底抜けに明るい自由人 作:ハジケリスト
……違います。彼には常識が通用しないだけです。
時間が過ぎるのは早いもんで俺たちは中学生になっていた。
そして、今日も今日とていつものようにまふゆの元へ朝のお迎えをしに行く。これはもう日課なのさ。日課すぎてニカになる。
「太楼君おはよう!今日も一緒に行こ?」
そうして出てきたまふゆ。
そんな彼女に向かっていつものように声をかけた。
「おう!今日も元気そうでなに──」
と、俺の言葉はそこで止まった。止まってしまった。
「……?どうかした?」
固まる俺の顔を覗きながらそんな事を聞かれる。
「……まふゆさ」
「うん?」
「今日調子悪い?」
「っ!?……い、いやいつも通りだよ?」
ふむ。そうなのか?
なんかこう……違和感?みたいなの感じたけど気のせいだったのか?……まあ何かあれば自分から言ってくれるはずだもんな!
「そっか!じゃあ今日も今日とて頑張っていくぞぉ〜!今日こそは学校の蛇口からオレンジジュースが出るようにするぞ!」
「ふふふ、何それ」
「あぁ〜ほんとに今日は爽やかな朝だ。教室に行ったら委員長にキメてぇな〜。挨拶がわりのラリアット……」
「相変わらずだね」
「ちなみにまふゆもするんだから……どした?」
「え?」
後ろを歩くまふゆの方を振り返ってみた彼女の顔。
なんだか困ったような笑顔でこちらを見ている。困っているというか羨ましそうなそんな表情。
やはり元気がない。これはまさか。
「……お通じが良くないのか?」
「へ?」
「そうだよな…!腹の調子が悪い中でこんな元気に朝の時間を謳歌してる男を見てたらイラついちゃうよな…!くっ!許せ!」
「そ、そんなんじゃないよ。……うん、そんなんじゃ」
「大丈夫だ!安心しろぉ!俺が何とかしてやる!」
「っ。……うん」
とりあえずどうするか。
お通じを改善するためには──
「薬局行って座薬を……いや、浣腸…?」
「あ、それは別にいらないかな?」
なん……だと……!?
「あと、それセクハラだよ?」
「おま、セクハラが怖くて新大陸を見つけられると思うか!?」
「……うん、そうだね」
そう言うまふゆの顔には僅かながら微笑みがあった。
いぃ〜い顔だァ…!
「よっしゃいくぜ!我らベジタブル連合軍!出陣じゃァッ!!!」
そうして俺たちは走り出した。
「佐藤ぉぉぉぉぉおッ!!!またお前かァァァァァァアッ!!!」
「そうですまたお前です」
先生の怒号が飛ぶ廊下。
鬼の形相を浮かべた先生が目の前にいた。
「毎度毎度…!今回は何をやったんだ!自分の口で言ってみろ!」
何をやったか。はて?今日の俺は何をした?
先生はなんの件で怒っているのだろうか。
「先生のメガネを鼻眼鏡に変えたこと…?」
「……違う」
「先生のデスクでおせち作ったこと…?」
「……違う…!」
「職員室のコーヒー瓶の中身を砂に変えたこと…?」
「ちっがぁぁぁぁあうッ!!!ていうかそんなことまでしてたのかお前はッ!?」
「ちなみに中身の方は俺お手製でコーヒーを入れクラスメイトたちに差し入れしときやした」
そういうと先生は頭を押えながら天を仰いでいた。
何それかっけぇ。俺もやろ。
「……とりあえず今出てきたものは置いておく…!校長先生のカツラを綿菓子に変えただろ!?」
「あーそれ?」
あれは中々凝る作業だった。
アフロをイメージして綿菓子を作りさらに黒く塗り塗りして小腹がすいた時に食べられるカツラを作ったな。我ながらいいことをした。
「おかげで校長先生は校長室に引きこもるし、俺たちの胃には穴が空くし…!」
「俺は楽しいし、みんなも笑うし」
「えぇい!お前はもう黙ってろ!!!」
ため息を吐いて頭を抑える先生。
そう怒りなさんな。糖分足りてる?
