「―――それは何をしているんですか、Crimsonさん……?」
そこそこ仲の良いモブ娘が俺の姿を見て話しかけてくる。何をしているのかと言えば瞑想中だ。シャンティイ学園のジムで床にマットを敷いてそこに座っている。座る、と言っても普通に座るのではなく脚を組んで座っているのだが。
そんな組んでいる脚の合間にディーが座り込んでいる。尻尾を俺の胴体に巻いている。デジタル殿であればうっひょー! と叫びながらそのまま塵になりそうな密着度だ。デジタル殿また死んでおられるな……。
「瞑想中」
「それで?」
「これで」
むすーっとしているディーは1週間が経った今でもフォワ賞の事を引きずっていてこの態度だ。この態度なのにスキンシップが変わらないのは軽く好感度がバグか何かでインフレしてないか? とは思わなくもない。まあ、好感度バグに関してはヒトの事を言えないので黙っておく。
「没入しようとすれば出来るしね。これぐらい妨害にはならないよ」
「本当に……?」
俺のほっぺをディーのウマ耳がぺしぺしと叩いてくる。無視するなという合図なので無視すると更に顔面をぺしぺしと叩かれる。ウマッターで流れてくる漫画でこのアピール見たけど考え付いた奴は天才だと思うよ。現実として存在すると更にやばいと思うね。
「Crimson様は領域の調整をなさっているらしいわ」
ちょっとキャラ濃い目のモブ生徒がふんすふんすと鼻を鳴らしながらそんな事を言うと、胡乱げなモノを見るような視線が俺へと向けられる。
「領域の調整なんて可能なんですか?」
「他は知らないけど、俺はまあ……そこそこ集中すれば? 領域に関しては人類で一番詳しいと思ってるし。凱旋門賞に向けてブラッシュアップやら条件変更やらでちょっと忙しい感じかなぁ」
そもそも今の条件が重すぎるんだよ。継承含めた領域4回展開とか本家アプリでもゲロ重すぎて話にならねぇんだよ!! いや、ゴルシ経由で引っ張りだしてKGⅥ&QEステークスは乗り切ったけど、あんな裏技2度目は通用しないし。
やるなら根本的な部分で調整というかアプデが必要だわ。
「そもそも領域というものがどういうものか良く解ってないんですのよね。アレ、なんなんですの?」
「難しい話だなぁ」
領域。ウマ娘が持つ神秘。三女神の方に視線を向けなければ最もオカルトな部分だと言えるだろう。
「科学的な部分を加えて話すなら、領域ってのはウマ娘が持つ情景や理想、そういうイメージを共感能力を通じて周りへと投影するイメージだって言われてるんだよな。ウマカスはヒトカスよりも身体能力も容姿も優れてるしなんなら神に愛されてるから酷い事にならない事が約束されてる圧倒的上位種族だって事はご存じの通りだけど」
「並べてみると酷いですね」
サイゲに愛された種族だから仕方がないね。サイゲというか馬主を怒らせると滅ぶ世界なのでしょうがないね。ガイドライン神はいつも本当にありがとうございます。ただ海外系は規約破りに躊躇しないのがほんと恐ろしいわ。モラルってもんがないんか? もうあそこら辺観測できねぇけど。
「だけどずば抜けて高いのが感受性だってな。発信する能力と受け取る能力は高いから多少の事でメンタルがぼろぼろになるし、領域という形で俺達が奥底で抱えるイメージが形になる。結局の所は妄想を叩きつけてるみたいなもんなんだよね」
ただし。
「恐ろしく強いイメージ……心の底から信じる事の出来るとか、そういうレベルでの認知が求められるけど。一部のウマ娘が領域の作成やくみ上げにスタジオを借りて撮影するのは、客観的なイメージ構築の為だよ」
「あぁ、学園のスタジオってそういう……」
「つっても、領域を2個3個作るのは相当難しい話なんだけどな。自分の心の表現だからな、領域ってのは。慣れないうちはその手のカテゴリーの得意な奴を頼ったり、実際にレースで経験したりすると良いよ。俺は……まあ、凄い特殊だから参考にするな。瞑想で領域調節できるのはこの世で俺だけだから」
俺の言葉に質問するモブ子が首を傾げる。
「可能なんですか」
「自分の心を組み替えるような事だけど慣れれば簡単簡単」
