その女〝動物好き〟 - the another order -   作:浅学寺のえる

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vol.15「- the another order -」

 

 黒い闇に呑み込まれた。

 

 漆黒に塗り潰されたような感覚───ちがう。

 実際に潰され続けているんだ。

 これは、圧力。

 身体を──精神を──磨り潰すような圧力に襲われている。

 

 鉄塊を維持し続けて数分。

 漠然とした時間感覚だけは残っているけれど、それ以上のことは何も判らない。

 目に映るのは、闇だけだから。

 

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 うがーっ!! 長い!

 闇の中に閉じ込められてる時間、長すぎるんだけど!?

 身体は、鉄塊でどうにか耐えてるけど……心の方がそろそろ限界っ!

 こうやって無理矢理テンションを上げてないと、ドン底まで沈んじゃいそう。

 なんて言うか、ネガティブな思考?

 そういう流れに持っていこうとする、謎のチカラを感じるの。

 それに外とのテレパシーは通じないし、召喚もできない……絶望的な状況!

 でも負けない! アタシは耐久力だけが取り柄なんだからね♪

 

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 あ〜あ、こんな事ならヴィオラの言う通り〝お友達〟を増やしとくんだったなぁ。

 アド・オリーチェなんて、12人と契約してたって話だしね〜。

 それにしても、12の動物かぁ。もしかして、十二支とかかな?

 アタシが契約してる3人でも、バンチを〝竜〟にカウントすれば真似できそう?

 ほら、聖書にも亀みたいなドラゴンが出て来てたし……ギリいけるっ!

 

 えーと、(とり)(とら)(たつ)が契約済み。

 他の候補を考えてみよっか♪ 楽しいこと考えてないと沈んじゃうし!

 まずは順番通り、()から!

 ONE PIECEでネズミのキャラと言ったら……ネズミ大佐?

 ナミが苦労して貯めた1億ベリー近くのお金を盗む。あのネズミ大佐。

 完全にアタシの敵じゃん!!

 

 やっぱ十二支は無しっ! なんかムカムカしてきた!!

 

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 ゆるせない……ゆるせない……ゆるせない……

 絶対に許しちゃダメだ。

 

 〝空島編〟を(けな)してリタイアしたクセに、しれっと〝頂上戦争編〟で復帰して来たヤツを!!

 

 ハッ……!?

 危ない危ない、意識が暗黒面に持ってかれそうだった。

 結局みんな〝ファン〟である事には違いが無いって、無理矢理 納得したじゃない! 前世でね。

 アタシは闇堕ちなんてしない!

 

 ……でも、ホントに長いなぁ。

 もう体感で1時間位経ってるんだけど……?

 あ〜、そういえば暗闇にずっといると時間感覚って狂っちゃうんだっけ。

 

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 つらい。

 不思議と鉄塊は維持できてるから、身体は平気だけど……。

 光も。音も。匂いすらも。なにも無いこの空間が耐えられない。

 なんだか感覚も鈍ってきてる?

 ……最初から 浮いてるのか、沈み続けてるのかも分からなかったし。

 

 どうでもいっか。

 

──────────────────────────────

────────────────────

──────────

 

 ナミ、ノジコ、ベルメールさん、ピンキー、ゲンさん……

 家族に会いたい。

 

 ヴィオラ、コラさん、ミンゴ、バンチ、バイガオ、ハンコック……

 友達に会いたい。

 

 ───会いたい。

 

 でも……もう、皆には会えないのかな。

 このまま闇の中で、アタシは───

 

 

 あ、れ?

 どうして会えないんだっけ?

 ──そもそも、なんでアタシこんな所に居るの?

 

 そうだ。

 全部、あいつのせいだ。

 あいつを……ティーチを()()さえすれば、家族に会えるんだ!

 思い出さなきゃ! 何か手段があった筈───!!

 

 


 

   〜 2年前 〜

  ー シモツキ村・崖の上 ー

 

 「嬢ちゃん、さっき教会の男を手篭めにした技は〝悪魔の実〟の能力だろ?」

 

 「あはは。大丈夫、コウ三郎さんには効かない能力だから。あと、この事は内密に!」

 

 「言いづれェ所を見ると、大方〝エロエロの実〟の誘惑人間って所か?」

 

 「ぜんっぜん違う!?」

 

 「おれもナメられたもんだ。刀鍛冶としちゃ枯れちまったが、そっちの方は───」

 

 「セクハラです!」

 

 SBSの小ネタで、そんな名前の実が出てたけど……

 まさか、この世界に存在するの!?

