パドックも終わりそれぞれのウマ娘がロンシャンのターフへと移動を始める頃、俺はトレトークに勤しむ2人を無視してスマホでウマッターを眺めていた。相変わらず我がウマッターは良く炎上しているが、ウマスタグラムへと移ろうという気持ちは皆無だった。
あのウマスタのキラキラしている感じがマジで無理。気持ち悪い。俺、意識高い系ですってやってるのがマジ無理。カレンチャンはほんと良くやるもんだわ、滅茶苦茶尊敬するわ。尊敬しても絶対に真似はしないが。
そんな事で暇つぶしには最適な最近アプリそのものが炎上気味のウマッターを漁っていると、昨日のブルアカ生放送まとめが流れてきた。
「お、そう言えば昨日は夜遅くまでチワワの世話をしてたから見忘れてたな」
ネタバレ回避用にウマッターを封印してたし、まあ、もうブルアカも周年だしいっか……の気持ちで生放送まとめを見る。
見てしまう。
ふふ、見ちゃった。
俺は生放送まとめを見て、静かに韓国へと向けて祈りのポーズをとる。おぉ、偉大なるキム・〇ンハ統括よ、これほど俺は貴方を偉大だと思った事はなかった……今ならなぜあの清渓川はそこまで澄みきっているのかを魂で理解できる。
「フィアー? フィアー!? 泣いてるのか!? どうして!?」
「偉大なるキム・ヨ〇ハ統括Pの優しさと慈悲を感じていた所なんだ」
「まるで意味が解らんぞ」
引きこもり期に俺のソシャゲを回していてくれた西村は俺のその発言で大体の事を察してあぁ、成程……なんて顔をしているが、東条トレーナーはまるで何も理解できない様な表情をしている。成程……可哀そうに……この眼鏡、これまでブルーアーカイブと出会った事がなかったのか。
まあ、落ち着けと東条トレーナーに仕草を取る。
「落ち着くべきなのは貴女の方だと思うんだけれど……」
「まあ、まあ。ブルーアーカイブの素晴らしさはまず統括Pの慧眼にある。ダークで重めのシナリオが流行り出した頃に“皆重めのシナリオに食傷気味になってもっと透明度があってポップでライトな雰囲気を求め始める”という意見を切り出したらしいのだ」
「突然どうした」
統括だったっけなあ、これ。誰だったっけ。ブルアカの始まりの話ってここら辺だったよね。
「俺もミカゼミだっただけに今心と頭の中が歓喜で満ちているから是非言わせて欲しい。エデン条約編は本当にやばかった。確かにアビドスの対策委員会編でそこそこ重めの話が出てきたのは事実だけど、それをはるかに超えるシナリオの厚みで殴られたね、アレは」
「本当に何を言い出してるんだ」
『それぞれのウマ娘がゲートイン……今、フォワ賞が始まります!』
エデン条約編は本当にブルアカ屈指のシナリオだ。アレなしではブルーアーカイブというゲームを語る事が出来ない。だけどその前提として対策委員会編とアリス編は是非とも読んでおくべきなのだ。まず最初に変態イケメンスパダリである先生という存在を理解する必要があるのだ。
「まず頼れる大人が存在しない都市で頼れる大人として一貫したスタンスを貫く姿勢、姿。自分以外の全て、戦う少女達よりも遥かに弱くても大人の矜持で立ち続ける姿……そっと寄り添って道を示す教師としての姿。いやあ、ほんと面白いよね……かっこいいよね、先生」
「わかる」
「西村?」
『最後方に控えるDeep Impact……かかり気味か? どんどん前に上がり始めている―――』
いやあ、先生のスタンスが本当に一貫して崩れないのが美しい。今確認したPVで先生がいないとどこもバッドエンドになるの、責任を取ってくれる、背中を押してくれる大人がいなかった少女達の破滅する姿なんだよね……でもこれを全て乗り越えた上で最終章がやってくる。
これまでの物語を全て踏まえた上での最終章なのだ……もうそりゃあ楽しみですよ統括!!
