ソードアート・フロンティア~クソゲーマー、神クソゲーに挑まんとす~ 作:melk
◇
「迷宮で会うプレイヤーの数からして予想はついてたけど、やっぱ仕方ないよな」
デスゲームとなったこの状況を受け入れるのに、さすがの俺でも小一時間はかかった。おっかなびっくりやってちゃレベルも上がらないが、そういう人が多いのは仕方ない。
デスゲームということを除けば、動きまくってもバグらず、割とシャンフロにも負けてないレベルのこのゲームはかなり面白い。神クソゲーという表現がよく合う。ぶっちゃけ俺は結構楽しんでる。案外そういう人は少ないのかもしれないな。
「他のプレイヤーのレベルが上がるまで待つしかないナ。ついでに一ついい情報をやル。見せてもらったマップデータだと、迷宮の西側の探索がまだ進んでないだロ?そっちの方がレベルが高いが、宝箱が多いから金になるゾ」
「タダで情報を寄越すなんておかしい。何を企んでる?」
「おいおい、純粋なオネーサンからの善意だヨ。この天使のような顔が見えないカ?」
「確信に変わった」
「オイ、人のとびきりの笑顔を見て失礼ナ!」
「どんな取引も相手が条件を言う前に逃げ切れば実質タダになる。これ豆知識な」
「思考が犯罪者のそれだナ」
「ハハハ、悔しかったら追い付いてみろ!できるもんならなァ!」
振り分けたAGIはこのためにあると言っても過言ではない。いや、さすがに過言だったわ。あの守銭奴がタダで情報を寄越すはずがない。先に言うことで「聞いたよなぁ、返品不可だぜ」という寸法だろう。ペンシルゴン並みに恐ろしいやつだ。
◆
コボルドの胸を突く。尻もちをついたところを逃さず、しならせた細い剣の切っ先で喉を突く。恨めしそうな表情に見えたが、それもすぐにポリゴンとなって消え失せる。それだけ見ればゲームなのに、上がる息と全身を襲う疲労がこれは現実だと訴えかけてくる。こういうところが嫌いだ。
こんな世界に閉じ込められた自分を、家族はどう思うだろう。こんな世界、自分ごと消えてなくなればいい。敵を倒しても何の感慨もわかない。ただ生きて、やり場のない怒りを都合のいいモンスターにぶつけてるだけだ。
重くなってきた瞼、ふらつく足元がこれ以上動けないことを表している。
「もういいや、どうにでもなっちゃえ」
迷宮区の通路、安全とはとても言えない場所で少女は横たわった。
「おおおお、死ぬゥウウ!」
「GRRRRRUUU」
「・・・うるさい!!」
「お前も逃げろ!!!」
「・・・え?」
思わず叫んじゃったけど、誰?
後ろにいるのはコボルドの群れと一回り大きいのはリーダーかもしれない。もしかして追いかけられてる?
「ああクソ、逃げるのは間に合わないか!でかいのの攻撃だけは受けるな!避けながら雑魚を倒す!」
「え、あ、はい」
モンスターを引き連れてきた同い年くらいの男の人が攻撃を避けながら左手でウインドウを操作してる。そういえば武器持ってないのは何でだろう?
言われた通り、大きいコボルドのとげ付き棍棒をヒラリと躱して細剣のソードスキル“リニアー”で小さいコボルドの喉を突く。細剣は鍔迫り合いには向かないから、他のコボルドが近づいてくる前に距離を取ってまた“リニアー”。
相手の数が多い時の戦闘はあんまり経験がないからかすごく集中力を削られる。だから一番注意しなきゃいけない敵への警戒が薄れていた。
「あ」
左側から、床がゴリゴリと削られる音がして見た時には、棍棒が振るわれているところだった。死を意識した瞬間、足が動かなくなった。逃げなきゃいけないのに逃げられない!
「武器の恨みがまた一つ増えちまうなあ!!」
棍棒と私の間に彼が割り込む。剣で棍棒の斜めに受けるようにし、そのまますくい上げるように受け流す。たった一撃で彼の片手剣が砕け散った。ああ、武器を持ってなかったのはこういうことだったんだ。壊れたはずなのに、気が付いたらもう剣を持っているいつの間に取り出したんだろう。
「首か顔狙え!その武器なら行けるだろ!」
恐怖と安堵でぼんやりしていたのに、急に意識が覚醒する。気づけば体は動いていた。鎧と兜の隙間、言われた通り、細剣なら通る!
「“ストリーク”!」
流星と見紛う輝きが正確無比に首を刺し貫いた。
◇
「あー、すまんかった。決してMPKをするつもりじゃなかったんだ。ただ安全地帯まで必死で逃げようとしてたらたまたま目の前を通りかかってしまったというだけで・・・」
「MPKって何?」
「モンスタープレイヤーキル、つまり悪意があってモンスターを連れてきたわけじゃないってことだ。というか何であんなところで寝てたんだ?モンスター普通に出るから、もう少し先の安全地帯まで行った方がいいぞ?」
「それは・・・」
迂闊なことをしたとは思う。悪いのはここで寝ていた私だから、この人のことを恨んだりはしていない。
「まあいいや。アニールブレードともう一本壊されちまったからまた作らないといけねえじゃねえか。あ、アンタレベルも結構高そうだし、細剣の腕もいいからこんなところで死ぬなよ。もうすぐ一層のボス戦もあるからな。じゃ、またボス戦でな」
ボスの部屋ってまだ見つかってないんじゃ・・・。
それよりも、この人は何か私と違う気がする。同じようにゲームに閉じ込められて帰れないのに、絶望感が感じられない。武器が壊れたことによる悲壮感は感じるけど、どこか私や他の人のような何かを諦めた目をしていない。
「待って。君はこのゲームに絶望してないの?」
「してる暇がねえな。100層で茅場をぶん殴るっていう目標がある。怒りや憎しみっていう燃料もずっとぶち込まれてるからモチベーションも常に最大。それに、こんな神クソゲー、クソゲーマーとしては遊びつくさずにはいられねえ。アンタは違うのか?」
私の中のモチベーションも目覚めた。
茅場は私が殴る。
アルゴは外道組枠(外道ではない。守銭奴です)
敵の設定などはオリジナルなものが多いのでご容赦を。
コボルド(大)の持っている棍棒は、「接触したら相手の武器の耐久値を無視して破壊する」という効果があります。サンラクは武器が破壊されたのと同時にコボルド(小)も湧いてきたため、仕方なく退却しています。
一層にいていい性能じゃねえ・・・