 違うよね!? おじいちゃんの妄想の産物だよね!?

 

 「まぁ、んな事ァどうでもいいんだ。肝心なのは、嬢ちゃんが能力者って事だ」

 

 「……それが何か?」

 

 「長十郎。その長ェ鞘の(こじり)は、海楼石だからな」

 

 「え!? 鐺って、鞘の一番下……この部分、う、チカラが」

 

 「せいぜい、戦闘中 触んねェ様に気を付けな」

 

 腰に下げてる状態なら、自分で触っちゃう事は無いと思う。

 って言うか、Mr.3、ブギー、ハンコック、バイガオと能力者4人の手に渡ってたのに

 誰も気付いて無いでしょコレ!

 


 

 

 そうだった!

 長十郎の鞘で、ヤミヤミの力を封じちゃえばティーチを()()るんだ!

 でも、刀も鞘も外なんだよね。

 だったらまず、外へ出る方法を考えなきゃ……ってそれじゃ堂々巡りだ!?

 

 うん。でも、コウ三郎さんの事を思い出したお陰で心は軽くなったみたい。

 現状で出来る事を考えよう!

 えーと、長十郎は無いけど……今着てるドレスとジャケットはあるんだ。

 ジャケットのポケットに何か入ってるかも!

 あ、鉄塊中だから動けないんだった……。

 

 んんっ、気を取り直して!

 他の持ち物は、指輪と眼鏡と──四郷のクリスタル!

 そうだよ、この謎アイテムがあったんだ。

 なんかピンチの時に、ピカーって光りそうな形状の……

 

 うん! どうせ、他に当てはないし! 元々、謎のアイテムなんだし!

 もういっそ、アバンのしるし と同じ原理で光るって仮定しちゃおっか♪

 家族に会いたいっていう アタシの強い想いに応えて、輝いてっ! クリスタル!!

 

 

 ……光らんのかいっ!!

 

 

 でも大丈夫。クリスタルが光らないって展開は、あの物語で予習済みだからね!

 強い想いにも種類があるんだ。勇気とか、慈愛とか

 あとは、えーと〝正義〟だっけ?

 一応、海軍にギリギリ所属してる身だし……試してみよっか!

 

 「人々が平和に暮らせる為に、アタシは悪を許さないっ!〝絶対的正義〟の名のもとに!!」

 

 なーんて、ね……?

 

      ピカ━━…ッ!!

 

 うわっ、眩しっ!

 嘘っ!? これって、ホントに光るアイテムだったのぉ!?

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

  ー ココヤシ村・広場 ー

 

 

 「ドレスローザの女が、催眠術ごときで他の男へ移り気する訳ないのよ!!」ドン!!

 

 「なぜ催眠が効かねェ!? こいつはどういう理屈だァ、シルバ!?」

 

 「あの鳥と同様……すでに別の暗示がかかってますね。この女の場合は、強力な〝自己暗示〟かと」

 

 「覚えておきなさい海賊共。ここは情熱の国、浮気症の女なんて1人もっ……1人くらいしかいないわ!!」

 

 これって外の様子?

 ティーチとシルバに……ベルメールさん!? なんで!?

 あと、浮気症の女って誰!? その人のせいで、折角のキメ台詞が台無しだよ!

 

 《余所見してんじゃねェ! スカし野郎がっ!!》

 

 「く、また鳥か! 船長、私はアレを仕留めます。女の方は任せてよろしいか?」

 

 「仕方ねェな。大人しく催眠にかかってりゃ、死なずに済んだのになァ!」

 

 「桃ちゃん! そっちは宜しくっ!」

 

 《ああ、相棒の敵討ちだ。空中戦で(おれ)に挑んだコトを後悔させてやる!》

 

 わぁ! ピンキーとシルバが、空中で激しくぶつかり合ってる。

 頑張れピンキー! 結果的に、シルバには何もされてないけど……そのままアタシの仇を取って!!

 

 そもそも死んでないケドね!!

 

 ……反応なしかぁ。

 アタシの声もテレパシーも届かないんだ。向こうの声は聞こえるのに!

 クリスタルが光って外の様子は見えてるけど、アタシは未だに闇の中みたい。

 あれ? でもアタシの視界に、ティーチまで映ってるってコトは……?

