ソードアート・フロンティア~クソゲーマー、神クソゲーに挑まんとす~   作:melk

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☆本日一挙二話投稿。
 前話の「第二十層 逃げ場はない」を読んでいない人はそこから読んでください。


第二十層 思いと想い

「サチ!?」

 

サチの体に刻まれた赤いダメージ痕は、間違いなく刃が通ったことを意味する。オレンジプレイヤーの目的は、脅して金やアイテムを奪うこと。通常のゲームであれば、PKは嫌われこそすれ楽しみ方の一つとして許容されるものではあるが、ことSAOにおいては命に関わるため、最大の禁忌である。

脅されたことで消えないトラウマとなり、家から出られなくなる者もいる。さらに言えば、オレンジプレイヤーは総じて理性のタガが外れやすい傾向にあるため、ふとした拍子に相手のHPを全損まで追い込み、レッドプレイヤーになることも多い。

しかし、この男二人にはサチを殺せない。それに真っ先に気づいたのは、本人たちではなく、サンラクだった。

 

オレンジ野郎のダガーは間違いなくサチにヒットした。だが、サチのHPはどうかというと1割も減っていない。さらには、サチも習得しているパッシブスキル”バトルヒーリング”によって、わずかに削れたHPすらも回復していっている。

2発、3発と斬られた跡が増えるも、回復量とほぼ釣り合っているようでHPはほとんど減らない。さらにいえば、普通攻撃されると後ろに吹っ飛んだり、倒れたりするがサチは変わらず目を瞑り、顔を手で覆ったまま立ち尽くしている。

4発目のソードスキルには俺が間に合い、ダガーを持つ手元に蹴りを入れて弾き飛ばす。

 

「サチ、よくHP見てみろ」

「・・・!?サン、ラクさん?」

「おう、助けに来た・・・けどその必要はなかったかもな」

「どういう・・・?あれ、HPが減ってない」

「ちなみに俺は何もしてないからな?」

「じゃあどうして?」

 

サチはまだ思考が追い付いてなさそうだな。急いで逃がす・・・必要もなさそうだ。

まあ話は後だ。まずは不届きな輩を黒鉄宮に送るところからやりますか。

 

「サンラク・・・あの『クレイジーマスク』か!」

「そのあだ名付けたやつはシメル」

 

こういうゲーム内での二つ名的なのって、もうちょいカッコいいものじゃないの?

何だよクレイジーって。ちょっと紙装甲でタンクしたり、二人でボス突破したりしただけなのに。うん、デスゲームでそれやるのは普通に狂ってるわ。

 

「おい、こいつはヤバいぞ。逃げよう!」

「馬鹿、逆に言えばいいアイテムたんまり持ってるってことじゃねえか!」

「お前たちアホだろ。レベル上げて出直してこい。逃がさねえけどな」

 

まあ、格上からアイテム分捕りたいって気持ちはわかるよ?でもさぁ、そもそも自分よりいい装備持っててレベルも上の奴に、強い装備がないから人のを盗ろうとしてる奴が勝てるのかって話だ。しかもサチにダメージすらほぼ与えられなかった奴が、さらに高レベルの攻略組に勝てる訳ないだろう。

格ゲーなら、プロ相手に初心者のいい一撃がヒットして追い詰めるくらいは、非常に低確率だが不可能ではない。だが、レベル制MMOにおいては、レベル差やステータスに差がありすぎればほとんどダメージは通らない。

俺は構えた剣をストレージにしまい、代わりに対オレンジ・レッドプレイヤー捕縛用の縄を出現させる。

 

「ちなみに一つだけ朗報だ。俺はサチよりもレベルは高いが、紙装甲だ。お前ら程度の攻撃でも結構いいダメージ入るぞ?」

「舐めやがって!」

 

