これは私たちが記憶と心を与えられた死体“ドール”として、ネクロマンサーの
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耳障りな金属の擦れ合う音、遠くから聞こえる奇妙な音楽。決して心地よいとは言えない目覚ましによって私は目を覚ました。そこはそれなりに広い部屋の中……真っ暗なはずのその部屋を、私の目は違和感なく見通している。自分自身が何者なのか、はっきりと思い出すことはできない。名前と、僅かな記憶のカケラだけが頭の中にある。
そしてすぐそばに、私と同じように戸惑う少女たちがいた。それが鏡によって映し出されたものではなく、別の誰かであることは個々の姿を見ればわかる。
全員が似たような状態なのか、お互いに何かきっかけを求ている様に視線を宙に泳がせていた。
このままけん制し合うのも時間の無駄のように感じたので会話のきっかけを作る為声を出してみよう。
「あー、えー…ンンッ。初めまして?貴女達は?」
声は出た…が名乗りもせずにあなた達は?は我ながらどうなんだろうと思う。
とそんな自問自答をしていると、首や肩に縫い目があり朱色の髪と蛇のような下半身が目を引く17歳ほどの年頃の女性が自己紹介で会話をつないでくれた。
アカ:「初めまして…でいいんだな?正直、何も分からねぇ。あたしの名は…アカでいいや。長ったらしいのがあった気がするが、面倒だ。あんたらは何て呼べばいい?」
彼女はアカというらしい。正式な名称は別にあるみたいだが、あまり気にしていないのだろう。行動的そうな彼女は性格的にリーダーに向いていそうだと思っていると二人目の自己紹介が始まった。
アンナ:「わたしはアンナ。どこかでずっと外を眺めていた気がするけど、自分の名前とそれ以外はよく覚えていないの」
と12歳ほどの年頃の肌と髪が白く瞳が赤い、いわゆるアルビノと呼ばれる見た目をした少女が自身の記憶の状態を説明してくれた。なるほど、どうやら個々で保持している記憶に差異がありそうだ。
とそんな考察をしていると三人目も挨拶を始めた。
サチ:「えぇと…私は…サチ……?なんだか少し違う気もするけど、……。サチって呼んで!あなたはなんていうの?」
そういって、おかっぱ風な髪形で片目が前髪で隠れた、腹周りが破けた黒のセーラー服に黒の傘、そして両腕にひときわ目を引く所々に穴の開いた皮膜が付いた13歳くらいの見た目の少女が私に名前を聞いてきた。
そこで私は名前をつげようとしたのだが、記憶内に自身が持っているはずの名前が鮮明に思い出せなかった。そこで断片的な記憶を思い起していると、吐き気や憎悪のような感情が沸き立つ記憶の中で私をこんな状態にしたやつの言葉が頭の中に響いた。
『ポジションはオートマトン、クラスはロマネスクとタナトスでいいか。こいつの記憶は恩人についてとワタシについてにしてやろう』
と悪意と愉快さを感じさせるような声色の誰ともわからない存在の声に感じる感情をねじ伏せながら問われた内容に答えた
アルト:「私…私は…ART-060…アルト・ロゼ、アルトでもロゼでも好きな方で呼んでください」
そう返答して、私は今のと記憶の状態について確認を始めた。
アカ:「ほとんど記憶がないのは全員同じってわけか。あたしにあるのも殺された時のものくさいし、この体から見るに真っ当ではなさそうだ。」
アルト:「私も似たようなものかしら、右目からゼンマイ音が聞こえるわ」
アカ:「はっ、酔狂なやつがいたもんだねぇ。あたしの片腕も機械仕掛けにしてくれればいいものを。」
アルト:「腰から下もユニークね」
アカ:「ほんとにな。何故か元からの身体より自由に動かせるから、正直困ることは無さそうだ。サチやアンナはどうだ?体は動くか?」
そんな軽口なやり取りをしながら他の二人にも話を率先して振っている。やはり彼女をリーダーに据えた方がよさそうだ。
アンナ:「わたしの靴...ブーツっていうのかしら。これも仕掛けがあるみたい。外に出る機会が無かったから履いたことなかったけれど。あと、こんなものが横にあったわ」
サチ:「私のこの腕……なんだか翼みたい。何かあった時に守ってくれそうな気がするの。あとこの傘。普通の傘じゃないみたい。きっと生前だったら重くて持ち上げることもできなかったと思う……。」
アンナはブーツや銃といった外装品が多いみたいだ。逆にサチは皮膜やお腹にウロコなど生体的な追加特徴が多くみられる。
アルト:「わかりやすさで言えば、私の杭打機が一番それらしい見た目ですね。それと、こんなのとか」
そういって身の丈ほどある杭打機(パイルバンカー)と手や腕、杭打機自体から出るスパイクを起動させてみた。
サチ:「わっ!すごい!」
アカ:「お互い多種多様だな。」
サチは驚愕するように、アカは自身との武装の差異を確認するようにそういった。
そんな何気ない会話をするだけでも常に私たちを苛む恐怖を一時的に退けることができるようで内に宿る狂気を落ち着くとともに、サチに感じていた植え付けられたような執着の感情があんな反応をしてくれる彼女を独り占めしてしまいたいという感情の変化も同時に感じる。
