転生赤毛バは凱旋門の夢を見る   作:てんぞー

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46話 あけましておめでとうございますMK-Ⅱ

「おぉ、似合う似合う」

 

「そ、そうかな、えへへ」

 

 そう言って居間でくるり、とディーが一回転する。着た経験がないのか、藍色の振袖姿に着替えたディーは恥ずかしがるようにはにかみながら自分の姿がおかしくないかしきりに確認している。俺はそういう仕草含めて滅茶苦茶可愛いと思うが、この娘はそう言う所を信じられないらしい。

 

「あら、やっぱり似合うわね。素材が良いと何を着せても様になるわ」

 

「でしょでしょ?」

 

 キッチンから覗き込んでくるマミーの言葉にディーはちょっとだけ自信を持ったのかぐっと拳を握る。これで全日本の競バおじさんの脳味噌を順調に破壊しているのだから面白い。ルドルフ以来の無敗三冠、グランプリ2種制覇のクラシック覇権ウマ娘―――それがディープインパクトだ。

 

 そう、2大グランプリ覇者だ。あの宝塚と有マを両方とも勝ってしまうのだから凄い。それだけの才能があるのは解るが、それと達成できるかどうかはまた別の話だ。ぶっちゃけた話、モチベーションが無ければ達成できるものではない。

 

 クラシック5冠で無敗、怪物的としか表現できない記録はほぼ年末の話題を奪ったと言っていいだろう。実際の所、海外ですらディーの話をし始めている……彼女がもう少し国内で活躍すれば、明確な脅威として彼女を認識しだすだろう。

 

 ただでさえ俺、シーザリオ、ロブロイが去年は大いに活躍したのだ。もはや日本をガラパゴス環境の競バ後進国と侮る事は出来ない……いや、まあ、余り日本のウマ娘が海外向けではない事実は認めよう。その中から海外に挑戦できるレベルの連中が出てきたという風に見ておこう。

 

 いずれ、オルフェーヴルとかいう怪物も生まれてくるのだ。日本の競バ界は明るい。いや、年齢的に既に中等部辺りには通ってるかもな。今度探してスピカに連れて行くのも面白いかもしれない。

 

 そんな事を考えながら座っていた椅子から立ち上がる。俺もディー同様―――こちらは紅色だが―――振袖に着替えてある。年始の神社への参拝を一緒にやろう、という話だ。折角平和に年始を迎えられたのだ、一緒に思い出を作ろうという事で。

 

 まだちょっと恥ずかしがっているディーの手を引き、家の外へ。

 

 トレセン学園のウマ娘御用達のちょっと大きな神社へ。

 

 

 

 

「人が、いっぱい、だね」

 

「まあ、トレセン学園御用達の神社だしな。近くには出店もあるし。軽く参拝済ませたら甘酒でも飲むか……つっても俺、あんまり甘酒好きじゃないんだけどね」

 

「そうなの?」

 

「おう。甘いものはまあ、それなりに好きだけどキツイ甘さは駄目だわ。甘酒の甘さは駄目なタイプの甘さだな。……それでも飲むのが新年迎えた時ぐらいって話をすると飲みたくなっちゃうのが不思議だな」

 

「ふふ、私は好き、かな」

 

「というか大体のウマ娘は甘いもん好きだよね」

 

「うん」

 

 本能かなあ。本能だろうなぁ。馬は知らない癖に馬とどこかで似てる部分を感じさせるのは面白い話だ、ウマ娘という種は。でもエアグルーヴ、絶対にベロちゃんと呼ばれる様な姿見せないんだよなあ……。定期的にルナちゃんは目撃している気がするんだが。いや、あれはカイチョーか。

 

「とりあえず一発参拝決めておくか」

 

「ちょっと、並んでるね」

 

「まあ、直ぐはけるだろ。参拝すると言っても大して時間かからないし」

 

 細かい礼儀? 作法? まあ、めんどくさいし別に細かい所には拘らない。そういう小難しい部分はその道のプロを自称する自尊心の高い方々にお任せすれば良い。俺たちが参拝するのは単純にそういうイベントを楽しむ心の為だ―――そう、つまりは心の栄養補給という奴だ。

 

 こういうイベントを楽しめなくなると人生終わりだ。だから楽しめるもんは楽しんでおかなければならない。本殿で参拝する為に列に並ぼうとすると、見覚えのある姿が既に並んでいるのが見えて思わずお、と声を零してしまう。

 

「おや」

 

 向こうも此方を見つけ、声を零す。列に並んでいるのはタキオンとモルトレの姿だった。

 

「あけましておめでとう、フィア君にディープ君じゃないか。その後の調子はどうだい」

 

「あけおめドクター。悪くないよ、一番キツイリハビリコースを西村に頼んだから血尿は覚悟しろってさ」

 

「ははは、それぐらいは受けて然るべきだねぇ。所でカフェとはもう逢ったかい? カフェのトレーナー君がおみくじを何度引いても大凶しか引かないから顔を合わせて首を捻っていたよ」

 

「呪われてるのかなぁ……」

 

 ディーの言葉に俺とタキオンは腕を組んで俯く。まあ、カフェトレの運の悪さというか、こう……明確にこいつ呪われてるなあ……って感じ察せる所は言葉で表現のしようのない部分がある。なんというか、あの人物語の主人公並みに霊障や運の悪さがあるんだ。

 

 だというのに主人公補正は特になし。死ぬときは死ぬってタイプだ。そりゃあ、まあ、一緒に居て心配もするし見てて不安になるわ。カフェトレとカフェは一生大変だろうな。ま、2人には後で挨拶をするとしよう。

 

