転生赤毛バは凱旋門の夢を見る   作:てんぞー

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69話 KGⅥ&QEステークス Ⅱ

 ヒトカス共は余りここら辺気にしないと思うが、勝負服は単純にウマ娘の競走者にアイドルとしての華やかさを与える以上の意味を持っていたりする。まあ、確かにURAからするとアイドル的な部分を強調する事でグッズの売れ行きを上げるという部分は確かに存在するのだが。

 

 服を脱いで下着姿になる。まずは下着を着替える。下着まで着替えるのか? という質問にはハイ、としか答えようがない。何故ならウマ娘の走行速度はヒトカスのそれを優に超える。ちゃんとした下着を付けないと、走っている時に擦れて色々と痛いのだ。

 

 だから勝負服に合わせて発注する特注の下着がある。ちなみにこれは勝負服を作るメーカーだったり職人とはまた別の所に注文している。この手の業者はトゥインクルやドリームシリーズが盛り上がった頃から爆発的に数を増やした。

 

 まあ、需要が増えてるんだから当然と言えば当然の話かもしれない。

 

 だが俺がまず装着する下着も黒にちょっとしたレースをあしらったもので―――まあ、見えない所で少しだけお洒落をするのが乙女の嗜みみたいなものだ。だがデザイン性は損なっていないのに全速力で走ってもパイポジをずらさず、それでいて姿勢や体形を崩さないように補正してくれる下着は凄く大事な事だ。

 

 この選び方で恥ずかしがるウマ娘はまあ、そこそこいる。俺も最初はちょっと恥ずかしかった。だけどレースで走っていればこの選び方がどれだけ重要なのかは解る。普通のスポーツウェアで野良レースに出た所、胸や股間周りが擦れて痛かった時期とかあるし。あれはほんと酷い。

 

 一流の騎手が一流の馬具を求めるように、一流のウマ娘はそれに見合ったバ具を求めるのだ。

 

 ブラを装着して下着を穿いたら軽く体を捻り動かし、フィット感を確かめる。レース中に違和感を感じればそれだけ脳のリソースを消費する。だからフィッティングはちゃんとする。苦手な人はそれ専用のスタッフがいるのでちゃんと声をかける事。ちなみに俺は自分で出来る。

 

 1人で出来るもんっ!

 

 下着を付けたらいよいよ勝負服の着替えに入る。いや、下着も間違いなくその一部なのだが。9割がたヒトにとって勝負服とか着ている外側のアウターの事を示すだろう。実際、勝負服のメインと言えばそっちだろう。下着に思い入れのあるデザインしてる奴とかこえーよ。

 

 ともあれ、まずは控室に丁寧に持ち込まれた勝負服を手に取る。最初に手に取るのは長袖のフォーマルシャツ。所謂ワイシャツ、レディース用なので胸の所にちょっとだけ余裕がある奴。ここを工夫しないと自分みたいに胸の大きな女性はデブに見えるからね、ちょっとした工夫がシャツに求められる。

 

 カフス付きのタイプで極めてフォーマルなシャツだ。それに袖を通し、袖のボタンを留める。首元も開けずにちゃんとボタンを締める。普段であれば首も開けて胸元もボタンも苦しいから1段ぐらいあけちゃうのだが、今回はそうならないように工夫が施されているから気にしなくても良い。

 

 そもそも全力疾走した所で息苦しくならないように設計されているのだから助かる。

 

 流石おばあちゃん紹介の御用達店だぜ! どれだけ金を積んでも仕事を引き受けない様な職人の手によって作られた王家御用達の一品、その技量には感嘆の声しか零れなかった。

 

 次にソックス、これはかなり長い奴を履く。ズボンとこの後履くブーツに隠れて欠片も見えないだろうが、ウマ娘の脚は消耗品だ。だからタイツやソックスに似た形状のサポーターを使った補強というのは珍しくもない話だ。俺もこれからのレースを考えると、これが必須装備になる。でも皆好きでしょ? ニーソ。