そうして閉じきった部屋で話し合っていると、段々と退屈さを覚えてきた。ここには何もなく、たとえ仲間が居ても記憶のほとんどない状態は不安だ。扉の向こうからはずっと機械音と奇妙な音楽、そしてわずかに人の声がしている。この部屋には鉄の扉が一つだけ。
アカ:「しかし、どうしたもんか。変な音が聞こえるだけでよく分からん。」
アルト:「とりあえず、あの扉に対して動作の確認をしてもいいですか?」
そういって私は扉へと近づきていきます。
サチ:「……ここにずっといてもしょうがないしね。何かないか見てみようか」
アカ:「だな。一人で開きそうか?」
アルト「まあみていてください」
そして左の腕を伸ばし指先をそっと当て
アルト:「射出…!」
右腕につながれている杭打機の動作を確かめるように打ち出した。
アカ:「はでえ」
アルト:「機構に不備はなさそうですね」
アカがあんぐり口を開ける中、私は稼働した杭打機と吹き飛んだ鉄扉を見ながら機体に動作不良が無いことに安堵しながら自然体へと戻った。
サチ :「わー!吹っ飛んだ!すごい!」
アカ:「良い音が響いたな。」
アンナ:「すごいですね」
サチはとても可愛らしく、残りの二人も感心したような発言と仕草をしています。
アルト:「思ったよりも反動を感じませんでした。やはり改造されているみたいですね」
私は独り言のように自身の状態を改めて実感した。普通はこんなものを打ち出すことはおろかまともに持ち上げることすらできないだろう。
そんな感想を抱いた後、吹き飛ばした扉の先を見る。眼前にはコンクリートで作られた飾り気のない一本道。遠くからは大型機械の稼働音のような重い音色が響いてくる。……機械音に混じって、どうやら歌も鳴っているらしい。人の声がする。
サチ:「……先に進む?」
アカ:「ここにいても始まらないからな。」
アンナ:「わたし、外に出るなんて初めてです」
サチ:「この先はまだ外じゃないからね。でも、アンナにとっては大きな一歩になるのな」
アンナ:「わたしにとってあの窓から見えた景色がすべてだった気がするんです」
三人がそんなやり取りを始めながら出立をしようとしていたため、かねてから思っていた言葉をアカに向かって口に出した。
アルト:「では、先導してもらってもいいですかリーダー?」
アカ:「あ?リーダー?あたしが?物好きだな。」
アルト:「我々の中で一番統率能力が高いと思いまして。私は機械的に物事を進める程度の指揮力しかありませんので」
アカ:「そんなもんかい。まぁ、ちまいのの引率も悪かぁないか。じゃあ、先に行くから、はぐれるんじゃないよ」
サチ :「うん!わかった!」
アンナ:「わかりました」
アカ :「うお!動きづら…意外といけるな。」
サチ:「…離れないでね、アカ」
アカ:「お、おう」
少し嘘をついたが、感情をうまく押し殺すことが得意な私よりも周りをよく見ているアカの方がリーダーには適役だと思う。
アカ:「じゃあ、音の方へと言ってみるか。」
サチ:「この先に誰かいるのかな?人の声がするね」
アカ:「だな。しかし、こんなところで人だなんて、あたしらと同じ境遇か?」
アンナ:「それにしても歌のような陽気な音楽のように思えますけど…」
アカ:「人食いお化けだったりしてな。」
アンナ:「ひぇ…」
アカ:「はっはっは。あたしの姿見たらお化けの方が逃げちまうよ。」
3人がそんな些細な会話をしているのを耳に拾いながら廊下を進んでいくと、ぼんやりと聞こえていた音が明瞭になっていく。
『重心を安定させろ!自立を崩すな!』『接合が甘いぞ!何をしている!』『休むな!勝つまで休むな、作業を続けろ!』
そんな風な叱咤、激励の声が絶え間なく聞こえてくる。ふとアカの方に目をやると彼女は耳を澄ませ聞こえてくる音を吟味していた。
アカ:「あぁ?よく聞いたら、この音楽やら声、おんなじものが繰り返されてねぇか?…やっぱり、合ってるな。録音されたものが繰り返されてるだけだな。」
確かに、言われてみれば軍歌はともかく声の方も一定のテンポやタイミングで繰り返されている。気づけば確かに録音のそれとわかるが、このような訳も分からない状況でそういう些細な違和感にも気づくことができるアカはリーダーに適任だ。何があっても彼女を失ってはいけない、たとえ私が壊れてしまうことになっても。そんなことをぼんやり思っていると3人のうちでどんどんと会話が進んでいく。
アンナ:「なんの為でしょう?」
サチ「えっ……じゃあ、個々には私たち以外誰もいないってこと?」
アカ:「そうかもな。でも、これを流し始めたやつがいるかもしれないぞ?」
アンナ:「なんにせよここからでは確認の仕様がありませんね」
アカ:「前は任せろ。後ろは頼むぜ?」
アルト:「任せましたよアンナ」
アンナ:「銃なんて扱えるか不安ですが…殿は任せてください」
