いばらひめ様の仰せのままに   作:†デストロイヤー井上†

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女の子と友人と近い人

 

「はぁはぁ」

 

 彼女が走って行った方向にとっくの前になくなった背中を追いかけていく。

 

 しばらく走ってから目の前には右に行く道と左に行く道の二つがあった。右の道を行けば、学校の方角。左は前に行った植物園の道に出る。

 

「……どっち」

 

 早く彼女の場所に行かないと。

 

「どっち、どっち」

 

 彼女は植物園を気に入っていた。なら、左の道に――

 

「あれ、曜花」

 

「……あやめ? ど、どうしてここに?」

 

 行こうとしていた左の道からアヤメが走って来た。用事があってこっちには来られないはずなのに、目の前にはアヤメがいる。

 

「メッセ見てないの? 用事が思ったより早く終わったから合流しようかと思ったんだけど、どうしたのよ?」

 

「あ、あのさ。あれがあれで」

 

 「はぁ」と、小さなため息が聞こえる。

 

「曜花? どうしたのよ、そんなに息を切らして。とりあえずよく分からないけど、急いでるの? なら、きちんと言いなさい。そっちの方が早く伝わるから」

 

「ちゃ……ばらさんのこと見なかった?」

 

「茶原さん? えっと、ごめん見てない」

 

 こっちの方向に来ていないなら。

 

「学校……か」

 

 確信はないし、本当は学校にはいないかもしれない。けど、何となくいつもの屋上に彼女がいる気がする。

 

「ごめん、行ってくる」

 

「いや、本当にどうしたのよ」

 

「そうだ、アヤメ。用事が終わったなら、あっちの道にいる同じ制服の女の子がいたら、手当しといて。多分、手を怪我してるから分かりやすいと思う」

 

「ちょっと、曜花? どうした――」

 

「――後で話すからお願い!」

 

「……もう分かったから行きなさいよ。まったく」

 

「ごめん、ありがとう」

 

 息は辛い。足も痛い。坂を上って、じりじりとした太陽光が焼いてくる。けど、私は走るのはやめない。

 

――

 

「はぁはぁ、やっと着いた」

 

 校門の前。門を通り過ぎて、だんだんと校庭にいる運動部の声に近づいていく。皆の横を通り過ぎて下駄箱に入ろうとしたら、誰かの影が一つ校庭に出てきて私に近づいてきた。

 

「麦野さん、待ってたよ」

 

「茶原……先生? どうしたんですか? それも待ってたって」

 

「麦野さんには話をしておきたいんだ。この前に話せなかったことを」

 

「すみません、今は時間が!」

 

 話は聴きたいけど。彼女を追いかけないと。

 

「それがあの子に関することでも?」

 

「……っ」

 

「今のあの子なら大丈夫。だから、今は麦野さんには話を聴いて欲しいんだ。なるべく、手短にするから」

 

「わかり……ました」

 

 先生はゆっくりと息を吸い込む。一呼吸で全部を言うために大きく長く息を吸い込んだ。

 

「あの子に触ると『棘』みたいなのが付き始めたのは、少し前の出来事なんだ。先天性のものじゃなくて、後天性のもの」

 

 左手の薬指に付いている指輪を優しい手付きでなでる。

 

「自分の母親が亡くなったのをまだ気にしている」

 

「それって」

 

「妻のお願いで」

 

「……」

 

「お願いはあの子に手を握って欲しい……うん、今でも覚えているよ。すごく幸せそうだった」

 

 「けどね」と、話はそこで終わらなかった。というよりも話はここからが大事なところなんだと、何となく感じる。

 

「あの子は触ってから眠りについたのを、今も自分のいけないことをしたと気にしている。それから、触れられるのを極端に嫌うようになった。それからだよ。いや、それだから嫌になったのかな? 今になっては、もう分からないけど、それがあのひどい力のきっかけになった」

 

「そんなの」

 

 もしそれが本当なら。

 

「悪くないじゃないですか。茶原さんは」

 

「あの子は優しいからね。そう、思いたいんだよ。誰かを敵にしたい。そうした方が、あの頃のあの子にはしないとダメだった」

 

 「これで昔話はおしまい」と、いつもの授業のように明るい調子で締めくくる。けど、それは表面上だけで。

 

「麦野さん。この前も言ったけど。僕は親として……いや、人間として最低だと思う」

 

 悔しそうに、顔をゆがめながら先生は腰を曲げた。地面は、ぼたりと黒く濁っていく。

 

「あの子を助けて欲しい。悔しいけど僕にはできなかった。あの子の側にずっといたけどそれしかできなかった」

 

 彼女がその日を後悔しているなら、それと同じかそれ以上に先生は後悔をしている。辛いことを全部を彼女に押しつけたように思っている。

 

「……先生、顔を上げてください。先生だって悪くないんですから」

 

「……」

 

「それに前にも言いましたよね」

 

 先生の話を聴いて、そりゃあ少しは変わった。疑問とか直接聴きたいこととかいっぱい増えた。それでも、変わらないことがある。

 

「私は彼女の友達ですから。たとえ望んでいないお節介でも幸せにするのが友達なんです」

 

 ジャリッと靴を擦る。彼女がいる場所まであと少し。

 

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