転生赤毛バは凱旋門の夢を見る   作:てんぞー

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84話 大逃げ三銃士を連れて来たよ!

 ―――クリムゾンフィアーは直情的に見えて計算高いウマ娘だ。

 

 おちゃらけた態度も、直ぐに感情的になるのも、そしてバカの様な事を実行に移すのも結局の所自覚している生来の気質をカバーするものでしかない。実際の所はその芯は冷めていて、そしてリアリストだ。出来る、と思った事は実行し、出来ないと思った事は極力避けている。

 

 死を乗り越えたという現実が彼女の精神性を唯一無二とした。誰もが得られるわけではない経験が彼女を特別にした。もはやその事実は彼女にとってどうでもいい事となった。彼女にとって重要なのは今、レースを走る事であり、好きな人と好きな未来を築く事にある。そこら辺を誤魔化す様な乙女心はこの女にはない。

 

 だからクリムゾンフィアーは自分の前に立ちはだかった壁を前にして、初めての経験をしていた。絶望的なレースは前にもあった、それでも勝率は五分にまで持ち込めると計算出来た。異次元とも表現できるその精神性からレースをプランニングし、それを遂行する。

 

 クリムゾンフィアーのレースとは、感情や環境、コンディションの揺れ等を計算に入れての走りでもあるのだから。皐月賞で負けたのはディープインパクトに伸びしろがあったから。凱旋門賞で勝てたのはディープインパクトの成長が天井に近かったから。

 

 皐月賞での伸びは予想の範囲を超えるが、凱旋門での伸びは予想できる範囲だ。その僅かな差異がクリムゾンフィアーのプランを完璧なものにした。だがここでBCクラシックの走りを計算に入れ、そして予測し、クリムゾンフィアーは大きな問題に直面していた。

 

「―――勝てねぇなぁ」

 

 走る訳でもなく、サンデーサイレンスの家のコースの前、走る訳でもなくコースを少し引いた位置から全体を見渡すように眺めながら呟いた。その視線は存在しない筈の赤い伝説と、それと走る赤い暴君の姿を捉えている。

 

 筋肉の動き、質、性格、コンディション、それを100%の再現度で完全に再現したイメージがダートを走っている。脳内では完璧なレースのエミュレーションが行われており、現実と変わらない状態でレースが行われている。

 

 だが23レース目。

 

「終盤、最終コーナーで抜かれてそのまま前に出られて……」

 

 指で走る軌跡をなぞるようにレースを眺める。

 

「ここでまだ加速している。加速上限と速度上限を抜けて更にスピードを出して前に出てる。抜かれない様に―――」

 

 理想的なスキル発動タイミングを行う。レース中にそこら辺の判断を間違えるとは欠片も思っていない。だから相手の走法に対抗するようにスキルを発動し、有効加速を得る。これで加速力は並んだ。だが加速力には持続時間があり、そして己の走法と本家のものでは熟練度が違う。

 

 つまり、相手の方が末脚では此方を上回っているという事だ。

 

「……23敗目。このルートもダメ、っと」

 

 1からレースのイメージを構築し直す。切り札が機能しない以上、出来る事は自分の全ての能力を引き出した最高の走りをする事だけだ。スキル、デバフの付け替えに関しては慣れたもんだ、脚質に合わせて調整するのは難しくはない。

 

 だが自分の戦術、その根幹にあるのは領域、それを駆使して限界を超えた速度を出すという事だ。これ前提で多くのレースを走って来た以上、その前提が崩れるのが非常に辛い。自分の走りがその根元から通じないという話なのだから、苦しくないわけがない。

 

 だがそれはそれとして、不可能に挑むという話は何とも冒険心を擽られるものでもある―――正直言って、勝ち筋を探し続ける作業は物凄く面白い。

 

 ゲームで言えば耐性とスキルの組み合わせ、それをパズルのように組み替えながらたった一つの正解を探り当てるような作業だ。

 

「ん-、勝ち筋見えないなぁ」

 

 西村は西村で、勝ち筋を見つける為に色々と連絡してからどっかに行ってしまった。自分のトレーナーは何か思いついたようだし、それを信じる事にして自分は自分で集中し続けるしかない……たった一つの答えを探して。

 

 だがシミュレート26周目。

 

 勝ち筋は未だに見えない。

 

「弱点があるとすれば追い込みって所か」

 

 追い込みバを封殺するというのは別段難しい話じゃない。日本だと永遠にレースから追放されるが、欧州やアメリカであればちょくちょくチーミングする所が見られる。まあ、公にはやってないだろうが、アングラのレースとかはそこら辺露骨にやるけど。

 

 追い込みは後方脚質、そこにはバ群に埋もれるという永遠の弱点が付随する。BCクラシックがフルゲート開催で人数が揃ってればワンチャン全員が警戒して御大を沈めるなんて可能性も出てくる。まあ、パワー的に無理だろうなぁとは思うけど。

 

 御大とのレースは根本的にフィジカルの勝負に持ち込まれる。どれだけ素のスペックが高いのか、というのが重要だ。そういう意味では名家出身のウマ娘が一番強い。連中は血筋のサラブレッドだ、領域や技術抜きの話であれば一番フィジカルが恵まれている。

 

 ディーが俺よりもスピードで優れているのはそこら辺が理由だ。走るのに適した体で生まれてきているからだ。俺は突然変異だからスタミナとパワーがずば抜けているが、種族的な特徴以上に走る体をしていない。今、スピードを出せているのは西村主導の肉体改造と走り方による影響だ。

 

「34周目、7バ身付けられてゴールされる。大逃げ以外を取ると詰むなこれ」

 

 シミュレートから大逃げ以外の脚質を除外する。御大が最高速度を出す前にゴールするのが唯一の勝機だろう。

 

