転生赤毛バは凱旋門の夢を見る   作:てんぞー

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75話 超世紀末チワワ伝説

 フォワ賞。

 

 凱旋門賞同様芝2400mで開催されるこのレースは凱旋門賞の前哨戦とされている。コースの距離がそのまま凱旋門賞と同じなのだから、ここで良い結果を出せればそのまま凱旋門賞でも同様の走りができるだろう……という話だ。

 

 その為、海外からやって来たウマ娘は一度フォワ賞で己の状態やどれぐらい走れるのかを確かめる事が多い。特に日本のウマ娘はそうだ。野芝と洋芝ではあまりにも環境が違いすぎる。日本でクラシック三冠を取れたとしても欧州で走れるとは限らない。

 

 それを知る為のフォワ賞だ。フォワ賞で好走すればそれだけ凱旋門賞での期待が高まる。だから自分が凱旋門を走れる事を証明する為に、まずはフォワ賞を走るというのが普通らしい。

 

「まあ、KGⅥ&QEステークスを走った俺にはフォワ賞は不要だよなぁ」

 

「まあ、そうだね。コース適性は別にあるかもしれないけど、フィアーは別に重バ場も問題ないし、何故かコースが濡れていても関係なく走れるだろうね」

 

「前々から水撒きの話は聞いてるけど実際はどうなの? 本当に水撒かれてるのアレ?」

 

「さあ?僕も聞いただけの話だしね。でも実際のところ、凱旋門賞はフランスのみならず、ヨーロッパ全体にとってもっとも特別なレースだよ。ヨーロッパの威信がかかっているとも言える。世界で最も評価されているG1という看板はね、その想像以上に重く大きなものなんだよ」

 

 ほーんと呟きながらパドックにウマ娘達が出てくるのを待つ。ロンシャン競バ場は他の競バ場とは違い、格式の高いレースが行われる競バ場だ。その関係でドレスコードもある程度必要とされている。だから西村はスーツ姿だし、俺もロングスカートにブラウスという大人しい恰好で来ている。

 

 流石に場が場なだけにアロマスティックも買い食いもなしだ。ロンシャン競バ場は日本の競バ場と比べればもっとフォーマルな形式に近い競バ場だ。ロイヤルアスコットもそうだったが、欧州の格式の高いレースは観戦側にもそれなりに品を求められる部分がある。

 

 まあ、一応パドック付近にレストランやラウンジもあるので小腹が空いたら補給は出来るのだが。それでも競バ場グルメみたいな日本っぽさは存在しない。欧州に渡って来てから競バ文化の違いだなあ……というのを良く感じる。

 

「J・URAも今まで凱旋門が取れてないから今回取りに行くディープインパクトとフィアーの事が希望なんだよね。今、日本では二人を後押しする特集が凄い流れてるみたいだよ」

 

「あぁ、ウマッター見てると嫌でも宣伝とか特集とかニュースとか俺の炎上が映ってくるのそういう」

 

「炎上はもう少し反省しようね?」

 

「そんなぁ」

 

 もはや炎上するのが趣味なまである。俺の反応にブチぎれて燃え上がるヒトカス醜くて見るの楽しいなあ……って感情さえ芽生えてる。

 

「実際の所フォワから凱旋門で好成績を残してるのはエルコンだけだっけ?」

 

「そうだね、リギル所属のエルコンドルパサーだけだったと思うよ。ロンシャンを走るノウハウはそのままディープインパクトに受け継がれてると考えても良いだろうね」

 

「だろうなぁ」

 

 そこら辺の抜かりは間違いなくない。東条トレーナーにとって凱旋門はルドルフで行く機会を逃し、そしてエルコンの敗北した地だ。何としても取りたいだろう。普段はリギルアンチの存在するネットですらディーのフランス遠征には肯定的だ。

 

 何せこれまで日本バで凱旋門賞を勝ったことはない。世界最高、本場ヨーロッパのレースだ。これで勝つことは即ち世界最高のウマ娘である事を証明する事に他ならない。日本URAの悲願でもあるのだ。

 

「っと、出てきたな」

 

「Pride,Divine Story,NearHonor, Hurricane Run……Rail LinkにShirocco,BagoにOuija Boardまで出て来てる」

 

「すげぇ、欧州オールスターじゃん」

 

 見覚えのある顔がチラホラといる。この2年前後活躍しているウマ娘や、フランスやアイルランドダービーの勝ち馬が揃っている。メンツを見ると相当豪華な顔ぶれになっているが、これでさえまだ本番ではない、前哨戦だ。

 

「お、ディーも出てきた。しかしフォワ賞、出るかどうか悩ましい時期だよなあ」

 