 今の視界から推測すると、アタシがいる場所って闇に呑まれた時から動いてないんだ。

 ティーチの身体の中じゃないのは良かったケド……ここって一体?

 

 「ゼハハハハ! 無駄だァ! 銃だろうと()()()()だろうと、おれには効かねェ」

 

 「化け物め……! ベルメール、せめてお前とナミだけでも逃げ──」

 

 「る訳ないでしょ! 大丈夫よゲンさん。護衛時代に、能力者とは戦った事あるから!」

 

 なんかベルメールさんが、斧で飛ぶ斬撃を出してる……。

 そんなの、アタシ知らないんだけど!?

 飛ぶ斬撃って空島でゾロが初めて使う技──あ、原作1巻で既にモーガンが使ってたね。

 うん。案外、斧だったら普通のコトなのかもね!

 

 「だがベルメール。いくらお前が常識外れに強くとも、あの能力には……」

 

 「常識外れって! 飛ぶ斬撃くらい、先生に鍛えられた連中なら誰でもできるわ」

 

 「ゼハハハ! よく喋る夫婦だぜ。離れてりゃ安全だと思ってやがるな?」

 

 「「夫婦じゃない!」」

 

 もう夫婦でいいよ。息ピッタリだし。

 

 「ゲンさん。アイツが何か仕掛けてくる。その前にナミの──」

 

 「悔しいがお前の方が戦闘経験は豊富だ……信じるぞ、ベルメール!」

 

 「おいおい、女房を置いて逃げちまうのか?」

 

 「……私の先生が言ってたわ。自然系(ロギア)には弱点があるって」

 

 「ゼハハハ! まさか〝覇気〟でも使うってか?」

 

 「さあ……どうかし、らっ!!」

 

 ベルメールさんが、斧を振りかぶって大ジャンプした。

 確かにあれなら、闇穴道(ブラック・ホール)を地面に展開されても空中にいる間は平気。

 でも……攻撃のチャンスは、着地前の一撃だけ。

 まさか本当に〝覇気〟まで使えちゃうの!?

 

 「〝マキ割り・驚天動地(ダイナミック)〟!!

 

 覇気こそ使ってないけど、凄い斬撃!!

 縦に振り下ろした斧によって、ティーチの身体が真っ二つに別れて向こう側が見えてる。

 でも、これじゃダメージは……って、もう頭の方から再生しだしてるしっ!

 

 「受け取れ、ベルメール!」

 

 「ゲンさん! タイミングばっちり!」

 

 「な─ん─だァ?」

 

 「終わりよ海賊!!」

 

      パシャ!!

 

 カメラのフラッシュ──!?

 ティーチの身体が完全にくっ付く前に、強力な〝光〟が胴体を貫いた。

 大量に血が出てるし、傷口も開いたまま。

 闇の弱点を上手く突けたんだ!……でも、あのカメラ一体どこから?

 

 そっか……朝からずっと、ナミが持ち歩いてたんだ。アタシの笑顔を撮ろうと頑張ってたもんね。

 アタシの視界だと分からなかったケド、さっきゲンさんは逃げたんじゃなくて、カメラを受け取りに行ったんだ。

 ナミの姿は見えない。でも、村の人達と一緒にベルメールさんを応援する声は聞こえてくる。

 みんな少し離れた場所で見守ってるんだと思う。

 人数はこっちの方が多いんだ。おかげで、ティーチとシルバ以外の海賊は攻めにくいみたい。

 

 「ぐ……おぉ! いてェ! 畜生ォ!!」

 

 「凄いぞベルメール! お前の読み通りだった!」

 

 「ええ。最初にゲンさんが銃を持って突撃した時。コイツは少しだけ後に下がったから」

 

 「だが、なぜそれで弱点が分かったのだ?」

 

 「銃が効かないと宣言したのに、避けた……おそらくマズルフラッシュ*1を警戒したのね」

 

 「それだけで〝光〟が弱点だと見抜くとは、恐れ入ったぞ」

 

 「でもねゲンさん。私の先生に言わせれば──コイツの真の弱点は〝慢心〟よ」

 

 強力すぎる自然(ロギア)系は、己の能力を過信しやすい。

 スモやんが、先生によく怒られてたっけ。

 この世界だと、ベルメールさんもゼファー先生の教え子だったね……そりゃ強い訳だよ。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 「さあ選びなさい。このまま頭を吹き飛ばされるか、今すぐエイダ()を解放するかっ!」

 

 「ぐ、やべろ!」

 

 

 やだーウチのお姉ちゃんがカッコよすぎる!!