持ち手の部分を水飴に加工した画鋲でも食って落ち着きな。
「いいか?お前、みんなが笑ってくれてるんじゃなくてみんなから笑われてるんだ。分かるか?」
「でも笑ってくれてるならヨシッ!」
「えぇー…」
ちなみにクラスメイトたちからの評判は良い。
小腹がすいた時にありがたいとかムカつく先生懲らしめてくれてサンクスとかよく言われる。そうよ、私はメシアなの。
「なんでお前の幼なじみはあんなに優等生なのにお前はこうなんだ……」
「天才というのは理解し難いものさ…」
「お前は変人で狂人なだけだ…」
「いや〜それほどでも〜」
「褒めてねぇよ!
その時、チャイムが鳴った。
もうこんな時間か。
「おっと、授業が始まってしまう。こりゃいかん。今日は来る先生たちを出迎えのファンファーレでもてなす日なんだ。早く行ってバズーカの準備をしなきゃ」
「は?……いや、ちょっと待て!」
走り出す俺の後ろを追いかけてくる先生。
これ以上ほかの先生たちを犠牲にしてなるものか!なんて言葉が後ろから聞こえてきた。
全く何を言ってるんだか。今までこの出迎えをしたら先生たちは涙を流してたんだぜ?あれは感動の涙さ。俺にはわかる。
「あー今日も楽しかったー」
「それは良かったね」
放課後。いつものようにまふゆと並んで帰る。
この時間がなんとも心地よい。
明日は何をしよっかなー。先生たちから少しずつ集めたスーツのほつれのバーゲンセールでも開こっかな。
「……太楼君はさ」
「ん?」
「自由……、だよね」
「当たり前よ。俺は自由をこよなく愛し、自由にもこよなく愛される。お互い愛しすぎてて双方引き気味になるレベルのさながらあの夏のようにアツアツな関係なんだぜ……」
「……あの夏ってどの夏のことなの?」
困り笑顔で言われた。
そりゃあの夏はあの夏よ。あの夏の日のメモワールとかあるだろ?それだよ。
「……私も君みたいになりたいよ」
まふゆが小さくそう呟いた。
俺に聞こえないと思ってたのだろう。それほどの小さい声。
だがな!
「まふゆ!」
「え?」
「俺は地獄耳なんだぜぃ?」
「……へ?……あ」
「俺を羨ましがったな。そうだな」
「いや、その…」
「よろしい!」
となればこの後の予定は決まった!
「今からゲーセン行くぞ!」
「え?わ、私は…」
「俺を羨ましがった貴様に拒否権などぬぁいッ!!!さあ着いてくるのだ!最近、近くに新しくゲーセンが出来た!そこにまだ"ご挨拶"に行ってなかったからちょうど良かった」
「あ、挨拶って…?」
「ん?俺がUFOキャッチャーの中に入って、来るお客さんに手を振るの」
これは俺が毎度やっている恒例行事なのだ。
何故かやったら出禁を食らうがまあ捕まらなければオールOKよ。……と言っても警察のとこでご飯をもう7回は食べたりとかしてる。
あそこのカツ丼うめーのよな。今日も食べたいぜ。
警察の方々が俺を相手にするとゲッソリするのは恐らく気のせいだろう。
「……」
この時、まふゆは心の中でゲーセンの店員の胃に十字を切っていた。
「よーし!行くぞッ!」
「あ、ちょっ…!」
無理やりまふゆの手を掴み駆け出す。
俺たちの戦いはこれからだ!
……オリ主はっちゃけ過ぎでは?
ちなみにこの地区一帯ではもう恒例となりつつある行為なためみんなもう娯楽として楽しんでる模様。被害者たちの胃に穴は空くけどこれを機に客足は何故か増えるため結果オーライで納得してるらしい。
……人生諦めも肝心なんだよ。