「ぶっちゃけ、最初から最後までフルスパートの大逃げ以外に本場本家の等速ストライドに対処する方法ある?」
「まあ、大逃げだろうね」
「それ以外にはねぇだろうな」
発熱にもコンディションの悪化にも期待できないだろうし。コンディションが完全な状態の赤い伝説をどうにかしろって事自体が相当無理ゲーだと思うんだけど神様、そこら辺はどう思いますか? 管轄外? 生きてる以上はどうしようもない? そっかぁ。
リビングでぐだぐだしながら作戦会議をする。
スペック的には既に肉体的な天井に届きつつある。この状態でトレーニングを重ねた所であまり能力は伸びない。必要なのは細かい調整と肉体を天井付近で維持し続ける努力だ。だからこれまでの様なトレーニングばかりの日常ではなくなった。
その代わり、戦術等を考え、レースを研究する時間が増えた。どう走るのか、というのがシニア後期に入ったウマ娘の最も重要な要素の一つだ。これまではどれだけ力を引き出せるか、というステージだった。だがここからはコースや環境に合わせて発揮できるか、という領域になるのだ。
そういう意味ではコースも環境も選ばない等速ストライドという走法をマスターしているセクレタリアトは最強のランナーだ。俺の等速ストライドがLevel3なら本家の等速ストライドはLevel5とか6あるだろう。単純な習熟差がここで響いてくる。だけど問題はそこじゃない。
セクレタリアトは現役を退いた今でも肉体の維持を怠らず、走れるだけのスペックを残し続けている事だろう。あの化け物、マジで現役クラスの能力を残したままなのだ。引退して何年たってると思ってるんだ? ファンタジーなのも大概にしろよ。
「最初から最後まで全速力で逃げ続ける大逃げ……誰が先に脚を潰すかのレースって感じだな……」
「だけど実際、これ以外に勝ち目は見えないんだよね。いや、老いてスペック落ちてるって線も十分にあるよ? あるかも……あったらいいなぁ」
「自信」
逃げるように視線を窓の外へと向ける。実際の所、対セクレタリアトメタを考えると大逃げで加速しきる前に逃げ切る以外の選択肢がないように思える。それであっても現役時代の頃のスペックであれば追いつかれるかもしれない。ぶっちゃけ、解からない。ここまで読み切れない相手も早々いないだろう。
どうしてレースに戻って来たの???
俺が煽ったからだよ!!!
Fuck。やらかすと何時も苦しむのは俺ばかりだ。世の中の生き物はもっと苦しむべきだと思う。いや……でも……ディーには勝てたし±で0って事にしておくか。
はあ、とため息を吐く。セクレタリアト対策……対策なんてどうするんだ? これまでの様な戦術というものはほぼ通じないだろう。あの赤いのは暴力の化身とでも呼ぶべきスペックと走法で勝負してくる。その脚質を追い込み……と呼ぶのも難しい。何時の間にか前に出て一番前を走ってるのだから。
根本的に走りの質が違う。ディーと同じ手段で勝とうとしても無駄だろう。
「やっぱりフルスパートで殺し合うしかないかなぁ……」
「まだフィアーは手はあるよ。君の領域を使ってスタミナを回復し続ける事が勝機に繋がると思う」
領域でスタミナが回復する理屈は全く分からないけど、とか西村は付け加えるが。なんか、こう……回復するのだ。細かい事を気にしてはならない。サイゲに聞きに行く必要が出てくるから。だからそう言う細かい理屈は蹴り飛ばして頷いておく。まあ、それしかないだろう。
開始直後からスタミナを補充し続けながらトップスピードで走り続ける。脚への負担がヤバイ事になるだろうが、そもそもそう言う負担を話題に出す事自体もう止めてる。俺達の間では走る為に脚が削れるならしゃーないね! という結論が出てる。走れるところまで走るのが俺達コンビの方針なのだ。ドリーム行ける程の脚が残ってると良いね皆!
