VS Instrumentality of Mankind 作:WarBoss
この世の中の平穏な日々には裏がある。
当たり前の日常とはかけ離れた俗にいう非合法な世界。
そこでは様々な組織や個人が動き続け、これもまた様々な事が起こり続け、悲劇が美談にすり替えられたり、知らずのうちに無かったことにされたりもする。
だがこの世の中にはさらに裏がある。
裏の裏は表であり、
システムは世界を監視している。
それは表側であれ裏側であろうと関係ない。
「……目標を確認」
日も暮れて暗くなった人気のない夜道には少々目立つベージュの制服を着た女子高生が一人、目前の男を付けながら歩いている。
彼女は男から一定の距離を取りつつ、尾行を続ける。
しばらくすると男がとある一般人は立入禁止とされている区画の中へと入っていった。
彼女はその区画にある──旧電波塔を見上げながら呟く。
男を追いながら、その手に持つのはこの国、日本には似つかわしくない拳銃。
この国の治安は良いと言われている。
しかしそれはあくまで表面上の話であって、犯罪が全く無いという訳ではないのだ。
そして今彼女が追っている男は、ここ最近この地域で起きている連続失踪事件の容疑者として警察に追われている身である。
警察は未だにこの容疑者の足取りを把握出来ていないようだが……そもそも本来は事件自体が阻止されていなければならなかった。
それが彼女の所属する治安維持組織、DirectAttack──通称『DA』の存在意義であるのだから。
そのDAのエージェント──『リコリス』である彼女はその指示の下に、その犯罪の終止符を打つべく拳銃を構えながら区画へ入ろうとした。
だがそれは突然背後からの声によって呼び止められる。
「こらそこのキミ、一体そこで何をしているんだ
ここらは近頃失踪事件とかがあって物騒だか──おいっ、その手に持っているのは!?」
「……っ」
声を掛けた来たのは警官だった。
恐らく連続失踪事件のこともあり見回りをしていたのであろうが、問題は彼女の手に握られている拳銃を目撃されてしまった事だろう。
突然のことに、条件反射のように彼女は警官に向けてしまっていた。
その夜、暗闇が一瞬だけフラッシュし微かな閃光が周囲を照らした。
◇ ◇ ◇
都内にて『喫茶リコリコ』の看板を掲げる扉には閉店を示す看板が掛けられており、それを目の前に頭を軽く掻くような仕草をしながら困ったように立ち尽くしていた。
「まいったな……もしかしてと思ったが、やっぱまだ帰ってきてないか」
店前に立っていた男こと阿部はそう呟きながら、今一度店内を覗いてみるもやはり人の気配はなく照明すら消えている。
どうしたものかと思案しながら腕を組みつつ考えるも答えが出るわけもなく、仕方なしに踵を返してその場から去ろうとした時だった。
「あんた何やってんだ?」
振り向いた先には二人の少女、一方は短髪で赤い制服を着ており低めの背丈からの鋭い目付きでこちらを見上げており、片や刈り上げた髪型が特徴的な方は黒い制服を着ている。
そんな女子高生二人組が立っていた。
阿部はその女子高生の名をリコリコの店長であるミカが口にしていたのを思い出した。
「フキ君……とサクラ君だったかな」
リコリコの店員である千束と同じ赤い制服、そして延空木にて撮影された画像に写り込んでいた彼女……恐らくフキであろう姿をふと思い出したがすぐに頭から振り払う。
深入りした所で阿部自身には手が付けられない規模の話なのはなんとなく察している。
今更に彼女を問い詰めたところで何になるのだろうか、おそらくリコリコの面々とは知ったる中なのだろうし、その皆の顔を態々曇らせることもないだろうと……
「少し千束ちゃんを頼れないかと思ってきたんだが、どうやらまだ帰ってきてないようだね
そういう君達はどうしたんだい?」
「チッ 千束の馬鹿はまだ先生共々連れてハワイで浮かれてバカンス中、こっちは先生に届け物を店の方に置いておいてくれって頼まれただけだ」
「先輩、遠くに行って会えないからって日に日に機嫌悪いっすもんね!」
「ウッセぇ!」
サクラの胸倉を掴んで凄むフキ、だが表情を見ると若干ではあるが顔が赤い。
店長も意外と隅に置けんなぁ……なんて思いながらも阿部は踵を返してその場を立ち去ろうとする。
「おい、帰んのかよ」
「肝心の千束ちゃんがいないからには帰るしかないからね
君達も今は女の子だけで不用意に人気がない所にあまりいないほうがいい、近頃の連続失踪事件もある」
「……そういえば刑事だったなアンタ」
「私達もそいつ──……イだだだァ!?」
