転生赤毛バは凱旋門の夢を見る   作:てんぞー

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85話 完全究極体ジェネシックカブラヤオー

 Q.大逃げが6人揃ったらどうなる?

 

 A.チキチキ! 限界加速体力尽きるのは誰だ! チキンレース!!

 

「いやだあああああ―――! 来ないでぇぇえええ―――!!」

 

「先頭の景色は譲りません……!」

 

 カブラヤオーの悲鳴が響き、ハナを取られるのを嫌がるスズカが前に出て、大逃げだからターボとヘリオスとパーマーも前に上がってくる。大逃げという性質上、ハナを取られると一気に走りが弱くなるので必然、ハナを取り続けないとならない。

 

 つまり大逃げウマ娘が限界まで前を取ろうと前に出続ける地獄みたいなレースが始まる。ダートという環境だから速度の乗らないウマ娘だって存在している。それでも先頭を走り続けるトップランナーの矜持が後ろへと垂れる事を許さない。

 

 約一名、別次元の生物が存在しているが大逃げ同士の競り合いなんて地獄でしかない。

 

 それが解っていても大逃げで走り続けるのは彼女がその走りに魅せられたからなのだろうか。併走を1回頼むだけでもう体力がぼろぼろだ。走り終わった所で全員でグラウンドに突っ伏す。本番想定で走るとなると当然ながら固有抜きになる。

 

 え!? 領域によるスタミナ回復加速無しで大逃げを!?

 

 やれらぁ!!

 

 その結果が死屍累々とした今の光景だった。全員揃って突っ伏して必死に呼吸している。酸素を求めて手をじたばたさせながら唸るのはもうゾンビ集団としか思えない酷い景色だろう。そう言う俺も俺で大逃げに付き合っているからスタミナ枯渇で呻く事しかできない。

 

「なんつー情けねぇ光景だよ」

 

 そんな俺らをサンデーサイレンスが笑いながら眺めている。その横では西村がタブレットPCを手に、何時も通りデータの整理と確認を行っている。すぅーはぁ、と大きく息を吸い込んで体を持ち上げて大地に座り直す。漸く息が戻って来た。

 

「大逃げのみで走ろうって考え、やっぱりバカの極みでしょこれ。ただの殺し合いだよこれ!!」

 

「言いたい事は解るけどやってるのは私達なんだよね」

 

「でも爆逃げパーティーなんてこんな事でもなきゃ出来ないからね! やるしかないっしょ!」

 

 パーマーとヘリオスの言葉に笑い声を零していると、ばしゃばしゃと水を弾く音がする。視線を音の方へと向ければ、ターボが水溜まりに手をちょんちょんと付けて遊んでいた。いや、水溜まりに見えるのはカブラヤオーだ。どうやら溶けてしまったようだ。可愛いね。お前、デジ族か?

 

「お姉ちゃん溶けちゃった」

 

「大丈夫よ。こういうのは小麦粉を混ぜれば固まるってゴルシが言ってたわ」

 

「スピカ式は止めた方がいいんじゃねぇかあぁ……」

 

 アレで元に戻るのはデジたん専用みたいな部分あるし……。とか考えている間にカピ君が小麦粉の袋を持ってきた。それをターボがどぼぼぼぼと解けたヤオーに注ぎ込んでヤオーの元を作ったら捏ねてカブラヤオーを作り始めた。なんだ、ただのデジ族だったかぁー! 見なかった事にしよ。

 

「しかしフィアーさんは強いね。これで領域アリで走ってたらちょっと勝ち目が見えないかな」

 

「いやあ、特化された大逃げの脚質と俺の猿真似じゃ全然話にならないわ。スキルの差し込みタイミングとか、呼吸の仕方とか凄い参考になるわ」

 

 それはほんと。併走しているだけで勉強になる部分が多い。これまで別段大逃げという脚質をしっかりと勉強した訳でもないし、走った訳でもない。だがこうやってその道のスペシャリストと走ると見えてくるものがある。彼女達は大逃げという浪漫溢れる走りに特化しているからだ。

 

 脚質、スキル、領域、彼女達の走りはそれに特化するように自然と先鋭化されている。それはそれ以外の可能性を切り落としてまで追求する事で至れるプロフェッショナルの境地だ。俺にはできない事なので、そこは素直に尊敬を覚える。

 

「あ、変な感じになっちゃった」

 

 ターボの方に視線を向けたらモナ・リザヤオーが生まれてた。罅が入った崩れたヤオーだった物体を再びターボが必死に固め直す。スズカも地味に手伝っているつもりで担当箇所がピカソってる。アレはもうだめかもしれない。

 

 ふぅ、と肺の中の空気を入れ替えるように深呼吸をする。全力疾走直後でまた走るには少しだけ休む必要がある。次の一本に向けて少しだけ休む。

 

「しっかしフィアっちょマジつよつよのつよじゃん? 得意な走りとかあんの?」

 

