ソードアート・フロンティア~クソゲーマー、神クソゲーに挑まんとす~ 作:melk
ということで次の話は一分後に投稿。
二十層、人気のない橋の下の暗がり。
誰も通らず、誰にも見つからず、光にすら忘れられたような世界の隅っこ。
そこに居場所を見出した少女がいた。
気づいてしまった、いや目を背けられなくなってしまった、死の恐怖から。この世界のどこにいても纏わりつく死から逃げる術がなく、それでも逃げようとして辿り着いたのが何も見えず、川の流れる音しか聞こえないこの場所だった。
何も見えないこの場所こそが唯一、この世界の全てを忘れさせてくれる気がした。
せめていなくなるのなら、恐怖も何も感じられないまま、眠るように消えたい。そんな夢は叶わないと知りながらも、一人逃げ続ける少女がいた。
二時間前
◇
「よし、今日はここまでな」
「お、終わったー・・・。もうヘトヘト」
「はあ、はあ、レベル上がったぞー!」
「ラストアタック大体取ってるからな」
「この3日間で結構レベル上がったよな。もしかして、キリト組の奴らに結構差つけたんじゃね?」
「
訓練が始まって3日、未だに説教はするが多少はマシになって来ていた。
まあわかるよ?ゲーム初心者ならではの“命を大事にしすぎてかえって危険に陥る”パターン。FPSとかでよくあるよな、自分から攻めず撤退的に敵を待ち構えてたら一気に攻められて戦線崩壊するやつ。
それで言うなら、この二人はようやく攻撃は最大の防御だということがわかってきたってくらいだな。逆によくこの連携練度でこの層まで来れたよ、ホント。レベルはこの層の安全マージンより少し高いくらいだったのと、パーティーの人数でごり押してたんだろうな。
シャンフロがレベル差をプレイヤースキルで補えるゲームだとするなら、SAOはレベルが高いことは前提でプレイヤースキルが加算されるっていう感じらしい。レベル制MMOでは定番だな。
「ほれ、ポーションやるから、それ飲んで帰れ」
「あ、ありがとうございます」
「サチ、先帰ってるぞー」
「うん。あのー、サンラクさん?」
「どした?」
「サンラクさんはモンスターと戦うとき怖くないんですか?」
「怖くない・・・こともねえな。でもまあ死なないように気を付けちゃいるけど、後は楽しんでる部分が大きいな」
「そう・・・ですか」
突然の疑問に思わず素で返したが、サチは納得いってなさそうな表情をしている。
もしかして、選択肢ミスったか?こう聞いてくるあたりサチは怖いんだろう。それは戦闘を見ててもよくわかる。もうちょっと同調して話を聞くべきだったか?だがもう遅い。答えは出してしまったのだ。
帰っていくサチの背中を見ながら考える。とはいえギャルゲーじゃあるまいし、明日にでもフォローしておけば大丈夫か。思いつめすぎてなきゃいいが・・・。
そしてその1時間後、キリトからのメッセージでサチが行方不明になったことを知った。
「一層の黒鉄宮から生存してることは確定、一人でわざわざ外には出ないだろうから、おそらくは二十層市街区内にいる。探してなくて見つけづらい場所・・・ええい、どこだ!!」
クソ、放置しちゃいけないフラグを放置した結果がこれだよ!やっちまった!
普段なら何とかなるだろと悠長に構えてられるが、今回の件に関しては俺のミスだ。ああ、そうだ。俺は今後悔で走ってる。今ならちょっとした後悔で済むが、取り返しのつかないことになる可能性もある。フィールドに出ればモンスター、町中でも睡眠PKとかやりようにっては十分危険がある。
考えを止めるな、足も止めるな。これは現実の体じゃないなら、脳に酸素が行き渡らなくて頭が回らないなんてこともないはずだろ!HPとスタミナさえ万全ならいくらでも走れるのがVRだ!
・・・HP?そういえばサチにもポーションを渡してたよな?SAOの仕様上、自分に所有権があったアイテムは、略奪、譲渡されても半日くらいは場所がわかるようになっている。おそらくは、不当な略奪等を制限する目的だろうが、使用されたり、破壊されたり、売却されたりすれば痕跡が消えることから割と簡単に対策できる。
マップを開いてポーションの位置を探る。使われてたらおしまいだが、低い可能性にかける。
一つは、町の中心部付近で動き回っており、もう一つは町の隅の方で固まって動かない。二人とも使ってなかったらしい。恐らくは、中心部のがダッカーだろう。あの位置は何度も俺たちが行き来してるし、動き回ってるところからも捜索中なのだろう。
となると、隅の方がサチか。だが、念のためダッカーに位置を確認するメッセージを送り、返事が返ってくるのも待たず、もう一つの反応の示す場所へと向かう。
街灯も徐々に少なくなり、人の気配の薄い町の外れに入っていく。マップじゃ大まかにここら辺というところまでしかわからない。流れる川の音が聞こえるが、ちょうどこの2~3歩分くらいしか幅のない川を渡ればモンスターこそもうしばらく行かないと出てこないが、圏外、つまりフィールドと同じ扱いになる。
如何せん周りがよく見えない。暗視スコープでも買ってくるんだったか。
「サチ、どこだ!」
返事がない。ある程度遠いと川の流れる音でかき消されてるかもしれない。もう少し進んでみるか。
注意深く辺りを見回しながら足を数歩進めたところで、川の流れに紛れて薄っすらと声が聞こえた気がした。サチの声・・・にしては低かったような気もする。
「やめて!」
「!?」
今度ははっきりとサチの声が聞こえた。並々ならぬ状況のようだ。
町中だが、念のため武器を両手に出現させておく。人物こそまだ朧げにしか見えないが、緑カーソルが一つ、オレンジカーソルが二つ浮かんでいるのが見える。マズイ、
「うるせー!黙って金とアイテム置いてきやがれ!」
短剣らしきものが戦闘用の装備すらしていないサチに襲い掛かる。オレンジプレイヤーにとっての1アクションは、当然俺が数十メートル走るよりも早く終わるだろう。
全力疾走の甲斐もなく、男の短剣はサチの体に真っ赤なダメージ痕を残した。