「―――クリムゾンフィアーさんのメディア嫌いは知っていますが、どうか受けてくれないでしょうか?」
「うーん」
理事長室、たづなさんと秋川理事長を前に俺は腕を組んで唸っていた。理事長のデスクの上には何枚もの書類が乗せられており、それは理事長とたづなさんが忙しい時間の合間を縫って選別してくれた複数の案件書類だった。
無論、誰の案件かと言うと俺のだ。つまり、複数の企業やメディアから是非番組のレギュラーや宣伝、もしくはコラボ商品を作って欲しいという依頼が殺到しているのだ。恐らく今年最も有名なウマ娘として知名度は日本に留まらず、海外にも轟いている。
日本国内でもディープ・クリムゾン競バブームが発生しており、俺やディーの話は連日新聞やテレビで何度も報道されている。飽きないなあ、お前らというのが正直なところの感想だった。俺だったら同じ話題ばかりのテレビとか直ぐに飽きるぞ。
「トレセン学園は私の寄付ももちろんだが、毎年URAやスポンサー企業からの大量の寄付があって成り立っているのだッ! 非常に申し訳ない話だがクリムゾンフィアーには幾つか企業案件を受けて貰いたいッッ!」
理事長が“申し訳ないッ!”と書かれた扇子を広げる。
「心苦しい話ですが、トレセン学園は善意だけで運営できないので……」
「あぁ、いや、うっす。たづなさんも理事長もそういうのは全然悪くないっすよ。俺が根本的にメディア嫌いなのは偏向報道とか変な煽りを入れてくるテレビが嫌いなわけで。企業案件を受けざるを得ないならふつーに受けますよ自分」
まあ、世の中が意外と世知辛いのは知っている訳で。名家のウマ娘程ではないが俺も世の中の仕組みという奴には理解がある。結局俺達はエンタメ側の存在なんだよなあ、というのも重々承知だ。だからこの手の話はまあ、その内来るだろうなあ……とは思ってた。
「忙しい時期に申し訳ありませんね」
「感謝ッ! 用意された案件はどれもガイドライン神によりちゃんと健全だと判断された案件ばかりであるッ! 是非是非検討してほしいッ!」
「ガイドライン神が認めた案件なら安心だあ」
ガイドライン神ッッ! 究極にウマ娘ハピエン厨のご加護を持つ最強の存在! 全てのウマ娘が不幸になり過ぎないのや、えっちな方面に行かないのはこのガイドライン神という謎の加護を放つ神様のお蔭らしい。どれだけ曇ろうとも最後は晴れて終わるのも全部ガイドライン神のおかげだ。
ありがとう、ウマ娘ガイドライン神。
そしてありがとう、サイゲ。
ミカエル出ませんでした。
ファッキュー、グラブル。もう引退するわこんなクソゲー。
「聖蹄祭も近い中、ご苦労様です。今年はスピカで何かをやるか、とか話はありますか?」
「あー」
纏められた案件に関する資料を受け取りながらたづなさんの言葉に少しだけ声を零す。俺が所属しているんだから領域使ってドリーム対トゥインクルやろうぜ! とかドリーム連中が連合して持ちかけてくるので最近は逃げるのに忙しい。お前、アレマジで足の寿命削るからほいほい使いたくねぇんだわ。
「……バニー喫茶とか?」
「兎年ですからね」
適当な事を言ってごまかしておく。誰が祭りの日に殺し合う様なガチレースをするんだクソボケ共。カイチョーまでノリノリなのが本当に手に負えない。いや、だが、まあ、走る事を本能に刻み込まれているウマ娘としては当然の反応なのかもしれない。ともあれ、受け取った資料を抱え、
「それでは明日までにはサクッと決めてきます」
「1週間は待てますので」
「まあ、この手の決断は早い方が印象も対応も良いと思いますし」
感謝ッ! の扇子を浮かべた理事長の姿を背後に、軽く頭を下げてから理事長室を出る。どうしたもんかなぁ、と呟きながらどこか落ち着ける場所を求めて歩き出す。
で、結局栗東寮の談話室に来てしまった。なんだかんだで栗東寮が尻の据わりが良い、というか落ち着く。通り過ぎるウマ娘の姿を見るのも、他愛のない会話に耳を傾けるのもそれはそれで良いものだと思う。さて、と声を零してテーブルに資料を広げて確認する。
流石理事長側とガイドライン神の力によって際どいものは全部弾かれているだけあって、普通の案件ばかりが並んでいる。
「まあ、コマーシャルは良いけどエンタメの準レギュラーとかは別に良いかな」
「なんや、テレビはあんま興味ないんか」
バッサリとテレビ系の仕事を切り捨てると、何時の間にかテーブルの反対側にタマモクロスの姿があった。おっす、と軽く頭の動きだけで挨拶しながら答える。
「めんどくさいの感情が大きい。他人のご機嫌伺いながら仕事するってだけでストレスフルだわ」
「せやろな、ストレスとは無縁って感じの人生送ってそうやもんな」
俺は根本的な部分で溜め込みやすいタイプの性格だと理解しているので、そこら辺溜め込まないようにしている。だから自分にとって何がストレスになるのかそれをちゃんと理解して回避している。そういう意味ではテレビ出演はなしだ。コマーシャルは1回で終わるから良いけど。
それに俺、コマーシャルになったんだぜ? ってのはちょっと自慢にならない?