PvPでは強みを大きく見せ、弱みは隠すのが当然だが、ハッキリ言ってこの程度の奴らに負ける理由がない。むしろ少しは楽しめるようにわざと弱みを曝す。俺のレベルは40、こいつらのレベルは28になったサチに手も足も出ないあたり、20前半くらいだろう。俺の耐久がいくら低いとはいえ、レベル差がありすぎてクリティカルでも一撃では死なないだろう。ヌルゲーだな。

 

短剣ソードスキル“ラピッドバイト”の出鼻を体術スキル“弦月”で弾き、大時化で地面に投げつける。これだけで相手のHPが5割くらい削れた。アブねー、やっぱり装備外して正解だったな。犯罪者とはいえ俺が殺す側に回るのは嫌だからな。

もう一人は、倒れた奴の陰から跳び上がり、上空から仕掛けてくる。

 

「上空からの天誅対策は幕末じゃ当然なんだよ!」

 

一人で跳び上がったところで空中にいる間は隙でしかない。拾った石ころを投擲スキルで顔面にぶち込み、墜落際を捕獲縄で縛りあげる。一丁上がり。

 

「やるならもう一人は奇襲役が必要だったな」

 

倒れてるもう一人にも縄をかけて、ミッションコンプリート。後は転移結晶で一層の黒鉄宮に送れば後は自動で牢屋にぶち込んどいてくれるっと。

男の指を勝手に操作し、インベントリの中を漁り、転移結晶を出現させる。これ買う金あるんなら装備に当てろよとも思うが、俺が自前の転移結晶を使うのは俺にとって損でしかないため、ありがたく使わせてもらおう。

 

「転移、黒鉄宮」

 

恨めしそうな顔をしている奴らを特に躊躇わず転移させる。自業自得だ。

 

「さて、大丈夫か?」

「は、はい」

「それなら良し。まあ予想はつくが、一応聞いとく。どうしていなくなったんだ?」

「それは・・・」

 

しばらくの沈黙が続く。今思えばあれだな、真面目な話の時に牛面つけてるのも空気感台無しだな。顔バレ対策ったってサチしかいないし大丈夫だろう。頭装備解除っと。人前で素顔を曝すのは久しぶりだ。サチの方は深刻そうにしてるから気づいてなさそうだけどまあいいや。

 

言いづらそうに、しかし聞いてほしそうに、ぽつりぽつりと話始める。死にたくない。こんなゲームだなんて聞いてない。モンスターが怖い、PKが怖い。でもギルドのメンバーを失望させたくない。自分が頑張らないとみんなが危険になる。でも、怖くて上手く戦えない。・・・大方こんな話だ。

泣きながら話すサチを見て、数々の経験からどう宥めるかを考える。けど、よくよく考えたら結論はもう出てるんだよなぁ。少し本人にとっては精神的に負担のかかる方法かもしれないが、『死にたくない』という本人の望みが叶う一番確率の高い方法が。

 

「さっきのオレンジ野郎共に襲われた時、何で全然HPが減らなかったかわかるか?」

「え?あ、相手が弱かったから?」

「まあそれもあるけど、もっと具体的に言うとだな。相手に対してお前のレベルとステータスがかなり高かったからだ。お前はVIT‐AGI型だろ?多分、死にたくないから耐久と逃げ足をメインで上げてったってとこだろう」

 

ステータス配分に関しては人に言わない方がいいってキリトに聞いてたから、言ったことはないのに。やっぱり強い人にはわかっちゃうんだ。それよりも私の後ろ向きな考えまで言い当てられたのが少し恥ずかしい。

 

「そ、そこまで言ったことないのによくわかったね!?」

「ここまで後ろ向きな性格の奴もそうはいないからな。見てりゃわかるっての」

 

恥ずかしさで若干声が上ずりながら、しかも思わずため口でツッコむ。でもサンラクさんは全然気にしてる様子はない。今更気にするのも何だかなぁと思うから、気にしない方向で行こう。

自分で後ろ向きな性格だと思うよりも、人に言われる方がグサッと来る。サンラクさんは結構ストレートに言うタイプらしい。というか、今気づいたけどいつもの牛の顔してない。始めてみたサンラクさんの顔は若干ニヤリとしていて、やっぱりからかってたんだなと感じた。