アンナは私たち3人と違って華奢な少女のまま武装で自身を強化している状態だ、それにまだ幼いころに人生を終えてしまったのだろうことを外見年齢から察することができる。だからできるだけ後ろにおいて護っておかないといけないという感情が私の中にうごめく、それがネクロマンサーにあらかじめ植え付けられているかもしれない感情であってもそれを拒否しようと私自身も思わなかった。
4人で周囲を警戒しながら先を進んでいくと大きな金属の扉がみえた、どうやら突き当りまでたどり着いたようだった。大扉の向こうから放送と機械音が聞こえてくる、音の発生源は向こうの様だ。見たところ鍵もかかっていなさそうだし今の私たちの筋力なら容易に扉を開けることもできるでしょう。そして、その手前には一つだけ異様な扉があり、それは「工場長」と書かれたプレートのついた木製の扉だった。押せば倒れてしまいそうなその扉の足元には黒い染みがいくつも残っている。今まで見てきた部屋とは明らかに違うものだ。
アカ:「音の出どころはこの扉の先、こっちには黒いシミが残った扉、どっち行きたい?」
サチ:「工場長の部屋だね。この黒い染みはもしかして血……?」
そんな言葉と共に不用意にサチが木製扉に近づいて足元の染みを確認し始めた。心臓に悪いので軽率な行動はやめてほしい、まあ心臓動いてないのだけれども。
サチ :「う~ん……。やっぱりこれ、血だなぁ……。こんなに黒いってことはだいぶ時間が経ってるってこと?」
アカ:「ほお?」
サチ :「あれ?この扉……。みんなー!ちょっと来てー!」
アカ:「どうした?l」
アンナ:「その扉がどうかしたんですか?」
呼ばれたため近づいてみると扉は無理やりに押し開かれ、繋がっていた金具はねじれてぶら下がっていることもわかる。外された扉を、後から立てかけているようだ。
アカ:「これは…扉のようで、もはやただの板だな。」
アンナ:「この扉...向きはあってそうですけど、こちら側に折れ曲がってませんか?何かすごい力で無理やり開けたような…」
サチ :「さっきのアルトみたいな扉の開け方をした人がいたのかな?」
なんだかサチの中で非常に不本意な評価を受けている気がしないでもないがやったことは事実なので何も言えないのが口惜しい。しかし私とはいささか状態が異なるので訂正を加えておく。
アルト:「もっと押し続けたような痕跡に見受けられますが。私のようなやり方であれば扉自体が破損しているでしょうし」
アカ:「つまり、中から出てきた後ってことか。このあたりにまだいるかもな。」
サチ:「たしかに!木の扉だしボロボロになってそう!」
普通は木の扉に対して杭打機を打ち込むことはまずないと思いますし、私がやったあれは威力確認やちゃんと機能するかの確認も兼ねていたのだと、サチに対してとても弁明したい。
アンナ:「でも無理やり開けたにしては、わざわざ丁寧に扉を元の位置に戻したんですね」
アカ:「確かに。それは変だな?アンナは賢いな。」
アンナ:「何故でしょう、以前よりも頭が冷えるようにさえている気がします」
サチ:「むっ!も、もしかしたら扉を壊した犯人とここに置いた人は違うかもしれないね!」
アンナの観察眼に張り合うようにサチがありえそうな可能性の考察ではり合っている。
アカ:「そうか。あたしらと同じで何人かいる可能性もあるか…。友好的な相手だといいな?」
アルト:「私が言うのもなんですが、このような開け方をする存在が友好的である可能性は限りなく低いと思われます」
アカ:「あんたが自分で言うのかい…。相手がその気なら、致し方ないね。」
しょうがないじゃないですか。実際やった側ですし、知らない相手がいたら普通に扉に対して似たようなことをためらいなくやるでしょうし。
サチ:「良い人だといいんだけど……ね。……この部屋の中も見てみようか」
アカ:「用心しながら覗こう。何かあるかもしれない。」
そういって、アカが扉をどかして中を覗くようだ。
アカ:「よっと。片手は少し、難しいね。」
サチ:「あっ!手伝うよ!」
アカ:「悪いね。」
扉がずらされた部屋を覗き込めば、中は執務机とソファ、応接机。床には絨毯が敷かれ、分厚い壁には絵画などが飾られている。かつては調度品に包まれた豪奢な一室であったろうこの場所は、しかし今は埃が幕を張り、黒い染みは絨毯を中心に壁にまで飛び散っている
サチ:「…誰もいなさそう?」
アカ:「「そのようだな。ちょいとあさってみるか。」
アンナ:「いったいここで何があったんでしょうか…」
よくよく観察してみれば、黒い染みに混じり、硬質な物体がいくつか転がっている。アカと一緒に染みに近づけば、古臭い匂いを感じ取る。また、近くには小口径の拳銃が数丁置かれていた。
転がっている拳銃はどれも人体を破壊するには十分すぎるものであるが、私たちドールを、アンデッドを壊すにはあまりにも不適、やくたたずなものだろう。
アカ:「アルト、これどう思う?あたしらにも効く代物かい?」
アルト:「アカは分かり切ったことを聞くのですね。この程度の物では少々進行を止める程度の役にしかたちません」
