底抜けに明るい自由人 作:ハジケリスト
入院して10日程経過した。
……暇だ。
病院というのはなんて暇なのだろうか。やれることが限られている。限られすぎている。
運ばれてくる食事は味が薄く好みでは無いため、その料理を使って創作料理をすることくらいしかやることが無い。
まあ、1時タロさん食堂というのを開いてみたら患者たちからは好評で病室の前に長蛇の列ができたりとかはしてたけど。
その時の看護師や医者の顔が痩せこけていたから腹減ってたんだろうと思って彼らに俺が直々にアーンして食べさせてたりもした(強制)
だがそれを毎日していてもさすがに飽きは来るもので。
まふゆも忙しい中、3日に1回程度見舞いに来てくれるがそれでも毎日じゃない。
……暇だ。とても暇だ。
天井のシミを数える暇つぶしをするために天井にシミを作るとかして暇を潰してるがそれもそろそろ終わりが近い。
次は何をしようか。
……は!そういえば俺には病院に来てからライバルができていたじゃないか!
フッ、たまには戯れてやるのも一興よ…。
そうと決まればいざゆかん!
そうしていつものように松葉杖無しでけんけん移動を開始。
そのままドアを開け廊下へ出た瞬間──
「ひゃ…!」
「お?」
俺の体に何かが当たった。
瞬間聞こえてくるドサドサ音。
そちらに目を向けてみると、
「いたた…」
1人の少女が尻もちを着いていた。銀色の髪を長く伸ばし上下ジャージ姿の色白の子。
これは……何やら面白い予感…!
「あ、す、すみませ──」
「運動は〜大事〜、板東は〜英二〜♪」
「……へ?」
「ナナナナ〜ナナナナ〜ナナナナ7億円♪いきなり出てきてごめ〜ん、誠にすいまメ〜ン♪」
「……」
「……」
「……ハハッ!」
「えぇ…?」
うわぁ、眉間にシワよってるぅ。
……掴みはばっちりだな!
「え、えーと…?」
戸惑う彼女の横に散らばる花束にひとつのボストンバッグ。
なるほど
「お見舞いか!」
「え?ま、まあ……はい」
「しょうがない。この俺が案内してやろう!」
「え?……い、いや大丈──」
何やら言ってるが無視して花束とバッグを拾い上げそれを手にしながらさらに少女も小脇に抱える。
「……え?」
「さあ!どこに向かう!?我らの冒険はここから始まるぞ!」
「いや、あの…」
俺の言葉に言葉をつまらせてる少女。
全く照れ屋さんめ。
そんなことをしていたら、
「佐藤さんうるさいです……あなた何してるんですか…?」
「お?」
あ、やべ見つかっちった。
「佐藤さんがまたなにかやらかそうとしてます!」
「またか!」
「何かやる前に捕まえろ!」
「追いかけても追いつけないから回りこんで行くのよ!」
「みんな刺股は持った!?行くよ!」
フッ、今日も今日とてアツアツなアプローチ。モテる男は辛いねぇ。
てなわけで、
「にげるぞー!」
「わわっ…!」
そうして驚く少女を他所に俺は走り出した(ケンケン移動)
「右よーし、左よーし。安全よーし」
何とか看護師達を撒くことが出来た俺は庭のベンチで腰を休める。
そういえば少女はどうなってるか?
「……」チーン
し、死んでる!
彼女をベンチに横にし肩に掴みかかった。
「大丈夫か!?なんでこんなことに…!誰にやられた!?」
「……」
「おい!しっかりしろ!死ぬな!寝たら死ぬぞ!」
「……」
「起きろー!!!」
「ぅぁぅぁぅぁぅぁ」
そのまま前後に揺らすと微かに聞こえてくる声。
お、死んでない。
「……は、吐きそ」
「……具合悪いのか?」
「……いや、キミのせいなんだけど…」
はて?俺が何かしたか?
俺はただこの少女を小脇に抱えながら木から木へ飛び移ったり、窓から外に飛び降りたり、バク宙しながら看護師から逃げてただけなんだが?
「てかおれはキミじゃない。俺のことはホームズと呼べ」
「え?あ、う、うん」
「さてゆくぞワトソンくん。我らにはお見舞いという大切な使命が待っている!」
「……もしかしてワトソンくんってわたしの事?」
何を言う?早見優?
今日からキミは俺の右腕さ。
「さあ病室の番号を教えてくれ!すぐに向かおう!」
「……」
「……もしかして分からないのか?なるほどこれは厄介な謎になりそうだぜ」
「……いや、教えたくないだけなんだけど」
「しょうがねぇ。こうなったら手当り次第訪ねていく「教える。教えるからそれはやめよ?」……何!?謎はもう解けたのかい!?流石だ!」
ではでは向かおうか。
花束とバッグを両手に俺は歩き出した。
後ろからため息が聞こえてきたけど気にしない気にしない。
さて、やってまいりましたよワトソンくんの目的の病室。
移動の間、看護師の方々に追いかけられそうになったが『この子がどうなってもいいのか?』と言いながら花束を少女に向けながら言ったら『くっ…!』とか言って追いかけるのやめてくれた。
へっ、チョロいぜ。
さてさて、中へ入りましょう。
ここは慎重に優しく刺激を与えないようにしなければ。
「おじゃまーッ!!!」(クソデカボイス)
「っ!?」ビクッ
ドアが外れるほどに勢いよく開ける。
やはりインパクト。インパクトさえ残せればみんな俺のことを覚えてくれる。……良くも悪くもね。
中にいたのは1人の男性。
ベッドに横になり目を開けていない。
「ふむ、この方は?」
「……私のお父さん」
「なるほど…」
ではではとケンケンしながら近づいていく。
そして、横たわる男性の横に立ちながら俺は口を開いた。
「お父さん、お父さーん。聞こえますかー?娘さんが来てくれましたよー?」
「……」
「…あ、あの──」
「またそんなずっと寝て。昼寝は1日1時間」
「……」
「えーと、その…」
「……ふーん、ダメだな。起きねーや。……ケツに花火ぶち込めば起き「あの!」お?」
「大丈夫、だから…」
花束を手に何かをこらえるようにこちらを見つめてくる。
ふむ、
「じゃ、どぞどぞ」
「……ん」
そうして場所を譲ると彼女は慣れた手つきで花瓶の花や棚の中に入っているタオルや着替えを入れ替えていった。
彼女の横顔は何やら苦しそうだった。
「手早い作業。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね」
「え?」
「なんでも?」
そんな会話をしつつ数十分。
どうやら作業は終わったようだった。
「もう帰るん?」
「……うん」
「そかそか」
まだお昼前。
やる事やったらササッと帰るタイプか。
それは俺がつまらん。となれば、
「ねね」
「なに?」
「ちょっち俺に付き合って」
「……え?」
そうして、俺は返事を待たずに彼女の手を取り廊下を歩き出した。