 周りを見ればちらほらと見覚えのある顔に、警備のウマ娘がちょいちょい。トレセン学園から近く、学生が利用しそうな場所には基本的に警備の連中がいる。というのもテロ対策が必要なのは俺の身で証明されてしまったからだろう。

 

 前よりもセキュリティ関連での出費が増えたというのは誰の嘆きだったか。まあ、安全が約束されるのは良い事だ。

 

 と、並んで雑談をしていると神社の社務所の方からカフェたちがやってくるのが見えた。此方はタキオン同様私服姿での登場だ。態々振袖に着替えてきているウマ娘はどうやら少数派らしい。片手を上げてカフェに挨拶をすれば、カフェも軽い目配せで挨拶を返す。

 

「あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いしますクリムゾンフィアーさん」

 

 きっちり頭を下げて新年の挨拶をしてくるカフェトレに此方も同じように新年の挨拶を返す。

 

「今年も俺の出番は多そうだしなぁ……そう言えば俺がいない間は大丈夫だった?」

 

「えぇ、なんか妙に平和でした」

 

「あけましておめでとうございます、フィアーさん……貴女の手回しでしたね、そう言えば」

 

「うむ」

 

 腕を組み頷く―――俺がいない間、カフェやカフェトレが大丈夫なように実はアメリカに渡る前に暇してる因子呂布さんにちょっとしたゴーストバスティングのバイトを頼んでいたのだ。因子呂布さんも死後は暇しているそうなので快く引き受けて無双ゲーを楽しんでいたらしい。

 

 冷静になって考えると脳が狂うなこの事実。真面目に考えるの止めておこう。

 

 と、カフェと話しているとぺしぺしと足に尻尾が叩きつけられてくる。視線を横に向ければディーがそっぽを向きながら尻尾を此方に当ててきている。距離も一歩分詰めている。言葉には出さないが態度で小さな嫉妬心というか、なんというか、独占力を見せているらしい。

 

 可愛らしい態度に思わず笑い声を零す。そんなディーはむすーっ、とカフェを睨んでいる。

 

 カフェの対応も慣れたもので、素知らぬ表情で甘酒のカップに口を付けている。カフェ側からすれば良い迷惑なのかもしれないな、これ。とはいえそれはそれ、ディーのこういう態度は俺からすれば微笑ましく面白い。

 

 タキオンも面白がっているようで、モルトレの胸筋を叩いてリズミカルに顔を発光させている。

 

「仲は良好の様だねぇ。苦労した側としてはなんともまあ、報われる光景だよ……それで、年内はどう動くつもりなんだい?」

 

「ん-、そうだなあ」

 

 カフェを睨むディーと、それを受け流すカフェを無視して話をする。

 

「一応西村とは話して復帰は国内GⅡかGⅢ辺りから入るのが良いんじゃねぇか……って感じの話になってるわ」

 

 いきなりGⅠでかっ飛ばすのは肉体的にきつすぎるという話だ。そもそも今の俺は固有/領域さえ使えない状態だ。ちょっと深層に潜り過ぎた影響でリミッターが吹っ飛んでいる。それこそ領域を展開しようものなら脳にダメージが残るレベルのショックイメージになるだろう。

 

 俺の領域は元々十数年かけて俺が悟った真理を領域という形にデグレードさせたもんだ。

 

 元々は一つの形だったものを二つに割って、それを領域にして本物の蓋にする。そうする事でレースや遊びで使えるレベルの代物にまでデグレードしていたのだが……それが件の出来事で完全に粉砕されてしまった。

 

 つまりPCからOSを削除してしまった状態の様なもんだ。もう1度最初から設定のし直しだ。とはいえ、今回は前と比べればどこまでのラインを目指せばいいのかは解っている分、楽な作業だ。それでも一週間や二週間で終わるもんじゃないが。

 

「ま、1月と2月は絶対に復帰できないな。3月も怪しい。地獄を見て4月復帰がギリギリ……って所かなぁ。いや、絞りに絞って限界の向こう側見れば3月は行けるかも」

 

「3月となると大阪杯か。アレを復帰戦に出来たら相当面白い事になりそうだがねぇ」

 

「どうだろうなぁ。落ちた筋力と体力をどれだけ取り戻せるか次第、って所かな。本当にいるならいっちょ神様にでも解決して貰いたい問題だわ」

 

 ま、自分が原因なんだけどな。流石に反省してるのでどうにかならないだろうか……?

 

 そんな事を考え今年の予定を話している間に賽銭箱の前までやってくる。奮発する……と言ってしまうのは庶民感覚が抜けないからか。500円玉を用意してディーと並び、賽銭箱に放り込む。

 

 えーと、なんだっけ、2拍1礼だったか? 正しい作法なんてもんは当然覚えてないので、直前の人がやっていた動きを真似してぱんぱん、と手を叩く。

 

 ―――早く回復して、今年も楽しく全力で走れますように。

 

 手を合わせて祈ると本殿の奥がぽぅ……っと僅かに光ったような気がした。

 

「いや、まさかな。そう都合よくはないだろ」

 

 いくらおでかけイベントでバステまで除去してくれるハイスペック神社であるとはいえ、そんな都合の良い事は起きないだろう。心の中で笑い飛ばしながら参拝を終えて背筋を伸ばす。

 

「そんじゃ、お餅食べたり甘酒飲むか!」

 

「うん」

 

 参拝を終えたタキオン組と交流し、このまま知り合いでつるんで新年の空気を味わう。

 

 こうやって、俺たちのシニア戦線が始まる。




クリムゾンフィアー
 体力上限が30から50まで回復した

ディープインパクト
 カフェをじっと睨んでる

マンハッタンカフェ
 トレーナーがいるので

アグネスタキオン
 チワワにバラした犯人。ウマ耳は感度抜群
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