「え、俺? 得意な走りは―――」

 

 得意な走りとは……なんだろうか? ヘリオスから投げられた質問に腕を組んで首を傾げてしまう。得意な走りの話をされてしまうと、実に困った事だが答えが出てこない。そんな俺の様子を見てパーマーが苦笑を零す。

 

「君は見てる限り得意不得意ではなく“勝てる走り”をするタイプだよね」

 

「うん、まあ、得意な走りは? って言われて直ぐに答えが出ないのが答えだよな」

 

 苦笑に苦笑を返す。自覚している事だが、俺に明確な得意や不得意な走りはない。等速ストライドだって強いから使っているだけで、凱旋門の時のように戦術的にそぐわない場合は容赦なく外す。俺のスタイルはデータ的に強いもんに媚びるスタイルだ。

 

 数字は裏切らない。これは事実だ。だから数値上の保証があるものは強い。バ群が苦手という訳でもないし、別段泥だらけになるのを嫌がる訳でもない。だから前でも後ろでも走れる。俺はそういうウマ娘だ。特定の方向性というものが存在しない。

 

 だから継承したもので自分の中身を満たす……だけだと思ってたのだが。まあ、俺にも俺っていう色があるのを色々と最近思い知っている。

 

「これまでずっと勝てるだけの走りをしてきてた。それが確実だし、強く出れる事でもあった」

 

「……けど?」

 

 促されるように言葉を続ける。

 

「特定の走りに対して信仰を抱いて走るのにはちょっと憧れる」

 

 それは俺にはない熱量だった。大逃げ、爆逃げ、パーマーやヘリオス、ターボにスズカとヤオー。彼女達が見せる大逃げという走りは信仰によって満たされている。彼女達には他の走りを選ぶ権利があった。だけどこの走りに行きついた。俺はそれを信仰心だと思っている。

 

 その走りで勝つという祈りが、彼女達の走りには込められている。それがどうにも俺には羨ましく、そして眩しく感じられた。彼女達と併走していれば、確かに俺の大逃げとしての技術力は上がって行くだろう。

 

 フォーム、呼吸のタイミング、脚運び、スパートの入れ方―――大逃げのランナーとしての彼女達は超一流だ。あのカブラヤオーも臆病で本能的に逃げている様に見えて実はその走りは合理性によって固められている……たぶん彼女のトレーナーの手腕によるものだろう。

 

 マジで良く頑張ったな。ちらっとヤオーを確認する。

 

「やっぱり耳は四つあった方が良いんじゃないかしら」

 

「角! 角を生やすぞ! そっちの方がカッコいい!」

 

 溶けヤオーが新しい形を貰っている。ちゃんと走れる体で作り直してくれよ。その内勝手に復活するとは思うけど。

 

「そっか、御大が等速ストライドに向ける感情も一種の信仰心なのか」

 

 現役時代、万全だったときは一度も敗れる事がなかった最強の走法。その走りに対する信仰心は一度も翳る事がなかった。継承者が現れ、それが現代のターフを走る姿を見てその祈りに可能性を見た―――自分の走りが、信仰が、その果てが一体どこにあるのかを知りたくなったのかもしれない。

 

 だとすれば、それを終わらせる事こそが俺の仕事なのだろう。

 

「信仰の在処……俺だけの信仰―――」

 

 果たして、そんなものを一度でも抱いた事があっただろうか? いや、ある筈だ。少なくともこの闘争心は本物だ。勝ちたい、負けたくない、走りたい……それだけの想いでこれまで走って来たのだ。だとしたら、このどこまでもシンプルな欲求こそが俺の本質なのかもしれない。

 

「もうそろそろ休むのを切り上げて次のを始めるぞー」

 

「ういー」

 

 西村の声にどろどろに溶けていたカブラヤオーが鳴きながら復活し、それに合わせて俺達も立ち上がる。大逃げという走りに魅せられたスペシャリストたちの姿を見ていると、これしか勝ち目がないと解っていても、果たして本当にこのままでいいのかという疑問が思い浮かぶ。

 

 俺だけ―――俺がどうしてその走りに拘るのかというものはないのだろうか。

 

 走れど走れど、答えは出ない。

 

 それでも求めるのは勝利のみ。俺にできることはやはり、走る事だけだった。




ツインターボ
 角は基本!

サイレンススズカ
 足を増やせば早くなりそう

ダイタクヘリオス
 バランスを取って腕も増やそう!

メジロパーマー
 止めた方がいいんじゃないかなぁ……

クリムゾンフィアー
 そこら辺で拾ったGストーンを入れる

カブラヤオー
 六本の腕にケンタウロス型の下半身に緑色のオーラを纏ってこの後逃げた

 ウマ娘2周年おめでとうございます。進化スキルはその娘だけのスキルって感じがして素敵ですね。ウマ娘個人の特色がテキストに出てて大変よろしいと思います。
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