 問題はそれが困難という事だろう。

 

 相手が予想よりも弱いという想定はしない。間違いなく想像以上で来るだろう。だからそれをイメージして走らないとならない。だけどイメージを走らせれば走らせるほど負けが重なって行く。自分が勝つというイメージを構築する事が中々できない。

 

 ディーはまだ癖があった。悪癖は明確な弱点だ。普段から距離が近いからこそわかる走りの癖だった。それがあるからあの最後の距離は覆せないものだった。

 

 だがこいつはどうだ? 御大には弱点らしい弱点がない。古バ最大の弱点はそのスペックが全盛期から遠のいて行く事であり、それと引き換えに圧倒的なメンタルの強さと経験の多さを抱えている。現役のスペックのまま引退してたのならそりゃあもうチートでしかない。

 

「―――んじゃ、本命をシミュレートすっか」

 

 脚を壊す事前提で走るのをシミュレートする。スタート直後からスタミナの燃焼を開始する。限界まで加速し、脚の耐えられる上限を超えて更に加速し続ける。壊れるラインと壊れないラインを明確に見極めてそのギリギリを踏み出して走る。

 

 そうやってBCクラシックを走った場合、レースの結末は―――。

 

「フィアー」

 

「お、西村。戻ったんだ」

 

 名を呼ばれて外へと視線を向ければ車から降りて来る西村の姿が見えた。どうやら秘策アリと言った様子の西村は車の前に来ると腕を組み、

 

「日本トレセン大逃げ三銃士を連れて来たよ」

 

 唐突にネタを振って来た。なのでとりあえず乗っておく事にした。

 

「えっ、トレセン大逃げ三銃士!?」

 

 扉が開き、ウマ娘達が下りてくる。

 

「芝のサイレンススズカ……サイレンススズカ!」

 

「走ってきます」

 

 車から降りたスズカ、早速放バ。

 

「皆大好きツインターボ!」

 

「ターボに任せろ!」

 

 ドン、と胸を叩いて自慢げな表情をするツインターボ。それからきょろきょろと辺りを見渡している。そういや国内から君、出た事なかったね。南坂トレーナーが良く許可だしたもんだよ。

 

「オタクに優しいギャル! ダイタクヘリオス!」

 

「ウェーイ!」

 

 実在するオタクに優しいギャル。でもヘリオス、パーマールビーケイエス周りの人間関係考えるとドン引きというかなんというか……実は密かに湿度高いのに囲まれてない? 大丈夫? まあ、太陽だし大丈夫か……。除湿器(アヤベ)判定オーケーらしいです。

 

「幻の4人目! カブラヤオー!」

 

「よ、宜しくお、おおおおお、お願いしますっ! やっぱりムリ!」

 

 三銃士じゃねぇじゃん。4人目いるじゃん。秒で車の中へと消えるじゃん。ツッコミが追い付かない。というか1人だけ引退バじゃん。いや、チョイスは解るけども。全員、大逃げでその名を通すウマ娘だ。

 

「ヤオーさん……もう現地に到着してしまいましたしね? もう諦めましょうよ」

 

「ムリ! ムリムリムリムリ! ムリだって! 私なんかがあんな世界的スターとなんてムリ! 心臓破裂しちゃう!」

 

 車の奥からメジロパーマーがカブラヤオーを抱えて出てきた。じたばたしてるカブラヤオーは間違いなくこの中では一番年上の筈なのだが、それを一切見せる事無く暴れている。生来の臆病気質と言われているのが良く見える。ほんと良く走れたなアンタ。というか三銃士なのに5人いるじゃん。

 

「フィアー、実際の所僕も明確な答えは出せていないんだ。正直な話、アメリカ畜生めって思ってる所は大いにあるよ」

 

「ウケる」

 

 ヘリオスが皆の心境を代弁してくれた。

 

「だけどね、勝ち筋があるとすればそれは大逃げで徹底して詰められる前に逃げ切ってしまう事なんだろうと思う。究極の追い込みに勝てるのは究極の大逃げだけ……なら君の中の勝率を上げる為に出来る事は一つだけ、なんじゃないかと思うんだ」

 

 西村の言葉に頷く。

 

「熟練度上げ」

 

 大逃げという走りに対する理解を上げる事。徹底して馴染ませる事。そして自分が持つ全ての武器をこの走りに対して適応させる事。僅かでもいい、勝率を上げる為には自分よりも格が上の大逃げウマ娘と走る必要があるだろう。

 

 それを知って西村は手本となるウマ娘達を連れてきた。

 

 狂気の逃げウマ娘。

 

 限界を走ったウマ娘。

 

 逃げる事を諦める事を見せなかったウマ娘。

 

 逃げる事を愛し続けたウマ娘。

 

 逃げる事に希望を見出したウマ娘。

 

 誰もが尊敬に値するウマ娘達だ。大逃げを参考にする上では最上の教科書。約一名既にこの場から消えて、もう一名車の中へと大逃げをかましてるが……まあ、誤差だ誤差。うん、誤差だと思いたい。本当にこの人選大丈夫?

 

 少しだけ……本当に少しだけ不安を覚えたが、伝説に相対する為の作戦はほぼない。

 

 ならばレースまで、出来る事を詰め込む。今はそれしか、なかった。




サイレンススズカ
 サポカ枠

ツインターボ
 サポカ枠

ダイタクヘリオス
 サポカ枠

メジロパーマー
 サポカ枠

カブラヤオー
 友人枠

アドマイヤベガ
 ふかふかおふとんを守るために高まりすぎた湿度を定期的に滅ぼしに行く

クリムゾンフィアー
 対策? ないよ……ないよ……
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