シンボリルドルフ、エアグルーヴ、ナリタブライアン、ヒシアマゾン、マルゼンスキー、フジキセキ、タイキシャトル、テイエムオペラオー―――あまりにも多くの名バ達がそのチームには揃っていた。トレセン学園最強、その名を誰もが疑わない。
チーム・リギル、東条ハナが率いるそのチームは数名のサブトレーナーと共に存在する。かつてはサイレンススズカ、ミスターシービーも擁していたそのチームはたとえ数名引き抜かれようともその玉座を絶対に他のチームには許さない。
だから東条ハナは晒しスレの常連入りしていた。誰かあの厨パトレーナーを出禁にしろと良く言われる。というかURA会長から既に1度“トロフィー独占するの止めない?”とか苦言を呈されている。まあ、そらそうなるわな。
逆に言えばそれだけチーム・リギルは強い。所属しているウマ娘がレジェンドばかりなのだから当然だ。
だからリギルはトレセン学園で最も人気のチームだ。誰もがリギルへの入部を目指し、そして毎年1人しかトライアルを通して勧誘しないという事実に心折れる。つまり、リギルは世代のトップ以外をスカウトする気がないのだ。
そんなリギルは現在、春のドリームトロフィーへと向けて準備を進めている。今度の春のドリームトロフィーは天皇賞・春がモデルの為、長距離適性のあるウマ娘たちがこぞって練習に熱を入れている。芝に覆われたグラウンドではリギルが練習している姿が見える。
ストップウォッチを片手に走るウマ娘たちのフォームやタイムを確認し、サブトレーナーがそれを書き込んで行く。リギル程大きなチームとなればサブトレーナーは複数いる。
その中で、柵の外側に立つリギルのトレーナー、東条ハナを見つける。邪魔しても良いものかと思ったが、東条トレーナーの方が声をかけるよりも早くこちらを見つける。
「来たか、待っていたぞ」
軽く数個指示を出してから東条トレーナーが手招きしてくる。ディープインパクトに軽く視線を向けてみれば、軽く魅入るようにターフを走る姿へと視線が固定されている。
「ディー、行くぞ」
「あ、う、うん」
呼びかければすぐに視線は戻される。少しだけ緊張するかのようにぎくしゃくしながら歩き出す姿に小さく笑い声を零す。そんな闘争心に溢れたチワワを連れながら東条トレーナーの下まで移動する。
東条ハナ、リギルのメイントレーナー。樫本理子サブトレーナーと桐生院葵サブトレーナーを率いるリギルの天才トレーナー。デキる女と呼べるべき雰囲気を纏った女は俺とチワワの姿を見比べ、そして頷く。
「単刀直入に言おう。リギルは2人を受け入れる準備が出来ている」
「スレで“またリギルかよ……”って言われますよ」
「……」
東条トレーナーが眼鏡を押さえた。やっぱ自覚があるらしい。ちょっとだけ傷ついている。
「こほん……だがクリムゾンフィアー、ディープインパクト。お前たちのポテンシャルを完全に引き出して発揮できるのはリギルの他にない。悪い事は言わない、リギルに入ると良い」
萎縮するチワワはともかく、俺は東条ハナと言う人物の強気の姿勢と自信に驚かされた。確かにリギルというチームは凄まじいまでの実績を保有している。だからといって、一切驕ってはいない。東条ハナは事実として、自分が俺達の力を一番引き出せると信じているのだろう。
実際の所、リギルが運用する完全管理主義はアプリトレーナーであれば誰もが納得する理屈だ。スケジューリングされたトレーニング、休養、レースの出場……多くのアプリトレーナーが理想の動きを追求し、ウマ娘の成長を管理しようとした。
最終的には愛嬌切れ者友情運ゲーだが。あのライトハローとかいう卑しい女、ポイントをもうちょっとさあ……。
いや、まあ、いい。この話はマジで良い。サポートイベント系の話の怨嗟は無限に溢れ出してくるからこの話は忘れよう。ともあれ、リギルの勧誘だ。東条ハナの言う通りリギルに所属するのが一番強くなる秘訣なのかもしれない。
だけど、まあ。
「お断りします」
「え?」
チワワが驚いたような表情で、俺を見た。その代わりに俺はチワワの脇に手を差し込んで持ち上げて、東条トレーナーの横に置いた。やはりか、という表情の東条トレーナーはしかし、絶対にチワワを逃がす気はないらしくその手がチワワの肩を掴んでいた。
「一応聞かせてほしい……どうして断る? チームの方針か?」
「いえ、正直リギルの育成メソッドは理想的だと思いますよ。従ったら結果が出るってこれまでが証明していますし」
ただ、まあ。
「俺は最終的にディーと勝負したいんであってマイル路線で無双したい訳じゃないんすよ」
図星か、東条トレーナーが黙り込む。
「……」
「東条トレーナー、俺とディーが同時に所属したら潰し合わせる様な事絶対しませんよね。ディーにクラシック三冠路線取らせて俺をトリプルティアラからのマイラー路線って所っすかね」