アカ:「あたしよりも詳しそうだからね。それなら、この地は"生物"の物ってことになるのかね?」
アンナ:「これだけの血で生きているのかも怪しいですが。もしくはある意味で『私たちと同じ境遇』のものか…」
とりあえず三人は部屋の中を物色するようなので、何もないとは思うが私は部屋の入口で見張りをすることにした。
サチ:「わっ、すごいほこり!こんなに積もってるってことはもうずいぶんと長いこと誰もここに来てないってこと、なんだな……。それに……こんなに舞ってても咳一つ出ないんだ……。」
アルト:「今の私たちには呼吸という動作はないですからね」
サチの独り言に特に意味のない説明を入れながら入口付近で室内と室外の両方を把握できるように警戒を始める。私の返答にあまり興味を引かれなかったようで、彼女はすぐ近くの物へと興味を移していった。
サチ:「……ん?これはなんだろう。本?……わ、なんか読みづらいな……」
サチ:「……あ、これ日誌かぁ!えーっと……なになに?兵器の開発……ゴライアス……。ふむふむ」
そういって本を凝視して何とか読解しようと「戦争に勝利する」、「兵器の開発が順調に進んでいる」、などと呼んでいるであろう内容を断片的にブツブツと口に出しながら本を読みこんでいっている。
可愛らしくてとてもいいのだがあまり気を取られすぎると注意散漫になっていけない為、意識の割り振りから無理やり彼女の独り言を除外した。
アカ:「サチ、本なんて読めるのか?何が書いてある?」
サチ:「なんかものすごく読みづらい文章だけどなんとか読めてるよ!一緒に見る?」
そうやって二人は本を読み進めているようだ。
アンナはアンナで他に何かないか終端をめくったりしているようだった。
アカ:「うっ…!この記憶は…。」
サチ:「うぅ……私……なんでこんな記憶……」
アカ:「ここは兵器工場で、とんでも兵器が今でも作り続けられているってことか?」
サチ:「あの血って……」
入口あたりからだと聞こえないくらいの小声で二人は何かを確認し合っているようだ。比較的近場のアンナにはその会話が聞こえたのか声をかけていた。
アンナ:「兵器とはさっき言ってた『ゴライアス』とかいうやつですか?」
アカ:「ああ、そうみたいだね。アンナとアルトはこの本を読まない方がいいね。」
サチ:「……そっちは何か見つかった?」
先ほどとは違って私にも聞こえるような声量で会話をしながら、問われたことへの返答の代わりにアンナが手元の何かを二人に見せていた。サチたちが読んだ本や、アンナの手元の物が気になるが、私にそれらを見せたり教えたりしないということは必要ないという彼女たちの判断だろう。なので私は見張り番に徹し追及しないことにした。
その後少しして三人の探索はあらかた済んだらしく、工場長の部屋を出て金属扉の奥へと向かう事にした。重々しい金属扉を開ければ、そこは高い天井で覆われた薄暗い工場だった。そこかしこにはスピーカーがあり、軍歌とどなり声が流れ出していて、他にも無数の作業機械が動いているようで、私たちを目覚めさせた音の正体はきっとこの場所なのだろうと腑に落ちた。眼前の工場ではこうしている今も多数の人影が動きながら働き続けていて、巨大な何かを組み立てていた。動く人影たちはよく見れば体のいたるところが腐り、毛髪も抜け落ち、作業服も擦り切れている……ゾンビたちが、何のためとも知らずに労働を続けている。あんな姿になり果てても、私たちとは違い定められた命令から逃れられないのだろう…いや、逃れるという選択肢すらないという方があっているのかもしれない。彼らが部品を運び、接合し、そうして組み立てられていくのは巨大な人体のパーツ群。あれは先ほどアンナが口にしていた『ゴライアス』の製造過程なのではないか。
アルト:「あれはいったい何なのでしょうね」
私はこのおぞましい光景を目にしつつも、そんな白々しい事を言葉にした。
アンナ:「巨大な何かのことでしょうか?」
アカ:「あれ、サチの読んでいた本に書いてあったやつじゃないか?」
サチ:「うん……どれだけ長い間動いているんだろうね……」
アカ:「で、周りで腐ってるのがアンデット化したやつってことか。」
サチは彼らゾンビたちを痛ましそうに見つめていた。アカは私の疑問に答えつつも、この後どうするかを周りを見ながら算段を立てているようだった。
アカ:「どっかに出口なんかないか?正体が分かったが、あたしらの役には立たなそうだ。」
サチ:「そうだね。ここまで出口のようなものはなかったし、この先にあるとは思うんだけど」
アンナ:「ということはあのゾンビさんたちのところを突っ切らないといけないでしょうか」
アカ:「あたしらのことはそっとしておいてくれるだろ?」
アンナ:「どうでしょうか…あの様子では自我があるかどうかも怪しいですが…」
アンナが警戒しているのも、アカがあまり放置してくれるのを期待していないのもなんとなく雰囲気わかる。この状況下で普通に横を素通りできると考えるのはあまりにも楽観が過ぎるというものだ。
