そもそも前々からトゥインクルvsドリームという構図を見たいという意見は多かった。ドリームトロフィーへと進出する条件は決して簡単ではない。それなりの人気か、或いは功績を上げたウマ娘だけが走る事を許されたリーグなのだ……一種のレジェンドの集いとも言えるだろう。
だからこそ挑みたくなるというのがウマ娘だ。ただドリーム組の多くは本格化を終えた者が自分の肉体を維持するのに専心してたり、或いは緩やかに能力を落としている時期に入ってたりする。無論、ちょっとしたミラクルを起こせば全盛期ぐらいのスペックには戻せるだろう。ダラカニがそうだったように。
だが基本的にフィジカルという点においてドリーム組はシニア期に入ったトゥインクル組にはやや劣り、回復や調整の事を考えてマッチするのは難しいとしていた。まあ、半卒業組なのでレース数は当然絞るしその後の進路を考える時期でもあるのだから。
だが、新しく開催されるレジェンドレースはそのドリームとの対決を許すシステムだった。
URAに指定されたレースに投票されたドリーム組が参戦権を得られるというシステム。つまり、ダラカニの様な無茶をせずとも投票次第ではレジェンドと対決できるというシステムをURAが打ち出してきたのだ。恐らくはドリーム組の圧力に屈したのと……二度とダラカニのように全てを捨ててでも走るという覚悟を持ったウマ娘を出さない為に。
アレは裏話、アイルランドから圧力があったとか。
そういうことでURAは幾つかの国のレースをレジェンドレースとして指定してきた。それで当然ながら俺にも関わりのあるレースがピックアップされた。
BCクラシックと有マ記念。俺が走る事を公表し、そして多くのウマ娘が殺し合う為に出場を求めるレース。
―――王者の祭典に、堂々と伝説が凱旋する。
なお凱旋門は駄目だったらしい。世界最高の舞台に既に現役を降りた連中が出て来るんじゃない、とか一部からキレられたのが原因だとか。まあ、そりゃそうだ。ただ少なくとも目標となるレースにドリーム組の参戦が決まった。
俺の号令に、世界が徐々に変わり始めていた。
まあ、そんな世間をガン無視して俺はディーとデートに出ていた。レースに出てくるなら全力で叩き潰すというだけの話なので、ロートル共がえっちらおっちらターフに戻って来てもお婆ちゃん大丈夫? 負けていく? そっかぁ……ってなるだけの話だ。相方とデートする方が100倍大事。
「ルーブル美術館やばかったな」
「う、うん。ウマ・リザ、本物を初めて……見ちゃった」
ディーが興奮にちょっと拳を握っている。解る。超解る。こう……絵から感じるエネルギーというものがまるで違っていた。展示されている美術品の一つ一つから言葉に出来ない様なエネルギーを感じ、感性を刺激された。
「美術鑑賞とか趣味じゃないなあ……とか思ってたけど実際に見てみると凄かったな」
「うん……!」
2人でルーブル美術館を前にきゃっきゃ喜ぶ。イギリスでもティンタジェルを観光してきたので、当然フランスではパリ観光だ。今も少し離れた所で見守るようにSPがいる。流石にSPを放置して外に出かけるという事は不可能なのでまあ、仕方がない。ただこうやってディーと2人で出かけられるのは本当に久しぶりの事だ。
お蔭でさっきからギュイーンと音を立ててディーのやる気と体力と体力上限が上がり続けている気がする。まあ、俺も久しく摂取できなかったディー分を摂取できているのでお相子という事で。
ルーブル美術館を出た俺達は特にプランらしいプランを持つ事もなく、ぶらりとパリの街並みを歩く事にした。ルーブル美術館にまず行ったのは寮の娘に人生で一度は訪れて欲しいから、と言われたから。お勧めされるがままに行ってみたがアレはマジで後悔する事のない経験だった。
「建物、どれも古そうで、雰囲気あるね」
「この手の観光都市って景観維持を頑張ってるらしいからなあ……あ、ケバブ屋なんてあるぞ!?」
「あ、ほんとだ……良い匂い」
朝ごはんもそれなりに食ってきているのに匂いを嗅ぐだけでお腹が空いてくる。さっきはベーカリーによって焼きたてのカリカリふわふわクロワッサンを食べたばかりだというのに。匂いに釣られるように一瞬でケバブ屋に乗り込み、目の前で生地と肉を焼くところを見て、両手にケバブを持って店を出る。
口の中に溢れだす異国の味に舌を喜ばせながらパリをディーと共に歩く。今更な話だけど、
「俺、最初の頃はディーを見てもう無理だ……って思ってたんだよなぁ」
「えー?」
ケバブをはむはむと食べながら疑わし気な目をディーは俺に向けてくる。その視線を受けて俺は苦笑する。笑みを浮かべた青年が此方の注意を引こうと手を上げて近づこうとした瞬間陰からSPが出現し、一瞬で青年の意識を落として路地裏の中へと引きずり込んだ。見なかった事にしておこう。
「いや、だってあの時からディーはやばいくらいに強かったし、走るって解ってたからな」