タイキシャトルに続く海外まで羽ばたけるマイラー路線はまだない。リギルとしてはタイキシャトルに続くマイラーが欲しいだろうし、三冠路線はディープインパクトさえいれば確実に取れるだろう。だというのに態々潰し合わせる必要はない、というか無駄だ。
俺がスカウトを受けて入学している以上、バンダナを通して俺が野良レースで走った映像は既に出回っているのだろう。沖野トレーナーや東条トレーナー程の熟練のトレーナーであれば、大体足を見るか触れるかで走れる距離というものが見えてくるだろう。
その上で俺はスカウトされるうえで、野良レースの映像を出している。学園に来てからは情報を隠すために一度もレースを走っていないのだが、スカウトの際に必須だったので提出している。そしてそれをこのトレーナーが見ていない筈がないだろう。
「という訳で、別のチームに行かないと戦えそうにないので」
「そういう事か……夢の為の判断だ、だったら引き留める様な事はしない」
ただ、と東条トレーナーが続ける。
「スピカには行くな」
真剣な表情でそう告げてくる東条に首を傾げ。
「どうしてっすか」
「シービーもスズカもあっちに行った上にお前まで行かれるとそろそろ沖野を殺しに行かないとならない」
それはしゃーない、と東条トレーナーの言葉に頷く。だがディープインパクトは納得していないようで。
「え、え、あ、あの、フィアさん、その、一緒に、チームに……入って、そ、その、欲しい……です!」
どもりながらも必死に同じチームに入ろう、とディープインパクトが誘ってくる。言葉がやや飛び飛びだがやや必死なのが伝わる。必死な表情なのは理解できるが、何故そうも必死なのかは解からない。
寂しいのか、或いは敵対したくないのか。彼女は自分の走りに無頓着なようで……自分の走りが相手を壊せるものだと理解しているのかもしれない。だけどそれは違うのだ。俺はどうしようもなく刺激されたのだ、ディープインパクトの強さに。
その圧倒的な強さに、伝説を見た。だからこそそれを越えたい。ディープインパクトを打倒したいのだ。だから俺はディープインパクトの言葉に頭を横に振った。
「ど、どうして、ですか?」
「俺は元々今日、お前をリギルに送るつもりでついてきたんだよな」
南坂トレーナーの言う通りだ、ディープインパクトは自己主張が薄いからそこら辺を補佐し、しっかりと道筋を付けられるリギルが適任だろう。そしてそれに対抗するならスピカかカノープス……或いはミホノブルボンを育てた黒沼トレーナー辺りに売り込もうかと考えていた。
「俺はお前に勝ちたい」
「……!」
「お前のその走りを、同じステージに立って超えたい。お前の走りを見てそう思ったんだ。だからお前と同じチームには入れないんだ」
「わ、私……は……」
最初の一言だけ声が大きく、しかし胸元で拳を作り、必死に言葉を作り上げようとしている。何時の間にか先ほどまで練習中だったリギルのメンバーが練習するのを止めてアオハルしている俺らを眺め始めている。そこです、頑張ってくださいじゃねーぞ桐生院。理子ちゃんも拳握って応援するなボケ。
シンボリルドルフがギリギリ見える所で腕を組みながら頷いてる姿が地味にムカつく。東条トレーナーも一歩だけ下がってる辺りが気遣いが見える。あ、テイエムオペラオーがバラの花びらを持ってきた。エアグルーヴに引きずられてった。リギル、楽しそうだなあ……。
「ふ、フィアさんと、一緒が、良いです……!」
「そっか」
勇気を出して言い切ったディープインパクトの言葉におぉ、という声が外野から上がる。ただそれで俺の心が変わる様な事はない。最初から計画していた通りだ、俺は別のチームへと行く。それがきっと、俺の為でありディープインパクトの為にもなる。
ただそれを言葉にして説明する事は難しい。プライド、事情、ディープインパクトの成長の為……言葉を尽くす必要がある。だけどその全てを説明した所で理解されるのは難しいだろう。
ただ、嬉しかった。ディープインパクトが思ってたよりも俺に懐いてたことに。だけど過度な馴れ合いは、毒だ。
特に競技の世界では。
俺はディープインパクトではなく、東条トレーナーを見た。
「東条トレーナー、ディープインパクトを宜しくお願いします」
「元よりそのつもりだが……クリムゾンフィアー、お前は?」
俺はサムズアップを浮かべた。
「スピカ行っきまーす!!!」
俺はリギルとスピカの対立構造を全力で支持するぜ……!
クリムゾンフィアー
対戦宜しくお願いします
ディープインパクト
今生の別れみたいな空気だったがこの後一緒に寮に帰って風呂に入る。
東条T
沖野に鬼電した
シンボリルドルフ
SVダブル+本体パックを予約した