 

「死にたくないで上げたVITがあったから無事だったんだろうしな」

「言われてみればそうかも」

 

ここまで話してて、サンラクさんがどうしてこの話をし出したのかがイマイチよくわからない。

 

「さて、ってことはだ。『死にたくない』と『仲間を危険に晒したくない』を最大限同時に叶える方法があるじゃねえか」

「え!?」

「強くなることだ。もっと具体的に言えばレベルを上げて、VITを上げて、いい装備を手に入れる。ついでに腕も磨けば仲間も守れる。さっきみたいな犯罪者やPKも少しずつ増えてきてる。多分これから先もっと増える。そうなれば町中だって絶対に安全とまでは言えなくなる。しかも、時間が経つほどPKerのレベルも上がってく」

「でもフィールドに行ったらモンスターが・・・」

「強いモンスターじゃなくたっていいだろ。攻撃されてもほとんどHPが減らないレベルのモンスターを狩る。時間はかかるがレベルは上がる」

 

確かに、モンスターは怖い。でも初めて遭遇したPKはもっと怖いと感じた。モンスターは安全な相手を選んで戦えるけど、PKはむしろ安全じゃない人が襲ってくる。そう考えるとたまらなく怖い。

そういえば、サンラクさんはPK相手でも怖くなさそうだった。それどころかちょっと楽しそうに笑ってた口元も見えた。それももしかしてレベルのせい?

 

「レベルが上がれば、怖くなくなる?」

「さあな。けど、よく言うだろ?『楽しむには強さがいる』って。今はできなくて苦しい時でも、できるようになってふと振り返ったら、目標にしてた自分を超えた自分がここにいる。そうなったときは・・・きっと怖いなんて考える暇もないくらい楽しいぜ?」

 

ハンマーで頭を殴られたような衝撃だった。今までの私は死にたくないと怖いの二つの感情しかほとんどなかったし、その二つが行動の理由だった。でももし強くなって、そんなこと考える暇もないくらい楽しくなったら・・・

 

「もう、怖いのは嫌。私だって純粋にゲームを楽しみたいよ」

 

心の底から出た言葉だった。SAOを始めたきっかけは同じ部活のみんなに誘われて、一緒に楽しみたかったからだった。それに、気弱な私でも武器を持って颯爽と強そうなモンスターを倒せたら楽しいだろうななんて思いもあった。

そうだ、死ぬ確率がほとんどなくなるまで強くなって、怯えずに済むようになれば純粋にゲームとして楽しめる。

少しだけ、勇気が湧いてきた気がした。そんな気持ちの変化にタイミングを合わせるように、地平線の向こうから眩しい光が差し込んできた。ゲームの中でも朝が来た。

 

でも、それで言えば、何でサンラクさんは怖くないんだろう?私よりずっと防御力が低いのに、ずっと強い敵に一人で立ち向かっていくらしいし。自分が死ぬのはもちろん怖いけど、それと同時に知ってる人が死ぬのもすごく怖い。

 

「サンラクさんは・・・死なない?」

「俺?バグもない、理不尽もほぼないゲームで死ぬかよ。クソゲーマーなめんなよ?」

 

言ってることは格好いいわけじゃないのに、その笑顔はちょっと反則だよ。

正直少しドキッとした。

 




一般プレイヤー→緑カーソル
犯罪を犯す→オレンジカーソル
殺人をする→レッドプレイヤー

SAO内でのサンラクの二つ名は「クレイジーマスク」に決定。やってることのヤバさが、いつも何かしら癖のある頭装備を付けていることにより、見たものに「狂ってる・・・」という印象を植え付けるため。シャンフロのように上裸だったらロールプレイの域とは認められず、間違いなく「変態」というワードが入ってた。やっぱり服は偉大だね!

次回投稿日は1/22(日)12時予定。ただし、まだ一文字も書いてないため、間に合わなくても許して・・・
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