「清涼飲料のコマーシャル出演かあ」
「あ、それウチとオグリもやった奴やな」
「あー、見た見た。モクロスとオグリで汗流してから飲んでた奴」
「アレなぁ、オグリが一瞬でボトルの中身べこぉっ! て飲み干しちゃうからリテイク何度もやったんよな」
「面白ぇ女……」
容易に想像できる光景にくすりと笑って、保留の方にコマーシャル出演の書類を置く。ドリームの先達が既に経験している道ならまあ、俺がやっても良いだろうって感じはする。アポカリスエットのコマーシャル……俺が出演したらどういう形になるのだろうか?
俺に青春ってイメージはつかないからなあ。
「というか常にウマッターで燃えてるような炎上芸人に案件持ち込むの正気か? って思う。明らかに清純とかそういうイメージはつかないでしょ」
「どっちかと言うとマフィア系やな」
「そうかなぁ、私はそう言うのは似合うと思うよ」
新たな声に視線を向ければ、遺伝子寮長がいた。フジも近くの席に腰を下ろすと案件資料に目を通し始め、苦笑を零す。
「これとか良いんじゃないかな? 女子高生向けファッション誌のモデル。スタイル良いし、見栄えも良いから凄く似合うと思うよ。それに撮影がスムーズにいけば1日で終るから拘束期間も短いしね、あまりストレスにならないよ」
「ほー」
フジに言われたファッションモデルの案件を確認する……いや、でも俺、ファッションモデルとかやってゴールドシチーにそこで勝てるとは思えないというか。シチーに対抗意識感じちゃうからちょっと嫌だなぁ。
「え、フィアーモデルやんの?」
「やらない、絶対にやらないから。キャラじゃないって」
廊下の方からやって来たシチーが少し楽しそうに近寄ってくる。
「いいじゃん、フィアーは何時も飾り気のない服ばかりだけどもっとフリル系に合わせて髪を広げたりするのもアリだと思ってたんだよね」
「マジで勘弁してくれよ」
「あはは、世界に喧嘩を売る赤毛の暴君も可愛い洋服は苦手か」
「気持ちは解らんでもないけどなぁ」
うんうんと頷くモクロスは俺の同類だった。いや、別にスカートとかに抵抗感は感じないし、何ならネタでバニースーツ姿にだってなる事に躊躇は無い。だってもう心も体も完全にメス種族だし、躊躇を覚えていたら生活なんてできる筈もない。
だがそれはそれとして大真面目に自分を可愛く見せるというのは恥ずかしさが勝つ。俺はどっちかと言うとカッコいい系で居たいとは思う。ほら、おっぱいのあるイケメンとか。そういうジャンルのが良い。
「お、何時もお世話になってるアロマスティックの案件じゃん。これ絶対に受けよ」
「結構匂い強めだけど好きなの、アレ?」
「好き。余計な匂いを感じなくて済むところも便利」
「あー」
揃ってあー、という声が上がる。我らウマ娘、ヒトカスの数倍鼻の出来が良い。そのせいで拾いたくない匂いや音まで拾ってしまう関係で、偶に困る時がある。車の中とか、電車の中とか、トイレの近くを通る時とか。
そういう時にちょっとだけ強めの匂いで鼻を惑わせておくと気分的に凄い助かる。そういう意味では格好つける以上の意味があるのだ、あのアロマスティック。
「香り付けかあ……参考にしようかなあ」
「アリではあるよね」
これは絶対やる、と分けて次に手に取ったのは布団の案件だった。
「布団の案件ってなんだよ! ふわふわレビューかよ」
「私は絶対にやるべきだと思うわ。一般論だけど。やるべきだと思うわ」
アドマイヤベガが横に立って力説してる。君、さっきまで影も気配もなかったよな? もしかしてふわふわとかいう単語だけで出現した? 資料をぱららら……と捲ってカップ麺の案件を見つけると何時の間にか室内にファインモーション殿下が出現している気がする。資料を静かに隠すと姿が消えた。成程。深く考えるのはやめておこう。
「とりあえず満足させる為に3~4ぐらいは選ばなきゃなぁ……」
久しぶりにリハビリも何もない、普通の一日を過ごした気がする。
クリムゾンフィアー
コラボ商品は割とグラっと来る
タマモクロス
良くオグリを制御する為にセットで呼ばれる
フジキセキ
そこそこ仕事を貰っている
ゴールドシチー
ダントツで案件を抱えていた一番忙しいまである
アドマイヤベガ
ふわふわ
ファインモーション
ラーメンの気配を感じると阿修羅閃空で迫ってくる