デジタルの所はまあ、そこそこ大きなサークルというか知名度がある為に人の集まりは多かった。だが此方のサークルはどちらかと言うと無名の方だ。とはいえ、売り子が売り子なので人はやはり集まる。
「お、あったあった」
「あ」
サークルスペースにいる姿は眼鏡をかけて軽い変装をしているつもりだろうが、そもそも容姿が良いのでまるで正体を隠せていない。その横にいる売り子のウマ娘もまあ、知ってる奴からすると変装出来ていないと言えるだろう。相手を見つけるとディーが軽く手を上げる。
「ドーベルさん」
「ディープ来たのね。それにフィアーさんも」
「おっす。マックイーンもおっすおっす」
「手持ちのスイーツを全部置いて行けば1冊ぐらいは売ってあげますわよ」
「そこまでにしておけよマックイーン」
テーブルの向こう側にいるマックイーンとハイタッチを決める。いえーい。少し離れた場所にはメジロライアンの姿もある為、視線を向けて軽く頭を下げる。向こうも手を振って挨拶してくる。
そう、ここはメジロドーベルのスペースだ。それも少女漫画系の奴。その売り子にマックイーンとライアンが来ているのが豪華という概念を超越している気がする。国内でメジロ一族を知らない人間おらんよな?
ともあれ、差し入れをマックイーンではなくドーベルに渡しておく。この女に渡すとその場で消えそうな気がするからだ。
「売れ行きどんな感じ?」
「まあ、ぼちぼちですわ。これなら用意した部数は全部はけそうですわ」
「それは重畳。100部刷って80部余るとか割とある話だからな」
「う゛っ」
「ど、ドーベルさん」
ドーベルが急に胸を押さえて苦しみだした。その表情に俺とマックイーンとライアンがあぁ……と理解を得た表情になる。ネームブランドもなし、宣伝もなしで100部売るのはちょっとね……誰にだって苦い記憶はある。俺たちはドーベルの苦々しい思い出をそっとしておく事にした。
とりあえず身内の好で此方も1部購入。ドーベルにはちょくちょくディーがお泊りしたりで世話になっていた件があるので感謝している。というかリギル所属の
だが見た感じ、ドーベルとディーの仲は悪くないように思えた。ディーの交友関係がちょっと見えたのを報酬に次の島へ。
島を移動する。今度はR18関係の所だ。ウマ娘は天の理的にR18は禁止なのでウマ娘のえっちなものは存在しないぞ! やったあ! なのである。だから当然R18関係はヒトカス共がモデルの創作物に限る。そんなヒトカス共がえっちな絵を掲げる島の一つに、見慣れたバンダナ姿がある。
「よ」
「よ。そっちの嬢ちゃんもよう」
バンダナヒトカスの姿にディーがぺこりと頭を下げて俺の手を握る。それをみてバンダナが手を口に当ててあらあらまあまあと笑う。解ってて笑ってるだろオメー。ディーが威嚇するようにしゃーってしてる。
カスの出してる本を手に取ってぱららー、と流す。
「ナマモノはあかんやろ。常識ないんかお前?」
バンダナは静かにサムズアップを浮かべて気にしてない事をアピールしている。お前もう1回警察のお世話になってこい。ついでに余罪の類もばらされて来い。こいつとは必要以上の会話はない。マドレーヌをおいてさっさと去る。
次の島。ウマ娘健全オンリー島。こっちに戻ってくると安心感覚えるよなぁ、なんて話をしながらやってくる。今度のサークルはなんとウマ娘アンソロ本だ。見覚えのあるアメリカ人のおっさんと、いかつい顔の日本人のおっさんが店番をしている。
「おっさん、これ差し入れな」
「Hi Crimson、差し入れ悪いねえ。今年の本は自信作なんだ」
「マイケルが今年はどうしても本を出したいというから私も張り切ってしまったよ」
HAHAHAと日米おっさんコンビが笑っている。日本の方のおっさんはどっか見た気がするんだけどなあ……と首を傾げながらマドレーヌを置いて行く。日米おっさんずの本は思い入れのあるウマ娘達を主役にしたアンソロ漫画だった。とりあえず1部貰っておこう。
とりあえず身内のサークルは回り終わった。軽く歩いたので休息をとる為にもベンチのある所に移動し、座って休憩を入れる。
「くーちゃん、大丈夫?」
「疲れはしないけど……まあ、ちょっと辛いな」
「……」
じー、と見つめてくるディーに苦笑を零す。有マ記念以来、西村Tに頼んでリハビリを始めて貰っている。針を打ったり、運動したり、マッサージして貰ったりするのは当然として湯治も計画のうちに入っている。とりあえず固まった体を解す事と、体力の回復、そして肉体の強化を行わないとならない。
現状、どこを復帰のレースにするかという話で割と揉めている。
GⅡかGⅢあたりで一度慣らしておきたい……みたいな方向性にはなっている。ただアメリカの方から凄まじいラブコールがあるので復帰戦はあっちでやるのもアリかもしれない。まあ、何にせよ未来の事は未定だ。
「今日は、くーちゃんの事を、ママさんに任されてるから、任せて」
ふんすふんす、と意気込み十分のディーの姿に苦笑を零す。
「そこまで意気込まなくてもいいと思うけどなあ」
「病み上がりだから、駄目」
「ふふ、しゃーないなあ」
あのまともに会話さえできなかったディーが、今では他人の心配をして率先して面倒を引き受けようとするのだ。本当に、2年という時間は彼女を大きく成長させたものだ。それに見合うだけの成長を俺が出来ているのであれば良いのだが。
ま、そういう物事は結果が教えてくれる。出来るのは今を頑張る事だ。
「うーし! 企業ブースを回るかあ!」
「おー!」
よ、っと立ち上がってディーと手を繋ぐ。再び人混みをかき分けるようにコミケに身を紛れさせる。
激動のクラシック戦線は―――こうやって、何でもない穏やかさの中に終わった。
クリムゾンフィアー
家事洗濯料理全部◎で実はお嫁さん適性が馬鹿高い
ディープインパクト
家事料理洗濯全部壊滅的で今教わっている
アメリカ人のおっさん
アンソロ本の発案者。秘書と副大統領も巻き込んだ
日本人のおっさん
もしかしなくても滅茶苦茶偉い人
これは完全に私の不覚でしたが、前話でうまぴょいまでの流れですが普通に有マでうまぴょいという勘違いをしてましたが、そもそもURAファイナルズ開催しない世界だとあの電波ソングが流れない世界になってしまうので暮れの中山では電波ソングが流れる事になりました。うまぴょい。