転生赤毛バは凱旋門の夢を見る   作:てんぞー

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73話 やっぱりもう終わりじゃん……

「おはようございます、Crimsonさん」

 

 ぺしぺしぺし。

 

「おはおは。今朝は重めに?」

 

「えぇ、今日はレースに向けて追い込みをするので少し重めに」

 

 ぺしぺしぺし。

 

 ちょくちょく朝食で会う娘の前には山盛りのパンが見える。パンというかサンドイッチだろうか。普通のフランス人は朝食は軽めにしてパンを食べるのが習慣だと聞いているが、ウマ娘は体が資本だ。朝食をパンのみで済ませるという事は出来ない。

 

 だから色々と栄養に考慮したサンドイッチと、サラダと、スープ。おかわり自由。それを凄い勢いで吸い込んで食べるのはまあ、どの国もウマ娘は変わんないんだなあ……ってのを思わせる。俺も実際、割と喰う方なので気持ちは解らなくもない。

 

「Crimsonさんも10月は凱旋門賞でしたでしょう? 応援していますわ」

 

 ぺしぺしぺし。

 

「サンキュー。昔から走りたいと思ってたレースだけに今から楽しみだよ。んじゃ朝飯を食うか……」

 

 のっそのっそと俺は歩く。左半身を両手脚でコアラのように引っ付いて離れないディーを引き連れながら。奇怪に見えるこの光景を見て何のリアクションも取らない辺り、世界有数のトレセン学園であるシャンティイではこの程度の光景は珍しいものでもなんでもないらしい。

 

 ふふ、怖くなって来たぜ……。馴染めるかなあ……。

 

 とか悩んでたけど実は秒で馴染んだ。

 

 

 

 

「お久しぶりっす、東条トレーナー」

 

「久しぶりね、クリムゾンフィアー。今の貴女を見ているとやっぱりあの時アイツをターフに埋めてリギルに入れた方が良かったと後悔してるわ」

 

「ターフに埋めた所で沖野トレがダメージを受けるとは思わないんですけどね」

 

 ちなみに数日前にアップロードされたパカチューブの動画ではゴールドシップ号と戯れるスピカの姿がアップロードされていた。ゴールドシップ&ゴールドシップ号によるダブルライダーキックを受けて爆散したはずなのに無傷で起き上がってくる不死身の姿にはもはや恐怖しか覚えない。というかゴールドシップ号そろそろ正史世界に帰りませんか? どうして生身でこっちにいるの? ねえ……。

 

 というか動画配信される馬の姿って旧支配者を生放送で世界配信してるのと同じような行いだと思うんだけどそこら辺どーなんだろ。まあ、いいや。

 

 シャンティイ学園の練習用に確保しているターフの一角に日本組で集まる。シャンティイ学園の保有する敷地面積は非常に広く、練習用に使えるグラウンドやターフの類も複数存在している。俺がVIP扱いなのかこれが遠征組に対する配慮なのかどうかは解らないが、割とあっさりとターフを丸ごと一つ使わせて貰えている。

 

 割とありがたい話だが、あのカモメの事だから普通に贔屓してそうなんだよな。

 

 久々に着る日本トレセン学園の体操服姿でディーと組んで柔軟する。フォワ賞までは基本的に俺とディーで組んでトレーニングする事になるだろう。戦術や思想は別として、すでにお互いに隠せるような情報は存在しないのだからバラバラにトレーニングするだけの意味がない。

 

「ぐにゃあ」

 

「よいしょ」

 

 開脚して芝に倒れ込むと、背中をディーが押してくる。たっぷり数秒間開脚したら脚を閉じて、今度はディーの開脚を手伝う。当然ながらこれで苦労する様な事はない。何年もかけてここら辺の柔らかさは当然のように手にしている。ぐにゃりぐにゃり。

 

「くーちゃん、重いー」

 

「そんな事ないよー。重くないよ。尻の軽い女だよー」

 

「それはそれでどうかと思うよ僕は」

 

「学生がそういう言い方をしない。特に貴女は海外メディアも凄く注目しているのだから、失言一つで日本の品位まで疑われる立場なんだから」

 

「うす」

 

 東条トレに怒られた。イイ感じに体がほぐれてきたので柔軟を止めて立ち上がる。

 

「でもよお、東条トレーナー。俺のウマッターついに特に何もしてなくても自称有識者とか自称知り合いとかが勝手に燃やしに来るから面白い事になってるんだけど」

 

「有名税よ。ルドルフだってぱかライブに出る度に炎上してるわ。もう貴女ぐらいの知名度になると正しくてもそうでなくても勝手に炎上するものよ。諦めなさい。表向きの広報用のアカウントと、身内で使う為のアカウントで分けるべきね」

 

「やっぱそうなっちゃうか……」

 

 まあ、なんだかんだでウマッターって宣伝や交流以外では不便だから、身内でチャットするならディスコードになっちゃうんだけどね。アレだと画面共有とかで一緒にゲーム遊びやすいし、外の連中がサバに勝手に入って来れないし。身内だけでやる分ならディスコードで良い感じはある。

 

「ディー、芝慣れたー?」

 

「まだー」

 

「そっかー」

 

 ちょっと下がってから軽くステップを取ってディーから距離を取る。何をしたいのかを察したディーが真っすぐにこっちに向かってくるので横に跳んで回避する。上手く速度を殺したディーがそのまま鋭角に曲がって此方へと向かってくるのを両手でぱんぱんと叩きながら誘導して回転、回避する。

 

「へいへーい! こっちだへーい!」

 

「くーちゃん、待ってー」

 

「待たなーい」

 

 リズミカルにステップを取りながらなるべく走らないように逃げる。それを追いかけるように瞬間的なスプリントを繰り返してディーが追いかけてくる。洋芝の上でちょっとした鬼ごっこだ。普通にトレーニングするのも良いのだが、人数ある時にやるこれ、割と楽しいんだよね。

 

「えい」

 

「たぼぼ」

 

「むん」

 

「ふんぎゃろ」

 

 手を叩いて誘導しながら追いかけて来るディーの動きに少しずつ熱が籠り始める。最初は緩めにやっていた鬼ごっこも追いつけないと段々と表情が真剣に、視線が鋭くなって行く。変わって行く気配に俺も少しずつ笑みを深めるように滲ませて行く。段々と加速するスプリント、加速し始めるターン、そしてその間にも感じるターフの感触、

 

「熱を入れ過ぎないように」

 

「ういー」

 

「はーい」

 

 と、熱が入り切る瞬間に西村の声が熱を断ち切った。乗り切る瞬間を狙ってやったのだとしたら、良くやったとしか言えないタイミングだった。逃げていた脚を止めると、ディーがとん、とぶつかる。

 

「捕まえた」

 

 両手を回してくるディーから視線を外して西村と東条トレーナーへと視線を向ける。

 

「別にプライベートの関係にまで口を挟む気はないわよ。貴女たちはそれとレースを切り離して走れるタイプだし」

 

 出来たらもうちょっと強めな言葉が欲しかったなあ、と思いながら西村のコメントを待っていると、真面目な顔をしてタブレットを眺めている西村の姿が見えた。滅茶苦茶眉間に皺を寄せている姿に何かやばいもんを感じる。

 

「どうしたの?」

 

「いえ……東条さん、これ……」

 

「……」

 

 西村に促されてタブレットを覗き込む東条トレーナーまでが黙り込む。ディーと視線を合わせて首を傾げ、回り込む様にタブレットの中を覗き込む。

 

 ―――そこにはレジェンドレース開催と書かれていた。




URA
 ドリーム組があまりにも煩いから合法化した
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