 ティーチは、傷が深すぎてマトモに動けないみたいだし……アタシ、助かるのかも!

 あれ? でも万が一、アタシが外へ出る前にティーチが死んだら、この空間はどうなるんだろ?

 なんか嫌な予感がしてきた───誰か助けてぇ!!!

 

 ─《相棒!? 生きてやがったのか!》

 

 《ピンキー! 声が届くの?……ちょっと! なんでベルメールさんがここにいるの!?》

 

 ─《いきなりソレかよ!? 言っとくが、命令(オーダー)の範囲内だぜ?》

 

 アタシがピンキーにお願いしたのは〝ベルメールさんを守る〟こと。

 ピンキーに言わせれば、家に押しとどめなくても〝守って〟さえいれば問題ないんだって。

 シルバとの戦闘中も、ベルメールさんがピンチになったら助けられるように気を張ってたみたい。

 バンチといい、ピンキーといい、お願いを曲解したり抜け道を探したりするのなんなの!?

 

 ─《チィ! 相棒がうるせェから、敵に抜けられちまった!》

 

 《人のせいにしないでよ!?》

 

 「まったく、なんてザマですか船長」

 

 「シルバ……! おれを助けろっ!」

 

 「くっ、止まりなさい! 一歩でも動けば、コイツの頭を──」

 

 「ホホホ、動きませんとも。船長がコチラを向いた時点で、既に完了してますので」

 

 「ゼェ、ゼェ、よくやったシルバ」

 

 なっ!? ティーチの傷が塞がってる!

 シルバは一切触れてないのに……やった事と言えば、ステッキを向けた位……?

 まさか催眠術で!?

 ジャンゴの催眠術でも、ゾロに斬られたブチの傷が一瞬で塞がってたけど……。

 胴体に空いた穴まで塞げるなんて! そんなのインチキでしょ!?

 

 「なんという事だ……あれだけ深手を与えたと言うのに……っ!」

 

 「……何度だって戦うわ。エイダを取り戻すまで、私は諦めないっ!」

 

 「もう近付かせねェ! だが、そんなにあのオンナを返してほしいなら……返してやるぜェ?」

 

 「え!?」

 

 「ゼハハハハ! 成れの果てだがなっ!解放(リベレイション)〟!!

 

 急に圧力が増した!? ぐ……鉄塊を使ってても身体が潰れそう!

 こんなの、鉄塊を解いたら一瞬で肉片になっちゃう!

 なんだかティーチの方へ少しずつ引っ張られてる……?

 きっと、あそこまで行ければ───!!

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 「ぐわぁ!」「ごふっ」「ひっ……!」

 

 「ゼハハハ! そう言や、ゴサで飲み込んだ()()があったんだったなァ!!」

 

 「ごあっ……!」

 

 「ゲンさん!?」

 

 ティーチの身体から全方位に発射された〝瓦礫(がれき)〟が皆を襲ってる!

 後ろにいる手下の海賊も含めて、無差別に攻撃してるんだ。

 ゲンさんも倒れてる……ベルメールさんを庇って頭に瓦礫を受けたから……。

 もう少し。もう少しで、アタシが吐き出される番のハズ!!

 

 来た──!

 これ以上、皆を傷つけさせないっ!!

 

 「〝鉄塊〟っ!!

 

 「なっ!? 誰だテメェ!?」

 

 「……自分で闇に沈めたクセに覚えてないの?」

 

 「その顔! まさか、あの女か!? だが、その姿は一体!?」

 

 「何を言って……? えぇ!? アタシの髪が()()?」

 

 まさか、老化!?

 そんなぁ……! 闇の中で何十年か経ったっちゃの!?

 どうしよう!? 鏡が無いから顔を確認できない!

 あ、良かった。手足には目立ったシワも無いし、肌もツヤがある……何故か白いけどね。

 あの闇の中って美白効果でもあったのかな?

 

 「ホホホ、なるほど漸く合点が行きました」

 

 《クソ! 瓦礫をくらっちまった。すまん相棒……!》

 

 「ピンキー!」

 

 「思えば、近海に大型の海獣がいた時点で不自然だったのです」

 

 「確かにな。ここは〝海峡〟のナワバリだ。奴が大型の海王類の流入を防いでるって話だしなァ」

 

 ジブラルタル海峡の話?