『これは……かかっているのですか?』
『いえ、違います……これは……大逃げに対する追い込みです! 彼女は既に凱旋門を想定して走っています! これはかかっているのではなく、予行演習ですよ!』
「でもやっぱり一番叫びたいのはミカだ。ミカ実装だ。ミカが実装されるんだよ……!」
拳を握ってバシバシと西村の胸板を叩くとミシミシと肋骨が軋む音がする。西村吐血してない? 大丈夫? 大丈夫そうだな……良し! もうちょっとこの感情を吐き出す為にも西村の胸を叩こう……良し! 満足した!
「ミカはね、推せるんだ……」
「レースを見ないのか……?」
「ミカがついに実装されたんですよ!? するんですよ!?」
東条トレーナーが解らないって顔をしてる。そうか、ミカの良さが解らないか。可哀そうに……もはや清渓川に沈めるべきなのかもしれない。いや、諦めてはならない。こういう時の為にちゃんとした備えはある。スマホから事前に用意したスライドを表示する。
ミカ布教用スライドである。無理矢理東条トレーナーのスマホに布教用のスライドを送信する。迷惑そうな表情をしているが、俺は確実にやり切った……この徳の高さであれば間違いなくミカガチャを10連でツモれるだろう。
「駄目だ、この短時間じゃブルアカの魅力を伝えきれねぇ!! クッソ! 東条トレーナーにもぜひ遊んでほしいけど強制的にインストールするのは流石にやりすぎだ……!」
「されたら流石にキレるわよ」
西村は静かにブルアカインスコ済みのスマホを見せてきた。今では西村でさえブルアカの透明度に屈している。割と美少女美少女しているのはハードルとして高めかもしれないけど、シナリオはマジで面白いんだ……本当に……。
と、苦悩しているとトントンと肩を叩かれた。知らないフランス人の人がスマホを見せてきた。
「Blue Archaive」
「友よ……!」
知らないフランス人は同志だった。ハグを交わして握手し、友達となる。異形の生き物を見るような視線が東条トレーナーから向けられ、首を傾げられ、そして頷かれた。
「考えてみればスピカも大体こんな感じか……」
納得のご様子。フランスの人と握手を交わし、
「ミカ」
「Mika!」
やはりミカゼミは国境を超える。フランス人と話してみるとどうやらミカ貯金をちゃんと準備していたらしい。天井分を用意してミカの実装を信じ貯蓄を続けている姿……拙者、その姿に勇を見たでござるよ。俺? KGⅥ&QEステークスの賞金で天井する。札束の暴力は最強なんだわ。
『今! 1着でゴール! Deep Impact圧倒的! 圧倒的すぎる! 最後は距離を一切詰めさせる事無くセーフティリードを維持したままゴール! 何だこのウマ娘は! 何だこの強さは! 強い! 今年の日本のウマ娘は強すぎる!』
『完全にCrimsonを仮想敵として捉えた走りでしたね。どうすれば等速ストライドを持つウマ娘を捉えるか、その一点に絞った見事な追込みでした。これは凱旋門賞での直接対決が楽しみになりますね』
「フランスの人推しは? 誰推してる?」
「Mika!」
「イエー! ミカー! イエー!」
手を叩き合って声出して喜び合いながら、しれっと西村に耳打ちする。
「この人フランス語がネイティブすぎてミカ以外言ってる事がまるで解らないんだけど」
「とりあえず解ったフリしてれば問題ないと思うよ」
「成程。ミカYeahー!!」
「Mika! Yeah!」
「……帰るか」
どっかに行く東条トレーナーの背中に手を振ると別のフランス人がブルアカを起動したスマホを持って近づいてくる。ターフの方を見るとチワワがこっちに向かって手を振ってる。これからゲートインかな? 集中してなさそうだけど大丈夫かなぁ……もうちょっとブルアカで盛り上がっても良さそうだな! チワワの事だから勝手に勝つだろうし。
それよりもこの生放送の情報を、幸せな気持ちを分け合わなくてはならない。
ブルーアーカイブ! 周年イベント開催開始ッッ!!!
クリムゾンフィアー
この後滅茶苦茶推しの話で盛り上がった
西村
良いのかなあ……とか言いながら眺めてた
東条トレーナー
死ぬほど見慣れたスピカ
フランス人
Mika!
ディープインパクト
この後滅茶苦茶拗ねた