俺? 残るかどうか疑わしいよ。まあ、好き勝手やってる代償を受けるだけの覚悟はあるよ。走り切ったら死ぬとか割と良くあるサラブレッドの宿命だし。まあ、加護がある限り死にはしないと思うけど。それでも脚は使えば減ってくものだし、今年~来年辺りが俺の山じゃね? 感はある。
「あァ、そうか……お前ら知らないのか」
サンデーサイレンスがソファに寄りかかりながらロックでウィスキーを飲んでいる。なんか滅茶苦茶情報の爆弾が投げられそうな気配に、俺は無言でウマ耳を両手で押さえた。
「何も……聞きたくねぇ……」
「Secretariatに対して領域で勝負しようとしたバカはたくさん居た。当然だろう? 同じステージで戦って勝てる筈がないってのは誰が見ても解る事だったからな。だからあの人が負けたのは発熱した時やアクシデントがあった時ぐらいだ。それ以外のレースでの強さは良く知っている」
だから皆、妨害する手を考えた。
「領域、イメージ、理想……当然それには妨害する様なもんもある。強烈なショックイメージを叩き込んで相手の心を折ったり、脚を止めさせるのなんてそう珍しい事でもない。日本の競バでも見るだろう? 武器を使って切り込むようなイメージとか。こっちはもっとラフだ。ぶち殺す勢いで殺意を叩きつけてやる事なんて珍しくもねぇ」
デバフ地獄。そりゃあそうだ、相手の加速をずっと抑える事が出来れば速度は出なくなる。速度デバフを叩き込んでトップスピードが出せないようにすればそれだけ勝率は上がる。結局ウマ娘のレースというのはどこまでトップスピードを出し、維持できるかという点に集約されるのだから。
だから妨害手を用意するのも立派な戦術だ。アメリカはそこら辺の崩しや技術がもっとラフなだけで、世界的に見て珍しい行いではない。
「だが、それでも調子を崩してない時のBig Redは全てのレースで勝ってきた。何故か解るか?」
ウマ耳を畳んでる。聞きたくないよーアピールをする。でもやっぱり気になるからちらちらと姉御の方を見ると、嗜虐的な笑みを浮かべてサンデーサイレンスが告げた。
「俺らの大将はな、Eclipseの領域を継承してんだよ」
頭を抱えてそのままころりん、と横に転がる。原初のウマ娘、歴史のやばい奴筆頭、伝説のウマ娘。エクリプス。今でもその名を様々な所に残すウマ娘だ。その領域を継承している? なんで?
「なんでぇ?」
「ある日三女神の像を磨いてたら急に降りてきたらしい」
無言で三女神に対する呪詛を心の中で無限に繰り返して送り続ける―――本日の営業時間が終了しているから受付不可だった。ふぁっきゅー女神、ふぁっきゅー! 窓から腕を突き出して空へと中指を突き立てる。遠い空の向こうで三女神がサムズアップと共に笑顔を浮かべてる気がする。
「え、そんなにヤバイの?」
何も解っていない西村が確認してくるのに対して、サンデーサイレンスがグラスから酒を呷る。
「領域使用禁止」
「良かったね、フィアー。敗北を知れるよ」
「知りとうない!! 敗北など知りとうない!!」
駄々を捏ねる様に床を転がって腕をぶんぶんと回しながらおぎゃあと泣く。Eclipseの領域は他の領域の発生、使用不可―――つまり己の肉体の全てのみでかかってこい! という究極の脳筋領域になるのだ。
これに等速ストライド、そしてBig Redのスペックというコンボが発生するのだ。
勝てるかよバカ野郎……!
「う、うーん……これ、どうしよっか」
「どうにかできるなら見てみてぇな」
げらげらと笑うサンデーサイレンスと首を傾げる西村を前に、ごろごろと床を転がって現実逃避する。いや、何をどう考えても戦術とか戦略とかそういう領域にない奴じゃんこれ。与えちゃいけない組み合わせでしょ。俺1人で勝つとか絶対に無理無理。
「―――いや、マジでどうすんのこれ」
詰みかなあ? 詰みかも……。
クリムゾンフィアー
無事長所を封じられた上で走る事が確定した
セクレタリアト
上位互換ユニット