サチ:「一応、気付かれないように進もう。何かあっても私がみんなを守るから!」
アカ:「頼もしいなサチは。」
そんな会話をした後、ゾンビたちを警戒しながら工場の向こうへと進もうとしたとき、突然に警報めいたサイレンが鳴り響きだした。何事かと思いその音の元を確認すると、私たちの近くの…一匹の不気味なアンデッドの番犬から発せられている。それは記憶にある犬とは似ても似つかないような胴体と、もはや生物の跡形もない機械化され顔すらない頭部をした歪な
アカ:「おいおい。もしかして、あたしらにか?」
アンナ:「お腹が空いてるのでしょうか…生憎何も持っていないのですが」
サチ:「犬からサイレンの音が鳴ってる……!」
アルト:「どうしますか?対処しますか?」
三者三様の反応を示しながら3人とも戸惑っているようなので、この事態を無視して進むかそれとも目の前の異物を処理してから進むかの指示を
アカ:「やろうってか?いいぜ?」
アカが
アカ:「あ?こっちの腕、戦闘用かよ!?」
アルト:「リーダーは早急に自身の性能を把握することをお勧めします」
アカ:「鎖が勝手に動くなんて、予測できるか!?」
彼女の場合、我々の中で1番異形化しているのもあり、他にもまだ隠された機能がありそうなので一応忠言しておいたが、彼女自身が言う通り予測の範囲を超えている為あまり期待できないなとは思う。そんなやり取りをしている間にも、ゴライアス2体が我々を粉砕せんとその長い足を用いて私たちに近づいてきた。しかし、ぬうっと近づいてきたのはいいものの、誰を狙うか決めかねている様子で移動を終えると立ち止まった。
それをアカが見逃すはずもなく、ゴライアスに日本刀で切りかかる。ついでとばかりに尾のような足を使いゾンビたちを転ばせていく。
アカ:「すっころんでなぁ!」
サチは防御に専心するようなので私はアカに続いてゴライアスAへと殴り掛かった。
アルト:「はじけ飛んでどうぞ」
そんな掛け声と同時に、ゴライアスをアームバイスで強化された腕でつかみ、避けられないようにしたうえでパイルバンカーを打ち込む。その威力を勢いで加速させるべく、自分のはらわたを犠牲にしてパイルバンカーに付属しているジェットノズルを起動し無理やり速度を上げ、さらに杭の部分と私の腕部に内蔵されているスパイクを起動してズタズタに引きちぎるように噛みつく棘を差し込む。私のはらわたが犠牲になったがゴライアスAの肉体の3分の1を吹き飛ばすことに成功したようだ。
私たち二人でゴライアスを相手どっている間に、アンナが狙撃ライフルを使い奥のソルジャーを正確無比に打ち抜いていた。非常に正確な射線だったのだろう、4体のソルジャーの頭を打ちぬいている。ただとてつもない集中力を要するらしく、1射で相当に消耗してしまったようだ。
だが仲間がやられたのも気にせず、残りの6体が私を狙って一斉射撃を行ってきた。排熱処理が終わっておらず、まともに動けない現状では避けることもままならないだろうなとぼんやり思いっていると、サチが突如として私の前に立ち、合金トランクを掲げ、それらの攻撃を代わりに受けた。しかしトランクだけでは受けきれなかったようで肩に損傷を受けてしまったようだ。
その様子を内心歯がゆく思いながらみていると、ゴライアス達はアンナに狙いを定めたようでその長い腕を利用して殴り掛かった。片方は狙いが定まらず攻撃を外したがもう一方は彼女のか細い脚に命中するであろう軌道が見て取れる。そうはさせまいとアカが足で、サチが吹き飛ばされた肩の肉片を使ってその行動を妨害することによってアンナは事なきを得た。後々に聞いてみたがサチの吹き飛ばされた肩がひとりでに動き出したのは『蠢く肉片』という能力らしい。
アンナ:「助かりました」
ゴアライズの妨害をしている最中に2体のハウンドがアカへと向かってとびかかったが、2体とも見当違いの方向へとジャンプしていた。頭部を武器に置換しているから知覚系統が弱いのだろう。
アカ:「なんだ?遊んで欲しいのか?」
ゾンビたちもサチへと襲い掛かるが、あっちこっちをふらふらとしているだけで目標をとらえきれているように思えない。周りをウロチョロされると鬱陶しいのでとりあえず吹き飛ばしておこうと思いゾンビたちに向けてパイルバンカーを放とうとしたが、動作不良を起こし始める。何度か起動させようとしても唸り音をあげるだけで動こうともしないそれにいら立ちを感じ始める。
アルト:「ポンコツですね!射出機構がジャムりましたか!」
そういってに膝で思いっ切りパイルバンカーを蹴り上げると、ガチンという音とともに杭が射出される。蹴りこみと射出の反動で片足の骨が砕けたが、3体を巻き込み更に吹きとばされた肉片で残りのゾンビたちを後方へと押し出せたので結果オーライだろう。
私の足が砕けている間に、ゴライアスがアンナを狙って振るった拳をサチが防いでいた。ただ、拳が当たると同時にゴライアスに付属されていたスパイクが起動し、防ぎきれなかったそれらが彼女の肩と拳を吹き飛ばす。追い打ちとばかりにハウンドがアカの腕と肩をかみちぎる。
