「茶原さん。こっちこっち」
いつもの放課後の時間。片手をちょこんとあげた彼女が近づいて来た。
「ごめん、今日アヤメが忙しいらしくてさ」
「じゃあ、今日は」
「そうそう、いやー久しぶりだね。二人で出かけるの」
この前、私が思っていた通り二人ともあの後でも仲良くなったから、植物園に行った後も何度か三人で放課後に出かけている。
今日もアヤメが用事が入っていなかったらと、アヤメが残念がっていた。
「だから元気だしてね」
「別に元気ないわけじゃない……それに私に触らないで……怪我するでしょ」
「いったい……けど、ほらほら」
「なにしてるの?」
「そんなに怪我してないよ」
じわっと、彼女に触れても熱が浮かぶけどそれだけだ。少し赤くなるだけでぜんぜん痛くない。
「やっぱり、弱くなってるよ。茶原さん優しいから」
「……そう」
私と彼女が出会った頃はもっと怪我をしていた。それなのに、今はあんまり怪我をしないのは彼女のよく分からない力が弱くなっている証拠だ。
「あんまり、嬉しくないの?」
「……まあ、前よりはいいかも」
「そうなんだ」
彼女のことは分からないことがまだ多い。けど、それでも今日を一緒に歩いてくれているのはきっと、少しは彼女も楽しいと思ってくれているから。
「またさ、今日が終わったらアヤメも誘ってクレープでも食べに行こうよ」
「気が向いたら行く」
「うん、まってる」
その日が来るまで私は待つ。いつ来る知らないけど。きっと、その日を。
「あ、でね。今日行くところなんだけど」
ブルンと、音が遠くからけど大きくなった。
「こわっ、すごい音じゃん」
私はそこで立ち止まってしまう。
だんだん近づいてける音は、確実に一本道のその先にいる横断歩道を歩いている人。その人にぶつかってしまう。
イヤホンをつけていて聞こえていないみたい。その間もトラックはどんどんスピードを上げていく。
「あぶない!」
私がいくら叫んでも道路の人はまだ気づいていない。それにトラックも気づいていない。
だめだ、いくら走っても私の位置じゃ助けられない。
トラックは私の横を通り過ぎて、少ししてから横断歩道の彼女に――
「……っ」
ぶつかるって思って、目を閉じた。けど、何かが弾かれるような音はなくて、タイヤとアスファルトが擦れる音が遠くまで続いて、音が小さくなっていっただけだ。
恐る恐るまぶたを開く。
トラックは通り過ぎていて形がどこにもない。いるのは反対側にいる、横断歩道を歩いていた女の子とその子を抱えた彼女だ。
「……ばっ」
「はぁはぁ……茶原さん、大丈夫?」
横断歩道を渡って、私も彼女たちのいる方へ走って行く。
そこには、うずくまった女の子と立っている彼女がいた。どこか怪我でもしたのかと女の子に近づくとその子は何かを口に出そうとしている。
「化け物!」
よく見ると女の子は私たちと同じ制服を着ていて、あぁ、同じ学校なんだと思っていた。私がそんなふうに考えていたら、何かを大声で叫んだ。
言葉の形は理解ができる。けど、意味が理解できない。
ばけもの。
化け物。
制服を着た女の子は、全体で体を隠して、目の前にいる彼女を敵のように隠れている。多分、彼女に触れて怪我をしたから。
だから。
「……っ」
「待って、茶原さん!」
トラックが悪いのに。それを助けてまったく悪くないのに逃げ出す彼女。手をのばしても走り去っていく。まただ、彼女は逃げる。私はまた、追いつくことができない。
「……なんで?」
「……はぁ? なに私に言ってるわけ?」
「助けてくれなかったら、あなたは押し潰されていたかもしれないんですよ。どうして、そんなひどいことを言うんですか」
「実際私は傷ついているじゃない! それなら、ば、化け物に助けられるくらいな――」
――ぱちん。
音がなった。目の前の同じ制服を着ている人は赤くなったほおをおさえている。なんでだろう。
ああ、そっか私が殴ったのか。
「ふざけないで」
彼女に助けられるくらいなら助けなんていらない?
「そんなのくだらない」
そんな変なプライドで、自分の命を粗末にして、他人も傷つける。
「助けて貰ったんだからせいぜい大切にしてください。それじゃあ」
ここにいても解決しないし、彼女が消えていった方向へ、私は急いで彼女を追いかけていく。