VS Instrumentality of Mankind 作:WarBoss
「世良君って言ったっけ~?」
「ああ」
ハワイを満喫していた千束達の前に依頼をしたいと現れた少年は『世良』と名乗った。
ややオレンジがかったような日に焼けた肌で少しやせ気味ではあったが、それを除けば千早やたきなとほぼ同年代のように見える彼は短く返事をした。
DA支部としての任務をしつつ、どこからかの伝手からの頼まれ事や人助けは日本の外であるここでもまだ続けている。
ついこの前も悪乗りしていた地元ギャングを千束とたきなで非殺傷という名のボッコボコのフルボッコにしたところである。
千束は世良をジト目で睨みつつ口をとがらせながら何かしら気に食わないような顔をしていた。
そんな様子を横目で見つつも、千束にしては珍しい態度だとたきなは思った。
「私達と同年代で世良君みたいな男子がわざわざここでDA絡みの依頼してくるなんてさぁ……明らかに怪しいんですけどぉ」
「まさかリリベルっ!?」
たきなは千束の言うその心当たりが頭によぎった瞬間には銃を抜いて世良に向けていた。
「たーきーなー? 落ち着いて」
敵意剥き出しのたきな諫めるも、目の前の世良に対しては警戒を解かない千束。
だが当の本人は特に動じた様子もなく、ただ困り顔で苦笑していた。
「そのリリベルがわざわざ一人でこの場に来ると思うかい?
しかもリコリス最高峰である相手の目の前へ」
「まぁそうなんだけどさぁ、あり得ない話じゃないよね」
「リコリスとリリベルの確執とか関係はあまり知らないけど、リリベルとは関係ないとは断言させてもらう」
「じゃあ君はいったい何?」
世良は両腕を組みながら指をトントンとリズムよく叩きながらしばらく間をおいて答える。
「吉松シンジの消息を追っている」
その一言に千束だけでなく今までその場で黙って聞いていたミカも目を見開く。
「全員とも平常心が乱れすぎでしょ、千束さんだけはマシって言いたいけど、ある意味表情がわかりやすすぎるよ」
「……アラン機関か」
「
吉松の最後をこの中で恐らく唯一知っているであろうミカの言動に気が付く世良は腕を叩く指のリズムを早めながら言う。
「過去に吉松が錦木千束に人工心臓を提供したことまではわかっている……
だが最近では奴から報告や情報がまったくない」
「ならどうする? 私から心臓を取り出す?」
「ッ!?」
千束の言葉に再びたきなは世良に銃を突きつけるが、世良はやはり動じるわけでもなく指で腕を叩き続けている。
「そういうことじゃない、あくまで俺の任務は吉松がどうなったかを調べるだけ
吉松はわざとアラン機関への情報をいくつか伏せていた節があったからな、つまりは自分から雲隠れしたんじゃないかって疑われていたんだが……
あんた達の
世良は結局依頼とやらも話さず、ただ自分が知りたいことを口にして去っていた。
しかし彼の言葉通りならば、吉松はすでに死んでいる可能性が高いということになるだろう。
そしてそれを理解しているのかいないのか、千束は特に取り乱す様子はなかったが、しらばくその場で佇むのみだった千束は何か決意したように世良の後を追っていった。
たきなも同様にそれを追い、今二人はこの場に居らず残っているのは三人のみだった。
「追わせていいのか? 吉松の最後を知ることになると思うぞ」
「千束がそう望んだんだ
あの娘自身で選んだ選択ならなにも言わんさ……」
クルミの声にミカが答える横でミズキがテーブルに肘をつきながらぶー垂れる。
「彼、もうちょい歳が上だったら悪くなかったのに!」
「もうちょいというには年が離れすぎじゃないか? ──ぷぎゃっ!?」
「うっせぇー! アンタみたいなロリよりよっぽと適齢じゃい!」
余計な一言でミズキから一撃を食らったクルミだったが、ふとミカがずっと考え込んでいる様子なのに気が付く。
「あだたた……で、なんだ結局後悔してるのかミカ」
「いや、そういうわけでは……いやそうなのかもしれない」
「なにいってんだ?」
考えるそぶりをやめないミカはやがてクルミに顔を向けて重い口調で一言問う。
「……ウォールナットである君なら──もしかして『統和機構』という名を知っていないか?」
リコリコの面々の前から去った後、人気のない路地裏を歩いていた世良だったがしばらくして足を止めて後ろを振り返る。
「で、君達は吉松のその後の真相を教えてくれるのかい? それとも俺を消しにでも?」
そう言う世良の視線の先にいたのはあの後から世良を追ってきた千束とたきなだった。
「残念ながらどっちもハズレ、むしろ知りたいんだ……吉さんのこと……
だから銃おろして、たきな」
「ですが千束!」
アラン機関からの再びの接触に警戒心を露わにせざる得ないたきなだったが、それでもなお銃口を下げるわけにはいかなかった。
しかし、そんな彼女の肩をたたく手があった。
それは千束の手だ。
彼女はその手をゆっくりと下ろし、そして言ったのだ。
──―大丈夫だよ そう言って微笑む彼女にたきなはもう何も言えなかった。
「事の結末についてはあのミカとかいう黒人が知ってるんじゃないのか?」
「そうだね、私が聞けば先生は答えてくれると思う」
「言っとくがこっちもほぼ予想はつくが、実際の所は知らないんだが」
「じゃあさ──一緒に調べてみない?」
「「は?」」
いきなりの千束が言い出した提案に世良だけでなく、たきなまで呆気にとられる。
「何を言い出すかと思えば正気ですか千束!?」
「それに関しては俺も同意する、何を考えているんだか」
「二人そろってひっどいなぁ」
非難の声をよそに、千束はけらけらと笑う。
その様子には悪びれた様子が微塵もない。
むしろどこか楽しげですらある。
そんな彼女にたきなは思わずため息をつく。
「私は吉さんがどうなったのかを知りたいんじゃない……あの人が何をしたかったのか、本当の意味を知りたい」
「千束、あの男は狂っていました
本当の意味なんてあるわけないんです」
「それでも知りたいんだ、私を生かしてあそこまでさせようとした理由を」
「だからそんなものはっ!」
「オーケー オーケー……二人とも勝手に熱くなるな」
千束とたきながヒートアップしそうなところで世良が割って入った。
片手で頭を抱えながら「なんで俺が仲裁してんだ」と独り言ちつつ話を続ける。
この場にいる三人の中で一番冷静なのは間違いなく彼だろう。
そもそもの話として彼はこの件について実はほとんど興味がない。
彼の目的は吉松が起こした"行動の顛末"だった。
だがそれはあくまで側面的なものでしかない。
彼が属している組織が求めているのは、別の部分なのだ。
組織は、吉松シンジが背信行為を行った理由を知りたがっている。
そしてその理由を解明するにあたって最も可能性が高いものとして、今回の事件に関わっている可能性が極めて高いとされる存在──錦木千束の存在に目を向けたのだ。
故に、彼はここにいる。
千束の身柄を確保することで組織の求める答えが出るかは不明だが、少なくとも何かしらの成果を得られることは間違いないだろう。
それがその組織、アラン機関すらも一本の枝でしかないというシステム『統和機構』から派遣された世良稔の――合成人間ピート・ビートの任務なのだから。
話が広がるだけで進まない。