サチ:「……っ!腕が、届かない……!アカ……っ!!」
アカ:「サチ、気にするな。いぬっころ、腕はうまいか?」
二人のやり取りを聞きつつも、焦る内心が表に出ないように無理やり押さえつけながらパイルバンカーの次弾の準備をする。その間に、アンナが今まで使っていなかったもう片方の銃を使ってゾンビとソルジャーを、アカが日本刀でハウンドを切りつける。アンナの放った弾丸が跳ね回り、ソルジャーたちをずたずたにした。数の多いゾンビは半分ほど残っているようだが、ソルジャーたちは全員肉片へと姿を変えたようだ。
あと少しでパイルバンカーの装填が終わるのを感じ取ったのか無傷のゴライアスが私を握りつぶさんとばかりに手を伸ばしてきた…のはいいもののあまりに見当違いな方向に向かって手を伸ばし虚空をつかんでいる。
アルト:「動作確認を行ってから起動しなかったのでしょうか?」
まだ損害を受けていないゴライアスの終始間抜けな挙動につい口をついて言葉が出てしまった。感情のないはずの平気であるはずなのに心なしか悲しそうに見えてしまう。
ずっと眺めている暇もなく、バンカーの装填も終わったため、私はハウンドに向かって杭を射出する。追加ではらわたを犠牲にしてジェットノズルを起動した影響か、射出の直前に微妙に着弾点がずれていることが分かったため、空いている方の腕で無理やり軌道修正を行う。サチも外れると思ったのか引っ張るようにして支援をしてくれたおかげで無事ハウンドに着弾した。
アルト:「私の中身、なくなってしまいました」
サチ:「いなくならないでね……アルト」
アルト:「大丈夫ですよサチ。あなたを置いて私だけいなくなることはありませんから」
などと、自分でやっておいてわかり切ったことが口をついて出てしまったことでサチを心配させてしまったようだ。安心させるための言葉を吐き出すものの、少々自分の彼女を独占したいという欲望も混ざってしまった。そうこうしているとゾンビたちが得物を求めのろのろとこちらへ向かってこようとする。
アカ:「来たら斬るぜ?」
アカが日本刀をみせつけながら鋭い眼光で舌なめずりをすると、意思のないはずのゾンビたちも危険を感じたのか、上体を揺らすだけでそれ以上進むことをやめた。それを見た後に返す刀でゴライアスへと切りかかるが、振りむきと同時に斬りかかったためかゴライアスより少し手前で空を斬るだけにおわった。アンナや私もアカに続くように攻撃を重ねたのだが攻撃が外れるという結果となる。
追撃の終わりに隙を感じ取ったのかゴライアスが再度私をひねり潰そうと手をたたきつけようとしたのだが、散らばった肉片に足を取られたようで、そのままの勢いでボロボロのゴライアスに掌を叩きつける結末となった。
アルト:「なんというか…哀れですね…」
アカ:「兵器としては危ういな?」
私の独り言を拾いつつも、手に持った刀で万全な方のゴライアスを解体すべく斬りかかる。これまでのあまりに哀れな動きに
斬撃を阻まれたアカがバックステップで距離を取ると同時に、その隙間を縫うようにしてアンナの弾丸が通過する。数少なくなったゾンビたちを貫通後の跳弾まで利用して神がかりな弾道の射撃でさらに半分にしていく。
アカ:「ほれぼれする腕前だね。」
アンナ:「こんなもの扱えるとは思っても見ませんでしたが、何事もやってみるものですね」
サチ:「私も……!私だって……!……がんばらなくちゃ」
アンナに対する賞賛や、抵抗心を横目に、体の三分の二が吹き飛んだゴライアスに止めを刺すべく殴り掛かる。
アルト:「砕け散れ」
嫌がるように唸りを上げるバンカーを遠心力を使って無理やり起動させる。肩を代償にジェットをと合わせてさらに勢いをつけ、杭が突き刺さると同時にスパイクを起動し満遍なく残りの肉を引きちぎりバラバラにする。
アカ:「あの巨体がばらばらになるとは…。」
アルト:「あれをバラバラにするまでに私もボロボロなんですけどね」
アカ:「安心してみてられないねぇ。」
そんなやり取りをしている間にまたしてもゾンビたちが接近を試みてきたが、アカが舌なめずりをすることでお約束であるかのように止まる。
その横でサチが噛みつくことでゴライアスに損傷を与えようとしていた。腕を大きく損傷しているからかうまくバランスが取れていなかったため、下から押し上げる様にフォローをする。アンナもその白い肌を利用してゴライアスの注意を引いてくれた。
ゴライアスは噛みつかれたことを意にも介さず、アカに対して掌を掲げる。しかしサチがやらせるかと言わんばかりに足を使ってゴライアスを蹴って妨害したことで狙いがぎりぎりずれた。
アカ:「サチ!助かる!」
サチ:「まかせて!……私だってみんなの役に立つんだ!」
アカは横に振り下ろされた腕を這うようにして近づき刀で切りつける。サチも再度噛みつこうとするがゴライアスが身をよじったせいで弾き飛ばされ、ソルジャーの残した銃剣に腹部が突き刺さってしまった。