 

 ソックスを履いた所で今度はズボンだ。そう、スカートではなくズボンだ。フォーマリティを押し出した勝負服なのでズボンを穿く。調整の施されたズボンは走っている間に引っかかりを覚える事もなく、しかし腰から足までのラインを一切崩す事無く俺の体の魅力を引き立ててくれる。

 

 ……ロングパンツ系統で全力疾走に耐えてくれるって相当凄いんだぜ? はい、穿いた。

 

 ズボンを穿き終わったらベルトを通し、ベルトにアクセサリーを装着する。デッドウェイトに思えるアクセサリー類はアスリートであれば回避する様なパーツだろう。だがウマ娘にとって想いの込められたアイテムは重量があってもそれがウェイトとして足を引っ張る事はない。フルアーマーフクキタルとかその最たる例だろう。いや、それでもあれは頭おかしいわ。ちなみに噂によると全身段ボールの戦士が存在するらしい。

 

 ハリボテエレジー……一体何者なんだ……。

 

 金の鎖の懐中時計。短剣と鞘。ベルトのバックルは品を崩さない程度に装飾が施されている。これでブーツさえ履けば下半身は完成。ね、簡単でしょ?

 

 しっかりとシャツをズボンの中にちゃんと差し込んだらシャツの上からジレ―――つまりフォーマルタイプのベストを着る。黒いズボンに白いシャツ、そして黒いベスト。全体的に暗い色が目立ち始める格好になって来た。ベストを装着したら次は鮮烈な赤色のネクタイを装着する。これで黒の中に赤色が目立つようになる。

 

 ちなみにベストの裾、その端には彼岸花の刺繍が施されているのがちょっとしたチャームポイントだ。まあ、走っている間はそんなもん見えないだろうが。乙女は見えない所にワンポイントの拘りを加えるものだ。

 

 次は右手首に彼岸花モチーフのチャームを巻く。それからシルバーのネクタイピンでネクタイを胸元に留める。最後にコートを手に取り、袖を通すのではなく肩から掛ける―――何故か全力疾走しても落ちる気配もしない、接着されてるのかというレベルで安定するコートだ。無駄に謎な技術がこのコートの作成には注ぎ込まれている。

 

 フォーマリティを考えれば袖を通すのだろうが、こうした方がどことないらしさがあるでしょ? 完全にはスタイルに染まらないアウトローらしさを求めた結果、西村からは“着こなし方が完全にマフィアのヤバい奴”って評価された事を俺は未だに恨んでる。

 

 これにて勝負服のお着換えは完了した。

 

「終わったよ」

 

「失礼します」

 

 控室の外で待機していたスタイリストが入ってくる。ササっと立っている俺の後ろに回り込んでくると櫛とブラシを取り出して髪型の細かい調整に入る。元々が癖毛ばかりで結構無法になっている俺の髪を整えるのは至難の業だ。その結果、無理にストレートにする必要はないというのが長年の結論だったりする。

 

 だからスタイリストも派手に弄る様な事はせず、見栄えが良くなるように髪の毛の流し方や映える方に整えてくれる。なんでもその日の風向きや光の当たり方まで計算して髪を整えてくれるのだから凄いもんだ。

 

 だがそれも十分ほどで終る。俺の髪の艶はなんでも、手を入れない方が映えるらしい。

 

 そうやってアレンジされたフォーマルスタイルによる勝負服への着替えは完了され、レースを走る為の準備が終わる。軽く頭を下げてスタイリストが下がれば代わりに西村が控室の前で足を止める。その姿を微笑を浮かべて迎える。

 

「どうよ、俺の姿は」

 

「うん、綺麗だ。他の誰よりも」

 

「あんがとよ相棒……俺を走らせてくれたのがアンタで良かったよ」

 

 控室の出口へと向かえば西村が道を空けてくれる。同時に此方へと向かってきているスタッフが背筋を伸ばして口を開こうとし、それを片手で制する。

 

「パドックの時間、だろう? 今行く」

 