 元々 地中海には、中型クラスの海王類までしか居なかったんだけど

 8年くらい前に、巨大生物が無理矢理 海峡を越えて、入り口が広がっちゃったみたい。

 それで大型の海王類が入り込んできて、困ってた時にジンベエがやって来たって話。

 以降、新たに海峡を越える巨大生物はいなくなって、迷い込んでた海獣たちも見つけ次第 大西洋へ還してるそう。

 多分あの超巨大イルカも8年前に入ってきたんだね……。

 

 「──この鳥、そしてあの亀。おそらく、その女が操っているのでしょう」

 

 「コイツも能力者なのか!?」

 

 「いえ、その姿を見る限りミンク族かと。噂に聞く〝月の獅子(スーロン)〟の特徴と一致しています」

 

 シルバが得意顔で見当違いな推理してる。

 確かに綺麗な満月は出てるけど、アタシがミンク族な訳ないのにね。

 

 「だがよ。ミンク族ってのは、毛むくじゃらだろ?」

 

 「おそらく……猿のミンク。体毛を抜いて、人に混じって生きてきたのではないかt──」

 

 「んな訳あるかぁ!!」

  バリ バリィ!!

 「ぐ……!?」

 

 「シルバ!?」

 

 なんか電気出たんですけど!? これって〝エレクトロ〟だよね。

 アタシ、本当に月の獅子(スーロン)化してるの?

 えーと…………そっか! 能力が覚醒したんだね♪

 

 ─《とっくに覚醒してんだろうが。相棒》

 

 《あ、意外と元気そうで良かったよピンキー》

 

 ─《かすり傷だ。瓦礫の雨も止んだんで、あの野郎とケリをつけようと思ったんだが……》

 

 《あはは。倒しちゃった! このままティーチも片付けるから、休んでて♪》

 

 ─《なら遠慮なく休ませてもらうぜ? 気になる事もあるしな》

 

 さてと!

 早速、新しいチカラを試してみないとね。

 さっきはノリで殴っちゃったけど、アタシも戦闘で手は使わない主義!

 でも刀が無いから……脚で!

 

 「〝エレクトロ〟!バチィン!!!

 

 「ゼハハハハ! 無駄だ!」

 

 「あれ? 電気も効かないのかぁ。光ってるからイケると思ったのに」

 

 「そんな攻撃、痛くもねェし、シビレもしねェ! 海以外の──」

 

 「〝海以外の全てのものが、おれには通じねェ〟とでも?」

 

 「なっ!?」

 

 「〝光〟が弱点って事は分かってるけど、やっぱり体内への攻撃じゃないとダメなのかな?」

 

 「いつ知りやがった? いや……なぜ、闇の中で潰れてねェ!? テメェは一体なんなんだ!?」

 

 「……アド・オリーチェ?」

 

 「あァ!? どうやっても偽名だろそりゃ!」

 

 「そっちこそ、本名はティーチでしょ。姓はマーシャル? それとも……エブリシング?」

 

 「……テメェは危険だ。得体の知れねェ、化けモンのようだ」

 

 ヒドイ言われよう。

 本名を言い当てられたくらいで取り乱しちゃって。

 それに今どき、3歳児だって偽名を使うんだからね!

 

 ─《相棒、いいニュースだ。もう5分もすれば救援が来るぜ!》

 

 《救援!? 一体誰が?》

 

 ─《〝海峡〟のジンベエ率いる魚人海賊団だ!》

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 アタシが闇に呑み込まれる瞬間。その時、無意識に救難信号を出してたらしいの。

 特大のテレパシーで《助けて》って訴えてたんだって。

 その範囲がかなり広かったから、海峡にいたジンベエにまで届いたんだと思う。

 それにテレパシーを受信した魚達も、村が襲われてるって状況を知らせてくれたみたい。

 

 以上の情報を、渡り鳥から聞いたピンキーが、アタシに報告してくれた。

 ジンベエかぁ。

 なかなか都合が付かなくて会えなかったのに、まさかこんな場面で巡り合うなんてね!

 あとはもう、アタシが3分も粘れば みんな助かる!