早く、早く、と焦る気持ちを抑えながら、気づけばいつの間にか寄ってきていたゾンビたちを後ろへと戻すべくパイルバンカーを撃つ。ほとんどいなくなったゾンビたちから視線を切りゴライアスの方を見ると、アカが長い腕と脚を切り落としにかかっていた。
アカ:「切りそろえてやる。」
そうやってアカが各部を切り落としている最中、サチが腹部に刺さった銃剣を気にも留めず噛みつくために駆け寄っていく。また転んでしまうかもしれないと思い、私もパイルバンカーを棒高跳びの要領で使いゴライアスへと接近する。ただ今までの噛みつきの経験からかバランスを崩さない動き方の感覚を掴んだのか、非常に安定して噛みつけそうだったので、サチを補助するよりもゴライアスの姿勢を無理やりにでも下げた方がいいと思い内蔵されたアームバイスを使いゴライアスを引きずり倒す。
アルト:「ほら、サチがかみきりやすい場所まで来てください。」
そういってゴライアスの一部を掴み、無理やり頭の位置を低くさせる。それを見たサチも、より深くかみ砕けるように自分の腕をゴライアスに回し抱える様な格好で何度も頭部へと
それらのやり取りを尻目にしながらも、アンナは自分は関係ないといわんばかりに着実に残りのゾンビを減らしていく。だがいつの間にか大回りで近づいていたハウンドがアンナへととびかかっていた。
サチ:「あなたはそこから動かないでね」
間一髪といったところでサチのばらまかれた肉片たちがハウンドの後ろ脚に絡みつき、その動きを妨害したことで、アンナが傷を負うことはなかった。それを目にしていたアカは速く壊れろと言わんばかりに無言でゴライアスに対して刀を振るう。サチも早くアンナを助けに行くべく噛みつきを刊行する。しかしそれよりも早くハウンドが拘束を解き、再度アンナへと噛みつこうとする。
サチ:「もう……動かないでっていったでしょ!」
どうやら肉片の具合から拘束が解けそうなことを分かっていたようで、ハウンドがとびかかるよりも前にゴライアスへの噛みつきをやめて無理やりアンナとハウンドの間へと割り込んだようだ。言葉だけで端的に表すなら犬とじゃれつく少女であるが、現実の絵面は翼膜のような皮膜が付いた少女の死体に頭部がトラばさみのようなものに置き換えられた犬が襲い掛かかり弾き飛ばされているのである。
そんな状態が再度再現されないように、さっさとほぼ死に体のゴライアスを吹き飛ばしてアンナのいるところまでいかなくてはと片手間に杭を打ち出す
アルト:「処理完了」
アカ:「二体分仕留めるとはね…。」
そういいつつ、アカは残りのゾンビに向かってけん制するように雑に刀を振り回す。ゴライアスの片割れは彼女が大半を削っているので私一人の成果ではないのだが、彼女は自身の戦闘能力をあまり評価していないように思える。それはあまり良い事とは思えないが、自身を過大評価するよりかは問題ないため今は気にしないことにした。
サチ:「これでだいぶ楽になった……!」
そんなこんなで残りはハウンドとゾンビだけとなったのだが、一息着けたせいかアカが私の状態を詳細に把握してしまったために、その瞳がどんどんと狂気に染まっていく。
アカ:「あぁぁ…。ART!傍にいるんだ!攻撃するたびに傷つきすぎだ!」
そんなことは自分でもわかっている。だが自壊してでも火力を上げないと伸びた時間の分だけ姉妹たちが危険にさらされるのだ。ならば妥当なコストだろう。
アルト:「アカ、そういわれましても移動しないことには対象を解体することができません」
アカ:「それでもだ!」
そう言い争いをしつつも、アカとサチは残りのゾンビを二人で処理し、アンナは仕込みブーツを使いハウンドを傷つけていく
アンナ:「とりゃ!銃だけじゃないんですよ!」
サチ:「あとはわんちゃんだけだよ!みんなのことは守るから思う存分戦って!」
アルト:「なるべく早急に片づけます」
アカ:「サチ、頼むぞ。アンナを守ってやってくれ!」
そうやって声をかけつつ移動の準備をする。どうやら狂気の対象は私だけの様なのでアカの命令を無視してアンナたちへと近づく
アルト:「リーダーのオーダーに疑問を感じました。よってオーダーを拒否、移動してアンナの援護に映ります」
パイルバンカーを杖代わりにしながら後ろへと移動する。しかし一足遅かったようで再度ハウンドがとびかかるもサチがカバー、そして逆にドロドロした体液を浴びハウンドを溶かし切ってしまった。
アカ:「そういう戦い方もあるのか。」
アルト:「おや、サチがやってくれるなら無理に動く必要もなかったですね」
サチ:「あれ……?勝手に壊れちゃった……」
ようやく私たちを襲ったアンデッドたちが全て蹴散らすことに成功し、これで本当の意味でのひとまずの休息を得ることができる。周りにはいまだアンデッドたちが機械のごとく工場の一部として働いているものの、彼らは私たちに害を与えることはなさそうだ。
アカ:「悪い…。取り乱してしまった。」
アルト:「問題ありません。誰が取り乱していてもおかしくはない状況でしたから」
そんなやり取りをしながら私たちはまだ使えるゴライアス達のバーツを使って壊れた部分を修復していった。