「は、はい……此方へどうぞ」

 

 スタッフの後を追う前に最後に西村を見る。だがもう、西村からの言葉は無い。尽くすべき事は全て尽くした後だと言わんばかりに腕を組んで微笑んでいる。俺も、かけるべき言葉は既に終わっている。後はレースの後に、優勝を祝ってもらうだけだ。

 

 かつん、かつん―――蹄鉄が床を踏む音が響く。

 

 遠くからは歓声の声が聞こえてくる。パドックに近づく度に少しずつ聞こえてくる音が広がって行く。

 

『―――番、ゼンノロブロイ。Japanで秋のG1シリーズで一気に三冠を上げた名バですね。ここ、イギリスでの評価はインターナショナルステークスでの優勝バの方が解りやすいかもしれません』

 

『調子はまさしく絶好調といった様子。思わず目を惹く程の輝きで満ちた様子、今日の主役は他の誰でもない、英雄の名を継ぐ彼女なのかもしれませんね』

 

 ひしひしとパドックの方から威圧感を感じる。誰もが最高の状態で仕上がっているのを感じる。頬を撫でる緊張感が心地よい。闘争心が体に沁み込んで燃え上がる感覚は何時味わっても心を躍らせる。

 

『さあ、そしてお待たせしました! 大外という枠に不運にも選ばれたウマ娘!』

 

 解説の興奮した声が響く。スタッフの脚が止まる。パドックへと続く道が光で満ちている。言葉もなく、パドックへと出る道を進む。

 

『だが、彼女であれば走る! まだこのイギリスのターフで走った事はないのに、それが可能である事を彼女の姿が、声が信じさせてくれる! 私も今日というレースを迎えられる事実に抑えられない程の興奮を覚えています』

 

『今日のレース、誰が実況解説をするかで軽い取り合いになりましたからね。私もしっかりと今日のレースを焼きつけて伝えたいと思います。それでは出て来て貰いましょう。全てのウマ娘に火を付けた張本人に』

 

 実況と解説による枠順と番号が伝えられ、バ道から出て身を光に晒す。

 

 アスコット競バ場に集まった観衆の声とテンションが一気に最高のボルテージにまで引き上げられる。それに応えるように右手を持ち上げて軽く横に向かって視線を向ける事無く手を振れば更に歓声が爆発する。

 

 光と歓声のシャワーの中、パドックの中心に立って見上げる。貴賓席にはファイモとおばあちゃんが座っている。それにウィンクを送る。

 

『Crimson Fear! 日本2冠、アメリカ3冠、ドバイ1冠の異例のウマ娘! G1でしか走らず、そして敗北も1度ながら絶対に入着を外さないその次元違いの強さ!』

 

『日本の芝、土、そして砂と既に強さは証明されています。これで欧州の芝にも適応すればまさしく彼岸の怪物の名に相応しいウマ娘と言えるでしょう。彼女が掲げた3大グランプリ制覇の野望、その展望がまさにこの1戦にかかってますよ』

 

『無謀……だが、この娘なら。このウマ娘ならやってくれるかもしれない……前人未踏、エクリプスの真の体現者として君臨するかもしれない彼女の夢の果て……目が離せません!』

 

 既にパドックでお披露目を終えた他のウマ娘達からの視線を受ける。話す事の出来る距離に居ながら言葉を交わさないのは、もはやそういう段階を過ぎ去っているからだ。既にこの場にいる全員がかかり気味と言えるだけの闘志を燃やしている。

 

 言葉にしてしまえばそれが無駄に口から零れてしまいそうで……必死に自制する為に誰もが黙り込んで視線だけを向け合う。

 

 そんな居心地の良い空気の中―――漸く、レースが始まる。

 

 3大グランプリの最初のレース、KGⅥ&QEステークス。まもなく出走。




クリムゾンフィアー
 耳のアクセがないのは牝馬でも牡馬でもないから

バンダナ
 まるでテーマパークに来たみたいだぜテンション上がるなぁ~
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