 海水が弱点のティーチじゃ、海岸沿いの村で魚人と戦うなんて自殺行為だからね。

 

 「ゼハハハハ! 最初の勢いはどうしたァ、打つ手無しか?」

 

 「それはお互い様でしょ。アタシの硬さを舐めないで!」

 

 「確かに殴っても意味がねェ硬さだ。跳んで避けやがるから〝闇穴道(ブラック・ホール)〟も効かねェしな!」

 

 多分このまま勝負を引き伸ばすのが正解。

 でも念のため〝長十郎〟も手元に置いときたいな。えーと、ゲンさんに預けたんだっけ……?

 って、村の人達が皆倒れちゃってる!

 せめてもう少し早く、アタシが外へ来れてれば……っ!

 

 ゲンさんも、ベルメールさんも気絶こそしてないけど辛そう。

 不思議そうな顔でこっちを見てるけど……もしかして、アタシの事気付いてない?

 ちょっと待って! アタシって今どんな姿してるの!?

 

 《ねぇ、ピンキー!》

 

 ─《安心しろよ。髪が白ェのと、目が赤ェ以外はいつも通りだ》

 

 《目赤いの!? そりゃ家族にも気付かれないよ! なんか怖いもん》

 

 

 「ゼハハハ、そうだ。考えてみりゃ、テメェの弱点は割れてんだったな」

 

 「なにを……?」

 

 「丁度、手頃な瓦礫が落ちてやがる! ただ投げつけるだけでも、死にかけの奴なら殺せるだろうぜ!?」

 

 「っそれは──!」

 

 ピンキーを模した銅像! その鋭いクチバシが、ベルメールさんに迫ってる!

 間に合って──っ!!

 あれをデザインしたのは、ノジコなんだよ!?

 こんな事に使われていい筈が──ないっ!!

 

 「大丈夫……? ベルメールさん」

 

 「え? エイダ!? アンタどうして!?」

 

 良かった。月の獅子(スーロン)化の影響で〝月歩(ゲッポウ)〟の真似事が出来たみたい。

 おかげで銅像に追いつく事ができた……んだけど、そこで体力が尽きちゃったんだね。

 変身も解けちゃったし、一番得意な〝鉄塊〟すら使えなかった。

 

 でも、ベルメールさんは守れたよ───

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 「おねえちゃん!」

 

 「エイダ!」

 

 ナミ、無事みたいで良かったぁ。身体が小さいから、瓦礫に当たらなかったんだね。

 もう大丈夫。近くでジンベエ達の闘ってる()が聞こえてるから。

 きっと〝撃水(うちみず)〟で海水を飛ばして攻撃してる。

 あはは。ティーチは、大分慌ててるみたい。

 

 それにしても頑丈だなぁ。アタシの身体。

 心臓を貫かれてるのに、意識を保ってられるなんてね……。

 

 ─《済まねェ相棒。ベルメールを守るのは、おれの役目だったのによ……》

 

 ピンキー? 銅像は上手く隠せた?

 

 ─《……ああ。海に沈めた》

 

 そっか。ありがとう。

 アレで家族が死んだなんて知ったら、ノジコのトラウマになっちゃうからね。

 それじゃ、さっきのが最後のお願い(ラスト・オーダー)。もう自由だよ、ピンキー。

 

 ─《おれは元から自由だよ相棒。今まで通り、やりたいようにやるさ》

 

 「ごはっ」

 

 「ベルメールさん! ドクターを……!」

 

 「…………ナミ。エイダの手を握ってなさい」

 

 「え?」

 

 うぐっ……まだ、ギリギリ喋れるかな?

 伝えなきゃ……! これだけは伝えておかなきゃ、死んでも死にきれない!

 

 「ナミ。よく聞いて……これはアタシ達の両親へ、繋がる……唯一の手がかりな、の」

 

 「これ、おねえちゃんがいつも付けてる……!」

 

 あ、れ? いつの間にか〝光〟が消えちゃってる。

 結局、謎のアイテムだったね〝四郷のクリスタル〟

 

 それにアタシ達の家族は、ノジコとベルメールさん。あとゲンさんもかな?

 本当の両親なんて、正直どうでもいいんだ。

 でも……きっと、ナミの出生に関わる大事な物だから──

 

 「あなたがいつか……旅立つことが、あるのなら、〝ウェザリア〟という、島を……探して」

 

 「うぇざりあ?」

 

 「アタシも、場所は…知らないけれど、きっと……あの海、の何処かに……」

 

 「そのときは、おねえちゃんも……一緒だよね!?」

 

 「…………ずっと一緒に、居て、あげられなくて……ごめん、ね」

 

 「やだ! どこにも行かないって約束でしょ!?」

 

 あはは。やっぱり、あの時は起きてたんだね。

 ごめんねナミ。こんな形でお別れなんて、アタシも嫌だけど……。

 

 「ベルメール……さん、ナミをお願い」

 

 「当たり前よ! 私たちは、家族なんだから……!」

 

 「ありが、とう……」

 

 前世で死んだ時は独りだったんだ。

 ノジコは居ないけど、家族2人に看取られて逝けるなんて幸せな最期だよね?