アルト:「…損傷個所の修復を確認。基本行動に問題はありません」
サチ:「……この身体ってこんな簡単に元通りになるんだね」
アンナ:「かばっていただきありがとうございました。おかげでなんとか生きてます(?)」
アカ:「あたしの敵意に反応して、左腕がああなるのか…。壊れた場所も修復されるのは、便利といっていいのか…?」
各々が戦闘後の修復に対して様々な反応をしながら自身の状態を確認していく。
アカ:「みんなも大丈夫そうだな?」
アルト:「問題ないです」
アンナ:「はい」
サチ: 「大丈夫だよ!(……まぁ、これで自分のことを気にせずみんなのことを守れると思えばこの身体も悪くないよね)」
そんなやり取りをしつつも、私の心の内にはこの場所を去りたいという気持ちがあった。他の姉妹たち同じなのか、チラチラと外へと続く廊下を窺う
アカ:「とりあえず、ここから出るか?今なら大丈夫そうだし。」
アルト:「そうですね、賛同します。私も二人ほど会いたい人物がいるはずですので」
サチ:「会いたい人?どこか行く当てがあるの?」
アルト:「多大な恩を持つ人と、その人に感謝を伝える前に私をこんな体にいじくりまわした人物。前者は心当たりはありませんが、後者は我々が自由に行動していればおのずと会える気がします」
どうせ今も何かしらの手段を用いて私たちの様子を観察しているでしょうし。
アカ:「とりあえずは記憶を頼りに自分探しってやつか。」
アンナ:「わたしも外に行きたいな…生きているうちに叶わなかった夢が、死んでから叶うなんて皮肉ですね」
アカ:「あたしは…死んだ時の記憶しかないけど…。あたしを殺したやつがまだいるならお返しはしてやろうかってとこだね。」
サチ:「私は……行きたい場所も思いつかないけど、みんなと一緒にいたいよ。みんながいない世界は嫌だ」
各々がそれそれの思いを口に出しながら外へと通じる扉へと、全員で近寄っていく。
アカ:「ま、みんなで動けばいいんじゃないか?こんな体だ、時間はありそうだ。」
サチ:「うん。じゃあ……扉を開けて進もう。アンナも、これが外の世界への第一歩だよ」
アンナ:「外の世界...きっとあのころとは違うだろうけれど...それでも外に行きたい」
そういってサチがアンナの手を引き、アンナは外の世界絵の第一歩を踏みださんとするように扉へと手をかける
サチ:「アカとアルトも!行こう!」
アルト:「了解。同行します」
アカ:「待ちなって。急いでも減るものでもないだろう?」
サチがパタパタと手を振りながら私たちを呼び、それにこたえる様に私たちもアンナの横へと立つ。アンナはそれを確認するとゆっくりと扉を開けていった。このがらんどうの檻を内側から開いて、姉妹と共に穏やかな旅路を進む。私はそんな未来を少しだけ想像してしまう。
──青い空。白い雲。草木が生き生きと並ぶ大地へ姉妹たちと旅立とう。そんな思いにこたえるように、開けた扉の先には風光明媚な光景が広がる──
なんてことはなく。私たちを出迎えたのは黄色い暗雲と赤さびに濁った空。湿り気を帯びた大地は命の息吹が枯れて久しく、蟲のささやきも聞こえてくることもない。そんなことはうすうすは気がついていたのだ。だって、自分はこんな体で動いているのだから。
アカ:「なるほどね…。期待とはかけ離れた世界だね。アンナ、大丈夫かい?」
アンナ:「予想は…何となくしてました。でもわたしにとっては紛れもなく『外』なんです」
サチ:「っ……うん!大丈夫!みんながいるから、大丈夫だよ!」
アルト:「薄々…薄々はそうなんじゃないかと思っていましたが…こんな…どうして…」
無意識では分かっていたはずだった、私の体をいじくりまわされる忌まわしき記憶があるのだから。だがどうしても、他の姉妹たちよりも多くの情景を感じさせるもう一つの記憶のせいで、殺しているはずの心がざわつき、かつてあった蒼い空の風景の記憶が視界に紛れ込む。もう二度と戻らないのだという絶望感が私を苛む。
アカ:「あんたら…。ショックが大きそうだね。とりあえず、落ち着ける場所でも探そうか。」
アカが励ましの言葉と共に、お守りを握りしめるサチと、絶望に立ち竦む私たちの肩を軽くたたいてくれる。
アルト:「失礼、取り乱しました。そうですねまずは気を落ち着けられる場所を探すことを目的に行動しましょう」
そうだ、今はまだ立ち竦むには早すぎる。私たちにはまだまだ思い出していない記憶があるのだ。すべてを知ってからでも立ち止まるのは遅くないだろう。ならば私も『私らしく』有らねばいけないと思う。
サチはまだ不安なのか、アカの隣にぴっとりと張り付くように居場所を確保していた。反対側もアンナが少し楽しそうにしながら寄り添っている。とりあえず私は3歩後ろを歩くとでもしようか。
そうして、私たちは全てが終わった後の世界を、あてもなく放浪することとなる。隣を歩く姉妹と談笑をして、いつか訪れるであろうおしまいの時間まで…。
永い日の後日談のネクロニカ ~死人工場~ fin