未来知識で、とは言わない。史実とか、現実とか、そういう話は誰かにする様なもんでもないし、気にする必要のない事でもある。ここまで競バの歴史を粉砕している以上、もはや導も糞もないだろうし。世の中、それぐらい自由で良いんだろうと思っている。
「私も、くーちゃんと最初逢った時……この人は、どこか違うな、って思ったよ」
「ほんとかよこいつ」
「ほんとだよー」
ふふふ、と視線を合わせて笑いあいながらパリを堪能する。パリには多くの観光名所が存在する。ルーブル美術館以外にも大聖堂やエッフェル塔もある。街そのものが歩いていて楽しい所だし、劇場を覗くのも決して悪くはない。やっぱり好きな子と一緒に回ると趣味じゃない場所でも割と楽しく思えてしまうものなのだろう。
何時にも増して笑っている気がする。
「くーちゃん、ジェラート」
「え、もう甘いもの食べるの?」
「何個でも入る」
「えぇ……俺も喰うけどさ」
ケバブ食べ終わって丁度手元が寂しかったし。ジェラート屋に突撃して二人で違うフレーバーを購入する。ジェラートつったらイタリアってイメージだけど実際はどうなんだろ? とか思ってたらジェラートの上にマカロンが飾られてる。
「クッソばえる奴じゃんこれ」
「撮る?」
「ウマッターに上げたらまた炎上しそうだからいいや」
さっきからSPさんがパパラッチを闇に葬り去ってるし。デートってこんなに犠牲者出すんだな……俺初めて知ったよ。口に溶けるラベンダーの味わいが中々面白い。ラベンダーなのに普通に美味しい……流石フランス、食文化の国。
「ディーは何味にした?」
「はちみつ」
「ほほう」
「あっ!」
美味しそうにはちみつ味のジェラートを食べているのでぺろり、と軽く舐めてしまった。うむ、普通に美味しい。ディーが削れたジェラートの部分と、俺の手元のラベンダージェラートを交互に見ているので、手元を少しだけディーの方につき出すと、数秒程考えてから舌を伸ばして舐めてきた。
「……美味しいけど、はちみつの方が好き」
「俺もそっちのが好きだからもう一口……」
「駄目」
駄目、と言ってジェラートを引かれた。くぅんくぅん泣いてもだめらしい。ちぇ、と舌打ちしながらジェラートをもう一度舐めていると、ディーの視線が此方に向けられている。
「食べる?」
「ううん」
再びジェラートを食べるのに戻る姿に微笑んだ、歩き出す。マカロン乗ってる辺りが凄いお洒落だよね。
ジェラートが段々と減って行く。特に歩く目的地とかある訳でもないが、自然と俺達は相談する事もなくそこへと向かっていた。地図は頭に叩き込んでいるだけあって迷う事もない。
手元に食べるものがなくなったころに到着する前には巨大な門の姿があった。
凱旋門。パリ有数の観光名所の一つであり、凱旋門賞の名前の元となったもの。
「俺よぉ」
「うん」
「凱旋門賞って最初は名前しか知らなくてよ」
「うん」
「この門潜って走るレースなのか……? とか思ってた」
「ぷふ」
ディーが顔を思いっきり逸らして必死に口元を押さえながら笑いをこらえようとしている。それを覗き込むようにぐぐぐぐ、と身を寄せるとひーひー息を整えたディーがなんとか声を絞り出す。
「が、凱旋門賞は、う、ウマ娘にとっては、常識……だよ」
「そうだな、何度も価値として、格として世界最高のレースとして評価されてるからな。今年も最も格のあるG1レースとして評価されてるらしいからな。でも、まあ、そういうのにマジで最初は興味なかったんだよ、俺」
ここら辺はマジの話だ。凱旋門を見上げながらぽつりと言葉を零して行く。
「本当に最初は走れれば良かったんだ。本気で、全力で。その先で気持ち良く死ねるなら最高だって思ってたんだよ、俺は」
走った果てに燃え尽きたい。本能に任せて走り去りたい。その欲望と願望と後悔だけが体を突き動かしていた。だからG1とか評価とか、あんま気にしてなかった。
「私も、ね」
「おう」
「最初はレースとか、全然興味なかった。家の人たちに言われて……それが義務で、それだけで走ってた」
だけど―――だけど。
「
言葉は同時、声が重なる。それが俺達の世界を変えた。お前との、俺との出会いが全てを変えてしまった。多分俺達はあの時、あの寮の同室になった瞬間……気づく事もなく一目惚れしていたのかもしれない。お互いがお互いの才能を見抜いていたから知らずに互いを求めていた。
それを自覚し、受け入れ―――そしてついに夢の舞台までやって来た。
「フォワ賞、勝ってくるね」
「凱旋門賞で待ってる」
拳を作り互いにごっつんこ。それ以上の言葉は必要ない。
フォワ賞……ディープインパクトは必ず最高のレースを見せてくれるだろう。
必ず。
クリムゾンフィアー
デート用に普段は着ないガーリッシュなスカートブラウスコーデで着ていた
ディープインパクト
西村にコンディション調整されてるので風邪をひく気配がない
百合の間に挟まろうとする者を全自動で抹殺するSPさん
にっこり