 


 

 ー ?年前・とある場所 ー

 

 

 「一献(いっこん)の 酒のお(とぎ)になればよし。煮えて、なんぼのォ……」

 

 「バカ! こんな時に、縁起でもないコト言わないで、よ……?」

 

 「心肺停止!? 蘇生処置を───して───!───っが───

 

 え……?

 まさか、死んだの?

 

 つまらない事で喧嘩して──FILM RED公開日の今日。ようやく仲直りできると思ったのに。

 熱中症で倒れておいて、最期の言葉が〝煮えてなんぼ〟なんてシャレにもならないっ!

 救急隊の人によれば、睡眠不足や栄養不足も原因って話。

 きっと、アタシが出て行ったせいで まともに食事が摂れて無かったんだ……

 こんな形で死別するなら、意地なんて張らなきゃよかった。

 

 ホントにバカ……。

 いくらアタシでも、あの場面で〝おでんに候〟なんて返せないよ。

 どうせ死ぬなら〝愛してくれて ありがとう〟ぐらい言ってよ。

 遺された方の気持ちも、考えてよ────

 


 

 思い出した。

 

 このまま死んじゃったら、アイツと同じになっちゃう!

 ナミにも

 ノジコにも

 ベルメールさんにも!

 アタシと同じ思いはさせられないっ!!!

 

 それに、故郷を──家族をこんな目に遭わされて、デッドエンドじゃ終われない!

 

 《ピンキー!! さっきラストオーダーって言ったけど、取り消せる!?》

 

 ─《ハッハー! 当然だぜ。元々テレパシーの命令(オーダー)にゃ、強制力はねェからな!》

 

 《それじゃ、もう1つ(Another)お願い(order)!》

 

 

 これからアタシのする事を、家族には見せないで!!

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 アタシの命は、どうあっても助からない。

 心臓がある左胸にポッカリ穴が空いてるんだから。

 肺に血が入ったのか、もう声も出せない。

 だから、せめて───!

 

 ピンキーの羽に覆われて、困惑してるナミとベルメールさん。

 救援に安心して、次々と気絶していく村のみんな。

 船が沈められ、山の方へ逃げようとしてるティーチとシルバ。

 そのシルバに催眠をかけられ、狂ったように戦い続ける手下達。

 異様な強さを得た手下達に阻まれ、苦戦しているジンベエ達。

 

 沢山の()が聞こえてくる。

 

 アタシを呼んでる〝長十郎〟の声すら判る。

 これは見聞色? それとも物の呼吸?

 きっと〝死の境地〟だからこそ分かる感覚。

 ()()()()()()()()()()()

 ずっと持っててくれたんだね、ゲンさん───ありがとう。

 

 それじゃ、落とし前をつけてくるっ!

 (ソル)

 

 「なっ!? テメェ、まだ生きてやが……ぐ!?」

 

 「船長!?」

 

 海楼石で能力は封じた!

 心臓は、確実性に欠ける。異形って件もあるし……何よりアタシがこんなに動けてる。

 狙うのは───!

 

 ドスッ!!

 「ぐわぁぁっ!? 目がっ!? 目がぁぁっ!!!」

 

 「なぜ刃物が通る!? たとえ覇気を纏おうとも、船長には──!」

 

 激しく転がり回るティーチの右目から、長十郎が抜け落ちた。

 もう時間の問題。

 催眠を認識する()()を傷つけたんだ。回復なんて無理でしょ?

 それに……どんなに頑丈な動物だって、()を破壊されればお終いなんだから。

 

 アタシも、もう動けない……シルバは魚人達に任せるしかないみたい。

 ああ、ちょうど包囲を抜けて、そこまで来てくれた。

 

 ……思ったより体力を使っちゃったなぁ。

 落とし前を付けた後は、手紙を残して置こうって決めてたのに……。

 

あはは。流石に欲張り過ぎだったかもね───────

 

*1
銃を撃った際に発生する閃光のこと。

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