「今恐ろしい事を言いませんでした???」
だからこんな事この世で出来るのは俺だけって主張してるんだ。人類にこんな心を組み替えて領域を調整する様な事が出来る筈がないだろ。ディーの頭をよしよしと撫でる。
「まあ、真面目な話をすると領域の発動ってルーティンワークなんだよね。自分の精神を没入させる為の手順というか。差す瞬間、ゴールラインが見えた時、或いは抜いて前に出た瞬間……そういう瞬間が領域の発動条件になりやすいのはそういう状況で最も集中力が高まるからだ」
強いウマ娘はこの領域の発動条件―――つまりゾーンに入る条件をある程度コントロールできるのだ。領域に入る条件だって結局は想いの自覚、そしてゾーンの呼び出しだ。一流のアスリートであれば意識して引き出す事もまあ、難しくはない。
「ルーティーンを意識して設定して、それをゾーンを呼び出すトリガーにする。領域の調整って結局そこら辺なんだよね。俺は特殊な例だから参考にするな。今やってるのは調整とか改造とかそこら辺だから」
「やろうとしても多分できませんわ」
せやろな。やらんでいいし、やれない方が良いと思う。まあ、それはそれとして、凱旋門に向けて領域の調整は必要な事だ。ゴルシ召喚ルートをやったらなんか対策されそうな気もするし。根本的な部分で俺は領域抜きだとスピード不足で差されるし。
どれだけ複数の領域を発動させられるかが俺の最終的なトップスピードになる。
西村が言っていたが俺のスピードは数値化すると1550ぐらい。
チワワは数値化すると1700ちょいらしい。
つまり素のスペックだと負けているのだ。そしてこの段階に来ると肉体的なスペックも上限を叩いていてこれ以上体を伸ばす余地があるかどうか……って段階になる。自分のトップスピードを更新するには技術に持ち込むか、肉体の限界を超えるか……という所だろう。
今も人の股の間に座り込んでいる小さい体で俺よりも速度を出して走れるのだ……そう考えると理不尽としか言いようがない。とはいえ、その強さを打ち破ってこその最強だ。相手が強ければ強い程燃えるのがレースというもの。自分より強いのは単純に燃える要素でしかない。
「まあ……何をしているかは解りましたけど」
「けど?」
「凱旋門賞を共に走るライバルなのに、その様子で大丈夫なのですか?」
モブ子の言葉にディーに視線を向ければ、ディーが視線を向け返す。お互いに首を傾げる。
「それはそれ」
「これは、これ……ですのです」
仲良かろうが、友達だろうが、親友だろうが、恋人だろうが、夫婦だろうが―――ターフの上に立てば敵で、ライバルで、そして潰し合う存在だ。そこに好きや嫌いという感情が入り込む方がおかしい。
「相手がどれだけ好きであれ、ターフに立てば競走する相手でしかない。全力を以て叩き潰すのは当然の礼儀だろう?」
「どれだけ、憎くて、嫌いでも……ターフでは、対等ですから。全力を出して、走って、倒すのが己に対する礼儀です」
ねー、とディーと視線を合わせて声を揃えるとモブ子が呆れた表情で溜息を吐く。
「成程……良く解らない事が解りました」
「何時かは解るよ、何時かは。走っていればそのうち解るよ……えーと……ビヨンドちゃん」
「誰ですかそれ!?」
モブ子が再び溜息を吐いた。
「Treve、ですCrimsonさん。これで今世界で一番注目されているウマ娘だなんて、信じたくない……」
Treveの言葉にわはははと笑い声を零す。変な奴ほど強かったりするのがウマ娘の常だ。そういうどっかぶっ飛んでるからこそ領域やレースにおける精神性が定まるのだ。だから、まあ、俺もディーも凱旋門の日まではこんな調子だろう。
前日まで同じベッドで寝てるだろうし、それでコンディションの揺らぎはないだろう。
呆れたTreveちゃんを前に談笑し、どうでも良い日を過ごす。
そして……凱旋門賞、その日がやってくる。
クリムゾンフィアー
自分の心をパズルかなにかと勘違いしてる女
ディープインパクト
ソシャカスである事に関しては諦めてる
Treve
未デビューの可愛いポニーちゃん
シャンティイのウマオタク
デジたんと同ジャンルのオタク