「そうだね。フォワ賞から凱旋門賞までは約3週間、ここで全力で走ったら本番までに回復するかどうかって所ではあるんだよね。ただ遠征組は芝とコースに慣れる為に必要な前走ではあると思うよ。コースに慣れているか否かはトップスピードに関わってくるし」

 

 実際に走ってみないと解らないラインの取り方とかが存在するのは確かだ。チャンミ育成では何時も競バ場と回りスキルは取るし。その差で勝てるかどうかが決まってくるのが上限レベルのレースだ……というのはアプリの話だが、あながちこっちのトップ環境もそう変わりはない。

 

 パドックに出てきた勝負服姿のディーが此方を見て、手を振ってくるので此方も微笑を浮かべて手を振り返す。緊張はせず、自然体でいられるようだ。こりゃあメンタルの心配は一切しなくて良いな、かかってる様子もないので何時も通りの走りができる筈だ。

 

「うっし、パドックも見れたし行くか。VIP席を取ってるんだっけ」

 

「コース全体が見れるのを、だね」

 

 大邪神カモメが用意してくれた奴だ。関係者だけにこの手のチケットを手に入れるのは凄い楽らしい……コネって素晴らしいけど、あのカモメに仲良くされるのは割と複雑な心境なんだよなあ。まあ、それはともあれパドックから客席の方へと移動する。

 

 途中で売っているオペラグラスはまあ、流石に要らない。ウマ娘の視力は滅茶苦茶良いので必要としない。西村もマイグラスを既に所持している……トレーナーは普通にこの手の道具を観戦用に持っているらしい。

 

 それから指定席の方へと向かえば、すでに東条トレーナーの姿があった。近づいてくる此方を見ると、軽く頷いた。

 

「調整、助かってるわ西村」

 

「いえいえ、此方こそリギルのやり方勉強させて貰っています。それに愛バの目標が最強である事ですから……唯一フィアーを下した最高の状態のディープインパクトに勝てなければこの凱旋門には意味がありません」

 

「ふ、一人前の顔になって来たな」

 

 東条トレーナーと西村が視線でバチバチにやり合っている。日本人からすると歴代最強の戦力で凱旋門賞に挑む形だが、この2人からするとリギルvsスピカという構図になっているのは滅茶苦茶面白い事実なんだよな。バチバチに盛り上がっている二人を無視して席に座り込み、腰を落ち着ける。

 

 流石高い金のかかるエリアだけあって座り心地も景色も悪くはない。これならラウンジで飲み物でも取って来ればよかったかもなあ、と考えてしまう。凱旋門賞の前哨戦だけあって、よく見るとロンシャンにはそれなりのメディアが競バ場入りしているのが見える。注目株はやはり前年度凱旋門賞バか、或いは日本から渡って来た無敗のウマ娘か。

 

 ―――いや、でも勝つのはディーだなこれ。

 

 パドックでウマ娘を見た評価だが、ディーに勝てる奴がいるとは思えなかった。少なくとも何か特殊な作戦でもない限りディーが勝つだろう。そしてこれまで日本というガラパゴス環境でのみ走って来たディーの評価はあまり安定しない。

 

 ただ1点、皐月時点で俺に勝利している点で海外からはそれなりに評価されているが、それ以降の対決がないのが評価に響いている。強いが、海外という環境で強いかどうかはまた別の話なのだ。

 

 厳しい話だが、海外で飛びぬけた活躍をしたウマ娘はあまりいないのだ。それが全体的に日本のウマ娘が舐められる理由でもある。俺という超特異型ウマ娘の出現でその評価も結構変わってきているが、日本の芝は野芝で、洋芝ではない。

 

 閉じこもった環境で走っているのだという評価は、どうしても出て来てしまう。

 

 まあ、野芝と洋芝の関係は気候の問題なのでしょうがないのだが。札幌をメインにして走れって言うのはちょっと酷かなあ……ってのはあるし。

 

「日本バがこれからも世界で通用するかどうかは洋芝への適正、か」

 

「どうした急に?」

 

「いや……俺やディーがどれだけ活躍しても、それじゃあ俺達が特異だったって話になるから、日本競バが評価される訳じゃないんだろうなって考えただけ」

 

「妙な事を考えるわね。でもそれを選手が考える必要はないわ。それとも日本競バの地位向上が目標なの?」

 

「いや、別にそういう訳じゃないんすけど……ちょっと、考えただけで」

 

 まあ、意味のない考えだよなぁー。というのをちょっとだけ考えた。結局の所、俺もディーも出来るのは勝つ事ぐらいだ。だったらとことんそこを突き詰めるだけだ。発走の時間が来るのをコースを眺めながら、トレーナー達の牽制を横に楽しみに待つ。

 

 いよいよ、或いは久しぶりにディーの走る姿が見れる。

 

 なんだかんだで俺はそれが楽しみだった。




パリロンシャン競バ場
 今から深き衝撃に脳をやられる
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