「はは……その犯人の足取りすら掴めてない奴が偉そうに自分から
そう言いながら立ち去っていく阿部の後ろ姿を見送りながらサクラにアームロックをかけているフキだったが、その歯痒さもなんとなくわかる部分もあった。
実はこの一連の事件を追っているのはDA所属のリコリスであるフキ達も同じであり、更に近頃になってこの連続失踪事件をDAは執拗にその情報を探り当てようとしている。
それには治安維持の為以外にも、もう一つ重要な理由があった。
犯人を追跡中であったリコリスの一人が行方知れずとなったのだ。
死体どころか争った形跡すら見当たらず、こちらも足取りを掴めていない。
DAがこの事件の捜索に力を入れ始めたのにはこのリコリスの失踪が起因していると言っても過言ではないのだろう。
そのリコリスはDAにおいてサードと呼ばれ命の価値が軽い使い捨て同然の扱いだが、それ故にその死体すら見つからない事にDAの上層部は危機感を抱いているのかもしれない。
死人に口なし、死体は何も語らない。
しかし生きているのであれば拷問による情報の漏洩、場合によっては裏切りの可能性すらあるとみているのだろう。
だからリコリスの中でのファーストとセカンドであるフキとサクラがこの事件に駆り出されているのだ。
フキからすればその杞憂こそ馬鹿馬鹿しいと思っているが……拷問によるものはともかく裏切りをするほど彼女達リコリスの意思と誇りは弱くないはず。
リコリコの面々を思い出すとそうでもないのかもと少し自信が揺らぐのもたしかだが……
とにかく依然とその手掛かりは見つからない。
そもそもリコリスは荒事が専門で、刑事や探偵の真似事は向いていないのだ。
今日のようにリコリコの面々が戻ってきていないか時たま伺うのも、そういう分野に少し期待していた部分もある──フキがミカに会いたいという私情もあるのだろうが……
「ま、ラジアータですら追えてない奴を警察が終える訳ないっすもんね」
「だから不用意にそういうことを口に出すんじゃねぇ」
だがたしかにDAの誇るAI『ラジアータ』の監視をクラッキングすら起こさずすり抜けていることにフキは何か得体の知れない危機感を覚えざる得ないのであった。
都内の裏側で起きていた銃取引事件とそれを含む様々な顛末からしばらくしてのこと
ハワイの眩しい日差しの中、常夏の島の浜辺の傍でとある一台のフードトラックが停まっているのを見かけるようになる。
その荷台にはドリンクや軽食を売る店となっており、その中でも人気のメニューは店長オススメの和菓子と珈琲。
ここは『喫茶リコリコ』ハワイ支店──
千束と愉快な仲間達もとい、リコリコの面々はハワイを満喫しつつもフードトラックで気ままに旅気分を味わっているところだった。
「千束ー 見てみろ篠原沙保里がまた変なの写してるぞ」
フードトラックの傍の木陰でクルミは休息という名のサボりをしつつタブレット端末のタッチパネルを触りながら一言呟き、それに千束が反応した。
「えー なになに! もしかしてついに宇宙人撮っちゃった?」
「本当になんか憑いてるか呪われてるんじゃないか? もしくはそういう才能があるとか」
千束は電子端末の画面を覗き見ると男女睦まじいカップルがお互い寄り添って映っていた。
そのタッチパネル画面を触って写真画像を拡大しつつ上画面端にフォーカスしていく
「うわ…… マジで映ってるし」
「残念ながら宇宙人じゃないみたいだがな」
「おいおいおい、ついには心霊写真なのかぁ? ……沙保里さん大丈夫かなぁ、憑かれてない?」
拡大されて一緒に映っていたのは髪が伸びきりボロボロの衣服を着ているように見える男? と思われる画像だった。
「というか千束みたいに病院から逃げ出してきたみたいに見えるぞ」
「あははは ……いやぁほんとそれは前にゴメンって言ったじゃん」
あの時、裏の世界とはまったく関係のない一般人が撮ったものは、あの銃取引事件の発端となる現場を写した。
その事件後には病室から逃避行した千束自身をも偶然にも撮影し見つけ出してしまった。
これは偶然なのかそれとも何かしらの超能力なのかとも疑いたくもなる話だ。
そして次に映ったこれは一体何なのか?
どうしても二人は興味と疑問が尽きないまま頭を捻る。
だがそこであれこれ思案する前にフードトラックのカウンター奥から、たきなが顔を出して千束を呼んだ。
「千束、どうやら依頼のようですよ」
そこには、たきなと向かい合ったカウンター越しにここらでは珍しくない日に焼けたような橙色じみた肌をした少年が立っており、千束をじっと見ていた。
これだけで何とのクロスオーバーかと分かった人はいるのかな?